ヒト堕ちの天使 アレッタ

yolu

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3日目の過ごし方

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「エイビス、風邪ひきますよ!」

 フィアの声に、エイビスは目を覚ました。
 そんな感覚がする。

 エイビスは目の奥に残る天使の残像をまぶたの裏に浮かべながら、ゆっくりと目を開けた。

 やはり、目の前にはあの少女がいる。
 怪我まみれで、食事の仕方がとても汚い、小さい小さい幼女。
 そんな彼女は小さな手を振り、フィアにおはようと声をかけた。

「アレッタ、おはよう。怪我は大丈夫そうだな。
 エイビス、もうすぐ朝食の準備ができます。身支度を整え降りてきてくださいね。アレッタもだぞ!」

 テラスから体を乗り出し言ったフィアは、アレッタに釘を刺し、体を引っ込めた。
 それと入れ替わるようにネージュがひょっこり顔を出す。


「あ、ああああ、ああたしのアリーっっっ!!!!!!!
 こんのぉぉぉエロ変態紳士ぃぃぃぃぃ!!!!!!」



 ───朝からの追いかけっこ殺し合いは、壮絶だ。

 いきなり放たれた氷の矢をエイビスは間一髪で避けると、アレッタを抱え、庭へと飛び降りた。
 妖精が撒き散らされるように飛び立つなか、彼の背後をネージュは追う。
 追尾型の氷の球はとても鋭く、エイビスの仮面をかするだけで簡単にえぐってしまう。

「ネージュ、やめろっ!!!」

 抱えられるアレッタは必死に叫ぶが、ネージュには届かない。
 彼女の目は金に染まっている。
 それの意味は相当の殺意を持って、氷を放っているということだ。

「エイビス、私を下ろせっ」
「そんなことしたら、間違いなく僕が殺される。君は僕の肩ごしに顔を出しておいて」
「……私を盾にするのか……?」
「だって、しょうがないだろ?」

 寝間着姿で走るネージュに、半裸で飛び回るエイビス、抱えられたキャミソール姿のアレッタは、怒声と悲鳴をあげながら、縦横無尽に庭の中を動き回る。


 まさに、地獄絵図!!!!!!!


 これに終止符を打ったのはフィアだ。
 ネージュを囲むように炎の壁を作り上げ、身動きを封じたのである。

「ちょっと、フィア! この炎どけなさいよっ!!!!」

 フィアの炎は特製らしく、ネージュの氷では消すことができない。
 地団駄を踏みながら罵声を轟かせるネージュに、フィアが一喝した。

「貴様、いい加減にしないと、飯抜きにするぞっ!!!」

 瞬く間に氷のオーラがしぼみ、戦意を喪失したのを確認すると、エイビスはその場にへたりと座り込んだ。

「はぁ~……僕、死ぬかと思ったよ…」

 エイビスの仮面は無残にも傷だらけだ。
 だが半裸の体には怪我はないようで、引き締まった白い肌に大粒の汗を浮かべている。

「こんなに走ったの、いつぶりだろ……」

 アレッタはぼやくエイビスの手を握り、よいしょと立たせた。
 すかさずフィアが現れ、エイビスにタオルが手渡された。

「怪我してませんか?」
「僕は大丈夫。それよりネージュは?」
「しばらく頭を冷やすのに、炎の檻の中にいれておきましょう」

「ちょっと聞こえたわよ、フィア!!!!
 力抑えたんだから、この術、解きなさいよっ!!!」



 ……このやりとりのおかげで、アレッタをはじめ、ネージュ、エイビス、フィアはそれぞれ風呂に入ることになってしまった。そのため、朝食は少し遅めの9時となる。

「……今日の朝食は、昨日の残りのスープとパン、あとスクランブルエッグだ。残さず食えよ」
 
 そういってテーブルに並べられたが、ネージュの興奮はおさまらないらしい。
 アレッタを抱えて離さないし、睨む目はエイビスを結んだままだ。
 エイビスの仮面の傷は深いようで、白手袋の手で必死に撫でて修復をしているものの、鋭く引っ掻かれた痕はなかなか消えない。精霊の力は伊達ではないようだ。

 アレッタは彼の仮面の傷を見て、改めて無事に戦闘が終わったことに感謝した。フィアがあそこで止めていなかったら、エイビスの葬儀を今頃していなければならなかった……

 ひとり安心してネージュを見るが、
「あんな仮面ひん剥いて、隠してる顔をズッタズタの傷モノにしても物足りない……」
 殺気は健在のようだ。

 アレッタはネージュをどう落ち着かせようかと思っていると、フィアがぎろりとネージュを睨んだ。

「カッカしても始まらん。さっさと食え!!」

 フィアに言われたことでネージュがしおらしくなったのを機に、アレッタは彼女の膝から降りた。
 よいしょと声をだして、自分用に整えられた椅子にアレッタは座る。
 クッションが敷かれた高さのある椅子だ。これに座ると食べ物も手に届きやすく、なにより食べやすい。
 すぐにエンが膝に飛び乗り、ご飯をねだってくる。
 アレッタはサンドイッチを頬張りながら、すんすんと鼻を寄せるエンにひと口与えるが、少し考え、フィアへと視線を飛ばした。

「フィア、エンには何を食べさせたらいいんだ?」

「ああ、ブロディ用の乾燥フードがある。通称カリカリってやつだ。床に置いておいたが、食べてないか?」

 フィアの視線に合わせてカリカリを見るが、どうも減っていない。

「エン、あそこにご飯あるぞ?」

 アレッタは声をかけるが、エンは不機嫌な声を上げるばかり。

「そうか、エンは私と一緒に食べたいんだな」
「ィエンっ」

 そのエンの声に、アレッタは床に置かれたカリカリの器を取り上げ、テーブルに並べた。
 するとアレッタの膝から体を乗り出し、食べ始めたではないか。

「テーブルに乗るのはお行儀が悪いからな。エンは偉いな」

 幼女と子猫の組み合わせは、可愛さ100倍になって大人の目に届くようで、アレッタの背景に可愛い花が咲き誇っているかのようだ。
 ほんわかとした笑顔を浮かべた3人の大人は、ゆっくりと食事を始めた。
 彼女と猫のおかげで、ひどく不機嫌だった朝食は一気に和やかになる。

 だが、相変わらず、アレッタの食べ方は汚い。
 おかげでエンの体はパンくずだらけになっている。
 それでも食べるのをやめないのは、このサンドイッチがとてつもなく美味しいから!

 昨夜のパンはリメイクとしてバターで表面が焼かれてあり、中はチーズと生ハムでちょうどいい塩気。なによりトロリと溶けたチーズがたまらない!
 牛乳との相性も抜群で、アレッタは夕食を食べていなかったからか、いくらでもはいってしまいそうだ。

「フィア、昨日夕食を食べられなかったから、今日は4回食事がしたい」

 無茶なことを言い出すアレッタに、フィアはふんと鼻を鳴らすと、

「さすがに4回の食事は食べきれんだろうから、昼食と夕食の間におやつにするか……」

「ネージュ、おやつだそうだ」
「おやつ、何かしらね!」

 やはりどの世界も、女子は甘いものに目がない。

「そしたら今日は外でランチにしないか、フィア」
「そうですね。目を離すと何かしでかしますしね」

 ぎろりとアレッタを見やる。

「わ、私は悪くないぞっ」

 ほろほろと舌で芋を潰し、コンソメスープを飲み込み、アレッタは言う。
 このスープも味が深くてとても美味だ。野菜の甘みがしっかりとにじみ出て、それをじゃが芋とマカロニが吸い込んでいる。じんわりと胃に広がる温かさが何より心地いい。最後にピリッと舌に触るのは黒胡椒。これがいいアクセントで、また一口頬張りたくなるスープだ。

 アレッタは満足そうに息を吐き、再びサンドイッチに手を伸ばすと、すかさずネージュがパチリと彼女の手を叩いた。

「食べ過ぎ」

 不貞腐れるアレッタに、エイビスの仮面がつと向いた。

「そうだ、アレッタ、なにか食べてみたいものとかある?」

「食べてみたいもの……?」

 悩み考えているうちに甘いミルクティーが届く。
 フィアにお礼を言い、一口飲んだとき、アレッタの顔が輝いた。思いついた顔だ。

「魚が食べたい!!!」

 ほう。エイビスが頷き、

「アレッタ、それでは釣りに行こうっ」

 エイビスから楽しげな声が聞こえるが、アレッタは釣りがどんなものかわからず、首を大きく傾げたのだった。
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