ヒト堕ちの天使 アレッタ

yolu

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 アレッタの血濡れた服をかえ、血を拭き取ったあと、ベッドへ寝かせると、すぐにエンが枕元に丸まった。
 汗をふいてやろうと手を伸ばすと、エンが唸りを上げる。

「まったく、ナイト気取りか」

 フィアは唸るエンをつついて軽く笑い、冷やしたタオルをアレッタの額へと乗せた。
 そのあと、一度キッチンへ戻り、水差しに果物、新しいタオルをトレイに乗せて部屋へと来ると、そこにはせっせとアレッタの看病をするエイビスの姿がある。
 まめに汗をぬぐい、毛布から腕をだしたりかけたりしている。

 理由はアレッタの熱だ。

 エイビスの血が体に馴染むために、熱を発しているのだ。
 流れる汗をそっと拭いながら、エイビスは呟いた。

「……フィア、アレッタはなんでいつもこうなんだろう……」

「あなたのせいじゃないんですか?」

「……僕のせい……か…」

 エイビスは左手首を撫でながら、諦めたように息を吐いた。

「エイビス、腕は大丈夫ですか?」

「痺れも取れたから問題ないよ。あれほどの酷い痛みは久しぶりだった」

 笑うエイビスだが、実際、もう二度としたくない。仮面にそう書いてある。

「あの術は激しい痛みがね……。
 血液だけの転移であれば痛みはないんですが、アレッタへと移し入れなければならなかったので、アレしか思いだせなく……ただ、落ち着いて考えると、あれじゃなくても、こっちでもよかったか、とか……」

「次何かあったら、コッチというのにしてくれたらいいよ」

 エイビスは果物のカゴからリンゴを取り上げ、かじりついた。
 歯ごたえのある、食感がいいリンゴだ。蜜もつまり、鼻から甘酸っぱい爽やかな香りが抜けていく。

 一息ついたふたりに、唐突に窓が開いた。
 
 ベランダに浮かぶのは、煌々と光る玉だ。
 夕闇に染まった窓に燃えるように輝いている。
 すぐにふたりは素早く身構えるが、部屋にぬるりと落ちてくると、ロウソクの炎のようにゆらゆらと立ち上り、エイビスたちに近づいてくる。
 それを見たエイビスは構えを解き、腕を組んで対峙した。

「こんなときに何の用だ」

 光の塊に声を放つと、その光はエイビスを真似したのか、伸びて人のシルエットを模る。ゆらゆら形を変化させながら音が返ってきた。

『精霊王が呼ぶ』

「急すぎる。僕は行かないよ」

『天、秩序の湾曲』

「……僕には関係ない」

『招集』

「それはわかるが、僕が行く理由があるの?」

『招集』

「だから」

『招集』

 オウムのように繰り返す光の塊に、エイビスはため息をついた。
 大きく肩をすくめてフィアを見やると、彼の目つきが変わっている。

「エイビス、この招集は行った方がいいです」
「どうして? 僕はアレッタの看病がしたい」

 エイビスは行く意味がないと思っているようだが、フィアは首を横に振った。

「精霊王は、唯一、3つの世界を干渉できる存在。
 それ故に傍観を決めた王が、呼び出してまで告げたい何かがあるのだと思います。
 行ってください、エイビス」

 お互いに無駄なことはしない主義だが、フィアがここまで言うのは確信があるからだ。
 確かにこちらから出向くことはあっても、向こうからの声かけは今までにない。

「よっぽどか……
 わかったよ。行くよ」

 揺らぐ光がエイビスの体を包み込むように、丸く長く広がった。
 その中へ進むエイビスが一度振り返り、手を上げる。

「フィア、よろしく頼むよ」
「任せてください」

 扉となった光の塊に、エイビスは体を潜らせていく。
 ずるずると飲み込まれるエイビスを見送り、フィアも立ち上がった。

「……だいぶ汗をかいたな。お湯を持ってくるか……」

 アレッタを見下ろし、フィアは思う。


 アレッタは、今を必死に生きている。
 彼女が諦めていれば、もうこの呼吸は続いていないはずだ……


 改めて彼女の強さを見た気がした。
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