17 / 23
17
しおりを挟む
二人で目を合わせて笑っているところに、SPが近づいてきた。何か照に用事があるらしく、一言二言耳打ちする。話を聞いて、照りが困ったような顔をしている。普段は凛々しい顔をしている付き人だが、今日は彼も困った顔をしていた。何か問題でも起きたのだろうか。
照がSPにスケッチブックで何か書こうとしたとき、学たちのテーブルに一人の女性が近づいてきた。
「照」
静かな声で照の名前を呼ぶ。すらりと背の高いスーツ姿の女性である。続けて、照に話しかけた。
「近くを通ったので来ました。その人が新しいお友達?」
照がむすっとして女性を睨んだ。咎められた子供のような表情だ。ただ、この表情を浮かべるからにして、そこそこ親しい間柄なような気がする、と学は思う。
「仲がよろしいみたいですね」
背の高い女性が今度は学の方を見て会釈する。こっちが座っていると余計に背が高く見えて威圧感のある女性だ。声が柔らかくおっとりとしていなければ、女王様のように見えるだろう。どこかで見たことのある顔をしている。
誰? と学が聞くと、照がメモ帳に姉と書いてきた。学は照の姉だという女性の顔をもう一度見る。確かに、よく見比べると重たげな瞼が照そっくりである。どこかで見たと思ったのは目の前にいる女の子に似ているからだ。背丈は違えど、横に並べれば姉妹だとすぐにわかるに違いない。
「照の姉です」
女性が自己紹介をする。ということは、いばら財閥の一員であろう。スーツ姿をしているのは、財閥で仕事を任されているからだろうか。
学は照の姉から強いプレッシャーを感じていた。この感じは──アルファに威圧されたときの物だ。圧力を感じない照りと一緒にいるから忘れていたが、自分はオメガで支配される階級の性なのだと改めて感じてしまう。わざとか、そもそもの資質かわからないが、照の姉は強いアルファの圧を持っていた。
「こんにちは。仲良くさせてもらっています」
学は思わず立ち上がっていた。座っていれば委縮してしまいそうだった。それをはねのけるために立ち上がったのだ。相手はでかい。学と同じくらいある。その照の姉に、学は同じ目線から頭の上からつま先まで眺められている。他の人間と同じく、値踏みされている視線を肌で感じて思わず睨み返してしまった。
昔だったら、こんな状況ではオメガは屈服してしまっただろう。学が照の姉のプレッシャーに反抗できているのは、ひとえにオメガホルモン抑制剤の効果だった。
アルファの視線に気圧されそうになりつつ、学は照の姉に尋ねた。
「あの、何か?」
女性は黙ったまま。それからゆっくりと口ひらく。
「……水野さん、あなたはオメガだと聞きました。照と仲良くなるのはいいですが、この娘はいずれ政略結婚で家から出される身です。変な気は起こさないように」
要するに、一線を越えるなよという話をされているのだ。今は、ご学友という身分で照りの隣にいるが、それ以上の関係になるなという釘差しを照の姉は学にしてきたのだった。恋愛関係のスキャンダルが起これば照りの縁談に響くだろう。跡継ぎがいないいばら財閥にとって、姉妹は男の跡継ぎを作る大事な子供たちだ。
照の姉の口ぶりは学に対する侮辱だった。学は照に対して下心なんて抱いていない。確かに、友人から将来のコネにしてもらえとけしかけられたが、便宜をはかってほしいなんて考えたことは一度もないない。
そして今、そんな考えが照を周囲から孤立させてきたのだと知り、他人との壁が照りを悩ませていたのもわかったのだ。シンパシーも感じた。だから、照の姉の発言は余計に失礼であると感じる。大事な友達との関係を踏みにじるような言葉で、学は照の姉に対して怒りが湧く。
照のいるところで大っぴらに政略結婚の話題を出すのも許しがたかった。照の姉の口ぶりは、照の気持ちを無視している。いばら財閥は会社を大きくするために縁談をまとめてきたのかもしれないが、昨今、そんな女性の権利を無視して家の優先をするなんて馬鹿げた話だ。
しかも、照は自分が総帥になるといつも意気込んでいるのだ。これから照がどのような道を進むか、誰も想像ができないのに、照の見た目の頼りなさだけをとって進路を決めようとするのも腹が立った。
「いくら将来性のないオメガでも、あなたが思っているような意地汚い手は使わないよ」
学はちらっと照を見た。自分の姉から見下ろされて顔をこわばらせている。口を開くが何も言い出せないようだった。
そして、照は口をつぐむ。
学は照にもどかしい気持ちを感じていた。場面緘黙なのはわかるが、彼女は自分のことを侮辱している姉に何か言わないのだろうか。いつも、総帥になると意気込んでいる照だが、今の彼女はとても頼りない。その姿に、学はちょっと失望する。
沈黙。それが嫌で学は口を開いた。
「照は僕の友達だ」
そう照の姉にそう言って、学は照にじゃあ、と言ってその場を去ってしまった。
二人は、照はどんな表情をして学を見送っているのだろう。
振り向くのが怖い。
照がSPにスケッチブックで何か書こうとしたとき、学たちのテーブルに一人の女性が近づいてきた。
「照」
静かな声で照の名前を呼ぶ。すらりと背の高いスーツ姿の女性である。続けて、照に話しかけた。
「近くを通ったので来ました。その人が新しいお友達?」
照がむすっとして女性を睨んだ。咎められた子供のような表情だ。ただ、この表情を浮かべるからにして、そこそこ親しい間柄なような気がする、と学は思う。
「仲がよろしいみたいですね」
背の高い女性が今度は学の方を見て会釈する。こっちが座っていると余計に背が高く見えて威圧感のある女性だ。声が柔らかくおっとりとしていなければ、女王様のように見えるだろう。どこかで見たことのある顔をしている。
誰? と学が聞くと、照がメモ帳に姉と書いてきた。学は照の姉だという女性の顔をもう一度見る。確かに、よく見比べると重たげな瞼が照そっくりである。どこかで見たと思ったのは目の前にいる女の子に似ているからだ。背丈は違えど、横に並べれば姉妹だとすぐにわかるに違いない。
「照の姉です」
女性が自己紹介をする。ということは、いばら財閥の一員であろう。スーツ姿をしているのは、財閥で仕事を任されているからだろうか。
学は照の姉から強いプレッシャーを感じていた。この感じは──アルファに威圧されたときの物だ。圧力を感じない照りと一緒にいるから忘れていたが、自分はオメガで支配される階級の性なのだと改めて感じてしまう。わざとか、そもそもの資質かわからないが、照の姉は強いアルファの圧を持っていた。
「こんにちは。仲良くさせてもらっています」
学は思わず立ち上がっていた。座っていれば委縮してしまいそうだった。それをはねのけるために立ち上がったのだ。相手はでかい。学と同じくらいある。その照の姉に、学は同じ目線から頭の上からつま先まで眺められている。他の人間と同じく、値踏みされている視線を肌で感じて思わず睨み返してしまった。
昔だったら、こんな状況ではオメガは屈服してしまっただろう。学が照の姉のプレッシャーに反抗できているのは、ひとえにオメガホルモン抑制剤の効果だった。
アルファの視線に気圧されそうになりつつ、学は照の姉に尋ねた。
「あの、何か?」
女性は黙ったまま。それからゆっくりと口ひらく。
「……水野さん、あなたはオメガだと聞きました。照と仲良くなるのはいいですが、この娘はいずれ政略結婚で家から出される身です。変な気は起こさないように」
要するに、一線を越えるなよという話をされているのだ。今は、ご学友という身分で照りの隣にいるが、それ以上の関係になるなという釘差しを照の姉は学にしてきたのだった。恋愛関係のスキャンダルが起これば照りの縁談に響くだろう。跡継ぎがいないいばら財閥にとって、姉妹は男の跡継ぎを作る大事な子供たちだ。
照の姉の口ぶりは学に対する侮辱だった。学は照に対して下心なんて抱いていない。確かに、友人から将来のコネにしてもらえとけしかけられたが、便宜をはかってほしいなんて考えたことは一度もないない。
そして今、そんな考えが照を周囲から孤立させてきたのだと知り、他人との壁が照りを悩ませていたのもわかったのだ。シンパシーも感じた。だから、照の姉の発言は余計に失礼であると感じる。大事な友達との関係を踏みにじるような言葉で、学は照の姉に対して怒りが湧く。
照のいるところで大っぴらに政略結婚の話題を出すのも許しがたかった。照の姉の口ぶりは、照の気持ちを無視している。いばら財閥は会社を大きくするために縁談をまとめてきたのかもしれないが、昨今、そんな女性の権利を無視して家の優先をするなんて馬鹿げた話だ。
しかも、照は自分が総帥になるといつも意気込んでいるのだ。これから照がどのような道を進むか、誰も想像ができないのに、照の見た目の頼りなさだけをとって進路を決めようとするのも腹が立った。
「いくら将来性のないオメガでも、あなたが思っているような意地汚い手は使わないよ」
学はちらっと照を見た。自分の姉から見下ろされて顔をこわばらせている。口を開くが何も言い出せないようだった。
そして、照は口をつぐむ。
学は照にもどかしい気持ちを感じていた。場面緘黙なのはわかるが、彼女は自分のことを侮辱している姉に何か言わないのだろうか。いつも、総帥になると意気込んでいる照だが、今の彼女はとても頼りない。その姿に、学はちょっと失望する。
沈黙。それが嫌で学は口を開いた。
「照は僕の友達だ」
そう照の姉にそう言って、学は照にじゃあ、と言ってその場を去ってしまった。
二人は、照はどんな表情をして学を見送っているのだろう。
振り向くのが怖い。
0
あなたにおすすめの小説
物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜
丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。
与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。
専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、
失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。
そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、
セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。
「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」
彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、
彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。
嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、
広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、
独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。
栄養と愛情を取り戻したセレナは、
誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、
社交界で注目される存在となる。
一方、セレナを失った伯爵家は、
彼女の能力なしでは立ち行かず、
ゆっくりと没落していくのだった――。
虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。
「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します
スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」
眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。
隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。
エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。
しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。
彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。
「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」
裏切りへのカウントダウンが今、始まる。
スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!
🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。
設楽理沙
ライト文芸
2026.1.4 73話見直した際、瑛士の台詞《本音/懺悔》を加筆しました。😇
☘ 累計ポイント/ 200万pt 超えました。ありがとうございます。
―― 備忘録 ――
第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。 最高 57,392 pt
〃 24h/pt-1位ではじまり2位で終了。 最高 89,034 pt
◇ ◇ ◇ ◇
紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる
素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。
隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が
始まる。
苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・
消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように
大きな声で泣いた。
泣きながらも、よろけながらも、気がつけば
大地をしっかりと踏みしめていた。
そう、立ち止まってなんていられない。
☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★
2025.4.19☑~
優しい雨が降る夜は
葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン
無自覚にモテる地味子に
余裕もなく翻弄されるイケメン
二人の恋は一筋縄ではいかなくて……
雨降る夜に心に届いた
優しい恋の物語
⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡
風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格
雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
後宮祓いの巫女は、鬼将軍に嫁ぐことになりました
由香
キャラ文芸
後宮で怪異を祓う下級巫女・紗月は、ある日突然、「鬼」と噂される将軍・玄耀の妻になれと命じられる。
それは愛のない政略結婚――
人ならざる力を持つ将軍を、巫女の力で制御するための契約だった。
後宮の思惑に翻弄されながらも、二人は「契約」ではなく「選んだ縁」として、共に生きる道を選ぶ――。
完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす
小木楓
恋愛
完結しました✨
タグ&あらすじ変更しました。
略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。
「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」
「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」
大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。
しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。
強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。
夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。
恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……?
「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」
逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。
それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。
「一生、私の腕の中で溺れていろ」
守るために壊し、愛するために縛る。
冷酷な仮面の下に隠された、
一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。
★最後は極上のハッピーエンドです。
※AI画像を使用しています。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる