老舗カフェ「R」〜モノクロの料理が色づくまで〜

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第29話 エルフと過ごす朝

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 目が覚めたら、なんと、目の前にイウォールが!!!

 ……なんてことはなく。


 彼らが家に帰る方法はたくさんあったのだが、酔っ払いが2メートルの人間を抱えてマンションに入るのは骨が折れる(物理的にも)。
 ということで、莉子は客間を解放するとこにした。

 莉子が過ごす部屋と、客間は分かれている。
 それは過去二世帯住宅だったことが大きな理由だ。

 客間は、過去に祖父母が暮らしていた場所でもあり、お風呂も簡単なキッチンも備えてある。
 備え付けのシングルベッドが2つ、さらにソファベッド、折り畳みの簡易ベッドを駆使して、4人は宿泊となった。


 莉子は少し早めに起きると、朝のルーチンをこなし、朝食の準備にとりかかる。

「野菜たくさんのスープとパンでいいかなぁ……しこたま飲んでたからなぁ……」

 眠い目を擦りつつ、スープの準備をしていると、居住スペースから、カフェへ降りる階段を歩く音がする。

「懐かしいな」

 昔はよく聞こえた音だ。
 踏み締め方で誰の足音かわかったものだが、今日はエルフの足音なので、それが誰かはわからない。
 ただ慎重に、丁寧に下りる感じから、イウォールではないかと、莉子は思う。

 カフェの厨房にするりと入ってきたのは、

「リコ、おはよう。早起きなんだな」

 イウォールだ。

「おはようございます、イウォールさん。調子はどうですか?」
「問題ない。私も手伝おう」
「いいですよ。今、コーヒーいれますね」
「だめだ、リコ。2人で用意するのがいい。新婚みたいでいいと思うんだ」

 いつもなら言い切る前に殴られるか、なにかのアクション(物理)があるのだが、今日はそれはなかった。
 莉子は黙ったまま、それでもニコニコとコーヒーを入れていく。

「はい、イウォールさん。……イウォールさんは、よくそんなにペラペラと妄想を垂れ流せますね」
「妄想は口に出すと、本当になるというだろう。私は本当にしたいからな」
「イウォールさんが思う人じゃないです、あたしは」

 莉子から手渡されたコーヒーを受けとりながらも、イウォールは彼女の手をそっと掴む。

「それならば、リコの思う人になればいい。私はリコの全てが好きだ」

 真剣な目の奥に、優しさがにじむ。
 莉子はその目を見つめながら、怪しい壺とか買わされないだろうかと心配になる。
 だが、思う人になればいい。だなんて、言ってくれる人が今までいただろうか。

 莉子は頭のなかでその言葉を反芻する。

「思う人になればいいか……」

 イウォールはシンクによりかかりながら、長い髪を耳にかけ、美味しそうにコーヒーを啜っている。
 見慣れない現実のはずなのに、こういう現実もいいなと、莉子はちょっと思ってしまった。

「コーヒー飲み終わったら、手伝ってもらってもいいですか?」

 莉子の申し出に、イウォールは微笑みながら頷いた。



 1時間ごとに降りてくるエルフたち。
 この厨房が集合場所になるのもあって、どんどん厨房が狭くなっていく───

 というのも、二世帯の分岐点が、この厨房なのだ。
 厨房左右にある階段が、二世帯を分け、繋げているのだ。
 そのため、莉子が子供の頃は、朝食は厨房だったし、夕食もこの厨房だった。
 莉子が独りになってからは、どこということもなく始まり、終わっていたが、エルフがきたことで、またこの厨房が始まりの場所になっている──

 それに微笑ましく思えたのは、二人まで。
 イウォールとアキラが厨房で談笑しながら手伝いを始めたところで、ケレヴの登場に、ぐっと厨房が縮んだ。

「……でかい人たちが並ぶと、狭いんですね、ここ。はい、ケレヴさん、コーヒーあげるんで、店内に移動してください」
「じゃ、僕はテーブルの準備しておきますね」
「じゃ、俺は新聞でも読んでるわ」
「ケレヴも動いてくださいよ。体、大きいんですから」

 アキラにせっつかれながら出ていく姿が、兄弟のよう。
 イウォールはスープ作りをしてくれており、火を止めたことから、準備は万端。

「最後はトゥーマか……」

 呆れた声でイウォールが呟いたとき、リズミカルに階段を降りる音がする。

「まじダリィ……」

 現れたトゥーマに莉子は悲鳴をあげた。
 なぜなら……

「トゥーマさん、服着て、服っ!!」

 シャワーを上がってすぐに降りてきたのか、濡れた頭に半裸、下はかろうじて履いているものの、綺麗な方の上半身は、莉子に刺激が強すぎる!
 素早い動きでイウォールの後ろに隠れるが、莉子の心臓のドキドキはおさまらない。

「び、びっくりした……」
「リコ、あの程度で驚かれては困る。トゥーマは基本裸族だ」
「……ん?」
「裸族」
「ん?」
「リコは知らないのか? 私はこの世界で知ったのだが、部屋に入ると服を脱ぐ者のことを指すと聞いたが……」
「……やっぱり、その裸族なんだ……」
「この前のときはそれは凄かった。かは」
「やめて! なんか妄想が穢れる!」
「妄想が、穢れる……?」

 改めて服を着たトゥーマにコーヒーを渡し、朝食の準備を整える。
 眠たそうな顔のみんなを前に、イウォールが宣言をした。

「今日は、エルフに優しい店内に模様替えだ。よろしく頼む。では、いただこうか」

 今日の1日も長そうだ。
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