35 / 90
第2章 饗宴編
闘争のスリル
しおりを挟む能力を二つ持っている。
そこで笑うあいつはそう言った。
冗談を疑う。だが、三川三兄弟と会敵した芦屋の場合と違って、実際に自分の目で見てしまっているため認めざるを得ない。
使える能力が多いと言うことは単純に手数が多いということだ。しかも、能力ごとの相性の関係でとるべき対応策が全く異なる。なのでその都度の判断で対応策を変えなければならない。
───要するに。
「…………………めんどくさ」
「聞こえてんぞゴルァ!」
「うおッ!?」
言葉のストレスを受けて気のままに氷弾を乱射してきたので、横に飛んで回避する洋斗。
観客からみると心無しかコミカルに見えるのは、たぶん気のせいだ。
「いきなり攻撃して…………くんなっ!」
横に逃げながら、拳ほどの瓦礫を菱野に向かって蹴り飛ばす。
「アブねッ!!」
菱野が飛んできた瓦礫に怯んだ隙に再び走り込む。
そして再びあの距離まで詰め切った。
「学習能力ゼロかよ!」
菱野は炎の剣を洋斗の頭上に振り下ろす。
───が
(んなわけあるか!!)
その剣筋を避けるように横に逃げた。もっとも、菱野にはかなりの速度なので消えてまた出てきたように見えていただろうか。
「…………………は?」
菱野の瞳に動揺が揺らぐ。
今度はこちらが優位の瞬間。
「ぅらあッ!」
そのまま腹にフックを入れる要領で雷撃付与の拳を叩き込んだ。
今度は菱野が遠く吹き飛ばされる。
横一線に飛んだ菱野の体躯は建物にぶつかった後、その動きを止める。
菱野の姿が土煙で覆われて見えなくなった。
「…………はぁ……………はぁ………………」
体勢を整えて息を整える。
(…………………なんだ?今のコンクリート殴ったみたいな感触は?たぶんまだ……………)
「痛ってーなオイ」
声が聞こえた。恐らく先ほどの土煙の中から。
「今のはさすがに効いたぜ。防御してなかったらマジでヤバかった」
声色からしても菱野であることは間違いない。
───そして、
ドォゥン!と言う爆発音とともに粉塵が強風で吹き飛ばされる。そこにいたのは、
「やっぱ遠くからちまちま攻撃すんのは性に合わねー」
右手の剣に炎を、左手の剣に氷をまとわせ、仁王立ちしている菱野だった。
「もうここからは全力だ!」
そう言って菱野はこちらに駆けてくる。
それに呼応するように洋斗も走り始めた。
「ぅらあ!」
会敵の距離になったところで、菱野が躱し氷の剣を振り下ろす。
それを雷付加の脚力で躱し、先程同様カウンターを入れようと拳を握る。
だが、
脇に潜り込んだ洋斗を、彼の目は既に捉えていた。
菱野は炎の剣で洋斗を切り上げる。洋斗の胴に斜め一直線の傷が付く。しかし傷が浅かったのか、洋斗は顔をしかめながらもそのまま一歩踏み込んで腹部を殴りつける。
「うぐ………ォ!」
対して菱野も、数m押されながらも倒れずに堪えていた。
殴った腹部は鎧のように氷がへばりついて守っていた。先程の一撃もこれでダメージを軽減したのかも知れない。
これまでの戦いからひとつの考えが浮かぶ。
(こいつ、もうこの速さに順応して…………しかもカウンターまでこなしてきてる)
はじめに菱野を殴り飛ばした時点で、不十分ではあったものの致命傷を避けるだけの防御を行っていた。そしてこの戦いの中で攻撃を最大限軽くし、それどころか洋斗のスピードに合わせてカウンターをも繰り出してきた。
(やっぱりこの菱野ってヤツ…………強い)
そんなことを考えていると、辛い、とか苦しい、とかの感情を通り越して、
───こっちまで、愉しくなってきた。
刻まれた胴の傷が熱と共に疼くような感覚が脳に響く。
沸き上がる興奮で頭が熱くなる。
揺れる眼球が刹那の享楽を求めている。
五感が、これからの戦いを毛ほども逃すまいと研ぎ澄まされる。
自分が今どんな顔をしているのか判らない。
決して不快ではない。
こんな感情、親父や父さんと武術でやり合っていたあの頃以来だ。
心のどこかで躊躇っていたのかも知れない。
───人を殺すことがどういう事かを知っているから。
もしかしたら。
もう、素直に楽になってもいいのかも知れない。
そのために、この世界に招待されたのかも知れない。
「………タフだな、意外と」
「ゴホッ………そういうオマエは力強すぎだろ。体細ェのになァ」
「割と無茶な鍛え方してたからな。まだ上がるぜ?」
「………さすがに血の気が引いたぜ」
「そっちこそ中々良い鍛え方してるな。驚いてるよ」
「まだ上がるぜェ?」
「………ここは血の気が引くところだよな」
力が抜けるように頬を緩める
それに釣られてか小さく笑う菱野。
そんな二人が、ぶつかった。
0
あなたにおすすめの小説
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~
松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。
異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。
「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。
だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。
牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。
やがて彼は知らされる。
その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。
金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、
戦闘より掃除が多い異世界ライフ。
──これは、汚れと戦いながら世界を救う、
笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。
転移特典としてゲットしたチートな箱庭で現代技術アリのスローライフをしていたら訳アリの女性たちが迷い込んできました。
山椒
ファンタジー
そのコンビニにいた人たち全員が異世界転移された。
異世界転移する前に神に世界を救うために呼んだと言われ特典のようなものを決めるように言われた。
その中の一人であるフリーターの優斗は異世界に行くのは納得しても世界を救う気などなくまったりと過ごすつもりだった。
攻撃、防御、速度、魔法、特殊の五項目に割り振るためのポイントは一億ポイントあったが、特殊に八割割り振り、魔法に二割割り振ったことでチートな箱庭をゲットする。
そのチートな箱庭は優斗が思った通りにできるチートな箱庭だった。
前の世界でやっている番組が見れるテレビが出せたり、両親に電話できるスマホを出せたりなど異世界にいることを嘲笑っているようであった。
そんなチートな箱庭でまったりと過ごしていれば迷い込んでくる女性たちがいた。
偽物の聖女が現れたせいで追放された本物の聖女やら国を乗っ取られて追放されたサキュバスの王女など。
チートな箱庭で作った現代技術たちを前に、女性たちは現代技術にどっぷりとはまっていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる