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第2章 饗宴編
エンカウントⅠ
しおりを挟む~洋斗~
目を開けると、目の前に大きなジェットコースターが走っていた。
「………なんだここ?」
『おっと俺としたことが言い忘れてたぜ。まず、代表者はステージ内にランダムで転送されること、それと今回のステージが『遊園地』だって事だ!アイム総理ー!ハーブアナイスバァトォル!レディ………
スターーート!』
(………あぁ、今始まったのか)
開始の合図をうけ、とりあえず周囲を見回す。掲示板のようにマップが立ててあったので見てみると、目の前のジェットコースターの他に遠くにはメリーゴーラウンド、大きな観覧車もあるらしい。元の世界の遊園地と大した違いはないようだ。
「さて、どうしたものか」
周りをみた限りだと相手は見当たらない。相手を探しに行くのも手段だが、クラス総出で待ち伏せされていたら一巻の終わりだし、何より相手のフィールドで戦うことだけは避けたい。
「とりあえず誰か来るか待ってよう」
洋斗はそばにあったベンチに静かに腰掛ける。
───それから10分ほど座っていると、向かいの建物の陰から一人歩いてきた。
「ったく、心なしか強そうなやつと会っちまったぜ」
そいつはそう言いながら左手でガシガシと頭をかきむしっている。特に調査などは行っていないため、目の前にいるそいつが何者なのかはわからない。
やるしかないんだろうな………と、こちらも内心ぐったりしながらも両手を膝に置いてすっと立ち上がる。そして、まるで戦う意志を示すように雷を体にまとわせる。
洋斗は『能力を放出して戦う』という基本的なスタイルではなく、『能力を身体能力のアシストとして使う』という、元々持つ身体能力を基盤としたスタイルを選んでいる。能力にこういう使い方もあるという事は、以前に男達が学校に突入してきた時の一戦で分かっていた。
体全体が鈍く青白い光を発し、両手足が帯電して時折、バチ、バチ………と小さく音を立てる。
「なんだよ、やる気満々かよ。しょうがねー、さっさと終わらせるか」
相手の左右から土壁がせり上がり、表面の凹凸が大きくなっていく。そして、
「さっさとくたばっちまえ」
土壁の凹凸が弾丸となって乱射された。
視界が濁るほどの弾幕が高速で迫ってくる。
「……………………」
それに対して洋斗は、膝を曲げて静かに前傾体勢をとった後、
───既に
相手の目の前で拳を握っていた。
「は?」
あまりの速さに、目がついて行かなかった。
元々の運動神経に加えて能力による肉体強化が付与されたことによって、爆発的な運動能力を手に入れる。ただ、並の人がやったところであまりの速さに目が、あまりの負担に体がついていけないので、これは並外れた体力を持つ洋斗だからこそなせる技でもあるのだ。
相手は自身の左右に壁を作り、その壁から弾丸を乱射しているが砲身である二つの壁の間には隙間があるため、一点の敵をねらう以上相手の前には弾幕が存在しない空間が生まれる。洋斗はその空間に全速力で突っ込んだのだ。
「───悪いな」
「ッッッ!?」
相手は何か対策を講じようとしているのかもしれないが、もう遅い。
洋斗は拳をそのまま相手の顔面にぶつけて思いっきり振り抜いた。
相手は10m以上吹っ飛んで建物を突き破っていった。あれでまだ生きてるのか?とも思うものの、所詮は架空の出来事なので気にする必要もない。ここで起こったことで禍根を残さない、という慣習なのも橘先生から聞いている。
「………ふぅ」
久しぶりに全力で人を殴り飛ばした桐崎洋斗は、心なしか達成感と清々しさにあふれた表情。
最後に全力で人を殴ったのは親父にハードなつっこみを入れたときだったか………
ノイズのように消えていく相手の傍ら、そんなことを考えていた。
~ユリア~
私は今、観覧車の前にいます。私はこの銃を手に入れるためにも、この対抗戦で勝ち星をあげないといけないのですが、勝機が全く見えません。
(未だに練習が不十分な私が勝てるような相手なんて………)
そう考えながらゆっくり回る観覧車にふと目をやると───。
「…………………………zzz」
観覧車の個室のひとつの中で、一人の女の子が寝ていました。
「ふぇ!?」
はい、目を疑いました。二度見しましたとも。
女の子が寝ている個室がゆっくりと下りてきます。
(ど、どうしましょう。もしかしてこれってすごくチャンスなのでは!?………よし!)
私は個室が一番下に降りてきたところでガチャッとドアを開けて中に入ります。
「んゅぅ………」
………ですが女の子は未だにぐっすりです。起きる気配が全くありません。
よし、今しかない!!───と勢いよく銃口を向けたところで、ふと脳内に天使の声が響きます。
(あれ?もしこれで私が勝利したとして、これってすごく卑怯じゃないでしょうか?いくら勝つためといっても、熟睡中の女の子を銃で撃つなんてやってはいけないことなのでは………?)
と思っていると、今度はこれまた脳内の悪魔が囁いてきます。
(い、いやいや!いくら寝ているといっても相手は相手です!この一勝がもしかしたらDクラスの勝利の、そして私のためにもなる、はず!)
(いや、でもさすがに寝首を掻くようなことは………)
(いや!それでも………)
………………………………。
……………………。
……………。
───ユリアは優しい。
途轍もなく、虫すら慈悲で見逃すほどの優しさを持っている。
それ故にゆっくりと、かつ確実に思考の渦にはまっていく。観覧車の中で。ぐっすり眠っている女の子(Bクラスの寿 海衣だとわかるのは対抗戦が終わってから)のすぐ横で。
こうしてユリアの長い、果てしなく永い『葛藤』という名の戦いが始まった。
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