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4「お城へGO!」

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「酔った……。あの馬車、揺れすぎなのよ」

 乗ってきた馬車の揺れは激しかった。

 キャサリンは気持ち悪そうな顔でうつむいている。

 空飛ぶ黒い馬に、黒い車。

 馬には翼が生えていて、それも黒かった。

 真っ黒だ。

 地球を飛び立って半日ほど。

 ぼくたちは馬車に揺られて、魔界に向かった。

 その間、トランプをしたり、おしゃべりをしたり。

 なんだか楽しかった。

 ついて欲しくないな、なんて思ってたら、結構早くついてしまった。

 旅行に行って、終わりぎわに、ああ、まだ帰りたくないな、って思ったことはないだろうか。

 そんな感じだ。

 少し疲れた。

 ポーカーをやりすぎたかな。

 それとも七並べか。



 魔界。

 そこは月の内部にあった。

 大きな空洞が広がっている。

 湖や山、建物もある。

 湖は赤く、山は尖っていた。

 建物はほとんど黒色に統一されている。

 全て黒くて、どんな形なのかよく見えない。



 物珍しそうに集まってくる魔物たちがいた。

 人間と獣が混じったような生き物。

 猫や犬。

 馬や鳥。

 魚っぽいものまでいる。

 まわりを見渡してみて気づく。

 みんな女だ。

 女ばかり。

 男はほんの少ししかいない。

「ねぇ、あなたたち、どこからきたの?」

 女の一人が話しかけてきた。

 黒い布を身にまとっている。

 着古しているようで、ボロボロだ。

 髪は金色で長く、背はぼくより少し低い。

 目尻には少しシワが刻まれている。

 それなりに年をとっているようだ。

 おっぱい大きいな……。

 なんて考えていたら、キャサリンに睨まれた。

 地球から来た、と女に伝える。

「へぇ、チキュウ……。うーん、それ、どこ?私は聞いたことないなぁ」

 ん?知らないのか。あれか。未開惑星的な?

 言葉は通じるな。

 仕方がないので、とにかく遠くから来たと伝える。

「ふーん、なるほどねぇ。着ている服も私たちとはかなり違うし……。本当に、遠いとこから来たみたいね」
 わかってもらえてよかった。

「もう大魔王さまにはあった?」

 大魔王さま?

 なんだそれ。

 なんだかあっておいたほうがよさそうだ。

 セーブとかできるかもしれない。

 次のレベルまであとどれくらいなんだろう。

「私の父よ。あるいは母。」

 キャサリンが耳打ちしてくる。

 なんだそれ。

 父なのか母なのかどっちなんだ。

「この魔界を統治するもの、大魔王。私はその娘。案内するから、こっち来て」

 手を引っ張られる。

「待って。あの城へ行くなら、これが必要なはずよ」

 黒い花を手渡された。

「城に入るには、それが必要なの。あなたの前途に幸あらんことを」

 城に入るには花がいるってどういうことだろう。

 ま、もらえるものはもらっておこう。

 女に礼を言う。

 それにしても、魔界に似合わないことを言われた。

 前途に幸あらんことを、か。



「行くわよ」

 キャサリンはそっけなくそう行って、ずんずん先に行ってしまう。

 小走りでそれに着いて行く。

 しばらく歩くと、大きな城の門が見えてきた。

 キャサリンはほとんど喋らなかった。

 父親に会うので緊張しているのだろうか。

 城……。

 想像していたものと、違う。

 てっきり洋風の城だと思っていた。
 天守閣とか石垣とかがある、立派な和風の城だ。

 びっくりだ。

 そういえば、さっきの城下町の建物も、和風だったり洋風だったりしたような。

 ごちゃまぜなのか。

 地球と似たようなものなのかも。

 門を遠くから眺めてみる。

 人が集まっているようだ。

「あら、面白いことやっているみたいね」

 なんのことだろう。

 興味深そうに眺めている。

「ん?城の兵士が、町の女を犯しているのよ」
 え。

 どうなっているんだ、魔界。

 門の前でそんなことが。

「見てみるといいわ。魔法であなたの目を良くしてあげる。ーーエボリューション・アイ!」

 キャサリンが呪文を唱えると、急に目が暖かくなってきた。

 ん?んん?

 目にズーム機能がついた感じだ。

 遠くのものも、近くのものも自在にみることができる。

 門の前の様子を拡大してみる。

 本当だ。

 城の兵士(豚鼻の魔物)が女を凌辱していた。

 縄で縛り上げ、無理やり自分のペニスを突っ込んでいる。

 女たちは苦しそうに顔を歪め、許しを懇願している。
 体は豚鼻たちの精液でベトベトだ。

 手首と胴体に縄をつけられた女たちが、何人も、何人もおりに入れられていた。

 看守のような兵士が、鞭を打ちつけている。

 見ていられない。

 ここは地獄か。

「地獄よ。人間の言う地獄とはここのこと。あの豚鼻は、獄卒。女たちは生前罪を犯したの」

「人間の言う地獄は大抵地下にあるみたいだけど、ここは空の上ね。まあそれはどうでもいいわ。上だろうが下だろうが同じことよ」

「罪は罰によって贖う。ここでは犯されることが罰なの。今は刑の執行中なのね」

 そう言われても。

 急には理解できない。

「そういえば、突然だけど、あなたの名前ってなんなの?きいてもずっと教えてくれないし」

 ぐ。

 本当に突然だな。

 それは教えたくない。

 なぜなら恥ずかしい。

「いい加減、教えてよ。呼ぶとき困るでしょう?」

 うーむ。

 仕方がないな。

 ぼくの名前は。

「山田クリス?クリス、クリス……。ハーフ?」

 違う。

 断じて違う。

 父も母も日本人、祖父も祖母も日本人だ。

 なぜか祖父が外国の名前をつけた。

 アメリカとか好きだったもんな、じいちゃん。

「ふーん、ま、いいわ。変な名前だって気にしない。おおかたその名前でいじめられたりしたんでしょう。慰めてあげてもいいのよ?」

 胸をボヨン、と揺らす。

 む。

 それはそうしてほしいが。

 今はそれどころじゃ……。

「青姦もいいけどね。今はそれどころじゃないわよねー。あれ。どうする?」

 どうするって。

 あなた大魔王の娘でしょう?

「目立つのは嫌いなの。できたら静かに入りたいし。アレに見つかったら面倒そうでしょう?」

 えええ。

 むしろ見つからないように行く方が面倒そう。

 ステルスゲーかよ。

「考えてよ、クリスー」

 うぐ。

 その名で呼ぶな。

 どうする……。

「ふふふ、嘘よ。どうするかなんてもう考えてるわ。その黒い花をかして」

 黒い花?

 これをどうするって言うんだろう。

 とりあえず渡す。

 はい。

「ありがと。これを……。えい」

 黒い花を握り潰した。

 ぐしゃぐしゃにすりつぶす。

 黒い液が滴る。

 その液体を指ですくって、自分の鼻の頭に塗る。

 キャサリンの体がぼやけて、薄くなる。

 やがて全く見えなくなった。

「この花をすりつぶして体に塗ると、透明になれるのよ。すごいでしょ」

 見えないけど、多分得意げな顔をしているんだろう。
 ぼくも彼女にならって、黒い液体を鼻の頭にぬる。

 体が見えなくなる。

 不思議な感覚だ。

 海で泳いだ後のけだるい感じに少し似ている。

 えー、これってもしかして女湯に入ってもバレないだろうか。

「変なこと考えないでね」

 なんかバレてる。

 バレバレである。

 びびった。

 うん、よし、これで城に侵入できそうだ。

 行こうか、キャサリンを産んだ人のもとへ。

「ええ。それはいいんだけど、本当に、女湯覗いたりとかしないでね?」

 なんでわかるんだよ!
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