bias わたしが、カレを殺すまで。

帆足 じれ

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第11章

86 訊くべきこと

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 バエル──叔父とはもう数年、顔を合わせていない。私はSNSにも登録しておらず、メッセージなどでやり取りをすることもなかった。ただ、年に数回、お中元やお歳暮、そして父と私の誕生日になると、叔父は何らかの贈り物を送ってくれた。日本各地あるいは海外で手に入れたセンスの良い小物や食べ物などが届く度に、胸が躍ったものだ。

 そう言えば、叔父はどのような文字を書いていただろうか。国内の荷物の送り状は自動発行されたものだったし、海外からの場合、宛名は英語表記だったので特徴を思い出せない。
 以前、凌遅がだと言っていた手書きのメモを見たことがあったが、あれが叔父の字だったかどうか判断が付かない。

 他の側面から辿るしかなさそうだ。

 かつて凌遅はバエルのことを、“冷徹で用心深く、殺しにまつわるノウハウも処刑人に引けを取らない”と評していた。しかし、叔父にそんな印象はない。明るく飄々としていて、どちらかと言えば危なっかしい雰囲気の人だ。アクティブではあるが、そこまで運動神経が良いわけでもなく、彼が無感情に殺人を犯す姿など想像すらできない……。

 そこで思考を止めかけて、私は首を振る。
 人は見かけによらない──LR×Dに引き込まれてから、何度も思い知らされたことではないか。

 “悪人がみんな悪人らしかったら、もっと世界は平和じゃない?”

 ヴィネの言った通りだ。優しそうな、穏やかそうな、明るそうな顔をして、陰で牙を研いでいる者がいくらでもいる。考えるのをやめず注意深く進まねば、彼らの餌食になるだけだ。

「はあ……」

 私は短く息を吐き、分析を再開する。
 叔父との思い出はいくつもある。記憶の中の彼はいつも笑顔で冗談を言い、周囲を笑わせていた。だが私の知る限り、人を傷付けるような言葉を発したことは一度もなかった。また、相手がどんなに幼くても軽視せず、対等に根気よく話をするタイプだ。

 ならば、私の問いにも納得のいく答えを返してくれるのではないだろうか。

 今の私にできることは、彼に訊くべきことをはっきりさせておくことだと思った。

 何故、こんなイカレた組織を作ったのか。父をどう思っていたのか。母を救えなかったことを恨んでいたのか。どんな言葉をかけて凌遅と引き合わせたのか。自殺を考えるほど深く傷付いていた父の死を、どう捉えているのか。
 そして何故、私を巻き込もうとするのか。凌遅に父の遺体を損壊させ、私に目撃させることで、一体、何を確かめたかったと言うのか。私に“素質”とやらがあったとして、何に活かすつもりなのか。

 どんな答えが返って来ても、きっと私は傷付くだろう。叔父を憎み、遠因となった自分に絶望するかも知れない。

 それでも、何も知らず独りで怒り、恨みを溜めているよりは建設的だ。そう信じて正対しよう。

 彼の話を聞いた後も、考えなければならないこと、けじめを付けるべきことは山ほどある。それに関しては実際に対面してみないとわからないが、覚悟だけは決めておこう。最悪の場合、今生の別れになるかも知れないから──。
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