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──あれ。あれれっれれれ〰〰。
学は少女がとった行動に唖然としてその背中を見送ることとなった。
今、自分は落ちそうになった少女を助けたのではなかっただろうか? それに何も言及せず、ただ目をじっと見られて、それからさーっと逃げられるようなことをしたのか? いたわりの言葉を無視されたのはどうしてだ?
いろんなことを経験してきた学だったが、さすがに人を助けて無視されたのは初めてだ。
図書館内の視線は再び学に集まっていた。先ほどまでよりも強烈な好奇の視線を受ける。虚空に向かって跪いたまま、学は呆然としていた。しかし、いつまでもそうやってポーズをとってはいられまい。学は少女が落としていった大きな本を拾って本棚に戻し、そそくさ九郎の元へと戻った。
──僕、なんか変なことしたか!?
少女の行動に釈然としない思いがあった。一連の流れを見られていたためか、図書館全体はシーンと静まり、学の一挙一動に注目が集まっている。今起こったことを考えると、いたたまれない気持ちが十二分にあり、学は表情を隠すように手で口元を覆っていた。
善行を働いたにもかかわらず、相手にシカトされたのを公衆に目撃されたのだ。かなり恥ずかしい。普段は何を思われても平気な学だが、今は他人からどう思われているのか過分に気にしてしまう。
その学の気持ちを察してか、九郎は学の荷物もまとめてくれつつ、図書館を出ようと促してくれた。
「あの子は誰なんだ?」
ミーティングルームへと向かいながら、学は九郎に聞く。マジで全然知らないのか、と唖然とする九郎。友人の態度から、どうやら少女は大学でも著名な人物らしい。
マナブは大学でも極力目立たないように生活しており、友達も少ない。情報収集はもっぱら講義や試験の情報を集めるので手いっぱいだった。人間関係については大学に入学してからほとんど興味もなく、からっきしである。当然、先ほどの少女についての情報は皆無だ。
しかし、自分以外にも大学に有名人がいることに、学は少し興味を持った。妙なことに、自分以上の有名人はいないだろう、と学は思っていたのである。ところが、図書館で視線を独り占めしていた学から視線を奪っていった少女がこの大学にいる。自分と同じ程度に視線を集める学生。そんな存在は学の興味に引っかかった。
「もったいぶってないで教えろよ」
学が急かすと、九郎は一つの大企業の名前を挙げた。
「いばら財閥って知ってるだろ?」
それならマナブも聞いたことがある。日本にあるいくつかの財閥の一つで、大企業を経営しているグループである。銀行やら不動産業やら……、調べてみるとこの企業もいばら財閥の会社だったのか、と感心してしまうくらい、様々な一流企業を束ねている企業グループである。オメガであり金を払えば入学できる大学に所属している学には縁のない話だが、許されるならそこに就職をして高い給料で左うちわな生活したいと思う存在だった。
「あの子はその一人娘。いばら照お嬢様だよ」
九郎が言った。なるほど、財閥のお嬢様なら大学の中で有名人なわけである。子供世代はどうかわからないが、少なくとも親世代ならばニュースやワイドショーでどこの大学に入学したかをチェックしている人間がいるかもしれなかった。その話題が家庭で出れば、子供世代もいばら財閥の御令嬢を意識するきっかけになるだろう。注目されるには十分な情報である。
ところが、その注目されるに値する属性は学生にはいまいち刺さらなかったらしい。
少なくとも親世代は子供がいばら財閥の御令嬢にコネがあればいばらグループの会社に就職してほしいと願っていそうだが、子供である学生はそう思っていないのかもしれない。仲良くなるどころか、彼女を遠巻きにしている。そして、嘲笑の的にしている。先ほどのいばら照への態度を少し見ただけの学もそれはわかった。
おそらく、原因は彼女のその容姿だろう。照の子供のような姿は大学の中では奇異に映るのだろう。学自身も彼女を見た瞬間に、なぜ子供が? と思ったのだ。他の人間も同様に違いない。
その赤い瞳によってすぐにアルファだとわかるにも関わらず、嘲笑の的になっている。アルファであっても女性ならば──小さく子供のような容姿を持った女性である──階級として下にみる思想は、アルファが多くいる大学だと不思議ではなかった。異質なものを排除するのがこの学校の校風なのだろうが、学はかなりあきれてため息をついた。
もし可能であれば、あの娘と話をしてみたかったな、と学は思った。状況は違えど、周りから距離を置かれる異質な存在である。何か考えているところが重なるのではないか、と思ったのだ。
しかし、同時に叶わないこともわかっていた。
学はオメガの貧乏学生である。いばら照はアルファの財閥ご令嬢だ。交わらない縁。そして、その壁を乗り越えるバイタリティは学にはない。自分も彼女を取り巻く壁を作っている人間の一人だな、と思う学であった。
学は少女がとった行動に唖然としてその背中を見送ることとなった。
今、自分は落ちそうになった少女を助けたのではなかっただろうか? それに何も言及せず、ただ目をじっと見られて、それからさーっと逃げられるようなことをしたのか? いたわりの言葉を無視されたのはどうしてだ?
いろんなことを経験してきた学だったが、さすがに人を助けて無視されたのは初めてだ。
図書館内の視線は再び学に集まっていた。先ほどまでよりも強烈な好奇の視線を受ける。虚空に向かって跪いたまま、学は呆然としていた。しかし、いつまでもそうやってポーズをとってはいられまい。学は少女が落としていった大きな本を拾って本棚に戻し、そそくさ九郎の元へと戻った。
──僕、なんか変なことしたか!?
少女の行動に釈然としない思いがあった。一連の流れを見られていたためか、図書館全体はシーンと静まり、学の一挙一動に注目が集まっている。今起こったことを考えると、いたたまれない気持ちが十二分にあり、学は表情を隠すように手で口元を覆っていた。
善行を働いたにもかかわらず、相手にシカトされたのを公衆に目撃されたのだ。かなり恥ずかしい。普段は何を思われても平気な学だが、今は他人からどう思われているのか過分に気にしてしまう。
その学の気持ちを察してか、九郎は学の荷物もまとめてくれつつ、図書館を出ようと促してくれた。
「あの子は誰なんだ?」
ミーティングルームへと向かいながら、学は九郎に聞く。マジで全然知らないのか、と唖然とする九郎。友人の態度から、どうやら少女は大学でも著名な人物らしい。
マナブは大学でも極力目立たないように生活しており、友達も少ない。情報収集はもっぱら講義や試験の情報を集めるので手いっぱいだった。人間関係については大学に入学してからほとんど興味もなく、からっきしである。当然、先ほどの少女についての情報は皆無だ。
しかし、自分以外にも大学に有名人がいることに、学は少し興味を持った。妙なことに、自分以上の有名人はいないだろう、と学は思っていたのである。ところが、図書館で視線を独り占めしていた学から視線を奪っていった少女がこの大学にいる。自分と同じ程度に視線を集める学生。そんな存在は学の興味に引っかかった。
「もったいぶってないで教えろよ」
学が急かすと、九郎は一つの大企業の名前を挙げた。
「いばら財閥って知ってるだろ?」
それならマナブも聞いたことがある。日本にあるいくつかの財閥の一つで、大企業を経営しているグループである。銀行やら不動産業やら……、調べてみるとこの企業もいばら財閥の会社だったのか、と感心してしまうくらい、様々な一流企業を束ねている企業グループである。オメガであり金を払えば入学できる大学に所属している学には縁のない話だが、許されるならそこに就職をして高い給料で左うちわな生活したいと思う存在だった。
「あの子はその一人娘。いばら照お嬢様だよ」
九郎が言った。なるほど、財閥のお嬢様なら大学の中で有名人なわけである。子供世代はどうかわからないが、少なくとも親世代ならばニュースやワイドショーでどこの大学に入学したかをチェックしている人間がいるかもしれなかった。その話題が家庭で出れば、子供世代もいばら財閥の御令嬢を意識するきっかけになるだろう。注目されるには十分な情報である。
ところが、その注目されるに値する属性は学生にはいまいち刺さらなかったらしい。
少なくとも親世代は子供がいばら財閥の御令嬢にコネがあればいばらグループの会社に就職してほしいと願っていそうだが、子供である学生はそう思っていないのかもしれない。仲良くなるどころか、彼女を遠巻きにしている。そして、嘲笑の的にしている。先ほどのいばら照への態度を少し見ただけの学もそれはわかった。
おそらく、原因は彼女のその容姿だろう。照の子供のような姿は大学の中では奇異に映るのだろう。学自身も彼女を見た瞬間に、なぜ子供が? と思ったのだ。他の人間も同様に違いない。
その赤い瞳によってすぐにアルファだとわかるにも関わらず、嘲笑の的になっている。アルファであっても女性ならば──小さく子供のような容姿を持った女性である──階級として下にみる思想は、アルファが多くいる大学だと不思議ではなかった。異質なものを排除するのがこの学校の校風なのだろうが、学はかなりあきれてため息をついた。
もし可能であれば、あの娘と話をしてみたかったな、と学は思った。状況は違えど、周りから距離を置かれる異質な存在である。何か考えているところが重なるのではないか、と思ったのだ。
しかし、同時に叶わないこともわかっていた。
学はオメガの貧乏学生である。いばら照はアルファの財閥ご令嬢だ。交わらない縁。そして、その壁を乗り越えるバイタリティは学にはない。自分も彼女を取り巻く壁を作っている人間の一人だな、と思う学であった。
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