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3日目の朝【朝日編】
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エイビスは2階にある広いテラスに出ると、腰を少し落とし、膝に力を込めた。
伸び上がったと同時に一気に飛び上がる。
これはオークに襲われていたときに見せたあの跳躍だ。
弾む彼の身のこなしは見事で、バレエダンサーのように、華麗で機敏な脚の運びだ。
瞬く間に屋根の上に到着した。
「僕の部屋の屋根に登ると、朝日が綺麗に見えるんだよ」
大きな揺れもなく着地した彼の姿だが、改めて見てもやはり、ひどい。
足は裸足、半裸で膝丈のズボンを履き、頭に仮面、手には白手袋。
紛うことなき、変質者だ。
が、体の締まりと彼の声は色男のそれで、あまりのギャップに真顔になるアレッタだが、彼はアレッタの膝を抱え、くるりと後ろへと体を回した。
「ここは小高い丘だから、地平線が見えるんだよ」
正面に見える大地が、ゆっくりと、そして真っ赤に焼け始めている。
ただ朝日が昇ってきているだけなのに、なぜこんなに美しいのだろう。
溶岩のように赤く燃えたぎる太陽は、今日の1日の始まりに光を大地に注ぐ。
その光は眩しいのに暖かく、じんわりと皮膚に染みこんでくる。
「……アレッタ、僕、この朝日に誓うよ。
僕も戦う。ちゃんとね……」
「なら、あなたの盾になることを私は朝日に誓おう……
小さくても、神の左手。しっかりとあなたを守るよ」
地面に流れ出した赤い日差しは、滑るようにあたりを飲み込み、朝の時間を作り上げていく。
さらに陽に照らされた朝露が、夜空のように煌めき始めた。
輝く朝露を見つけた妖精たちは、ふんわりと群がり、ほどけて、また群がる。妖精の羽もガラス細工のようで、虹色の輪が描かれている。
朝露の輝きと相まって目が痛いほどだ。
だが、目は離せなかった。
これは朝だけの光景であり、なにより神秘的だ───
「……わぁ……すごい…」
言葉をなくしたアレッタに、エイビスが得意げな声を鳴らした。
「アレッタ、君に1つ教えてあげる。
本当は天使に秘密なんだけど……」
アレッタを肩から降ろすと、エイビスはふわふわ漂う妖精を手招きした。呼ばれた妖精は変わらずふわふわと近づいてくる。その妖精にエイビスが手を差し出すと、今まで集めていた朝露のカケラを手に乗せ置いた。
それはそっと人差し指と親指で挟まれ、仮面の前にかざされるが、角と角は鋭角に尖り、氷を叩き崩したようだ。とても透明度が高く、だが陽を浴びると紫色に光る。
両手を広げたアレッタへの掌に、そっとエイビスが乗せると、アレッタはそれに朝日を浴びさせた。
途端、紫の光が四方八方に散らばり、まるで月光の雫が固まったかのよう。
声にならない歓声を上げるアレッタに、エイビスはしゃがみ込んだ。
目線を合わせるように顔を並べると、カケラを見惚れるアレッタに、エイビスは小声で言った。
「それは悪霊のカケラ。
斬られた悪霊はね、朝露になって降りてくるんだよ」
小さな手の中で棘のような無数の光を放つこのカケラが、あの黒く滲む悪意の塊であるはずない───
アレッタは目を丸くしながらエイビスを見上げるが、彼は再度小さく笑い、ゆっくりと喋った。
「信じられないだろうけど、魂は巡回するんだ。
水が蒸気となって空に昇り、雲になって雨として落ちるように、上にも下にも行けなかった魂は、ヒトの世界をもう一度歩くんだよ」
その言葉にアレッタは驚いた。
斬り捨てた悪霊は消滅するものと思い込んでいたからだ。
もちろん、それは天界で学んだことでもある。
だが現実は違い、魂は消滅しない……
「……そ…そしたら、ジャンは……!」
「うん。昨日の子の魂もカケラになっている。
妖精が集めてひとつにするんだけど、地上で斬られた彼ならカケラもそうそう大きく飛び散らない。
すぐに新しい魂になって、ヒトの世界を歩き始めるだろうね」
希望を込めたエイビスの声に、少しだけアレッタの心の枷が軽くなった。
ジャンは消えたのではなく、生まれ変わるのだと知れただけで、心がすっと軽くなる。
しかし生まれ変わってきても、それがジャンだとはわからないだろう。
ただ、魂がつながっている、というだけだ。
それでも、つながっている。
この世界につながっている。
心優しい彼らしく、またヒトの世界を生きるのだろう……
アレッタはひとり思い、小さな手を握って、頭を下げた。
───それは祈りの姿だ。
ジャンの次の幸せを、アレッタは朝日に祈る。
淡いすみれ色の髪は風になびき、それがゆったりと浮かびあがった。
陽を浴びて透けて、純白に光るその髪は柔らかい布のように流れている。
背にかかる髪はまるで羽のようだ……
エイビスはその姿にただただ見とれていた。
そこには幼女ではなく、1人の麗しい天使がいたからだ─────
伸び上がったと同時に一気に飛び上がる。
これはオークに襲われていたときに見せたあの跳躍だ。
弾む彼の身のこなしは見事で、バレエダンサーのように、華麗で機敏な脚の運びだ。
瞬く間に屋根の上に到着した。
「僕の部屋の屋根に登ると、朝日が綺麗に見えるんだよ」
大きな揺れもなく着地した彼の姿だが、改めて見てもやはり、ひどい。
足は裸足、半裸で膝丈のズボンを履き、頭に仮面、手には白手袋。
紛うことなき、変質者だ。
が、体の締まりと彼の声は色男のそれで、あまりのギャップに真顔になるアレッタだが、彼はアレッタの膝を抱え、くるりと後ろへと体を回した。
「ここは小高い丘だから、地平線が見えるんだよ」
正面に見える大地が、ゆっくりと、そして真っ赤に焼け始めている。
ただ朝日が昇ってきているだけなのに、なぜこんなに美しいのだろう。
溶岩のように赤く燃えたぎる太陽は、今日の1日の始まりに光を大地に注ぐ。
その光は眩しいのに暖かく、じんわりと皮膚に染みこんでくる。
「……アレッタ、僕、この朝日に誓うよ。
僕も戦う。ちゃんとね……」
「なら、あなたの盾になることを私は朝日に誓おう……
小さくても、神の左手。しっかりとあなたを守るよ」
地面に流れ出した赤い日差しは、滑るようにあたりを飲み込み、朝の時間を作り上げていく。
さらに陽に照らされた朝露が、夜空のように煌めき始めた。
輝く朝露を見つけた妖精たちは、ふんわりと群がり、ほどけて、また群がる。妖精の羽もガラス細工のようで、虹色の輪が描かれている。
朝露の輝きと相まって目が痛いほどだ。
だが、目は離せなかった。
これは朝だけの光景であり、なにより神秘的だ───
「……わぁ……すごい…」
言葉をなくしたアレッタに、エイビスが得意げな声を鳴らした。
「アレッタ、君に1つ教えてあげる。
本当は天使に秘密なんだけど……」
アレッタを肩から降ろすと、エイビスはふわふわ漂う妖精を手招きした。呼ばれた妖精は変わらずふわふわと近づいてくる。その妖精にエイビスが手を差し出すと、今まで集めていた朝露のカケラを手に乗せ置いた。
それはそっと人差し指と親指で挟まれ、仮面の前にかざされるが、角と角は鋭角に尖り、氷を叩き崩したようだ。とても透明度が高く、だが陽を浴びると紫色に光る。
両手を広げたアレッタへの掌に、そっとエイビスが乗せると、アレッタはそれに朝日を浴びさせた。
途端、紫の光が四方八方に散らばり、まるで月光の雫が固まったかのよう。
声にならない歓声を上げるアレッタに、エイビスはしゃがみ込んだ。
目線を合わせるように顔を並べると、カケラを見惚れるアレッタに、エイビスは小声で言った。
「それは悪霊のカケラ。
斬られた悪霊はね、朝露になって降りてくるんだよ」
小さな手の中で棘のような無数の光を放つこのカケラが、あの黒く滲む悪意の塊であるはずない───
アレッタは目を丸くしながらエイビスを見上げるが、彼は再度小さく笑い、ゆっくりと喋った。
「信じられないだろうけど、魂は巡回するんだ。
水が蒸気となって空に昇り、雲になって雨として落ちるように、上にも下にも行けなかった魂は、ヒトの世界をもう一度歩くんだよ」
その言葉にアレッタは驚いた。
斬り捨てた悪霊は消滅するものと思い込んでいたからだ。
もちろん、それは天界で学んだことでもある。
だが現実は違い、魂は消滅しない……
「……そ…そしたら、ジャンは……!」
「うん。昨日の子の魂もカケラになっている。
妖精が集めてひとつにするんだけど、地上で斬られた彼ならカケラもそうそう大きく飛び散らない。
すぐに新しい魂になって、ヒトの世界を歩き始めるだろうね」
希望を込めたエイビスの声に、少しだけアレッタの心の枷が軽くなった。
ジャンは消えたのではなく、生まれ変わるのだと知れただけで、心がすっと軽くなる。
しかし生まれ変わってきても、それがジャンだとはわからないだろう。
ただ、魂がつながっている、というだけだ。
それでも、つながっている。
この世界につながっている。
心優しい彼らしく、またヒトの世界を生きるのだろう……
アレッタはひとり思い、小さな手を握って、頭を下げた。
───それは祈りの姿だ。
ジャンの次の幸せを、アレッタは朝日に祈る。
淡いすみれ色の髪は風になびき、それがゆったりと浮かびあがった。
陽を浴びて透けて、純白に光るその髪は柔らかい布のように流れている。
背にかかる髪はまるで羽のようだ……
エイビスはその姿にただただ見とれていた。
そこには幼女ではなく、1人の麗しい天使がいたからだ─────
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