マニブス・パルビス@どの話からでも読める伝奇短編集

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065.血

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 一

 右足の小指をぶつけただけだったのに、流血が止まらない。

 直前に何か悪い物でも食べたのか、あるいはぶつけた物に呪いがかかっていたのか、最初からそういう体質だったのか……、とにかく、流れ出る血が止まらなかった。包帯グルグル巻きにして圧迫止血をしながら、急いで病院を探す。

 本当は腕の良い南の医者にかかりたかったが今日は医者が月一でおかしくなる日だった。同じく南にいる腕のいい整形外科医は治療費が高くて庶民には話にならない。東の医者は売っている薬は効果が高いものの、藪だ。マネキンの看護師のいる医者に行くか、あるいは西の太った陰気な医者に行くか……。

 思案に暮れている間にもどんどん包帯が赤くなっていく。鮮血だった。

 考える暇はない、と一番近所の西の陰気な医者がいる病院へと急ぐ。その時。

「いたっ」

 慌てすぎたのか、左の足に何か引っかかり、痛みが走る。

 見れば、左脚の下に硬いとげのモンスターがおり、靴底を貫通して左足に突き刺さっていた。

 同じように鮮血が流れたらしく、靴が赤く染まる。

 

 最悪な気分だった。化け物のとげを抜くと血がどばっと溢れ出た。

 歩こうとするにも痛みで動けず座り込む。両足は赤い靴を履いたように染まっていた。

「ああもう、病院に行かせて……」

 足がその言葉を聞いたのだろうか。

 意思に反して身体が立ち上がった。大地を踏んだ足に痛みはなく、足が勝手に動く。

「ちょっと。ちょっと!」

 慌てても遅い。制止を聞かずに足はどんどん先に進んでいき……、やがて、病院の前に辿り着いた。

 血が意志を持って、願いを聞き入れたのだろうか。

 二

 血は争えないは真実か。

 父は滅多に部屋から出てこなかった。生活は安定していたのだから、出てこなくてもよかったのだろう。

 父と全くかかわらない代わりに、母は私のことを溺愛していた。母自らが衣を変える着替えから差し出されるスプーンに乗った食事、睡眠時の添い寝に至るまで、私の生活の中で母親がいない状態と言うのはなかった。

 文字通り母に育てられ、私の人生を母が生きたと言っても過言ではない。

 ある日、父が部屋から出てきて、母の足に斧を振り下ろした。車いすに乗った父はほとんど母を押し倒すようにして執拗に脚を奪わんと凶器を振り回す。

 それから、今日からお前の脚だと、とても美しいかたちの木でできた脚を母に投げつけた。

 母は血は争えないわねと笑った。

 父には足がない。母がどこにもいかないように、とその手で脚を切断したからだ。

 なぜ、二人が足を切りあったのか、その血は何を意味するのか私にはわからない。

 父は母の脚を抱えてほふく前進で消え、母はそのまま人目を避けるようにして暮らし、そのうち傷が壊死して死んでしまった。

 私と木の脚だけが残る。

 少年期の思い出はたびたび燻ぶり、そのうちに燃え始めた。

 夜な夜な木の脚を愛でる。それでは満足ができない。この足に合う身体が欲しい。

 血に宿る呪いが違った形で目覚めたのがわかった。

 どうすればこの脚に合う身体が手に入るだろう。

 脚を切らねばならぬ。脚が多いからだ。

 この時期、東地区ほぼ無法地帯だった。自宅を遠く離れて、脚に合う身体を探した。

 ある時、売りに出されていた人間を見つけた。あの美しい脚に合う身体だと思った。

 女には元から足がついていなかった。

 母が自分にしたように生活をさせた。痩せこけた身体は次第に肉が付き、嗄れていた声でぽつぽつと話をする。

「どこにも行けないと思っていた」

 ある日に、女に脚をはかせた。

 すべすべとした肌は母の脚の切断面とは全く違い、丸みを帯びたそこに、脚はぴったりとはまった。まるで、最初からそこに付いていたかのように。

 奇妙な感覚だった。持ち主を見つけた足、脚を手に入れた女を見て、父と母の事は理解できないと思った。

「その脚で何処にでも行くがいい」

 

 動くはずのない脚は立ち上がり、女が驚く。脚は女の物となり、女は脚の物となった。

 しばらく、脚は女を確かめるようにしてその場で足踏みをしていたが、女を持ち主だと認めると、女の思う通りに従うようになった。

「どこにも行けるはずだ。いや、どこにでもいけなければならない」

 脚に導かれるようにして、女が屋敷から去っていく。何度も振り返ったが、そのうちに夜の闇に消えていった。
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