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23 戦争の発端と彼の戦う理由
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リリィの家を出たレイジはそのまましばらく歩く。そして、里の外れまで来て立ち止まる。
そのままおもむろに口を開き話しかける。
しかし、その相手は管理者の男ではない。
「なぁ。何か言いたいことがあるんじゃねえのか、セシリア。」
「・・・なによ、気付いてたの?」
レイジが話しかけたのは、彼の後ろをつけてきていたセシリアだった。
レイジは返答があったことを確認して後ろを振り向く。
「いや?ただ、リリィのあの様子が気になって近くに来ている可能性があるか、と思ったから適当に言ってみただけだ。こんな森の中で足音もなにもないしな。くくっ大当たりか。」
「本当に可愛くないわね・・・」
「そいつは悪かったな。それで、何の用だ?生憎だが、俺はほとんど情報を持ってねぇ。答えられることがあるとも思えねぇが。」
レイジのその言葉に、セシリアは少し無言で彼の顔を見つめる。
そして、何か確信を得たように頷いた。
「やっぱり・・・レイジあなた、転生者でしょう?」
「ほぅ・・・?」
レイジは少しだけ驚いたように眉を上げる。
「別に隠している訳でもないが・・・カマかけか?」
「まあ、試しに言ってみただけでもあるけれど・・・その反応だと、当たりみたいね。」
「ああ、そうだぜ。俺は正真正銘、異世界から来た転生者だ。参考までに聞くが、何故わかった?」
レイジの問いにすぐには答えず、セシリアは更に近付きレイジの目を覗き込む。
「一番は、外見ね。この大陸に黒髪黒目はほとんどいない。」
「そうなのか?だが、セシリアもリリィも黒髪じゃねぇか。」
「でも、瞳は紅いでしょう?魔法を使うと、更に光るし。そもそも、私たちはその気になれば髪の色くらい好きに変えられるのよ。」
一瞬、セシリアの瞳が紅く光る。
しかし彼女は何もしないまま、レイジの瞳から視線を外す。
「まぁ、私のことはいいのよ。問題はあなた。」
「なんだ、転生者だから信用できないってか?」
「いえ、私は特に異世界人に含むところはないわ。ただ、異世界人に対して強い敵意を抱いていたリリィがあなたを信頼しているみたいだから気になったの。・・・それとも、何か疑われる心当たりがあるのかしら?」
セシリアの試すような視線に、レイジは小さくため息を零す。
「まあ、な。ここまで得た断片的な情報からの推測になるが。」
レイジのその言葉に、セシリアはむしろ意外そうな顔をする。
「え、本当にあるの?」
「なんだよ、何か確信があったわけじゃねえのか。まあいい、俺も一度整理しようと思っていたところだ。」
レイジは愉快そうに笑う。
「せっかくだ、付き合って貰うぜセシリア。」
「・・・いいわ、聞いてあげる。とはいっても、本当に聞くしか出来ないけどね。」
「構わねぇ。」
レイジは適当な木の根に腰掛ける。
「まず、一番最初の仮説だが。そもそも、一部の種族の排斥運動は、俺と同じ世界から来た者によって始められた可能性が高い。」
「・・・それ、予想なの?知っていたとかじゃなくて?」
「俺が事前に持っていた情報は、強大な力を持つ召喚者によって世界のパワーバランスが崩れて、一部の種族が虐げられているってとこまでだな。つーか、そもそもこの情報はあってるよな?俺まだ、その召喚者見たことねぇからな。」
レイジの問いに、セシリアは少し考えてから頷く。
「多分、あってるわ。私たちも見たことは無いからよく知らないけれど・・・その辺の細かい事情は、リリィが良く知ってると思うわ。あの子、色々なところで調査してたみたいで、私の知らない情報もたくさん持ってるみたいだし・・・」
「ふむ・・・?」
セシリアの言葉に、レイジは強い違和感を覚える。
(他のやつらも知らない情報を、リリィが持っている?・・・まず、あいつの異世界人に対する敵意は本物だ。出会ったばかりの俺を、躊躇なく殺しに来るほどに。その事実を考えれば、リリィが元凶が異世界人だと知っていたことは確かだ。だが、その情報はどこで手に入れた?・・・後で本人に聞いてみるか。)
レイジは気を取り直すと、改めてセシリアに向き直る。
「話を戻すか。人間たちが戦いに勝利出来たのは、その召喚者達のおかげだ。しかし、だ。元々、この世界に住むあらゆる種族はある程度共生関係を築いていたはずだ。」
リリィの話を思い出すレイジ。
資源や土地由来のものならともかく、思想や宗教的な理由で戦争が起こるとは考えにくい。
「だとすれば、だ。召喚者ってのは、戦争が始まった後に呼ばれたと考えるべきだろ。あるいは、戦争を始める決定をした後に、か。いずれにしろ戦うことがわかっていなけりゃそもそも呼ばねぇ。まぁ・・・召喚ってのが人間の意思でできるものなら、という前提はあるが。」
つまり、とレイジは続ける。
「そもそも、召喚者が来る前に戦争を決定した奴がいる。そして、そこで気になったのはリリィから聞いた村を襲った兵士たちのリーダーの言葉。それをそのまま信じるなら、戦争の理由は宗教的な物・・・異端審問、だと少し意味がちがうが、まあそんな感じだろ。」
問題は。
「その男の言った言葉。要約すると、『人は神の似姿』ってやつだ。セシリア、お前はこの言葉をそれ以前に聞いたことはあったか?」
レイジの問いに、セシリアは首を横に振る。
「いいえ・・・聞いたことなかったわ。そもそも、神様なんていっぱい居るし、種族によっては龍の神様とか魚の神様とか、外見も色々あるもの。まあ、人間って種族がある特定の神様に似せられた、とかならそうなのかもなぁ、ってくらいかしらね。」
「だろうな。ここで一つ聞きたいんだが・・・異なる種族間で子を成すことはできるのか?」
「突然ね。まあ、できるわよ。妊娠する亜人同士とか、卵から産まれる亜人同士ならね。産まれた子供は・・・まあ、大抵は親の特徴を半分ずつくらい受け継ぐことが多いわね。」
「なるほどな・・・」
レイジは頷く。
「ならばなおのこと、人の姿こそが神が与えた正しいものだって教えは、この世界においては産まれるはずがねぇし、産まれたとしても浸透するはずがねぇ。」
「えっと、つまり何が言いたいのかしら?」
「最初に言っただろ?そもそもの発端は恐らく俺たちの世界から来たやつが歪んだ教義を押し付けたからだ。人は神の似姿ってのは、俺たちの世界にある宗教の教義だ。どんな手段で人々を説き伏せたかは知らねぇけどな。」
レイジそこで言葉を切ると、獰猛に笑う。
「だが、断じてそいつは殉教者じゃねぇ。狂信者ですらねぇ。ただ己の欲望のために、神の名を利用するクソ野郎だ。」
「何か、思うところがあるのかしら?」
レイジは表情を緩め、静かに語る。
「俺は孤児でな。いや、正確には親に捨てられたのか・・・ある教会の前で赤子の状態で捨てられていた俺は、孤児院でもあったその教会で育った。俺自身は、決して敬虔な信者じゃなかったが・・・院長先生は、模範的な信徒だった。」
懐かしむように語るレイジ。
「院長先生は教えに従い、日々の祈りをかかさず、清貧を尊びながらも決して俺たちを飢えさせることは無かった。」
「・・・立派な方なのね。」
「ああ。俺は結局、神を信じることは出来なかったが・・・」
レイジの瞳に、強い意志が浮かぶ。
「先生の信じた神を穢すやつをぶっ飛ばすくらいはやってやるさ。そのために、そのクソ野郎の語る神とやらは概念ごとぶっ殺してやる。俺は教えに詳しくはねぇが・・・先生は決して、教えに従わない者を害していいとは言わなかった。」
「・・・あなたの言うことは、正直半分もわからなかったけど・・・」
セシリアはふっ、と小さく笑う。
「少なくとも、私たちの敵と戦う意思があることは分かったわ。」
「先に言っておくが、吸血鬼になりたいなら俺じゃなくてリリィに言えよ。」
「ええ、わかってるわ。でも、そうね・・・あの子の主になった人がどんな人か、少しだけわかった気がする。」
そう言うとセシリアは木々に覆われた空を見上げる。
「そろそろ私たちも、戦わないとね。」
そして改めて、レイジに顔を向ける。
「そうだ、レイジは私たちの村に起きたことをリリィから聞いたのよね?」
「ん、ああ、そうだが・・・」
「多分、あの子は自分のことは上手く話せてないと思うから・・・少しだけあの子のことを教えてあげる。」
セシリアは静かに話す。
「あの子は昔から、攻撃魔法はてんでダメだったけど、精神に干渉する魔法は誰よりも得意だった。聞いたかもしれないけど、リリィは巫女の血筋でね。あの子のその才能は何よりも得難い物だった。
あの子は将来有望な巫女として、多くの人から愛されて、そしてあの子もみんなを愛しながら育った。あの子の周りにはいつだって誰かがいたし、危険は常に遠ざけられていた。
才能云々を抜きにしても、あの子は明るくて可愛らしくて・・・もう本当に、お姫様みたいな子だったわ。」
セシリアはそこで辛そうに表情を歪める。
「そんな時、突然あの悲劇が起こって・・・あの子は今まで当たり前のように周りにあった全てを失った。大好きな両親も、優しい友達も・・・あの時のあの子は、まるで抜け殻のようでとても見ていられなかったわ。しばらくしてやっと動けるようになったけど・・・あの子の行動の理由は憎悪だけ。誰よりも強い憎しみが、あの子を突き動かしているの。」
そこで言葉を切ると、セシリアはレイジの手を取る。
「お願い、レイジ。あの子を助けてあげて。復讐を果たさせてあげるのでも、新しい生きがいを見つけさせるのでもいい。あの子が壊れてしまう前に、どうか、どうかあの子を・・・」
縋り付くようにそう言うセシリアに、レイジは軽く笑う。
「はっ、そいつはもう手遅れだな。あいつはもう、とっくに壊れてる。一度壊れた後に、憎悪を軸に再び産まれたんだよ、あいつは。」
「え・・・?」
「まあ、だが心配するな。あいつはさらにそこから俺の眷属・・・真祖として生まれ変わった。力は道を切り開く。これから先は、あいつが自分で未来を決めていくだろうさ。」
レイジはセシリアの手を取ったまま立ち上がる。
「そのリリィの後をついて行くか、あるいは離れるか。それはお前が、お前たちが決めることだ。ただ、もしも共に歩くことを望むのなら。」
そして、レイジはセシリアを正面から見たまま挑戦的に笑う。
「そのための力を得る方法は、既に示されているだろ?」
「・・・ふふっ、そうね。」
セシリアはレイジの手を離し、踵を返す。
「私はもう行くわ。話さなきゃならない子がいるの。」
「ああ。情報助かったぜ。」
「どういたしまして。」
そのまま、セシリアは里に戻った。
その後ろ姿をレイジはしばらく見送り・・・
「おいおっさん。聞こえてるか?」
今度は明確に、管理者の男に話しかけた。
そのままおもむろに口を開き話しかける。
しかし、その相手は管理者の男ではない。
「なぁ。何か言いたいことがあるんじゃねえのか、セシリア。」
「・・・なによ、気付いてたの?」
レイジが話しかけたのは、彼の後ろをつけてきていたセシリアだった。
レイジは返答があったことを確認して後ろを振り向く。
「いや?ただ、リリィのあの様子が気になって近くに来ている可能性があるか、と思ったから適当に言ってみただけだ。こんな森の中で足音もなにもないしな。くくっ大当たりか。」
「本当に可愛くないわね・・・」
「そいつは悪かったな。それで、何の用だ?生憎だが、俺はほとんど情報を持ってねぇ。答えられることがあるとも思えねぇが。」
レイジのその言葉に、セシリアは少し無言で彼の顔を見つめる。
そして、何か確信を得たように頷いた。
「やっぱり・・・レイジあなた、転生者でしょう?」
「ほぅ・・・?」
レイジは少しだけ驚いたように眉を上げる。
「別に隠している訳でもないが・・・カマかけか?」
「まあ、試しに言ってみただけでもあるけれど・・・その反応だと、当たりみたいね。」
「ああ、そうだぜ。俺は正真正銘、異世界から来た転生者だ。参考までに聞くが、何故わかった?」
レイジの問いにすぐには答えず、セシリアは更に近付きレイジの目を覗き込む。
「一番は、外見ね。この大陸に黒髪黒目はほとんどいない。」
「そうなのか?だが、セシリアもリリィも黒髪じゃねぇか。」
「でも、瞳は紅いでしょう?魔法を使うと、更に光るし。そもそも、私たちはその気になれば髪の色くらい好きに変えられるのよ。」
一瞬、セシリアの瞳が紅く光る。
しかし彼女は何もしないまま、レイジの瞳から視線を外す。
「まぁ、私のことはいいのよ。問題はあなた。」
「なんだ、転生者だから信用できないってか?」
「いえ、私は特に異世界人に含むところはないわ。ただ、異世界人に対して強い敵意を抱いていたリリィがあなたを信頼しているみたいだから気になったの。・・・それとも、何か疑われる心当たりがあるのかしら?」
セシリアの試すような視線に、レイジは小さくため息を零す。
「まあ、な。ここまで得た断片的な情報からの推測になるが。」
レイジのその言葉に、セシリアはむしろ意外そうな顔をする。
「え、本当にあるの?」
「なんだよ、何か確信があったわけじゃねえのか。まあいい、俺も一度整理しようと思っていたところだ。」
レイジは愉快そうに笑う。
「せっかくだ、付き合って貰うぜセシリア。」
「・・・いいわ、聞いてあげる。とはいっても、本当に聞くしか出来ないけどね。」
「構わねぇ。」
レイジは適当な木の根に腰掛ける。
「まず、一番最初の仮説だが。そもそも、一部の種族の排斥運動は、俺と同じ世界から来た者によって始められた可能性が高い。」
「・・・それ、予想なの?知っていたとかじゃなくて?」
「俺が事前に持っていた情報は、強大な力を持つ召喚者によって世界のパワーバランスが崩れて、一部の種族が虐げられているってとこまでだな。つーか、そもそもこの情報はあってるよな?俺まだ、その召喚者見たことねぇからな。」
レイジの問いに、セシリアは少し考えてから頷く。
「多分、あってるわ。私たちも見たことは無いからよく知らないけれど・・・その辺の細かい事情は、リリィが良く知ってると思うわ。あの子、色々なところで調査してたみたいで、私の知らない情報もたくさん持ってるみたいだし・・・」
「ふむ・・・?」
セシリアの言葉に、レイジは強い違和感を覚える。
(他のやつらも知らない情報を、リリィが持っている?・・・まず、あいつの異世界人に対する敵意は本物だ。出会ったばかりの俺を、躊躇なく殺しに来るほどに。その事実を考えれば、リリィが元凶が異世界人だと知っていたことは確かだ。だが、その情報はどこで手に入れた?・・・後で本人に聞いてみるか。)
レイジは気を取り直すと、改めてセシリアに向き直る。
「話を戻すか。人間たちが戦いに勝利出来たのは、その召喚者達のおかげだ。しかし、だ。元々、この世界に住むあらゆる種族はある程度共生関係を築いていたはずだ。」
リリィの話を思い出すレイジ。
資源や土地由来のものならともかく、思想や宗教的な理由で戦争が起こるとは考えにくい。
「だとすれば、だ。召喚者ってのは、戦争が始まった後に呼ばれたと考えるべきだろ。あるいは、戦争を始める決定をした後に、か。いずれにしろ戦うことがわかっていなけりゃそもそも呼ばねぇ。まぁ・・・召喚ってのが人間の意思でできるものなら、という前提はあるが。」
つまり、とレイジは続ける。
「そもそも、召喚者が来る前に戦争を決定した奴がいる。そして、そこで気になったのはリリィから聞いた村を襲った兵士たちのリーダーの言葉。それをそのまま信じるなら、戦争の理由は宗教的な物・・・異端審問、だと少し意味がちがうが、まあそんな感じだろ。」
問題は。
「その男の言った言葉。要約すると、『人は神の似姿』ってやつだ。セシリア、お前はこの言葉をそれ以前に聞いたことはあったか?」
レイジの問いに、セシリアは首を横に振る。
「いいえ・・・聞いたことなかったわ。そもそも、神様なんていっぱい居るし、種族によっては龍の神様とか魚の神様とか、外見も色々あるもの。まあ、人間って種族がある特定の神様に似せられた、とかならそうなのかもなぁ、ってくらいかしらね。」
「だろうな。ここで一つ聞きたいんだが・・・異なる種族間で子を成すことはできるのか?」
「突然ね。まあ、できるわよ。妊娠する亜人同士とか、卵から産まれる亜人同士ならね。産まれた子供は・・・まあ、大抵は親の特徴を半分ずつくらい受け継ぐことが多いわね。」
「なるほどな・・・」
レイジは頷く。
「ならばなおのこと、人の姿こそが神が与えた正しいものだって教えは、この世界においては産まれるはずがねぇし、産まれたとしても浸透するはずがねぇ。」
「えっと、つまり何が言いたいのかしら?」
「最初に言っただろ?そもそもの発端は恐らく俺たちの世界から来たやつが歪んだ教義を押し付けたからだ。人は神の似姿ってのは、俺たちの世界にある宗教の教義だ。どんな手段で人々を説き伏せたかは知らねぇけどな。」
レイジそこで言葉を切ると、獰猛に笑う。
「だが、断じてそいつは殉教者じゃねぇ。狂信者ですらねぇ。ただ己の欲望のために、神の名を利用するクソ野郎だ。」
「何か、思うところがあるのかしら?」
レイジは表情を緩め、静かに語る。
「俺は孤児でな。いや、正確には親に捨てられたのか・・・ある教会の前で赤子の状態で捨てられていた俺は、孤児院でもあったその教会で育った。俺自身は、決して敬虔な信者じゃなかったが・・・院長先生は、模範的な信徒だった。」
懐かしむように語るレイジ。
「院長先生は教えに従い、日々の祈りをかかさず、清貧を尊びながらも決して俺たちを飢えさせることは無かった。」
「・・・立派な方なのね。」
「ああ。俺は結局、神を信じることは出来なかったが・・・」
レイジの瞳に、強い意志が浮かぶ。
「先生の信じた神を穢すやつをぶっ飛ばすくらいはやってやるさ。そのために、そのクソ野郎の語る神とやらは概念ごとぶっ殺してやる。俺は教えに詳しくはねぇが・・・先生は決して、教えに従わない者を害していいとは言わなかった。」
「・・・あなたの言うことは、正直半分もわからなかったけど・・・」
セシリアはふっ、と小さく笑う。
「少なくとも、私たちの敵と戦う意思があることは分かったわ。」
「先に言っておくが、吸血鬼になりたいなら俺じゃなくてリリィに言えよ。」
「ええ、わかってるわ。でも、そうね・・・あの子の主になった人がどんな人か、少しだけわかった気がする。」
そう言うとセシリアは木々に覆われた空を見上げる。
「そろそろ私たちも、戦わないとね。」
そして改めて、レイジに顔を向ける。
「そうだ、レイジは私たちの村に起きたことをリリィから聞いたのよね?」
「ん、ああ、そうだが・・・」
「多分、あの子は自分のことは上手く話せてないと思うから・・・少しだけあの子のことを教えてあげる。」
セシリアは静かに話す。
「あの子は昔から、攻撃魔法はてんでダメだったけど、精神に干渉する魔法は誰よりも得意だった。聞いたかもしれないけど、リリィは巫女の血筋でね。あの子のその才能は何よりも得難い物だった。
あの子は将来有望な巫女として、多くの人から愛されて、そしてあの子もみんなを愛しながら育った。あの子の周りにはいつだって誰かがいたし、危険は常に遠ざけられていた。
才能云々を抜きにしても、あの子は明るくて可愛らしくて・・・もう本当に、お姫様みたいな子だったわ。」
セシリアはそこで辛そうに表情を歪める。
「そんな時、突然あの悲劇が起こって・・・あの子は今まで当たり前のように周りにあった全てを失った。大好きな両親も、優しい友達も・・・あの時のあの子は、まるで抜け殻のようでとても見ていられなかったわ。しばらくしてやっと動けるようになったけど・・・あの子の行動の理由は憎悪だけ。誰よりも強い憎しみが、あの子を突き動かしているの。」
そこで言葉を切ると、セシリアはレイジの手を取る。
「お願い、レイジ。あの子を助けてあげて。復讐を果たさせてあげるのでも、新しい生きがいを見つけさせるのでもいい。あの子が壊れてしまう前に、どうか、どうかあの子を・・・」
縋り付くようにそう言うセシリアに、レイジは軽く笑う。
「はっ、そいつはもう手遅れだな。あいつはもう、とっくに壊れてる。一度壊れた後に、憎悪を軸に再び産まれたんだよ、あいつは。」
「え・・・?」
「まあ、だが心配するな。あいつはさらにそこから俺の眷属・・・真祖として生まれ変わった。力は道を切り開く。これから先は、あいつが自分で未来を決めていくだろうさ。」
レイジはセシリアの手を取ったまま立ち上がる。
「そのリリィの後をついて行くか、あるいは離れるか。それはお前が、お前たちが決めることだ。ただ、もしも共に歩くことを望むのなら。」
そして、レイジはセシリアを正面から見たまま挑戦的に笑う。
「そのための力を得る方法は、既に示されているだろ?」
「・・・ふふっ、そうね。」
セシリアはレイジの手を離し、踵を返す。
「私はもう行くわ。話さなきゃならない子がいるの。」
「ああ。情報助かったぜ。」
「どういたしまして。」
そのまま、セシリアは里に戻った。
その後ろ姿をレイジはしばらく見送り・・・
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