悪役令嬢は呑んだくれ放浪の旅に出たい

はるみ

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6.焼酎持ってこいっ!

っえ、水割り?そんなものありません

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休暇に入り、その時が来るのはわかっていた。
その日の為にこれまでキールと会議を重ねてきた。

そして、ついにその日はやってきた。


前回、屋敷に帰ってきたのは何時であろう・・・。
久しぶりに屋敷に戻ってきたお父様は、一人の少女を連れて来た。
そして屋敷の者達を集め少女を紹介する。

「今日からコアントロー公爵家の一員となる、キルシュだ。カシス、お前と同じ歳の妹となる。色々と面倒を見てあげるように。」


相変わらず、家族のことを考えられない花畑恋愛脳クソジジイだな。
本当にゲームの設定通りに、愛人との娘を屋敷に連れ込みやがった。
それも私に「面倒を見ろ」と言いやがった。

この頃は大人しかったので「本当にダメなやつだけど、いいところもあるのかもしれない」とちょっと、ちょぉーと思ってあげようと思ったりなかったりしたのに・・・。

所詮やはりこいつはクズだったってことね。


さて、クズが連れ込んだ小娘に視線を向ける。

いかにも「ヒロイン」といった外観だ。
薄いピンクのふわふわの髪が肩の辺りで揺れている。垂れ目気味の大きな金色の瞳は潤んでおりこぼれ落ちそうだ。
小柄で華奢な体で、いかにも男性の保護欲をかき立てる要素を「これでもかっ!!」と詰め込んだ感じの美少女だ。

現在、クズの背後に隠れ、やたら怯えたフリをしている。
そんな外観の彼女なので、本当に怯えていたとしても『フリ』にしかもはや見えない。


「旦那様、そんなドブネズミをこの屋敷に連れ込まないで下さいまし。早く捨ててきて下さいな。」

おぉう、早速お母様の先行攻撃がきました!

「お前はっ! キリュシュに対して何ていう事をっ!」

お父様がお母様に怒鳴りかかる。
キリュシュという娘は、潤んだ瞳に更に涙を浮かべお父様の服にしがみ付く。

しかし屋敷中の人間がお父様と、お父様が連れ込んだ娘に冷ややかな視線を向けている。

「・・・ふぅ。カシスちゃん、キール君、お部屋に戻りましょう。セバスチャン、旦那様とそのゴミの片付けしておいて下さいね。」

「かしこまりました。奥様」

お父様が愛人の家に転がり込んで生活をしてきたこの16年。
もはやこのコアントローの屋敷の事実上の主人は、お父様ではなくお母様になっていた。


私とキールはお母様に背中を押され、その場を去った。


お母様、流石です。

その日私は言葉を発する必要は無く終わった。


_________


その日の晩、キールと私は図書室で既に何回も開かれている『ヒロイン対策会議』を行った。

まずはいつもの『おつ糸黙示録』を広げる。
今日からの日の為に、大分このノートも使い込まれて年季が入って来た。

ヒロインはと・・・・

ー+ー+ー+ー+ー
=『おつ糸黙示録』=
P42
ヒロイン『キリュシュ』。(初期設定ネーム。)
プレイヤーで変更可能。

乙女ゲーム『お菓子で繋がる運命の赤い糸』のヒロイン。
明るく元気で前向きな少女。
市井で平民として育てられて来たが、母の死を機に父から自分は侯爵家の娘だと知らされる。その後、父と共に侯爵家に入るが、父の正妻とその娘から、虐げられる。
しかしやがて、その苛めに耐え健気に頑張っている姿に周りの者達は心打たれ、彼女を受け入れていく。

趣味はお菓子作り。
攻略対象にはイベントの他、お菓子を作って攻略対象にプレゼントをしていくことにより、恋愛ゲージを上げていく。

EDには、「GOOD ED」、「大円団 ED」、「NORMAL ED」の3つがある。
全てのEDで、カシスは学園の卒業パーティでこれまで色々と嫌がらせをしてきた罪で断罪される。

「GOOD ED」では、それぞれの攻略対象ごとにEDは違うが断罪は避けられず、ギムレット、マティーニでは処刑、キールでは修道院送りとなる。

「大円団 ED」とは、全ての攻略対象と恋愛成熟するハーレムエンドで、カシスは「GOOD  ED」よりちょっとキツめに処刑される。

「NORMAL ED」では、攻略対象の誰とも恋愛関係にはならないが、周りのサポートでカシスを断罪し、カシスは侯爵家から排籍され平民に下る。

ー+ー+ー+ー+ー


・・・。

常日頃から思っていたが、「大円団」はまず避けないとっ!
ただでさえ処刑で殺されるのに「ちょっとキツめ」とか本当に勘弁してくださぃ。

キールの考えは、ゲームで準備されている全てのEDを「無し」とし、新しいEDとしてヒロインを侯爵家から追い出し私がこれまで通り平穏にコアントロー家で過ごすというEDにしたいらしい。

そのEDも素敵だが、私の夢は『呑んだくれ放浪旅』。

実は、「NORMAL ED」も素敵な選択だと思っている。
キールに言ったら怒られそうなので伝えていない・・・。

まぁ、どのみちどうなるかわからないので、私は計画通り、卒業パーティー前日頃に国外逃亡しますがねっ!


「警戒するのは王子‘sの「GOOD  ED」と「NORMAL ED」ですね。僕が居る限り「大円団 ED」は無いです。王子‘s は今は姉さんに気があるように振る舞ってますが、ヒロインが出てきたのでこの先分かりません。」

っえ?! あいつらの何処が私に気があるように見える?!
ただの玩具としてしか私を見てないだろう・・・?

まぁ、話が逸れそうなので、このことは置いておこう。

「キールは今日、ヒロインのキリュシュに会って何か気持ちが変わったとか無かったの? ほら前世の記憶で言うとヒロインって、「ヒロイン補正」とか言う特殊能力を持っているかもしれないらしいじゃん?」

ずっと心配していたことを尋ねる。

その質問をキールはキッパリ否定をした。

「全く無かったですね。っと言うか、彼女を一目見て「なんだこの露骨に怯えて見せてる気持ち悪い女は?」と思いました。」

ふむ。
キールの表現はかなり悪いが、私と同じ感想だね。
「ヒロイン補正」は無しと。

「今後発生するイベント等のことはノートにも記載してありますが、僕もなるべく都度、姉さんに声かけをします。」

「うん、ありがとう!」

本当にキール様様だ。

「まず明日ですね。明日彼女は姉さんのお気に入りの屋敷庭ベンチにいるはずです。見かけても絡まず無視してくださいね。その絡みがゲームで出てくる苛めのシーンになりますから。」

えー、、、あそこに座ってるの?!
あそこのベンチは憩の場所なのに・・・。
盗られちゃうの??
・・・っう、でもしょうがない。。。

「了解!」

とりあえず今日の『ヒロイン対策会議』これにて終了した。
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