Brand New WorldS ~二つの世界を繋いだ男~

ふろすと

文字の大きさ
26 / 90
第2章 饗宴編

エンカウントⅡ

しおりを挟む

 ~芦屋~

 開始の合図のアナウンスを皮切りに、静かに構える。目の前には一人の坊主頭、どうみてもDクラスの一員ではない。丁度相手の前にとばされたみたいだ。

「えっと、Dクラスの芦屋 道行です」
「私は、Bクラスの三川 蒼だ!よろしく!早速正々堂々闘おうじゃないか!いくぞ!」

 そういって蒼は手から水弾をとばしてくる。それを地面からせり立たせた柱で防ぎながら、芦屋は考える。

 (相手は水の能力か。となると接近戦は攻撃のバリエーションが多い相手の方が有利になるな。それに僕としても戦闘スタイル的に近接は避けたいな。ここは遠距離から……………!)

 芦屋は手を地面に当て、周囲の地面を操作して戦うスタイルだ。なので、相手が目の前にいるととても戦いづらい。
 地面に手をおき、地面から細い石柱を何本か出して相手に突っ込ませるようにのばす。蒼は石柱を全て氷の壁で受け止める。だが、その氷に少しずつ小さなひびが広がっていく。

 (よし!このまま押し切っ───

 その時。
 火球が数発とんできた。

 芦屋はとっさの判断で後ろに転がる。火球は右から左へとんでいき、建物にぶつかって爆発した。

「…………な、何だ今の…………!」
「ほお、これをかわしたか」

 手が地面から放れたことで石柱が砕けて崩れ去る。その先には小さく笑う蒼の姿があった。

 (………どういう事?明らかに別の方向から別の能力がとんできた。一体…………)

「ずいぶんと驚いているようだな!仕方ない。折角だから教えてやろう!」

 蒼は、今度はフンとふんぞり返って大きく叫ぶ。


「私は、3のだ!」


「………………え」

 有り得ない───芦屋は真っ先にそう思った。
 人間の持つ能力は原則1種類と教科書にも載っている。極稀に2種類の能力を持つレアな人間がいるようだと聞いたことはあるが、3種類なんて人は聞いたことがない。もしそれが事実なら、それをマスコミが黙っておらず、瞬く間に国際的なニュースとなって世界中を震撼させているだろう。
 そんな驚愕の事実を突き付けられて当惑している芦屋をよそに、三川蒼は語り続ける。

「先程の攻撃も氷の壁の横から火球を回り込ませてもらった!ふふふ、次はどう出るかな?」

 芦屋はこの言葉を皮切りに、思考を切り替える。

 (とりあえず、相手が能力を三つ使えるとしよう。だとすると、相手は水、火とあと一つ使えるはず。一撃目で、相手に雷があったなら氷を撃ち出すより雷撃を放った方が明らかに速い。だから雷は無し。あとは……………どうしよう、土と風の2択から絞れない!)
「どうした?来ないのなら…………」
「!?」

 思考の渦の中にいた芦屋を、蒼の声が引っぱり出す。

「こちらから行くぞ!」

 蒼は氷を撃ち出す。芦屋は、火球に回り込まれる危険を考えて土壁を作らずに横に走ってかわす。

「チッ!ならこれならどうだ!」

 蒼は放射状に大きく広がった大きな氷塊をとばしてくる。

「くっ…………!」

 さすがにこれはよけきれないと判断した芦屋は、地面に手を当てて壁を作る。氷塊は壁に衝突して動きを止めた。だが───

「まだまだだ!」

 右側から先程の火球とは違い、火炎放射のような形で炎が飛んできた。

 (…………………?)

 芦屋は僅かな違和感を覚えたが、そんなことにかまっている場合ではない。芦屋はもう片方の手を地面に当て、右側にも土壁を作る。土壁は火炎を受けて熱を帯び始める。芦屋は何とか二手からの攻撃に耐える、だが

「まだだぞ!」

 今度はとんできた。芦屋がすでに手一杯であったことと速度が全能力最速である雷であったことから、反応が追いつかなかった。

「な……………!?」

 雷撃はそのまま芦屋に直撃し、芦屋は自分が右側に作った土壁にぶつかる。

「がァ…………………っ!?」

 (どうなってるんだ?あんな高威力の能力を同時に3種類、しかも3方向から放ってくるなんて!あれじゃすぐに生命力がなくなるはず…………!)

「ハッハッハー!どうだ!このまま押し切ってやる!」
 (………まずい。このままじゃ…………)

 動揺する芦屋に向け、一直線に雷撃がとんでくる。


 ───そう、である。


 (……………!?まさか、そんな………)
 もうだめだ。そう思って目を瞑ってしまう。
 ───だが
 何かにぶつかる音はしたものの、芦屋に当たった衝撃はない。それどころか、右側の土壁にあった火炎による熱が無くなっている。


「誠に申し訳ない。僭越ながら助太刀させてもらった」
「こちらからも詫びさせてもらおう。これも私の仁義を通すためだ」


 固く瞑った目をそろっと開けると、目の前にポニーテールの女の子とがたいの良い男がいて、二人で丁度、土壁ごと氷を粉砕したところだった。

「…………あ、あなた達は確か…………」
「Cクラスの松原 楓と申す」
「リチャード・ケリー、Aクラスだ」
「申し訳ないと思いながらも、汝等の戦いは拝見させてもらった。汝とはよい勝負が出来そうだが、それよりもやるべき事が出来たのでな」
「…………松原 楓と言ったか、お主ともなかなか気が合いそうだな。それにしても許せん…………」

 楓は左に、ケリーは右に向かって───。


「「13」」


 楓は風の刃を、ケリーは雷撃を放った。
 左右共に何かに当たり土煙が舞う。そしてそれぞれの中から1人ずつ飛び出して蒼の両側に着地した。

「ふふふ、気づかれてしまっては仕方ない!教えてやろう!」

 3人が揃って立ち上がる。
 みんなそろって同じ顔、同じ体格、そして同じ坊主頭だった。

「長男、水の三川 蒼!」
「次男、火の三川 紅!」
「三男、雷の三川 黄!」


「「「三人揃って、三川3兄弟だ!」」」


「「………………………」」
「「「ふふふ……………驚きのあまり声も出ないか。無理もない!」」」

 (兄弟というより………………複製?そんなことはいいや)

 芦屋はいろいろ言っている3兄弟を無視してじっくりとこれまでの戦況を振り返る。今思い返せば違和感のある点はいくつかあった。まず『三川蒼が氷の能力を出すところしか見ていないこと』、それと『炎が必ず右側からしか飛んで来なかったとこ』だ。三川蒼が氷の能力を放出しているところは直に見ているが、自分作った壁や大きな氷に遮られて、三川蒼自身が炎の能力を放出するところを見ていない。さらに、炎は常に右側から飛んできていた。先ほどの違和感はこれらから来ていたもので、最後の雷が建物の陰から一直線に飛んできたことで、その違和感は確信となった。しかし、三人が協力していたのはさすがの芦屋も予想外だった。
 こんなことを考えている間にも会話は続いている。楓とケリーは相手を無視できない性分だったのか、一通り御託を聞き入れた上で応える。

「そんなこと、私の仁義には全く関係ない」
「その通りだ。これからやることは一切変わらん」


「「貴様等のその腐った性根を、この手で叩き直してやる!!」」
「……………………えーと」


 思わぬ仲間が出来てしまったものの、場の流れにあっさり取り残されてしまった芦屋であったが、ここに序盤で最大の激戦区が出来上がった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

【村スキル】で始まる異世界ファンタジー 目指せスローライフ!

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前は村田 歩(ムラタアユム) 目を覚ますとそこは石畳の町だった 異世界の中世ヨーロッパの街並み 僕はすぐにステータスを確認できるか声を上げた 案の定この世界はステータスのある世界 村スキルというもの以外は平凡なステータス 終わったと思ったら村スキルがスタートする

無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~

甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって? そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

処理中です...