1 / 56
ヒト堕ちのアレッタ
しおりを挟む
足が滑る。
なぜなら足裏の皮が剥け、血が滲み、泥にまみれているからだ。
あまりに小さな足は地面を蹴ることに慣れておらず、さらに裸足であるのだから仕方がない。身につけた服も布切れに近く、体を守ることなどできないため、擦り傷にまみれてしまう。
鬱蒼と茂る身の丈ほどの草木をかきわけながらヒトの体の脆さを体感し、さらに初めて感じる痛みという苦痛に耐えながら、どこか頭の先で『ヒトはこんなに苦労しているのか』と感心する気持ちもある。
だが4歳程度の幼女の体は思った以上に体力がない。すぐに肩が大きく揺れ、息がつまりそうだ。すみれ色の髪が頬に張りつき、額を伝う汗は止まらない。
それでも走らなければならないのは、生きなければならないからだ。
7日間。
7日間を生き抜かなければならない。
「……生き抜いてやるっ……!」
吐き捨て言った少女は、琥珀色の瞳を木々の隙間の空に向けた。
深い群青色に染められた空のさらに先に、彼女の故郷がある。
──天使の羽をもいだ罪にて、アレッタ、君をヒト堕ちの刑に処する」
体を屈め俯く女性にそう告げたのは、熾天使セラフィムの最上位・神の右手と呼ばれるドゥーシャだ。
6枚の羽を揺らしながら、彼はアレッタに「最後の言葉はあるか」顎先で声を放った。
彼女は立ちあがり、背筋を伸ばす。
彼を捉えた瞳は威厳にまみれる彼以上に威圧感があるようだ。胸元に立つ彼女の目から逃れるためかドゥーシャは静かに視線をそらしたが、その視線すら握り掴み自分へと向けるように、彼女は美しくも鋭く目を見開いた。
「私はここに宣言する。
この罪は冤罪である。
私、アレッタは、ヒトとして7日の寿命を全うし、汚れなき身であることを、この天の地に戻ることで証明する」
ドゥーシャの眉が歪むと同時に、容赦なく手が振り下される。
それを合図にアレッタの美しい4枚の羽は羽斬り鎌はねきり かまで切り落とされ、天からヒトの地へ、ヒトの身となるために堕とされたのだった───
なぜなら足裏の皮が剥け、血が滲み、泥にまみれているからだ。
あまりに小さな足は地面を蹴ることに慣れておらず、さらに裸足であるのだから仕方がない。身につけた服も布切れに近く、体を守ることなどできないため、擦り傷にまみれてしまう。
鬱蒼と茂る身の丈ほどの草木をかきわけながらヒトの体の脆さを体感し、さらに初めて感じる痛みという苦痛に耐えながら、どこか頭の先で『ヒトはこんなに苦労しているのか』と感心する気持ちもある。
だが4歳程度の幼女の体は思った以上に体力がない。すぐに肩が大きく揺れ、息がつまりそうだ。すみれ色の髪が頬に張りつき、額を伝う汗は止まらない。
それでも走らなければならないのは、生きなければならないからだ。
7日間。
7日間を生き抜かなければならない。
「……生き抜いてやるっ……!」
吐き捨て言った少女は、琥珀色の瞳を木々の隙間の空に向けた。
深い群青色に染められた空のさらに先に、彼女の故郷がある。
──天使の羽をもいだ罪にて、アレッタ、君をヒト堕ちの刑に処する」
体を屈め俯く女性にそう告げたのは、熾天使セラフィムの最上位・神の右手と呼ばれるドゥーシャだ。
6枚の羽を揺らしながら、彼はアレッタに「最後の言葉はあるか」顎先で声を放った。
彼女は立ちあがり、背筋を伸ばす。
彼を捉えた瞳は威厳にまみれる彼以上に威圧感があるようだ。胸元に立つ彼女の目から逃れるためかドゥーシャは静かに視線をそらしたが、その視線すら握り掴み自分へと向けるように、彼女は美しくも鋭く目を見開いた。
「私はここに宣言する。
この罪は冤罪である。
私、アレッタは、ヒトとして7日の寿命を全うし、汚れなき身であることを、この天の地に戻ることで証明する」
ドゥーシャの眉が歪むと同時に、容赦なく手が振り下される。
それを合図にアレッタの美しい4枚の羽は羽斬り鎌はねきり かまで切り落とされ、天からヒトの地へ、ヒトの身となるために堕とされたのだった───
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎
王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。
……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。
追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。
無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」
騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜
丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。
与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。
専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、
失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。
そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、
セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。
「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」
彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、
彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。
嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、
広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、
独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。
栄養と愛情を取り戻したセレナは、
誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、
社交界で注目される存在となる。
一方、セレナを失った伯爵家は、
彼女の能力なしでは立ち行かず、
ゆっくりと没落していくのだった――。
虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
