ヒト堕ちの天使 アレッタ

yolu

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幼女の決意

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 鼻先だけでも斬り落としてやる……っ!

 鎌で円を描くように振り上げたとき、彼らの巨体で覆われていた入口に光が差した。
 思わずアレッタは目を細めるが、光の奥の相手が一歩足を踏み入れてくる。
 その影に向けて、反射的に鎌を水平に振り抜いた。
 彼女は渾身の力で鎌を回したが、それはガチンと鳴ったきりビクともしない。何か金属に当たったはずなのだが、今の手応えは刃を掴まれている。

 ようやく光に慣れた目が捉えたのは、──女だ。
 青いショートヘアの女である。それが彼女の鎌を掴んでいたのだ。
 その女の真っ赤な唇が大きく揺れた。

「あたしのアリーっ!」

 鎌をぞんざいにもぎ取り、床へと捨てると、満面に笑顔を散らしながらアレッタを抱きかかえた。
 まるで拾った子猫を愛でるように、頭を撫でて、頬をこすり、体を揺する。それは激しい愛情表現なのだが、アレッタは固まっていた。

 ──誰だ、この女は……

 薄く口を開いたまま、呆然と女を眺めるが、

「わかんない、アリー? あたしよ、あたし」

 肩を掴まれ揺すられるが、目の前の胸がしゃべっている。
 なんでわからないの? 声と一緒に胸が縦に大きくたゆんと震えた。
 もう、アリーったらお茶目さん。いいながら鼻を突いてくるが、こんな女に全く心当たりがない。
 ……しかしながら、アレッタをアリーと呼ぶのは、そう、一人しかない。
 アレッタは半信半疑のまま、声に出してみた。

「……まさ、か…、ネージュ、なのか……?」

 女はその問いに満足したのか、より一層アレッタを抱きしめると、

「そうよ、ネージュよっ! 天界から降りてきちゃった」

 小さく舌を出し、ウィンクして見せるが、どこから突っ込めばいいのか、アレッタの唇があわあわと揺れる。
 永き時間をネージュとともに過ごしてきたアレッタだが、今まで人の形を取ったことはなかった。
 彼女は武器だ。
 聖剣という尊い武器だ。
 確かに剣の姿で会話はできた。更に言えば、剣と一括りにしているが、彼女はレイピアにも、グラディウスにも、クレイモアも、もちろん東洋の刀にも姿を変えることがきた。
 それこそ戦術、場所、状況によって彼女はアレッタに最善の武器に変化し、戦ってきた。

 だが人型にまで変化できるとは聞いていない!

 思考が追いつかないアレッタを置いて、ネージュは仮面の男に指差した。

「ちょっと、あたしのアリーになんもしてないでしょうね?」

 男は座ったまま、ただふたりのやりとりを眺めていたようだ。軽く頭を持ち上げ、左右に首を振った。

「僕は幼女趣味じゃない。いい香りがするけどね」

「……あんた、魔族ね。あたしのアリーに近寄らないで」
 ドスの聞いたいい声が響く。そのやりとりを尻目にアレッタは外の様子が気になるらしく、ネージュの腕から這い出ると、小屋の外を覗き込んだ。

 黒く地面が濡れている。
 そのまま視線を伸ばすと、広がっていたのは、赤い池、だ。
 腕、頭、胴、足、と切り離された体は、もやは誰の腕で足なのかすらわからない。
 内臓をこぼすことなく切り分けた彼女の剣さばきは言うまでもなく完璧だが、アレッタの顔がみるみる強張っていく。
「だってあたしのアリーを傷つけたんだもの」これでも足りない。そうこぼしたネージュにアレッタは掴みかかった。といっても、太ももの服を掴んだ程度だ。

「ネージュ、なんてことをっ!」

 幼いながらも必死に彼女が怒鳴ると、ネージュは小さく体を丸め、しょんぼりと項垂れてみせる。だがそれは格好だけだ。本心からは反省していない。
 それを読み取ったのか、さらにアレッタがネージュを見上げ指差したとき、勢いが唐突に止まった。

「だか……」

 その声を最後にアレッタは膝からゆっくりと落ちていく。
 すかさずネージュが受け止めるが、名前を呼ぶ声も届かないようだ。

 アレッタの意識は意思と反して、深い深い闇へと溶けていった───
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