Brand New WorldS ~二つの世界を繋いだ男~

ふろすと

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第3章 強縁編

嵯鞍の教え

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 結局のところ。
 洋斗は芦屋に支えられながら、ユリアの屋敷に帰ることにした。
 ずっと学校の保健室で静養を採っていたので、この屋敷にはおよそ十日ぶりの帰宅となる。
 詳しいことは学校側から聞いていたのか、ゴードンさんは何も言わずに介抱してくれた。

 ───その後は芦屋から婚約についての詳しい説明を受けて、一日を終える。

 次の日は、一日中寝室で寝ころんでいた。
 すぐにでも出て行きたい洋斗だったが、それでも何事もなくずっと中にいた。
 ドアのすぐ向こうに常に人の気配があった。自分が行動する度に相手の反応が動く。完全に監視されていることを悟ったからだ。
 最初は疑心暗鬼だったので、試しに窓の方まで歩いて行ってみたりもした。すると、すぐにゴードンさんがドアを開けて入ってきた。ご丁寧にも冷め切った紅茶セットとご一緒にである。促されるままに紅茶を飲んでいるときにゴードンさんが───。

「外を眺めるのはよろしいのですが、うっかり外に落ちるのだけは気をつけてくださいね?」

 と意味深な言葉を残すので、紅茶と一緒に素直に飲み込んだわけだ。
 ふかふかのベッドに埋もれながらじっと天井を見上げる。

 (確かに、芦屋の言った通りかも知れない)
 改めて冷静に考える時間が出来たことで、ふと自分を見つめ直す時間が出来た。

 (今にしてみれば、あの時の俺はどうかしてた。あんな身体で向かったところで出来る事なんてたかが知れてる。特に芦屋との一戦。短絡的な行動、状況変化への適応力の無さ、とにかく全てが不十分だった。芦屋の言うとおり、乗り込んだところで何もできなかった)
 募った苛立ちに任せて相手に突っ込み、完治してない身体で橋に落ちた時の対応が遅れてしまった。いや、そもそも完全なら落ちる前に体勢だって整えられたかもしれない。

 (…………………………まだまだだな、俺って)
 強くなった、と心のどこかで思っていた。
 これなら大切な誰かを守れる、とも。
 過信は災いを招く、と父さんも言っていた。
 現に、洋斗はスーツの奴らに完敗し、ユリアを連れて行かれた。
 ───足りない。
 ふと洋斗は思う。
 もっと強くなりたい。
 もっと、『力』が欲しい。
 洋斗は寝返りを打って部屋の角の一点を見やる。そこには洋斗と一緒にこの世界にやってきた、一本の刀が掛けてあった。
 ベッドから立ち上がって刀の所へ歩く。ドアの向こうで気配が動いた。
 もう刀に手が届く───というところでその手が止まる。

 (もう、使わないって思ってたんだけどな………)
 無自覚に震える手で刀を掴んで、鍔を押し上げる。
 隙間から覗く刀身が異世界に来ても変わらぬ輝きを放ち、鋭利な殺意を際立たせていた。
 刀を鞘から完全に抜き取り、静かに上段の構えをとる。
 ───そして
 ヒュン!、と一気に斜め下に振り抜いた。
 洋斗はこれまでかなりの武術を習ってきていたが、それら全てが徒手空拳で刀などの武器を使ったものは習っていない。
 だが、手に持っているこの刀は、まるで自分の一部だったかのように何も抵抗なく身体に馴染んだ。
 何回も振っている内に、洋斗はあることに気付く。

 (この動き、今まで習ってきたものと似てる)
 刀を振るような動きが武術にあるわけではない。だが、刀を振るときの手の振りはこれ、足運びはそれ、というように今まで習ってきたことが巧みに噛み合って刀を振るう動きを補完してくれている。

 まるで、『ここはこうするんだ』と、肩に手を置いて教えてくれているようだった。
 昔のように。



「嵯鞍……玄条……か……………」

 その名は父親であり、師匠でもある男の名。その男のたくましい背中が頭をよぎって、

「やっぱ………………変な名前」

 頬に涙が一筋、尾を引いて流れ、落ちた。


 その後も
 何回も、何回も、まるで噛みしめるように縦横に刀を振り続けた。
 まだ、俺を鍛えてくれるのか
 まだ俺を強くしてくれるのか

 振るのを止めて、刀を下ろす。
あぐらをかいて座っている姿が目に浮かぶ。今にも深くお辞儀でもしたいところだ。
 だが、そんなことをすれば、あの男は『そんなことをしてる暇あったら、救える命、救って来い』と言うだろう。

「ゴードンさん」
 洋斗は、扉の向こうに準備しているであろう気配の名を呼ぶ。
 案の定、扉を開けてゴードンさんが申し訳無さそうに部屋に入ってくる。
「全く、衰えたつもりはないのですが、とうの昔に気づかれていましたか」
「俺の傷、治せますか?」
「………どこかお出かけですか?」
「応急処置でいい。血が出なければ、痛みが引けばそれでいい。十分に動けるくらいに、治せますか?」

 ゴードンはじっと洋斗の目を見る。そして、説得は不可能と悟ったのか、諦めたように口を開いた。

「出来る限りのことはしましょう。これでも私は後方支援担当でしたのでそういった手法は心得ております。ですが、あくまで本当に応急処置です。正直に申し上げて、洋斗様の戦闘スタイルではあまり保たないと念頭に入れておいて下さい」
「……………………ありがとうございます」

 洋斗は、手元の刀をより一層握り締める。






 ───明日は、ユリアの結婚式。


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