図書室はアヤカシ討伐司令室! 〜黒鎌鼬の呪唄〜

yolu

文字の大きさ
57 / 61

第五十七話 土曜日 昼の刻・肆 〜術者と対決!

しおりを挟む
「あたし、あんたのことなんて、し、しらない!!」

 術者の顔はこちらにむいている。
 むいている、というのは、顔の場所に黒い穴が3つあるからだ。
 どうみても、体格は中学生ぐらい。
 3つ穴があるから、顔と思っているだけで、本当は違うのかもしれない。声を上げる口もなければ、穴が動くこともない。さらに原型がわからないほど禍々しいものが巻きついていて、術者の体の何倍もふくれている。

「やめろよぉ……わかってるんだろ? オレが誰かって……」

 橘はぼくの背のうしろに隠れた。
 ガタガタと顎が鳴る音がする。

「凌くん、アレ・・、なに? 人間なの……?」

 橘が否定したことで、術者は泣きながら叫びだした。

「オレがこんなにしてやったのに! なんで! なんで!! 全部橘ためだぞっ! 百合花を呪ったのもお前のためじゃん! ずっとしばられてたじゃん。百合花に!」
「なんのこと?」

 黒い人の指が土に食いこんだ。
 黒い穴は橘を見ている。
 震える橘の指がぼくの腕にくいこんでくる。

「自分がやりたいこともできないで………だからオレが自由にしてやるんだ!」

 その声に、橘はぼくの背中で首を横にふっている。

「……ちがうっ! ガマンなんてしてないっ!」

 耳をふさぎながらかがみこんだ橘に、黒い術者はむっくりと立ち上がる。

「オレは見たんだ。ピアノの発表会についてきたお前はピアノをひきたいって母親にいったけど、お前、なんていわれたっけ?」

「……やめて!」

「センスがないから、やらせない。っていわれてたじゃん」

「うるさい、うるさい、うるさい、うるさいっ!」

 ぼくと冴鬼は橘を守るように立ちふさがった。

「……オレもピアノの発表会にいてさ、橘をみたとき、天使がいるって思ったんだ。だからオレは橘の支えになりたくて、遠くから、ずっと見守って、支えることにしたんだ。こっちに転校してきたときは、すんげぇうれしかった。神様がいるんだって思った。だけどさ……」

 呪いの力が数倍にも増した気がする。
 胃がひっくり返りそうなほど、ひどい威圧感がある。

「だけどさ! あの、土方先輩が好きなんだって! オレ、聞いちゃったからさ! 呪っちゃうよねぇぇぇぇ!」

 憎しみが増した。
 怒りも、後悔も、マイナスの気持ちがすべて力になる。

「凌よ、このままだと完全な呪いになる」

 もう苦しさは消えたのか、それは悠々と歩きだした。
 真っ黒だ。影人間だ。

「なのに、次は土方、お前を選んだ……まさか弟にのりかえるなんて、とんだ尻軽だよっ!」
「……なにいって」
「お前、とぼけんなよ。火曜日、ここの前、2人で歩いてただろ!」


 ───あの日、会ったのは……


嶌田しまだくん……なの……?」

 黒い穴が三日月になる。
 笑ったんだ。
 そうだよ、と笑ったんだ。

 ぼくの息がつまる。
 ぼくらのことを知ってる人だとは思っていた。
 だけど、ぼくが 知ってる人・・・・・だとは思っていなかった───

 茫然と立ち尽くすぼくの背を、冴鬼がはたいた。

「見誤るな! くじけるな! 死ぬ気で生きろ! まだ、なにも終わってなどいないっ!」


 ───そうだ。
 まだ、兄は生きているし、ぼくだって生きてる。


「……冴鬼、終わりを始めよう」
「少しは肝が座ってきたな」

 まだ混乱している橘をはじに座らせた。
 その橘を隠すように、ぼくは立つ。
 その数歩先にいるのは、冴鬼だ。

「……嶌田とかいったか。少し、体が軽く熱くなってきただろ」
「ああ。なんか、すんげーぶっ壊したい気分!!」
「呪いになる気分はどうだ?」
「悪くないね」
「そう言ってもらえると、叩き斬る甲斐があるってものよ。……押して参る!」

 冴鬼が地面を踏みこんだ。
 飛び上がったんだ。
 もう、竹林の上に冴鬼の体がある。
 そこですかさず印を結んでいく。

りん!』

 嶌田の手から、黒い影が鞭のように大きくしなる。
 ぼくの体に当たる直前、冴鬼の刀が振り下ろされた。

「ほお。遅いな」

 それでも嶌田は怯むことはない。すぐに次の攻撃に入った。
 マシンガンのように無数に打ちつけてくるが、それを冴鬼はよけてかわし、さらに切り落としていく。

ぴょう!』

 嶌田の懐に冴鬼はもぐりこむ。
 だが、脇腹からのびたもう1本の腕が冴鬼をはじきだしてしまう。
 唱える直前、地面が揺れた。

 手だ。
 黒い手が、ぼくの足をつかんだ。
 ふりかえると、橘にも!
 ただ橘はお守りがある。
 かろうじて囚われていないけど、時間の問題だ。

 それでもぼくの印は崩さない。
 絶対に!

 思いっきり片足だけを振り上げられた。
 簡単にぼくの体は宙に浮く。
 首がもげそうだし、脇腹がひきつる。
 それでも、今ぼくができることを、しっかりするんだ!!


かい!』


 最後の印と同時に、影がぼくの体を自由にしてくれた。
 地面にどさりと落ちそうになった瞬間、受け止めてくれたのは着物姿の冴鬼だ。

「凌よ、よくやった。あとは見ておけ」

 もう一度突進していく冴鬼。
 やはり鬼化した冴鬼はちがう。
 動きもさることながら、刀から舞う炎が強い。
 斬りつけるたびに青い炎が散り、氷の破片がキラキラと光る。

「……凌、くん」

 ふいの声かけに、ぼくはかけよった。

「た、橘、だいじょうぶ……?」
「ごめんなさい……あたしのせいで……ごめんなさい……ごめんなさい……ごめ」

 謝る声を止めたのは、ぼくの平手だ。
 すっと見あげる橘に、ぼくは視線をあわせる。

「アヤカシ討伐隊は、運命共同体!……だろ?」

 橘の顔がくしゃりと歪む。

「……うんっ」

 だけど、返事はしっかりぼくの耳にとどく。
 土煙があがった。
 冴鬼だ。
 立ち膝をする冴鬼の姿を見て、すぐに理解する。


 劣勢だということに───


 たった数分の間に、もう嶌田といっていいのかわからない物体に成り果てていた。
 黒い球体に、赤い目が2つ浮かぶ。
 たくさんの黒い紐が冴鬼を翻弄し、捕え、投げ、撃ちつける。
 さすがの冴鬼でも俊敏に攻撃をくりかえしてくる相手では、さばききれない。

 投げられた反動でぼくらのもとに転がってきた冴鬼だが、息もあがり、傷もみえる。

「冴鬼!」
「凌、あやつはまずい。あれは厄介だ……間違いなく、無差別に人を殺すぞ……」
「え、でも……黄昏刻まで時間があるんじゃ」
「アレはもう一刻の猶予もない。あやつはただの人だ。憎しみ怒りを糧に、猫の魂を喰らい、人がただただ憎いだけの塊になっている」

 刀を構え、立ち向かう冴鬼は、ぼくにいった。


「──覚悟は、決まったか」


 大切なものを失くす覚悟だ。
 深呼吸する。

 ぼくは、決めたんだ。


 みんなの、ヒーローになるって───!


りん!』
ぴょう!』
かい!』


 2度目の印が結ばれた。
 体から精気がすいとられていくのがわかる。

 手首のお守りが熱い───

 目の前が、ちらちらと白く濁っていく………
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

「いっすん坊」てなんなんだ

こいちろう
児童書・童話
 ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。  自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・           

アリアさんの幽閉教室

柚月しずく
児童書・童話
この学校には、ある噂が広まっていた。 「黒い手紙が届いたら、それはアリアさんからの招待状」 招かれた人は、夜の学校に閉じ込められて「恐怖の時間」を過ごすことになる……と。 招待状を受け取った人は、アリアさんから絶対に逃れられないらしい。 『恋の以心伝心ゲーム』 私たちならこんなの楽勝! 夜の学校に閉じ込められた杏樹と星七くん。 アリアさんによって開催されたのは以心伝心ゲーム。 心が通じ合っていれば簡単なはずなのに、なぜかうまくいかなくて……?? 『呪いの人形』 この人形、何度捨てても戻ってくる 体調が悪くなった陽菜は、原因が突然現れた人形のせいではないかと疑いはじめる。 人形の存在が恐ろしくなって捨てることにするが、ソレはまた家に現れた。 陽菜にずっと付き纏う理由とは――。 『恐怖の鬼ごっこ』 アリアさんに招待されたのは、美亜、梨々花、優斗。小さい頃から一緒にいる幼馴染の3人。 突如アリアさんに捕まってはいけない鬼ごっこがはじまるが、美亜が置いて行かれてしまう。 仲良し3人組の幼馴染に一体何があったのか。生き残るのは一体誰――? 『招かれざる人』 新聞部の七緒は、アリアさんの記事を書こうと自ら夜の学校に忍び込む。 アリアさんが見つからず意気消沈する中、代わりに現れたのは同じ新聞部の萌香だった。 強がっていたが、夜の学校に一人でいるのが怖かった七緒はホッと安心する。 しかしそこで待ち受けていたのは、予想しない出来事だった――。 ゾクッと怖くて、ハラハラドキドキ。 最後には、ゾッとするどんでん返しがあなたを待っている。

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました

藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。 相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。 さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!? 「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」 星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。 「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」 「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」 ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や 帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……? 「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」 「お前のこと、誰にも渡したくない」 クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。

運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)

たったひとつの願いごと

りおん雑貨店
絵本
銀河のはてで、世界を見守っている少年がおりました。 その少年が幸せにならないと、世界は冬のままでした。 少年たちのことが大好きないきものたちの、たったひとつの願いごと。 それは…

処理中です...