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第43話 なかやすみ
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イウォールのスープの効き目はすごいもので、2時間経たないうちに疲労感が取れた以上に、心の底からやる気がわいてくる。
「イウォールさんのスープ、何入ってたんだろ……」
思わず呟いてしまうが、お祭りあとだからとヘルプに来てくれたアキラがその声を拾った。
「あのスープには、愛情がたくさん入ってますからね」
「それだけで? はい、ダウト!」
「ホントにそれだけですよ。……よし、テーブル片付け終わりました」
ランチタイムを終えた今、中休みを取ろうと、お店をクローズにしたところだ。
もうこのままクローズにしてもいいのではと、莉子の心は訴えてくる。
理由は、今朝の出来事だ。
「まさか、アイツ直々に来るなんてなぁ……」
グラスを拭きながら、トゥーマが眉間に皺を寄せている。美麗な顔が苦々しく歪んでいることから、よっぽどだ。
「私もそれは驚いたが、式典が近いのもある。国王が来る前に片付けたいのかもしれない」
イウォールは賄いの皿を厨房から運んできた。
今朝のスープはすでに鍋でテーブルに置いてある。
「イウォールさん、賄いありがとうございます。いい匂いがするー!」
莉子が顔を寄せると、イウォールは目を細め、トレイを傾けた。
「今日はオムライスですよ、莉子」
丸い皿には、薄い玉子で巻かれたご飯がある。ポテトサラダと、パセリが添えられ、彩りもいい。オムライスにかけられているのは、イウォール特製のトマトソースだ。玉ねぎや茸がたっぷり入ったトマトソースは、具材がゴロゴロしていて、ボリュームもある。
「な、イウォール、ライスは何味?」
ルンルンで聞いてくるトゥーマに、皿が差し出される。
「ちゃんとチキンライスだ」
「よっし!」
トゥーマは嬉しそうにスプーンを取り上げたが、その頭を小さく叩くのはアキラだ。
「嬉しいのわかるけど、ほら、スープとか配って」
莉子とイウォールも席に着いて、さっそくと食事の時間となる。
お昼が過ぎての賄いだが、今日も日差しが強い。
7月の後半に入り、夏の気配が強くなっている。
「トゥーマ、やっぱり、カラーのご飯は美味しいね」
「だよなー。色のない頃には戻れない。だからこそ、守んないと……」
「ありがとうございます、トゥーマさん、アキラさん。イウォールさんも」
莉子は小さく頭を下げるが、3人はいやいやと首を横に振る。
「はぁ……。明日の式典でここを空けるのは不安だな」
イウォールの声に、アキラも頷いている。
「確かにカーレンも来てくれますけどねぇ」
「オレ、抜けてここに来てもいいけど」
「ダメに決まってるだろ、トゥーマ」
イウォールが睨み調子に言うが、莉子はそれを聞きながら、口をへの字に曲げた。
「なんか物騒な雰囲気出さないでもらえます……?」
莉子がスープの具を口に運びながら言うが、3人は言葉に詰まっている。
それが余計にリアルで、莉子は少し喉が詰まる。
「リコ、明日はカーレンが来たら、絶対にドアは開けるなよ」
「トゥーマさん、真面目な顔で怖いこと言わないでくださいよ」
「いや、リコ、これは私も約束して欲しい。何をするか分からないのが、ラハだ」
イウォールの視線に、莉子は再び違和感を覚える。
だが、理由が分かった。
───緊張だ。
凛とした、糸を張ったような、強い気持ち。
薄氷のように、少しでも触れると割れそうなほどの、繊細な空気──
莉子は皿の脇に置かれたイウォールの手に、自身の手を重ねた。
「イウォールさん、いつも、ごめんなさい……。あたし、なんもできなくて……迷惑ばっかり……」
イウォールは莉子の手を素早く握り直した。
「リコ、謝らないで欲しい。これは私が勝手にやっている事だ」
「でも、そんなに気持ちを張り詰めて……あたしがもっとどうにか動かなきゃいけないのに……」
「リコは私のことは、なんでもお見通しなんだな……」
イウォールは小さく溜息をつきながら、眼鏡を上げ直す。
「大丈夫だ、リコ。私が、絶対に、守る」
莉子はこの言葉の奥の意味が知りたかったが、聞くには重い気がして、言葉にならない。
ただ、トゥーマもアキラも強い視線で、大丈夫と頷いてくる。
それが莉子には、もう予想がつかない、大きなことが始まっているように感じてしまう……
「なあ、リコ、夜の営業どうするよ?」
トゥーマの声に、莉子が動こうとするが、手が握られて動けない。
ついと見ると、
「リコの手は小さくて、少し冷たくて、本当に私好みだ」
どろどろに顔を緩めるイウォールを莉子は睨みつける。
だが、これすらもはぐらかされているようで、これ以上強く言い返せなかった。
……が、ご飯が食べられないので、結局、イウォールの顎に莉子の頭突きが入ることになる。
「イウォールさんのスープ、何入ってたんだろ……」
思わず呟いてしまうが、お祭りあとだからとヘルプに来てくれたアキラがその声を拾った。
「あのスープには、愛情がたくさん入ってますからね」
「それだけで? はい、ダウト!」
「ホントにそれだけですよ。……よし、テーブル片付け終わりました」
ランチタイムを終えた今、中休みを取ろうと、お店をクローズにしたところだ。
もうこのままクローズにしてもいいのではと、莉子の心は訴えてくる。
理由は、今朝の出来事だ。
「まさか、アイツ直々に来るなんてなぁ……」
グラスを拭きながら、トゥーマが眉間に皺を寄せている。美麗な顔が苦々しく歪んでいることから、よっぽどだ。
「私もそれは驚いたが、式典が近いのもある。国王が来る前に片付けたいのかもしれない」
イウォールは賄いの皿を厨房から運んできた。
今朝のスープはすでに鍋でテーブルに置いてある。
「イウォールさん、賄いありがとうございます。いい匂いがするー!」
莉子が顔を寄せると、イウォールは目を細め、トレイを傾けた。
「今日はオムライスですよ、莉子」
丸い皿には、薄い玉子で巻かれたご飯がある。ポテトサラダと、パセリが添えられ、彩りもいい。オムライスにかけられているのは、イウォール特製のトマトソースだ。玉ねぎや茸がたっぷり入ったトマトソースは、具材がゴロゴロしていて、ボリュームもある。
「な、イウォール、ライスは何味?」
ルンルンで聞いてくるトゥーマに、皿が差し出される。
「ちゃんとチキンライスだ」
「よっし!」
トゥーマは嬉しそうにスプーンを取り上げたが、その頭を小さく叩くのはアキラだ。
「嬉しいのわかるけど、ほら、スープとか配って」
莉子とイウォールも席に着いて、さっそくと食事の時間となる。
お昼が過ぎての賄いだが、今日も日差しが強い。
7月の後半に入り、夏の気配が強くなっている。
「トゥーマ、やっぱり、カラーのご飯は美味しいね」
「だよなー。色のない頃には戻れない。だからこそ、守んないと……」
「ありがとうございます、トゥーマさん、アキラさん。イウォールさんも」
莉子は小さく頭を下げるが、3人はいやいやと首を横に振る。
「はぁ……。明日の式典でここを空けるのは不安だな」
イウォールの声に、アキラも頷いている。
「確かにカーレンも来てくれますけどねぇ」
「オレ、抜けてここに来てもいいけど」
「ダメに決まってるだろ、トゥーマ」
イウォールが睨み調子に言うが、莉子はそれを聞きながら、口をへの字に曲げた。
「なんか物騒な雰囲気出さないでもらえます……?」
莉子がスープの具を口に運びながら言うが、3人は言葉に詰まっている。
それが余計にリアルで、莉子は少し喉が詰まる。
「リコ、明日はカーレンが来たら、絶対にドアは開けるなよ」
「トゥーマさん、真面目な顔で怖いこと言わないでくださいよ」
「いや、リコ、これは私も約束して欲しい。何をするか分からないのが、ラハだ」
イウォールの視線に、莉子は再び違和感を覚える。
だが、理由が分かった。
───緊張だ。
凛とした、糸を張ったような、強い気持ち。
薄氷のように、少しでも触れると割れそうなほどの、繊細な空気──
莉子は皿の脇に置かれたイウォールの手に、自身の手を重ねた。
「イウォールさん、いつも、ごめんなさい……。あたし、なんもできなくて……迷惑ばっかり……」
イウォールは莉子の手を素早く握り直した。
「リコ、謝らないで欲しい。これは私が勝手にやっている事だ」
「でも、そんなに気持ちを張り詰めて……あたしがもっとどうにか動かなきゃいけないのに……」
「リコは私のことは、なんでもお見通しなんだな……」
イウォールは小さく溜息をつきながら、眼鏡を上げ直す。
「大丈夫だ、リコ。私が、絶対に、守る」
莉子はこの言葉の奥の意味が知りたかったが、聞くには重い気がして、言葉にならない。
ただ、トゥーマもアキラも強い視線で、大丈夫と頷いてくる。
それが莉子には、もう予想がつかない、大きなことが始まっているように感じてしまう……
「なあ、リコ、夜の営業どうするよ?」
トゥーマの声に、莉子が動こうとするが、手が握られて動けない。
ついと見ると、
「リコの手は小さくて、少し冷たくて、本当に私好みだ」
どろどろに顔を緩めるイウォールを莉子は睨みつける。
だが、これすらもはぐらかされているようで、これ以上強く言い返せなかった。
……が、ご飯が食べられないので、結局、イウォールの顎に莉子の頭突きが入ることになる。
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