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第12話 お嬢様誘拐事件 その2

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あれから、陽と唯は高城と別れ、休み時間の間にこれからの打ち合わせを人知れず屋上で行なっていた。この屋上は一面真っ白な床で、転落防止用の柵は茶色と、なかなか高校にしては洒落ている。そのため、必然的に放課後はカップル達がよく集まり、ベンチで談笑してる風景がよく見られる。唯はそんな背景を考えて、ここで打ち合わせをしようとしたのだが、陽がそんなことを理解する筈もなく・・・


 「(太陽眩しくね。なんでこんなところに連れてきたんだよ、馬鹿なの?死ぬの?)」


 まぁ、当然こうなる。少しは唯の気持ちを汲んでやれと言いたくなるが、そもそもコイツにそんなことを期待する方が間違っているだろう。


 「今更だけど陽君?高城さんに、なんで異能を知っているとか嘘吐いたの?」


 ホントに今更だよ!?等と言いたくなるが、唯の指摘は最もである。そもそも陽が嘘吐いていなければ、高城の依頼を受けることにはならなかったし、唯から告白されて付き合うこともなかった。要するに、全ての元凶かつ諸悪の根源は、玻座間 陽であると言えるだろう。


 「いや、僕を頼っていってくれたのに申し訳なくてつい。(嘘でーす。僕があいつに申し訳なく思う?天地がひっくり返ってもありえないね。教室から出て行けとかいってたから、イラッときたのもあるけど、金の匂いがプンプンしたからに決まってんだろーが。)」


 相変わらず本音と建前がことごとく違う。ていうか、コイツただの守銭奴じゃん・・・。将来はケチでヒモとか、誰得だよ。


 「流石、陽君!本当に優しいね。」


 残念ながら、唯はこのナルシスト屑の本性に全く気付いていないらしい。オマケに付き合うことになったからか、前より陽に対し愛情が強くなってきている気がする。まぁ、元々無駄に好感度高かったが。


 「それで、唯ちゃん。異能について教えて欲しいんだけど・・・。」


 「あっ、そうだったね。陽君があまりにカッコ良く見えたから、ちょっと見惚れちゃってたよ。」


 知らないとはいえ、こんな将来社会不適合者へまっしぐらの奴に見惚れるなんて・・・。ダメだこいつ、早くなんとかしないと。


 「そうなの?ありがとう、唯ちゃんっていえばいいのかな?(僕に見惚れるなんて・・・。分かってるじゃん、コイツ。)」


 ダメだ。ここにも急いで、なんとかしないといけない人間がいた。但し、コイツの場合はもう手遅れだと思うが。


 「ええっと、何から話せばいいいかな・・・。」


 唯は陽が超えし者(エクシード)であることは伏せて、異能が存在すること、Nコースの裏事情、校長(ロリババア)が唯の実の姉であること等を分かりやすく丁寧に陽に教えた。

ただ、異能の存在などよりも 陽がその話の中で、最も驚いたのは・・・


 「(あのロリババア、唯の姉貴だったの!?メンヘラストーカーとロリババアの姉妹とか笑えるんだけどwww。アレだな、妹が妹なら姉も姉ってな。終わってるな。朝倉家www。)」


最 低 だ よ 。 あまりにもあんまりである。唯は陽のことを信頼して教えてくれたのに、コイツはそれを嘲笑いやがった。そもそも校長はただ背が低いだけなのに、ロリババアって・・・。目上だろうが、なんだろうが、他人の粗探しをしてそれを肴に笑えるんだから。心底腐ってやがる。

ついでに唯を断定的にメンヘラストーカーとしてる。正確にはメンヘラではなく、ヤンデレなのだが・・・。コイツがその違いに気付くわけがないし、気付いたところで変える気などないと思うので、考えるだけ損といえよう。


 「まさか校長先生が唯ちゃんのお姉さんだったなんてね。昔、覚えてないけど会ったことあったのかな?(ぶっちゃけ、会ってたとしてもどうでもいいがな。)」


 「うん。陽君がまだあまり物心つく前に会ったことがあるって言ってたよ。最も、姉さんは昔から海外に留学してたから、陽君は私に姉がいたこと自体知らなかったみたいだけど。」


 やっぱり、校長(ロリババア)は子供の時から、優秀なエリート街道を登ってきたらしい。


 「へぇ。(幼い頃からエリートとか、あのロリババアホントムカつくな。)・・・そういえば、校長先生は苗字が唯ちゃんと違うけど、何か理由があるの?」


 「ああ、それは姉さんが留学先の日本人の家にホームステイすることになった時、ずっと向こうに行くことになるなら向こうで養子になりなさい。って、お父さんが言ったからだね。」


 なんとも剛胆な父親である。今の時代、自分の娘をそう簡単に養子に出すことができる親は一体何人いるのか?


 「まさかそんな事情があったとは・・・。(うわー、何その親。そんなお家に産まれなくてマジ良かったわ。アレ?何気に僕って勝ち組じゃね?)校長先生は優秀とは聞いていたとはいえ、驚いたよ。」


 オマエこそこんな性格になるなんて、普通に産まれてくるのをミスったとしか言いようがない。まぁ、こうなったのは、最近のことだから関係ないといえば、関係ないのだが。


 「うん。私も驚いたよ。姉さんがここの校長先生になれるぐらい優秀だったと聞いたときはね。最も、実体は異能者を集める学校みたいだけど・・・。」


「そうだね。それにしても、異能か。まさか、僕にも唯ちゃんにもそんな力があったなんてね。唯ちゃんは僕達の能力がどういうのか知ってるの?」


 「うん。陽君の方は分からないけど、私のは『鎖を操る能力』だよ。何回か使ったことがあるんだ。」


 「(僕の能力知らねーのかよ。使えな。つか、鎖を操る能力?地味なだなぁ。まぁ、オマエには超お似合いだよ。ていうか、鎖って・・・)」


 陽は毒を吐いた後、何か引っかかりを感じた。すると、ふと昨日唯からもらった鎖のブレスレットが陽の目に止まった。


 「(・・・あ。これってまさか?・・・マジかよ。いくら僕がイケメンで人類の至宝すぎるからって、愛が重すぎだろ。ヤベー、今すぐこっからコレ投げ捨てたくなってきたわ。)」


 確かに愛が重すぎとは思うが、仮にも自分を慕ってくれている女の子からのプレゼントをすぐ投げ捨てたくなるとか、屑ここに極まれりだな。ていうか、オマエが人類の宝とかないわー。どう考えても、人類にとっての公害だろ。冗談はその醜悪な腐った心だけにして欲しい。

 
 
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