職場が宇宙の国際都市で、私があいつに恋をして。

それぞれの事情

『現在、ディケイド基地には既に2000人を超える研究者や運営員が働いています。

これらの人々の殆どが一昨年開発が終了した高級居住区レッドストーンの開発に携わっていました。

今回のディケイド基地に、明日から若く有望な人材が、1500人地球から到着予定です。研修を済ませた彼らは翌週から業務に従事する予定です。

その中には多くの幹部候補生も含まれており、このプロジェクトにかける地球の期待の大きさが伺えます。

以上日曜９時のニュースでした。

続いてお聴きいただくのは、クラッシックの巨匠ー』

都市計画を担当する主任のエレナが寮のテレビの電源を落とした。

自室にいると安心するが、やはり地球に残した家族の姿が時々、憎いほど鮮やかに蘇る。

テレビの音がなくなった瞬間、教師として働きつつ育児をする夫や、小学校二年生の娘の声が脳内に響く気がした。

カーテンを勢いよく開け放つと、窓の外にカーテンが靡いた。そのバサバサという音に、故郷Münchenミュンヘンの朝を思い出す。

大学時代に夫と出会った。
クラスメイトとして勉強をしているうちに恋心が芽生えた。

週末は決まってどちらかのうちで過ごした。
朝焼けの美しい早朝に目を覚まし、近所のパン屋で買ったライ麦のパンに手製のブルーベリージャムを塗っていただく。
彼が起きてくるまでに朝食を済まして数時間勉強するのが私のルーティンだった。
「頑張り屋さんだね」
と言って寝ぼけた顔で私の頭を撫でる姿が見たかったからだけど。

卒業後すぐに結婚して、娘を産み育てながら働いた。
寄宿学校で平日を過ごし、週末家族のひと時を過ごす娘の精神力にはいつも感服するばかりだ。

馬術でオリンピックを目指す娘。私は経済的支援しかできていない。母として、すこし居心地が悪い。

地平線の向こうに一つ明るい星が見える。
エレナにとって週末のテレビ電話が唯一の心の支えだった。
時差のために夜更かしをすることは望んでいない。
この計画に目処が立ったら、家族をこちらに連れてきて共に生活しようと思う。


来年からは大学までの教育機関が機能し始める予定だ。
夫はこの基地内の小学校で教員をすれば良い。
パートでもいい、仕事がなくても私の給料で暮らしてゆける。

まあるい遠影を瞳に焼き付け、エレナはベッドに入った。
「シャワーは明日浴びればいいや、新人どんな子たちだろう」
独り言をぶつぶつ言うと自動で消灯された。

「おやすみ」

枕元の小型スピーカーに話しかけると、おやすみなさいと返事が届いた。

小さな同居人とエレナはすぐに深い眠りに落ちた。