ヒト堕ちの天使 アレッタ

yolu

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復活と、反撃と、

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 エイビスの顔からは、仮面が外されている。
 アレッタと頬が重なる横顔は、彼女に劣らないほどに麗しい。彼の青白い肌と銀髪が妙に似合う。
 その彼の唇が名残惜しそうに、アレッタの唇からゆっくりと離れていく。
 だが、ふたりの唇をうっすらと繋ぐのは、鮮血だ。
 アレッタの赤い血が紅のように伸びている。唇を離すと、ぷつんとちぎれ、お互いに雫となって流れて落ちる。
 エイビスは顎にかかる血を親指でぬぐい、舌で舐めとると、アレッタの頬に伝う血も同じように親指でなぞり、それも舌にからませた。
 まるで甘い蜂蜜でも口に含んだかのように、優しく目を細めたエイビスは、銀髪を耳にかけ直し、アレッタの顔に手を添える。

「さぁ、息をしようか……アレッタ……」

 エイビスの声に合わせて、アレッタの形のいい唇が薄く開いた。
 小さく息を吸い込むたびに、銀色の光がアレッタを包みはじめる。それは月光の粒子が集まったようにも見え、ちらちらとフィアの炎の灯りを吸いとり、アレッタの体を癒していく。

 特に損傷の激しい箇所に光は集まるようで、背中、腕、そして貫通した腹部が目が眩むほど輝いている。
 すぐに傷が治ったのか、光が散り、再びアレッタの体へと粒子は広がった。
 それを見たエイビスは、再び頬をなで、アレッタの耳元に唇を寄せた。

「……目を、あけてごらん」

 言葉のとおりに、アレッタの目がゆっくりと開いていく。

 黄金色の目だ。
 
 そのアレッタの目に映ったのは、潤んだ赤い瞳、そして眉をよせながら微笑む男の顔がある。

 この顔も、この眼も、アレッタには記憶があった。

 それはルビーがはめ込まれたように美しい瞳。懐かしい色………


 そう、懐かしいの目だ────

 
「……ルシ…ファー……?」


 そう呼ぶと、彼は優しく、何故か少し寂しそうに微笑み、頷いた。
 それと同時に、アレッタの体が浮かび上がる。
 背中に操り糸でも通されたようだ。

 アレッタは膝を抱え込むように丸くなり、身をまかせることにした。なぜなら、幼い体ではなく、大人の身体へと、骨が、筋肉が、動いていくのがわかったからだ。

 体全体が軋み、整えられていくのがわかる。
 背からは4枚の羽が若葉のように芽吹きはじめる。
 その揺らぎは、懐かしい感触だ……

 アレッタはふわふわと浮かびながら、あの泡のお風呂に入ったような気持ち良さを感じていた───
 

 だがその状況にあたふたしていたのは、フィアとネージュだ。


 腹の傷は見る間にふさがり、細かな傷もすぐに癒えはじめる。
 だがその度に彼女のまとっている衣服が剥がれていくのである。
 小さな欠片となって消えていく鎧や服たち。
 その度にフィアとネージュから情けない悲鳴があがる。

 しかしながらエイビスは恍惚の表情でアレッタに見とれているし、アレッタは魂の修復もあり、ただゆっくりと身を任せているのもわかる。

 この状況を一番冷静に眺めているのは、フィアとネージュ、このふたりだけだろう。

 アレッタのすみれ色の髪が銀髪へと変わりだした。
 ネージュの悲しそうな顔を見て、フィアが言う。

「……魔族になると、銀髪になるんだ」

 そう言って、フィアの視線はエイビスに飛んだ。
 彼も元は天使だ。
 それも大天使ルシファーだった。
 神の右手であり、左手であった彼と共に過ごした天界の時間は、あまりにも長く、そして忘れることもできない時間だ。

 だが、彼は魔族となって、今を生きている。
 その理由は、神と、エイビス、そして聖剣であったフィアしか知らないことだ────


 はるか遠く昔の思い出をフィアが懐かしんでいたとき、とうとうアレッタの衣服は消滅した。
 言葉通り、生まれたままの姿に呆気にとられるも、ネージュがフィアを揺さぶり起こす。

「……ちょ、ちょ、ふぃ、フィア……フィアってばっ!」
「え……あっ!!!! ちょ…まま、待て、ネージュっ!!」

 フィアはやけくそとばかりに、アレッタへと炎を投げつけた。
 それは彼女の体をぐるりと覆う。
 同時に炎の壁はなくなってしまうが致し方がないだろう。

 まるでお包みだ。しゅるしゅると音を立てながらアレッタの体を包み込むと、風が巻きあがった。
 吹き上げた風と一緒に炎が消えたとき、アレッタは真紅のドレスをまとっていた。
 浮かんだままの彼女のドレスはとても魅力的だ。
 背中は大きく開き、鉛色の美しい羽が揺れる。腰にはコルセットが巻かれ、鎖骨から胸の谷間をきれいにかたどるように胸元のラインを象りながら、体のラインを美しく見せる。スカートはフリルもなく、くるぶしより少し長い丈だろうか。だがスリットが入っており、曲げた膝と太ももが隙間から覗き、それだけでアレッタの色白の肌を強調できる素晴らしいドレスだ。
 
 エイビスは自身の白手袋をするりと外し、まだ浮かんだままのアレッタの左手をとった。
 エイビスの左手首にもアレッタと同じ青の線が刻まれている。

「……アレッタ……約束を守るよ……」

 そう言って、そっとアレッタを優しく抱き寄せた。

「もう、離さない」

 頭を抱え、アレッタの細い腰に回した手はどこまでも優しい。
 まるで硝子細工の人形に触れるように、エイビスはアレッタをゆっくりと抱きしめた。

 まだ目覚めて間もないアレッタは、少しぼんやりとしながらも、幸せそうに微笑んだ。
 すぐそばに見える彼の顔はあの頃と変わらず美しい。
 陶器のように白い肌に、筋の通った鼻、どこまでも見透かす赤い瞳───
 だがどこか貫禄を感じる風格は、これまでの彼の人生によるものだろう。

 つい見惚れるアレッタに、再び口づけようと、エイビスがアレッタの顎に手をかけたとき、ネージュとフィアから蹴りが入る。

「あたしのアレッタに何してくれてんのよ! ルシファーだろうと許さないんだからっ!」

「アレッタよりも敵です、敵!!! く・ろ・が・い!!!! わかってますか!?!?」

 さらに敵も待ってはくれず、炎の壁が外れたのをいいことに、棘の集中砲火を開始した。
 すぐにフィアはネージュを抱え、背を向けるが、その棘は落ちてこない。

 銀色の天井が、ある───

 まさしくエイビス、いや、ルシファーの羽だ。
 彼は唯一神から12枚の羽を与えられた大天使。魔族となった今でも、その羽は健在だ。
 その羽は天使の時の柔らかな羽ではなく、銀細工のように煌めき、しなやかに舞う。

 埃でも払うように翼を揺らすと、エイビスは髪の毛をかきあげ、黒鎧とジョヴァンナを一瞥した。

「この顔を見た者は、塵に還すと決めてるんだ。覚悟してね」

 エイビスは12枚の黒鉄色の羽を揺らし、舞い上がった。
 右手をかざすと、フィアが炎の柱となって飛び上がり、エイビスの手の中に大鎌として現れる。

「さぁ、今から、反撃だ」

 エイビスは冷たい笑みを浮かべ、急降下した。
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