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第2章 饗宴編
対抗戦佳境
しおりを挟む対抗戦は佳境に入っていた。
代表者達には、誰が倒されているのか、どこで誰が戦っているのか、そもそもどれくらいの時間が経ったのかすらわからない。なので代表者達にはこの対抗戦が終盤に差しかかっていることを知る由もない。
そんな中、桐崎 洋斗はジェットコースターの前でボーッとベンチに腰掛けていた。
先ほどの男───Aクラスの隈 清だとは知らない───に加えてもう二人ほど倒していた。やはり目立つアトラクションの前にいるので人が寄って来やすいみたいだ。
背もたれに体を預けてくつろいでいたのだが、その意識が街中のある一点に照準を絞った。
「……………………」
誰か、いる。
建物の陰にいるのが何となく分かる。
先制攻撃も考えたが、行動に移す間もなく相手はあっさりと出てきた。特に隠れていたわけでもないらしい。
「よォ」
髪が妙にツンツンしていてもう少し髪が長けれは某戦闘民族と相違ない。あとは中肉中背、武術をやっている身で見ると良く鍛えられているという印象を受ける。
その両手には対になる剣がそれぞれ光っている。
「随分とのんびり構えてるじゃねェか。おまえまさかあれか?ずっと逃げてて疲れましたーなんて言わねェよな?」
(一応警戒はしていたんだけど、こんなところに座ってればそう見えるか)
「そんなわけないよ、三人ほどヤった。今は休憩中」
頭の片隅で考えながらも、ペンチに座ったまま答える。
警戒は怠らない。
「ヘェ、なんだ結構ヤってんのか。俺はまだ二人。中々見つからねーでやんの、参っちまうぜ。周りもだいぶ静かだし、もしかしたら俺たち二人だけかもなァ?」
「さぁ、この遊園地のどこかにまだ隠れてるかも知れないから、速くおまえ倒して探しに行かないと」
「オイオイ、連れねェことゆーんじゃねェよ。折角だから楽しもうや」
「…………それは言えてる、かな」
洋斗はベンチから腰を上げ、戦闘の意思を示す。
その様子に、待ってましたと言わんばかりに相手の口角が吊り上がる。
「頼むから、あっさりくたばるんじゃねぇぞ?楽しませてくれよ?」
「お気に召すように善処する。そうだ、名前聞かせてくれ。これまでずっと相手の名前聞き忘れてたからな。俺は桐崎 洋斗、Dクラスだ」
「Cクラス、菱野 健吾」
洋斗は小さく目を細める。
それ以外の言葉はなかった。
そもそも言葉なんて必要ではない。
かなりぶっちゃけて言うと『肉体言語』というやつである。
───先に動いたのは、菱野の方だった。
「おらよォ!」
菱野が氷弾を複数個飛ばしてくる。
(水属性か、それなら)
洋斗は体に電気を通して身体強化、その瞬発力と反射神経で氷弾を躱す。
「チッ、そんなに綺麗に躱されると…………怒りを通り越して楽しくなってくるぜ?」
菱野は手を頭上に伸ばす。
先ほどより多い氷の弾幕が降り注いだ。
それはまるで大量の雹。だが、本物の雹には煉瓦造の建物を破壊するほどの力はない。
(これは、さすがに…………………ッ!?)
躱しきれない。
とっさの判断で氷の段幕のうち、自分の体を通過するであろう位置に雷撃をぶつける。ぶつかった衝撃で段幕の中に氷のない空間が出来る。そこを脚力で一気に通過し、菱野との距離をつめた。
距離は2、3m、あと一歩で相手に手が届く距離。
洋斗は走りながら拳を構え、それに雷撃を込める。
バチ…………、と青白く光る拳をぶつけんとさらに一歩を踏み込む。
目の前には、迎え撃とうと双剣を振りかぶる菱野の喜々とした表情。
───そして
その双剣を覆う真っ赤な炎だった。
「っ」
一瞬だけ、ほんの刹那の間だけ思考に空白が生まれる。
だが身体は反射的に、振りかぶっていた拳を迫る双剣に当てる。
ゴっっっ!!!、と、
雷撃と爆炎が衝突した。
菱野の爆炎は洋斗の雷撃の拳を呑み込んで、拳ごと洋斗を吹き飛ばした。
洋斗は建物一棟を突き破り、地面を数回はねた後に別の建物にぶつかって止まる。ぶつかった壁は衝撃に負けて崩れてしまう。
能力系統としては、どちらも攻撃的な分類であるが、雷はどちらかというとスピード重視で火は攻撃力重視となっている。
即ち。
単純な威力勝負なら基本火が有利なのだ。もちろんこの遊園地も例外ではない。
「おーい!ものの見事に決まってくれてありがとよー!」
遠くにいる友達に呼びかけるように大声を飛ばす菱野。
対して先ほどの攻撃でも意識が飛ぶことなく瓦礫から上半身を起こす。
全身に能力をまとわせていたことが功を奏したようだ。
まだ十分に動ける。
それにしても。
「ぐ…………ぅ、どうなってんだ…………」
(さっきは氷、次は炎…………?)
「ん?なんだお困りな様子だな。教えてやろうかァ?」
(…………おいおい、まさか…………)
「俺は能力を二種類使えるんだぜ」
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