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4、新たなステージに向かいましょう③
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「あら、ランドルフ殿下?」
「あまり遅いからと態々足を運んでやれば随分とまあ見せつけてくれる。せめて扉を閉じろ阿呆」
「見せつける……?」
首を傾げるマリアに、ランドルフは信じられないようなものを見る目を向ける。それから数度瞬きし、視線をじりりとレイへ移した。
「成程。黒幕は貴様か下男」
「なんのことやら」
「黒幕?レイ、貴方何か企んでいて?」
「いえ、滅相もございません。私はいつも貴女様の忠実な執事でおりますよ、“マリア”様」
「そう、ならいいのだけど。あまり妙な真似はしないでちょうだいね。わたくし、折角ならランドルフ殿下のご身内に嫌われたくありませんもの」
「は。御意に」
いかにも誠実な従者としての姿勢を切り崩さないレイだが、その実マリアに並々ならぬ好意を寄せているだろうことは、同じ穴の狢であるランドルフには手に取るように分かるのである。ち、と一度不愉快そうに舌打ちをすると、レイが余裕綽々にくすりと口元に手を当てて笑った。
「お時間を取らせて申し訳ありませんわ、殿下。早速ヘミングウェイ様にご挨拶へ伺ってもよろしいかしら」
「無論だ。何のために俺が態々足を運んだと思っている。面倒事は早く済ますに限るだろう」
「おや。意外です。殿下にとってヘミングウェイ様は面倒事扱いでいらっしゃるのですね」
「煩いぞこの狐め。さきにも言ったが、この日和見主義な空気が俺は気に食わん。しかしそれを誰よりも発揮しているのは叔父上なのだ。その上奴は実兄唯一の血族である俺を溺愛しているときた。面倒にもなろうが」
吐き捨てるように呟くランドルフだが、マリアはその言葉の中にある違和感を着実に拾った。
「唯一の血族ではないでしょう、殿下。確か弟君がいらっしゃったと伺っていますけれど」
問い掛けると、ランドルフはぴたりと一度足を止め、「ああ」と零した。
「そうか。彼奴にも一応は父上の血が流れているのだったか」
「一応って。血を分けた兄弟なのではなくて?」
「ああ。だがしかし、彼奴の母と俺の母とでは身分が雲泥の差。今までもこれからも居ないものとされてきた男だ。この俺が何をしたとて侮辱にしかならんさ」
それだけ冷たく言い放つと、彼はまたすたすたと先を行く。マリアもそれ以上追求はせずに付き従った。が、叔父との謁見を前にして、彼はボソリと独り言のように呟いた。
「確かに奴は我が家では居ないものであるが」
「はい?」
「……何処かの奇特な砂塵姫にでも掘り起こされたとすれば、また話は変わってくるやもしれん。なあ、“マリア”?」
「!」
ちら、と片眉を上げてランドルフがマリアを一瞥する。それからまた何事もない顔で扉に向き直った。マリアは小さく息を抜いて、彼の背中を見つめながら得意げに口角を上げてみせた。
「──ええ。望むところでしてよ!」
「……では、マリア様。私はここで」
大扉の少し手前で、静かにレイが足を止めた。世話役として主人の婚約者の屋敷まで押し掛けたようなレイだが、その線引きはきちんと行なっているようであった。
「レイ。ありがとう。それと出来ればで良いのだけど」
「皆まで申しますまい。さきのお話を聞いていれば分かることでございます。よろしいですか?」
「そう言ってくれると思ったわ。では、弟君のこと、よろしく頼むわね」
「畏まりました」
口元に微笑を湛えたまま、レイは優雅に腰を折る。マリアやランドルフに違わず美しく成長した彼に似合いの仕草だった。その実従者にしておくには惜しいほどの美貌なのだが、何よりも彼自身がこの生き方に満足感を覚えているため仕方がない。もっとも、マリアは多少なりとも不満を覚えているようである。
レイが一歩、ランドルフの方へと足を進めた。それから、小さな声で囁く。
「ではお願い致します、殿下」
「貴様に言われんでもそのつもりだ」
「おや、それは失礼」
「まったく。マリアも物好きよな。何故こんな腹の黒い鼠を懐刀としているのだか」
「ふふ。その点に関しては、誰よりも私自身がそう思っておりますよ」
小首を傾げ、レイはそう呟いた。その視線は既にランドルフを捉えてはいない。「二人とも?」と扉の前で首を傾げるマリアを愛おしそうに見つめている。
「従者の顔ではあるまいよ、それは」
「彼女は鈍感ですからね、良い意味で」
「ふん」
肩布を翻して、ランドルフが今度こそ扉に手を掛けた。
「その程度であれば、俺もよく分かっている」
頭を下げて見送るレイを尻目に、ランドルフとマリアは今度こそ大広間の中へと消えていった。
「あまり遅いからと態々足を運んでやれば随分とまあ見せつけてくれる。せめて扉を閉じろ阿呆」
「見せつける……?」
首を傾げるマリアに、ランドルフは信じられないようなものを見る目を向ける。それから数度瞬きし、視線をじりりとレイへ移した。
「成程。黒幕は貴様か下男」
「なんのことやら」
「黒幕?レイ、貴方何か企んでいて?」
「いえ、滅相もございません。私はいつも貴女様の忠実な執事でおりますよ、“マリア”様」
「そう、ならいいのだけど。あまり妙な真似はしないでちょうだいね。わたくし、折角ならランドルフ殿下のご身内に嫌われたくありませんもの」
「は。御意に」
いかにも誠実な従者としての姿勢を切り崩さないレイだが、その実マリアに並々ならぬ好意を寄せているだろうことは、同じ穴の狢であるランドルフには手に取るように分かるのである。ち、と一度不愉快そうに舌打ちをすると、レイが余裕綽々にくすりと口元に手を当てて笑った。
「お時間を取らせて申し訳ありませんわ、殿下。早速ヘミングウェイ様にご挨拶へ伺ってもよろしいかしら」
「無論だ。何のために俺が態々足を運んだと思っている。面倒事は早く済ますに限るだろう」
「おや。意外です。殿下にとってヘミングウェイ様は面倒事扱いでいらっしゃるのですね」
「煩いぞこの狐め。さきにも言ったが、この日和見主義な空気が俺は気に食わん。しかしそれを誰よりも発揮しているのは叔父上なのだ。その上奴は実兄唯一の血族である俺を溺愛しているときた。面倒にもなろうが」
吐き捨てるように呟くランドルフだが、マリアはその言葉の中にある違和感を着実に拾った。
「唯一の血族ではないでしょう、殿下。確か弟君がいらっしゃったと伺っていますけれど」
問い掛けると、ランドルフはぴたりと一度足を止め、「ああ」と零した。
「そうか。彼奴にも一応は父上の血が流れているのだったか」
「一応って。血を分けた兄弟なのではなくて?」
「ああ。だがしかし、彼奴の母と俺の母とでは身分が雲泥の差。今までもこれからも居ないものとされてきた男だ。この俺が何をしたとて侮辱にしかならんさ」
それだけ冷たく言い放つと、彼はまたすたすたと先を行く。マリアもそれ以上追求はせずに付き従った。が、叔父との謁見を前にして、彼はボソリと独り言のように呟いた。
「確かに奴は我が家では居ないものであるが」
「はい?」
「……何処かの奇特な砂塵姫にでも掘り起こされたとすれば、また話は変わってくるやもしれん。なあ、“マリア”?」
「!」
ちら、と片眉を上げてランドルフがマリアを一瞥する。それからまた何事もない顔で扉に向き直った。マリアは小さく息を抜いて、彼の背中を見つめながら得意げに口角を上げてみせた。
「──ええ。望むところでしてよ!」
「……では、マリア様。私はここで」
大扉の少し手前で、静かにレイが足を止めた。世話役として主人の婚約者の屋敷まで押し掛けたようなレイだが、その線引きはきちんと行なっているようであった。
「レイ。ありがとう。それと出来ればで良いのだけど」
「皆まで申しますまい。さきのお話を聞いていれば分かることでございます。よろしいですか?」
「そう言ってくれると思ったわ。では、弟君のこと、よろしく頼むわね」
「畏まりました」
口元に微笑を湛えたまま、レイは優雅に腰を折る。マリアやランドルフに違わず美しく成長した彼に似合いの仕草だった。その実従者にしておくには惜しいほどの美貌なのだが、何よりも彼自身がこの生き方に満足感を覚えているため仕方がない。もっとも、マリアは多少なりとも不満を覚えているようである。
レイが一歩、ランドルフの方へと足を進めた。それから、小さな声で囁く。
「ではお願い致します、殿下」
「貴様に言われんでもそのつもりだ」
「おや、それは失礼」
「まったく。マリアも物好きよな。何故こんな腹の黒い鼠を懐刀としているのだか」
「ふふ。その点に関しては、誰よりも私自身がそう思っておりますよ」
小首を傾げ、レイはそう呟いた。その視線は既にランドルフを捉えてはいない。「二人とも?」と扉の前で首を傾げるマリアを愛おしそうに見つめている。
「従者の顔ではあるまいよ、それは」
「彼女は鈍感ですからね、良い意味で」
「ふん」
肩布を翻して、ランドルフが今度こそ扉に手を掛けた。
「その程度であれば、俺もよく分かっている」
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