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第2章 饗宴編
エンカウントⅢ
しおりを挟むー鈴麗ー
「…………………………………………」
鈴麗は今、完全なる無表情でメリーゴーラウンドの馬のひとつに跨って揺られている。
(……………………………………………………え、何このシュールな感じ?なんで私、誰も客がいない中で一人メリーゴーラウンドに乗ってぐるぐる回ってるの?)
表情を一切の無表情で固めたまま頭の中で、それこそメリーゴーラウンドのように疑問符がぐるぐる回る。
(と、とりあえず整理しましょう。まず、あのカプセルに入ったでしょ?そして気がついたら馬の上に………って何の解決にもなってないじゃない!)
あああああ!!!、と馬にまたがったまま頭を抱える鈴麗。あまりに混乱しすぎて丁度馬の上に配置されたという単純な回答に至ることができない。
───その時
ドゴォン!!という強烈な爆発音と共に目線の先で爆発が起こった。
「うわ、もう戦い始まってる………って!ちょ、回んないで!死角に入………あ、降りればいいか」
やっと気づいて馬から飛び降りた鈴麗は改めて爆発のあった方を見つめる。
建物の陰になって爆発源は見えないものの、さっきの感じからしてさほど遠くはない。
(………あれ?静かになったわね。決着着いたのかしら?)
鈴麗は訝しく思いながらも念のために武器である槍を髪留めから『具現』させる。
じっと意識を集中していると、建物の陰から人影が現れた。
「あら?」
どうやら相手側も鈴麗の存在に気づいたようだ。明るみに歩いてくるにつれて相手の姿が見えるようになる。
まず目に付くのは髪型、耳のあたりからぶら下がっている見事な金髪縦ロール。そして、整った顔立ち、女性らしいはっきりしたプロポーションの体系。
第一印象としては『中世の貴婦人』という感じの体裁だった。コルセット付きのドレスなんかを着ていても違和感がないだろう。
「先程邪魔なムシをはらったばかりですのに、どうやらこのあたりはムシが集っているようですわねぇ」
おまけに口調までお嬢様ときたもんだ。こういうタイプとはあまり反りが合った試しがない鈴麗だったが、火種のように燻る苛立ちを呑み込んで平静を装う。
「あら、そちらこそ来る場所を間違えたんじゃないの?いや、間違えたのは時代?まあいいや。大体あんた何者なの?名前くらい言ってくれない?」
「あらあら、貴方みたいな野蛮な方に『マリアナ・ルベール』の名を語る道理などありませんわ」
「普通に名乗ってるじゃない?それに、今時縦ロールってアニメでも珍しいわよ、そんな『場違いな髪型』で恥ずかしくないわけ?」
「な………!?ふ、フン!貴方にはこの髪型の美しさが分からないようですわね。もっとも、貴方みたいな『類人猿』には到底理解できないでしょうけど」
「ぬ………!?ソ、そんなものを理解できるほど、私は『時代遅れ』じゃないのでね!」
「なな………!!?な、何ですって!?貴方なんて、『ゴリラ女』で十分ですわ!!」
「ぬぐ………!!?う、うっさいわよ!!大体!さっきからすわすわしつこいのよ!あんたの名前なんか………す、『スワベ』で十分よ!」
「ななななな………何だか良く分かりませんが、何となく馬鹿にされているのだけは分かりますわね………」
その後も売り言葉に買い言葉の応酬が続き、その度に双方の青筋が増えていく。無論この小学生並みに低レベルな口喧嘩はカメラを介して校内で放送されているのだが、そんなことに逐一配慮している余裕が今の二人に有るはずもない。
───結局。
「「あァーーーもうッ!!!」」
双方の怒りが同時に我慢の限界を突破した末に出した結論は───。
「「あんた(貴方)だけは私がぶっ殺すッッ!!!」」
そう言って武器を構えて突っ込んでいくという、これまた小学生並みの単純なものだった。
鈴麗は槍を、マリアナは細剣を構えて、能力をまとわせながら向かっていく。槍が赤い炎に、細剣が青い炎に包まれる。
お互いに怒り心頭なだけに『様子見』という言葉は思考の中から吹っ飛んでしまっている。
───そのため、どちらも出しうる全力をもって渾身の一撃を放つ。
二つの爆発が容赦なく衝撃波をまき散らし、周囲の建物をなぎはらう。高熱を帯びた爆風や火炎はカメラ一台と周辺の土地を灰燼にした。
そして二つの能力がぶつかったことで、お互いの実力が割れる事となった。
鈴麗とマリアナは、どちらも身体に秘める生命力が一般の人より高い。そのため持ち前の生命力量にものをいわせる『一撃必殺のパワータイプ』なのだ。そのことをある程度把握した上で、一度距離をとった二人は思う。
(これは………小手先の技は無意味ですわね)
(ちまちま戦ってたら圧されてしまう)
(それなら)
(やることはただ一つ)
((力押しで押し切って、あいつをブッ飛ばすしかない!))
至ってシンプルな勝利条件。
シンプルである故に攻略法も単純。
小業なんて邪魔なだけの簡潔なルールによる支配。
そんな世界に、今の二人は立った。
それを黄 鈴麗とマリアナ・ルベールは、一発交わしただけで無意識で理解し、純粋にそれを笑った。
「…………やるじゃん」
「…………貴方こそ」
相手に対して、心からの本音をこぼす。だが互いを全うな『ライバル』と認めたところでやることは変わらない。
二人は静かに武器を構え直し、再び生命力をつぎ込んでいく。わずかな妥協が、押し切られることによる敗北に直結する。全力でぶつかり続けるしかない。
───これはどちらかが力尽きるまでぶつかり合う消耗戦だ。
「二発目…………」
「行きますわよ…………」
二人が同時に地面を蹴る音が、第2ラウンドの開始の合図となった。
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