悪役令嬢に転生したので死亡フラグは拳で叩き折らせて頂きますわ!

依田まりん

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4、新たなステージに向かいましょう②

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この離宮にて私室としてマリアに与えられたのは中々豪奢な部屋であった。しかし、マリアはその贅を凝らした内装よりも、窓の外から見える景色に興奮を示していた。すなわち、一面に広がる海である。

「レイ!見ている!?海が見えるわ!凄い!!」
「ふふ。私たちの領地からは見えませんからね。マリア様は海を見たのは初めてでいらっしゃいましたか」
「ええ!わたくしは基本的に領地の中で活動していたもの。レイは?貴方は本物の海を見たことがあって?」
振り返りざま無邪気に聞いてくるマリアに少し意表をつかれて、レイは僅かに視線を上の方にさまよわせる。それから何かを懐かしむように口角を上げた。
数歩、窓の方へと歩を進める。
「ええ。一度だけ。友人と、この南部の海を見るため家を抜け出したことがございます」
「まあ。オートクチュール領から?馬車か何かで……」
「いいえ。私の故郷から、徒歩で」
「徒歩!?」
思わずと言った調子で頓狂な声を上げたマリアにくすくす笑いながら、レイは窓の外の海を見つめて思い出話を続けた。
「そうです。オートクチュール領から比べれば近いのですが、とはいえここから更に東ですからね。無茶をしたと思うでしょう。ですが当時はできるだろうと思っていた。実際それは上手くいって、何日も何日もかけて、この城下であるピスカスへ辿り着いたんです」
「そう……貴方もだけれどご友人もすごい胆力ね」
「でしょう?アイツは体自慢だったから。……初めて見た海はそれは綺麗で、揃ってマリア様と同じような反応を致しました。それから城下町で安い焼き魚を食べて、サイダーを飲んで、また歩いて故郷へと。無論帰郷早々なんの感慨もなく身内からこってり絞られましたけど……今となっては、いい思い出です」

そう言って、レイは静かに海を眺めた。今は亡き友の、母の、父のことを想っているのだろうか。それは分からなかったし、聞くつもりもないことだ。それに、マリアに対して彼がこんなにも昔の話をしたことは今まで無かったことだった。慈しむようなその視線を向けられるのはいつもマリアだったのである。その変化を愛おしみながら、マリアはそっと彼に寄り添ってみせた。
「……レイ。寂しい?」
「え?ああいえ、そんなことは……」
「私は嬉しいわ。初めて“レイ”を見た気がした」
「マリア様……」
「貴方は友を語るとき、そんな顔をするのね。貴方には私の知らない思い出話が沢山あるのでしょう。それが少し寂しくて、嬉しい。 
……話してくれてありがとう、レイ」
マリアはそう言ってにっこりと笑う。幼い少女と、大人の女の間の笑顔だった。彼女をなにも知らぬ子供だなんて思ったことはこの方一切なかったが、それでも何となく切なくて、レイは眉を下げて微笑んだ。
「一つ、発言の撤回を」
「え?撤回しなくてはならないものなんてあったかしら」
「寂しくないというのは、嘘です」
「レイ……」 
「けれど、それは友を、家族を、故郷を失ったからではございません。……マリア様」
「何?」
「貴女のことは、誰よりもこの私めが見ております故、ゆっくり大人になってくださいね」
マリアが僅かに目を見開いた。それから今度は不器用に顔を歪めて、へにゃりと笑う。

「……ええ、レイ。善処するわ」
「是非に」
それから少し、2人で視線を交わし合う。
すると扉の方から億劫そうなノックが2度響いた。
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