17 / 18
最終章 すみれさんとのこれから
17「すみれさんのアパートへ」
しおりを挟む
すみれは大きな窓の向こうを眺める。それに釣られて俺も外を眺めてみると、まだ雪が降り続いていた。このまま振り続けば、明日には結構積もるんじゃないか。
「積もるかもな」
「……」
「すみれ?」
すみれは両手をぎゅっと握ったまま、緊張した様子で話し出した。
「勇くん、私、最近少しおかしいのよ。うまく話せないの」
「どういうこと?」
「そうねえ……。説明が難しいんだけど、例えば自分が探している言葉が箱に入っているとするでしょう? 私はその箱を開けるんだけど、中は空っぽなの。よしんば探している言葉が箱に入っていたとしても、使い方がわからなかったりね。そういうことが、たまにあるの。私、どうかしちゃったのかしら」
きっと、和史さんのことが相当ショックだったんだ。今彼がどうなっているのかわからないし、すみれがどんな暮らしを送っているのかわからないが、好ましい状況ではないだろう。心が不安定になっているのかもしれない。
俺は彼女の肩に手をおいて、
「大丈夫だよ。すぐ良くなるさ」
と言った。そうとしか言えなかった。
そのあとはそれぞれ図書館で用事をすませることにした。一時間ほど図書館の中をさまよい、探していた本を見つけ、それを何冊か抱えて、カウンターに向かう。
司書さんがバーコードリーダーの様なもので俺の借りた本をチェックしているのを待っていると、隣のカウンターにすみれが大量の本を抱えて入ってきた。
あっちも俺に気づいたらしく、少し驚いた顔をしている。
俺は先にカウンターを出て、図書館の入り口ですみれを待っていた。ここで別れたら、もう会えないかもしれない。
五分ほど待つと、すみれが図書館の門から出てきた。
「そんな大量の本、読めるの?」
「読めないわよ。せいぜい二、三冊が限度ね。読めないけど、気になる本が多いのよ。借りれるだけ借りているの」
「気になる本、ねえ」
雪が降り続いている。この街を真っ白に染めてくれる、雪。
どんっ、と俺の腰のあたりに何かがぶつかる。数年前の記憶が蘇る。数秒間、俺は固まっていた。
「ごめんなさい~。ああ、ジュースこぼしちゃったのね。濡れましたよね。本当にすいません。どうしよう……」
ぶつかってきたのはジュースを持った子供で、その母親が子供を追いかけてきて俺に謝ってきた。
「いいんです。大丈夫ですよ。俺のことより、その子に怪我はありませんでしたか?」
「ええ、大丈夫です。本当にすいません……」
そんなやりとりをしばらくしたあと、俺たちは親子と別れて、雪の降る街を歩き出した。
「ねえ、その濡れた服、どうするの?」
「そりゃあ洗濯して乾かすさ」
「ふーん……」
「なんだよ?」
「ねえ、私のアパートに来ない? 乾かしてあげる」
「……行くよ」
「積もるかもな」
「……」
「すみれ?」
すみれは両手をぎゅっと握ったまま、緊張した様子で話し出した。
「勇くん、私、最近少しおかしいのよ。うまく話せないの」
「どういうこと?」
「そうねえ……。説明が難しいんだけど、例えば自分が探している言葉が箱に入っているとするでしょう? 私はその箱を開けるんだけど、中は空っぽなの。よしんば探している言葉が箱に入っていたとしても、使い方がわからなかったりね。そういうことが、たまにあるの。私、どうかしちゃったのかしら」
きっと、和史さんのことが相当ショックだったんだ。今彼がどうなっているのかわからないし、すみれがどんな暮らしを送っているのかわからないが、好ましい状況ではないだろう。心が不安定になっているのかもしれない。
俺は彼女の肩に手をおいて、
「大丈夫だよ。すぐ良くなるさ」
と言った。そうとしか言えなかった。
そのあとはそれぞれ図書館で用事をすませることにした。一時間ほど図書館の中をさまよい、探していた本を見つけ、それを何冊か抱えて、カウンターに向かう。
司書さんがバーコードリーダーの様なもので俺の借りた本をチェックしているのを待っていると、隣のカウンターにすみれが大量の本を抱えて入ってきた。
あっちも俺に気づいたらしく、少し驚いた顔をしている。
俺は先にカウンターを出て、図書館の入り口ですみれを待っていた。ここで別れたら、もう会えないかもしれない。
五分ほど待つと、すみれが図書館の門から出てきた。
「そんな大量の本、読めるの?」
「読めないわよ。せいぜい二、三冊が限度ね。読めないけど、気になる本が多いのよ。借りれるだけ借りているの」
「気になる本、ねえ」
雪が降り続いている。この街を真っ白に染めてくれる、雪。
どんっ、と俺の腰のあたりに何かがぶつかる。数年前の記憶が蘇る。数秒間、俺は固まっていた。
「ごめんなさい~。ああ、ジュースこぼしちゃったのね。濡れましたよね。本当にすいません。どうしよう……」
ぶつかってきたのはジュースを持った子供で、その母親が子供を追いかけてきて俺に謝ってきた。
「いいんです。大丈夫ですよ。俺のことより、その子に怪我はありませんでしたか?」
「ええ、大丈夫です。本当にすいません……」
そんなやりとりをしばらくしたあと、俺たちは親子と別れて、雪の降る街を歩き出した。
「ねえ、その濡れた服、どうするの?」
「そりゃあ洗濯して乾かすさ」
「ふーん……」
「なんだよ?」
「ねえ、私のアパートに来ない? 乾かしてあげる」
「……行くよ」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる