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第1章 入門編
異界の門
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ー2012.03.23ー
そんな日常極まりない春休みを過ごしていたが、その日は少し違った。
龍治の家は道場も兼ねているからなのか、数年たった今でも入ったことのない部屋がいくつかある。親父は散歩に、母は買い物に行っている隙を見計らってそのうちの一つ───龍治の部屋に、その日始めて入った。
入ってみると中は思いの外狭く、あまり使われてないのか自分が歩くだけで舞い上がった埃が鼻をくすぐった。家具も少ない。小さな棚には本がいくつかあったが、どんな本かは見なかった。ただの古臭そうな本なんかに興味を引かれなかったという事もあるが、それよりも目を引く物があったからだ。
───それは、飾られた一本の刀だった。
この小さな空間の中でそこだけ空気が歪んでいるかのような重厚な雰囲気、この部屋に存在する眼球がすべてそちらに回るような異彩を一本の刀が放っている。あまりにも自然に手がその刀を取る。自分がいつ、刀に手が届く距離まで歩いたのかも分からない、本当に吸い込まれたかのような感覚だった。
手にのしかかる得物の重さ。持つ手が傾くたびに鈍くきらめく鞘の漆黒、その黒に同調するよう持ち手にのみ紫の糸が巻かれていた。親指で少しだけ鍔を押し上げる。鞘とは比較にならないほど不気味な光を跳ね返す銀閃の輝き、それこそが真剣であることの確たる証明に思えた。何となく使い込まれているのは分かるが、親父が刀を持っているところを俺は一度も見たことがなかった。これは一体どういう刀なんだろうか?
そんなこんな考えていると、
『ただいまー』
と、透き通った声が耳に入った。
「ッッ!!??」
買い物に言っていた母が帰ってきたのだと焦りに焦った俺はとっさに押入の中に飛び込んだ。なぜここまで焦ったかというと、母は帰ってくるといつも最初にこの部屋に入ることと、俺がここに入るのをかたくなに禁止していることの二つの理由があるからだ。ドアに手をかけた時の、世良さんのあのおどろおどろしい笑顔は今も忘れてなどいない。
迅速かつ音を立てない様に襖を閉ざす。案の定、母は程なくして部屋に入ってきた。
が、ここで俺は気づいた。
───俺の手が刀をしっかりと握り締めていることに。
「あら、刀はどこかしら?」
その一言と共に足音が止まる。俺の頬に冷や汗が流れたのがわかった。これはまずいと思ったが、世良さんは「若い頃が懐かしくて持って行ったのかしら?」と言いながら静かに部屋を出ていった。
「フゥ…………」
と、思わずため息がこぼれた。そして体の力が一斉に抜けたせいもあり、俺は押入の奥の方の壁に寄りかか
る事は出来なかった。なぜなら、
水の中に落ちるように、背中が押入の壁に沈み込んだからである。
「うおッ!!??」
腕が反射的に伸び、すぐ横の壁をつかもうとする。
スカッ
「 」
すり抜けた。
頭が何一つ理解できぬまま、体は落ちまいと掴むところを探して足掻く。
右。左。上。
縦横無尽に掴みどころを求めて振り回し、そのことごとくが空振りに終わる。
「うわあああああああ!!!」と叫び声を出す瞬間もなく、俺は押入の奥に落ちた。
中は、何かが波打っているような感じはあるものの、パニックに陥った頭では何も分からなかった。
『自分がものすごい速さで流されている』ということを除いては。
「??!?! !? ?!?」
訳も分からぬまま、体感的にはウォータースライダー位の速さでどんどん流されていく。
少し落ち着きを取り戻した頃、流されていく先に白い光が見えた。「あそこが終着点か?」など考えている間も光の方へウォータースライダー並の速さのままで近づいていく。
「………え?ちょ、このまま突っ込むの?ヤバいってちょっと待……ッ!!」
俺は、勢いそのままに光の中に突っ込み、
ドゴォッ!
何かに頭からぶつかって、意識が途切れた。
~~~~~~~~~~~~~~~
ー2012.03.23ー
ある日、私はおやつに使う野草を取りに大樹の近くにきていました。
何とも、この大樹の近くには大樹の力を取り込んだ立派な野草が生えるそうです。周りを探してみると、噂通りの野草がたくさん生えていました。
ここで、ふと大樹を見てみます。大樹には人一人入れるくらいの小さな石の鳥居みたいなものがめり込んでいますが、成長の過程で一体化してしまったのでしょう。この石門は通称『異界の門』と呼ばれていて、「この門をくぐったら異世界に行ける」なんて逸話があるそうです。実際は大樹が邪魔で門をくぐることは出来ません。誰がつくった伝説でしょうね?
そんなことを考えていると、
「こんにちは、お嬢さん?」
と、私を呼ぶ声が。
振り返ると、そこには知らないおじさんがニッコリした笑顔で立っていました。
(これって、もしかしなくても不審者ですか!?これは、私はどうすれば………)
ギュルギュルギュル!!と私の頭はとるべき行動を導くためにフル回転します! その結論として、
「あの、どちら様ですか?」
お名前を尋ねてみることにしました。
───もう内心泣きそうです。
一方。
「君のお父さんに言われて迎えに来たんだ。さぁ、行こう!」
と男の人が近づいてきます。
私はこの一言で不審者だと確信しました。なぜなら、
お父さんは今この町にいないからです。
いや、もしかしたらこの世界にさえも………。
「………来ないで下さい」
「………もしかして、バレちゃったかな?」
そう言った不審者の顔が卑しさを帯びたものへと変わります。
そして、
「だったら………力ずくしかないよねェ!」
一気に走ってきて私を捕まえようとします!?
私は逃げようとしましたが、大樹のすぐ側のところで
「キャッ!?」
足を絡ませて転んでしまいます。
気が付くと男の手がすぐ目の前に!
(もう、ダメ………!?)
と、ギュッと目をつむり、身体を縮こませた途端、
ドゴォッ!
と何かがぶつかって転がっていく音が聞こえました。私を掴むはずの手もありません。
恐る恐る目を開けると、10mほど先に二人の男がピクリともせず倒れています。一人は先ほどの不審者、もう一人は見知らぬ人です。年は私と同じくらいでなぜか手には黒い刀を持っています。
「私を……助けてくれたのでしょうか?」
近づいてみると、二人とも気絶しているようです。
不審者ではない(?) 方に声をかけても返事がないので、助けを呼びに行くことにしました。
ふわ、と。
埃っぽい風が私の頬を撫でました。反射的に風上───不審者ではない(?) 方が飛んできたと思われる方向を見てみます。
「…………?」
しかし、そこには石門の付いた大きな樹が、何も無かったかのようにただ静かに立っているだけです。
すぐに踵を返し、家にいると思われる叔父様の元へと走りました。
そんな日常極まりない春休みを過ごしていたが、その日は少し違った。
龍治の家は道場も兼ねているからなのか、数年たった今でも入ったことのない部屋がいくつかある。親父は散歩に、母は買い物に行っている隙を見計らってそのうちの一つ───龍治の部屋に、その日始めて入った。
入ってみると中は思いの外狭く、あまり使われてないのか自分が歩くだけで舞い上がった埃が鼻をくすぐった。家具も少ない。小さな棚には本がいくつかあったが、どんな本かは見なかった。ただの古臭そうな本なんかに興味を引かれなかったという事もあるが、それよりも目を引く物があったからだ。
───それは、飾られた一本の刀だった。
この小さな空間の中でそこだけ空気が歪んでいるかのような重厚な雰囲気、この部屋に存在する眼球がすべてそちらに回るような異彩を一本の刀が放っている。あまりにも自然に手がその刀を取る。自分がいつ、刀に手が届く距離まで歩いたのかも分からない、本当に吸い込まれたかのような感覚だった。
手にのしかかる得物の重さ。持つ手が傾くたびに鈍くきらめく鞘の漆黒、その黒に同調するよう持ち手にのみ紫の糸が巻かれていた。親指で少しだけ鍔を押し上げる。鞘とは比較にならないほど不気味な光を跳ね返す銀閃の輝き、それこそが真剣であることの確たる証明に思えた。何となく使い込まれているのは分かるが、親父が刀を持っているところを俺は一度も見たことがなかった。これは一体どういう刀なんだろうか?
そんなこんな考えていると、
『ただいまー』
と、透き通った声が耳に入った。
「ッッ!!??」
買い物に言っていた母が帰ってきたのだと焦りに焦った俺はとっさに押入の中に飛び込んだ。なぜここまで焦ったかというと、母は帰ってくるといつも最初にこの部屋に入ることと、俺がここに入るのをかたくなに禁止していることの二つの理由があるからだ。ドアに手をかけた時の、世良さんのあのおどろおどろしい笑顔は今も忘れてなどいない。
迅速かつ音を立てない様に襖を閉ざす。案の定、母は程なくして部屋に入ってきた。
が、ここで俺は気づいた。
───俺の手が刀をしっかりと握り締めていることに。
「あら、刀はどこかしら?」
その一言と共に足音が止まる。俺の頬に冷や汗が流れたのがわかった。これはまずいと思ったが、世良さんは「若い頃が懐かしくて持って行ったのかしら?」と言いながら静かに部屋を出ていった。
「フゥ…………」
と、思わずため息がこぼれた。そして体の力が一斉に抜けたせいもあり、俺は押入の奥の方の壁に寄りかか
る事は出来なかった。なぜなら、
水の中に落ちるように、背中が押入の壁に沈み込んだからである。
「うおッ!!??」
腕が反射的に伸び、すぐ横の壁をつかもうとする。
スカッ
「 」
すり抜けた。
頭が何一つ理解できぬまま、体は落ちまいと掴むところを探して足掻く。
右。左。上。
縦横無尽に掴みどころを求めて振り回し、そのことごとくが空振りに終わる。
「うわあああああああ!!!」と叫び声を出す瞬間もなく、俺は押入の奥に落ちた。
中は、何かが波打っているような感じはあるものの、パニックに陥った頭では何も分からなかった。
『自分がものすごい速さで流されている』ということを除いては。
「??!?! !? ?!?」
訳も分からぬまま、体感的にはウォータースライダー位の速さでどんどん流されていく。
少し落ち着きを取り戻した頃、流されていく先に白い光が見えた。「あそこが終着点か?」など考えている間も光の方へウォータースライダー並の速さのままで近づいていく。
「………え?ちょ、このまま突っ込むの?ヤバいってちょっと待……ッ!!」
俺は、勢いそのままに光の中に突っ込み、
ドゴォッ!
何かに頭からぶつかって、意識が途切れた。
~~~~~~~~~~~~~~~
ー2012.03.23ー
ある日、私はおやつに使う野草を取りに大樹の近くにきていました。
何とも、この大樹の近くには大樹の力を取り込んだ立派な野草が生えるそうです。周りを探してみると、噂通りの野草がたくさん生えていました。
ここで、ふと大樹を見てみます。大樹には人一人入れるくらいの小さな石の鳥居みたいなものがめり込んでいますが、成長の過程で一体化してしまったのでしょう。この石門は通称『異界の門』と呼ばれていて、「この門をくぐったら異世界に行ける」なんて逸話があるそうです。実際は大樹が邪魔で門をくぐることは出来ません。誰がつくった伝説でしょうね?
そんなことを考えていると、
「こんにちは、お嬢さん?」
と、私を呼ぶ声が。
振り返ると、そこには知らないおじさんがニッコリした笑顔で立っていました。
(これって、もしかしなくても不審者ですか!?これは、私はどうすれば………)
ギュルギュルギュル!!と私の頭はとるべき行動を導くためにフル回転します! その結論として、
「あの、どちら様ですか?」
お名前を尋ねてみることにしました。
───もう内心泣きそうです。
一方。
「君のお父さんに言われて迎えに来たんだ。さぁ、行こう!」
と男の人が近づいてきます。
私はこの一言で不審者だと確信しました。なぜなら、
お父さんは今この町にいないからです。
いや、もしかしたらこの世界にさえも………。
「………来ないで下さい」
「………もしかして、バレちゃったかな?」
そう言った不審者の顔が卑しさを帯びたものへと変わります。
そして、
「だったら………力ずくしかないよねェ!」
一気に走ってきて私を捕まえようとします!?
私は逃げようとしましたが、大樹のすぐ側のところで
「キャッ!?」
足を絡ませて転んでしまいます。
気が付くと男の手がすぐ目の前に!
(もう、ダメ………!?)
と、ギュッと目をつむり、身体を縮こませた途端、
ドゴォッ!
と何かがぶつかって転がっていく音が聞こえました。私を掴むはずの手もありません。
恐る恐る目を開けると、10mほど先に二人の男がピクリともせず倒れています。一人は先ほどの不審者、もう一人は見知らぬ人です。年は私と同じくらいでなぜか手には黒い刀を持っています。
「私を……助けてくれたのでしょうか?」
近づいてみると、二人とも気絶しているようです。
不審者ではない(?) 方に声をかけても返事がないので、助けを呼びに行くことにしました。
ふわ、と。
埃っぽい風が私の頬を撫でました。反射的に風上───不審者ではない(?) 方が飛んできたと思われる方向を見てみます。
「…………?」
しかし、そこには石門の付いた大きな樹が、何も無かったかのようにただ静かに立っているだけです。
すぐに踵を返し、家にいると思われる叔父様の元へと走りました。
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