老舗カフェ「R」〜モノクロの料理が色づくまで〜

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第66話 カフェ始動!の、その前に……

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 莉子はひさしぶりの我が家であるカフェに、感動していた───

 3週間ぶりの店だが、建物の修繕も行われ、店内清掃・厨房清掃も完璧に行われ、見違えるように輝いていたからだ。

「カフェの中が清々しい! そして、いい匂いがします……」

 莉子の鼻がヒクヒクと動くが、イウォールが新しい設備の案内をしてくれる。

「足が痛んでいたテーブルと椅子の入れ替え、グラスや皿なども追加してある。空調設備も新しくなったから、暖冷房も問題ないだろう。あ、リコ、見せた設計通り、食洗機、フライヤーも入れ替えてある。見てみないか?」
「はい! いい匂いの正体も知りたいですっ」

 懐かしい厨房に入ると、そこも真新しい空気が漂っている。
 ステンレスが磨かれ、新品同様だし、換気扇の清掃も完璧だ。
 そして新しい洗浄機は大きめで使いやすそうなのはもちろん、ガス台には小ぶりの寸胴があるではないか!
 莉子はそっと近づき、鍋の蓋を持ち上げた。
 覗き込んだとき、莉子は小さく跳ねる。

「わー! ビーフシチューですね! イウォールさんの手作り?」
「ああ。私の得意料理もビーフシチューだ。退院祝いだ。明後日はみんなプレオープンという名の飲み会だろ? ゆっくりできる日が少ないからな」

 莉子は1人そわそわしながらイウォールを見る。

「ちょっと夜には早いですが……食べちゃいます? 飲んじゃいます??」

 病院暮らしの3週間、外泊をしたこともあったが、基本的には病院で暮らしていたのもあり、大好きなワインを控えていた。
 だから、今日というこの日を、待ちに待って、莉子は退院したのである!

「ワインもちゃんと用意してある。ここは私がやるから、莉子は店内で待っていてほしい」

 莉子はエリシャに用意してもらった空色のワンピース姿で待つ。
 銀髪になってから少し淡い色も似合うようになって、服を選ぶ幅が増えた。
 ちなみに、耳も少し尖り始めてる。
 理由はわからないが、魔力の関係だろう、ということでまとまった。

「ビーフシチューとパンになる。どうぞ」

 そこに並んででてきたのはワインだ。
 赤ワインをグラスに注ぎ終えると、イウォールが莉子の髪の毛を撫で、視線を合わせる。

「めしあがれ、リコ」

 莉子はさっそくとスプーンを差し込んだ。
 しっかり煮込まれた牛肉はとろっとろだ。莉子が作るビーフシチューとは使っている肉の部位が違うようで、それだけで食べるのが楽しみになる。
 しかしながらイウォールのビーフシチューは肉しか見えない。
 ゆっくりと莉子はスープを口に含む。

「……おお!」

 莉子が声をあげたのも無理はない。
 スープに野菜がしっかり溶け込んでいたからだ。
 人参、セロリはもちろん、ニンニクやショウガも入っている。トマトはトマトペーストを使っているようだ。味が濃い。
 だが、どれも旨味となってまとまり、素晴らしい一体感で口の中に広がっていく。
 そして、溶けかけた牛肉を頬張れば、一気に風味が爆発! ワインに合うスープになる。

 莉子は、舌に溶ける肉の脂を感じながら、つい、泣いていた。

「父さんと、同じ味だ……」

 ……これは奇跡的な偶然だった。
 莉子がどうしてもたどり着けなかった父の味。
 それをイウォールが再現していたのだ。

「まさか、お父様と同じ味とは……驚いたな」
「あたしではどうしてもできなかった味で……うれしいです、また食べれるなんて……!」

 泣きながら2杯目のビーフシチューを飲み干した莉子は、今度はパンを肴にワインを飲みだした。
 酒飲みは口に入るものがあれば、だいたいつまみになるのだ。

「今日はすごい幸せです! 嬉しいことって続いちゃうと、なんかもったいないですね」
「どうしてだ?」
「1日1個のほうが嬉しいが続いていいと思いません? あ! でも毎日だと気づかないかなぁ……それなら、いいのかな? ま、なにんせよ、今日はものすごく幸せですっ」

 莉子の嬉しそうな声を聞きながら、イウォールも隣に座り、グラスを傾けるが、イウォールは小さく姿勢を正した。

「リコ、また来週からカフェがオープンとなるが……本当に、私が店員でいいのか?」

 このカフェに、人員として配置されたのはイウォールだった。
 薬品調合の関係は、エリシャに任され、ここの公園の魔力管理と、カフェ運営に関して、イウォールが担当することになったのだ。これは莉子の要望でもある。

「またまたぁ。イウォールさん並みの定員さん、探す方が大変です。むしろ、イウォールさんが店長したほうがいいのかも……あたしは色々気が回りませんし……」
「やめてくれ、リコ。ここは君の店だ。君らしく運営してほしい」

 莉子はワインを一気にあおると、にっこり微笑んだ。

「また、よろしくお願いしますね!」

 イウォールはうなずきかえす。
 その笑顔が真面目で、視線が強い。
 決意にも見えたとき、イウォールが不意にひざまづいた。

「イウォールさん……?」
「……リコに、聞きたいことがあるんだ」

 莉子はイウォールに向かい合うように膝を回した。
 膝の上に乗せられた莉子の右手をイウォールが取ると、自身の額に莉子の手の甲をつける。

「……リコ、もしよかったら、なのだが……、あの日の答えが知りたい」
「答え……?」

 莉子の疑問符にイウォールは顔を赤らめながらも、あの日と同じ言葉を繰り返した。

「……私は、リコを愛している。……リコは、どう、だろうか……?」

 まっすぐに見つめるイウォールに、莉子ははにかんだ笑みを見せた。
 頬を爪でかきながら、莉子は悩み悩み口にする。

「……あの、あたしはその、愛してる、とかまだよくわからないんです……」

 その言葉に、少し残念そうな顔をするイウォールだが、莉子の頬を撫でる手は優しい。

「で、でも! イウォールさんとずっといっしょにいたいって気持ちは、誰よりもありますっ!」

 莉子がむっと顔を引き締めて言うと、イウォールは莉子の鼻を小さくつつき、

「……なら、君がそう思う限り、ずっと一緒にいることを、私は誓おう……」

 イウォールは、さらに身を寄せると、莉子の唇に自身の唇を重ねた。
 ゆっくりと触れた唇は、莉子の唇をついばんでいく。
 莉子は唇の熱に浮かされながら、その日の夜は更けていった───
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