Brand New WorldS ~二つの世界を繋いだ男~

ふろすと

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第3章 強縁編

過去の過ち

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 ー2014.10.20ー




 ユリア・セントヘレナ氏の誘拐、及び婚約を強行しようとした罪で指名手配されていたゾドム・フローゼル容疑者が昨日未明、市郊外の森林地帯で確保されました。

 三日前の10月17日、セントヘレナ家の長女であるユリア・セントヘレナ氏をフローゼル家が拉致監禁し、福知山警察がフォートレス能力専門学校の協力を得てフローゼル家に強行突入する事態となりました。
 これにより、フローゼル家はほぼ壊滅しましたが、その主であるゾドム・フローゼル、及びその父であるライド・フローゼルは逃走、警察及び学校側は、十日間の監禁によって衰弱状態のユリア氏と囮となって先に突入し、出血多量で意識不明となっている重傷者一名が最寄りの病院に搬送されましたが、それ以外は目立った被害はありませんでした。
 なお、ライド・フローゼル容疑者は未だ逃走中で今後は懸賞金を賭けたうえで情報を募るとのことです。
 ゾドム氏はこの後、京都府警に身柄を引き渡され、事情聴取を受けるとのことです。


 』



「なんだよ、囮って………」
「協力って、警察の方なんていましたっけ?」

 ここはニュースで言っていた通り最寄りの病院───ではなく学校の保健室だった。能力を使うこの学校の保健室は怪我の規模が普通の学校とは違うため、国から降りてくる補助金の半分ほどがここに費やされており、設備も大規模な病院程のものが備わっていた。むしろ傷の大小こそあれ、傷を塞いで静養をとるだけならここの方が安上がりな分快適なのだ。
 そんな保健室のベッドルームで洋斗とユリアが隣り合わせで横になって、備え付けのラジオでニュースを聞いていた。
 洋斗は全身包帯とガーゼだらけで困り顔、ユリアは右手首に点滴のチューブを刺して呆れ顔で、どちらも呆れたように笑っていた。
 少し幼稚かつ単純な文面で飾られたこのは大方坂華木先生が帳尻を合わせるために拵えた表向きのシナリオだろう。頑張って頭を働かせて文章を組み上げている姿が目に浮かぶ。
 どちらかといえば佐久間先生の方がその手の作業は得意そうなのだが、そこは何かしらあったのだろう。ニート教師が率先してこんなことをするはずがない。
 ともあれ、今回の一連の事件は『フローゼル家がユリアを拉致して引きこもったのを、警察が国家機関と協力して救出した』という形で世間に流されたようだ。これなら他の貴族とのいざこざも最小限で済むだろうし、警察の強行突入なら不法侵入の罪には問われない。

「あの………洋斗君」
「どうした?」

 唐突に、であった。
 ユリアが口を開く。
 ラジオの内容はニュースの後番組である歌番組に変わっていて、有名なシンガーのバラードを振りまいていた。

「その、何か、いやな思い出でもあるんですか?」
「………え?」

 ユリアの脳裏にあるのは血濡れた手で叫ぶ彼の姿。
 他人が流す血を見て発狂する、というのは真っ当な人間としては当然の反応である。
 だが、ユリアはその痛々しい姿に生理的嫌悪感以外の何かがあるような気がして―――。

「あのときの洋斗君は何というか、すごく辛そうでした。だから、えと………」
「………」
「い、いや!話したくないならいいですよ!そもそもそんなつもりは………」
「………いや、ユリアはやっぱりよく見てるな、って。それに………」

 洋斗は緩く手を結び、その手を見つめている。
 ぽつり、ぽつりと言葉を紡ぐ。

「ユリアには、知って欲しいって思った。聞いてくれるか?」

 ユリアの方を向いたその目は真剣さと躊躇いに包まれていた。

 (私も、知りたい。洋斗君に何かあったのか。洋斗君がどんな人で、どんな道を歩いてきたのかを)
 その意志を、ユリアは首を縦に振ることで洋斗に伝える。

「じゃ、話すよ。昔の俺の話」














 それは、嵯鞍 洋斗の、過ちと、未熟さの記憶。




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