10 / 16
猫のミケットはご主人様を探すにゃー【青の魔女②】
しおりを挟む
「ご主人様、昨日は結局、帰って来なかったにゃ」
玄関で丸くなりながら、三毛猫のミケットは寂しそうに呟いた。
最近なんだか元気がなかったし、少し心配になってくる。外はもう朝だ。
ミケットはむくりと起き上がると、部屋の奥へと移動する。それから水飲み場で水分を補給するが、空腹でお腹がぐううと鳴った。
「仕方ない、探しに行くにゃ。全く世話の焼けるご主人様にゃ」
ミケットは前脚を伸ばしてお尻を突き出し、ぐぐぐと大きく伸びをする。それからプルプルと頭を振ると、いつも開いてる小さな小窓から外の世界へと躍り出た。
~~~
「来てねーぞ」
アメショのシルバーが、エサを頬張りながら短く答えた。
ここは庭の広い大きなお家。出てくる食べ物の質も高いので、ミケットも時々こうして顔を突き合わせる。相席食堂だ。
「てか、お前のご主人が、俺の食べ物をタカリになんて来ねーだろ」
「…それもそうだにゃ」
「ご主人探すなら、お前の好きな場所じゃなくて、ご主人の好きな場所を探さねーと」
「なるほどにゃ! シルバー天才だにゃ!」
ミケットは瞳を輝かせると、シルバーにひと声かけてから、ひょいと庭の塀を飛び越えた。
~~~
『知ってます、奥さん? 昨晩そこのコンビニ前の交差点で、若い女性の飛び込み自殺があったそうよ』
『ええ、聞きました。まだ学生さんだったとか。トラックの運転手さんもお気の毒に』
塀の上をトコトコ歩いていたミケットは、噂話をするふくよかな女性二人組の頭の上を通過する。
それから脚の速い鉄の塊がたくさん通る場所に近付くと、不意に慣れた気配に包まれた。
「ご主人様の気配だにゃ!」
ミケットは辺りをキョロキョロ見回すと、いつでも明るいお店を発見する。
「あれは、ご主人様がいつも食べ物を仕入れる場所だにゃ」
そのまま一目散に駆け寄って、裏手の倉庫から屋根の上に駆け登った。
「ここでずっと待ってたら、きっとご主人様が来る筈にゃ」
ミケットはムフーと鼻息を鳴らすと、入り口の見える場所で丸くなる。
そうして幾日も幾日も待ち続けた。
~~~
「あなた、こんな所で何をしてるの?」
不意に声をかけられ、ミケットは驚いて両眼を見開いた。
目の前に、水色ワンピースを着た、中学生くらいの少女が立っている。艶のある黒髪ロングのポニーテールが、爽やかな風に心地良く揺れていた。
周りには、白い花の咲くお花畑が広がっている。
気が付くと、ここに一人で座り込んでいた。
「聞こえないの?」
少女がぐぐいと、顔を近付けてくる。
「…分からない。何かを探していた気がする」
「そう、よっぽど大事な物だったのね。可愛い顔が台無しよ」
少女はミケットの手を取ると、直ぐそばの泉へと連れて行く。その動作に、何故だか不思議な違和感を覚えた。
「あなた涙でぐしゃぐしゃだから、先ずは顔を洗ってサッパリしなさい」
透明に透き通ったその泉は、キラキラと日射しを照り返して凄く眩しい。少し顔をしかめながら、言われるがままミケットは水面を覗き込む。
そこに映し出された顔立ちは、人間の少女のものだった。
慌てて手足を確認する。それから頭、ついでにお尻。耳と尻尾は生えてるが、何だかいつもと違うような感じがした。
「何をしてるの? 早くサッパリしちゃいなさい」
「う、うん」
バシャバシャと顔を洗い終わると、目の前に手ぬぐいが差し出される。ミケットはそのままそれを受け取って、ゴシゴシと濡れた顔を拭き取った。
「もう一度、聞くわね。ここで何をしてたの?」
「…分からない」
ミケットはゆっくりと首を振る。
「じゃあ、何を探してるの?」
「…思い出せない」
ミケットの非協力的な反応に、少女は小さく溜め息を吐いた。
「だったら名前。あなたの名前を教えてよ」
「……」
「まさか、名前も分からないの⁉︎」
「…ミケット」
「ミケット⁉︎」
少女の驚いた反応に、ミケットは思わず顔を見上げた。思えばこの少女には、何だか不思議な懐かしさがある。
「……まさかね」
少女は自分を言い聞かせるように呟くと、俯き加減で首を横に振った。
「あの…?」
「ああ、ごめんなさい」
ミケットの戸惑いに気付いてか、少女は再びその表情に笑顔を灯す。
「ここはこんな見た目だけど、怖い魔獣のいる危険な場所なの。とりあえず師匠のところに案内するから、一緒についていらっしゃい」
少女にグイッと右手を引かれ、ミケットは慌てて立ち上がった。それから頭ひとつ分背の高い少女の顔を、歩きながらもそっと見上げる。
「…えっと」
「ああそうね、私はハツカ。初夏と書いてハツカ。まあ漢字なんてどうでもいいか。後から勝手に付けただけだし」
ハツカは明るく笑い声をたてると、それからマジマジとミケットを観察した。
「それにしても、あなた子どものクセに、綺麗で長い足をしてるわね」
薄汚れたような灰色のシャツ一枚の下には、スラリとした長い足が伸びている。
「蹴り技主体で戦い方を覚えたら、きっとスゴく映えるでしょうね」
「バエル?」
「ああ、えっと…とても素敵だって事よ」
「そうか。だったらバエルように頑張る」
「ふふ、頑張って」
二人は仲良く手を繋いで、森の中を歩いて行く。
もしかしたら探し物は見つかったのかもしれないと、ミケットは何となくそう思った。
~おしまい~
玄関で丸くなりながら、三毛猫のミケットは寂しそうに呟いた。
最近なんだか元気がなかったし、少し心配になってくる。外はもう朝だ。
ミケットはむくりと起き上がると、部屋の奥へと移動する。それから水飲み場で水分を補給するが、空腹でお腹がぐううと鳴った。
「仕方ない、探しに行くにゃ。全く世話の焼けるご主人様にゃ」
ミケットは前脚を伸ばしてお尻を突き出し、ぐぐぐと大きく伸びをする。それからプルプルと頭を振ると、いつも開いてる小さな小窓から外の世界へと躍り出た。
~~~
「来てねーぞ」
アメショのシルバーが、エサを頬張りながら短く答えた。
ここは庭の広い大きなお家。出てくる食べ物の質も高いので、ミケットも時々こうして顔を突き合わせる。相席食堂だ。
「てか、お前のご主人が、俺の食べ物をタカリになんて来ねーだろ」
「…それもそうだにゃ」
「ご主人探すなら、お前の好きな場所じゃなくて、ご主人の好きな場所を探さねーと」
「なるほどにゃ! シルバー天才だにゃ!」
ミケットは瞳を輝かせると、シルバーにひと声かけてから、ひょいと庭の塀を飛び越えた。
~~~
『知ってます、奥さん? 昨晩そこのコンビニ前の交差点で、若い女性の飛び込み自殺があったそうよ』
『ええ、聞きました。まだ学生さんだったとか。トラックの運転手さんもお気の毒に』
塀の上をトコトコ歩いていたミケットは、噂話をするふくよかな女性二人組の頭の上を通過する。
それから脚の速い鉄の塊がたくさん通る場所に近付くと、不意に慣れた気配に包まれた。
「ご主人様の気配だにゃ!」
ミケットは辺りをキョロキョロ見回すと、いつでも明るいお店を発見する。
「あれは、ご主人様がいつも食べ物を仕入れる場所だにゃ」
そのまま一目散に駆け寄って、裏手の倉庫から屋根の上に駆け登った。
「ここでずっと待ってたら、きっとご主人様が来る筈にゃ」
ミケットはムフーと鼻息を鳴らすと、入り口の見える場所で丸くなる。
そうして幾日も幾日も待ち続けた。
~~~
「あなた、こんな所で何をしてるの?」
不意に声をかけられ、ミケットは驚いて両眼を見開いた。
目の前に、水色ワンピースを着た、中学生くらいの少女が立っている。艶のある黒髪ロングのポニーテールが、爽やかな風に心地良く揺れていた。
周りには、白い花の咲くお花畑が広がっている。
気が付くと、ここに一人で座り込んでいた。
「聞こえないの?」
少女がぐぐいと、顔を近付けてくる。
「…分からない。何かを探していた気がする」
「そう、よっぽど大事な物だったのね。可愛い顔が台無しよ」
少女はミケットの手を取ると、直ぐそばの泉へと連れて行く。その動作に、何故だか不思議な違和感を覚えた。
「あなた涙でぐしゃぐしゃだから、先ずは顔を洗ってサッパリしなさい」
透明に透き通ったその泉は、キラキラと日射しを照り返して凄く眩しい。少し顔をしかめながら、言われるがままミケットは水面を覗き込む。
そこに映し出された顔立ちは、人間の少女のものだった。
慌てて手足を確認する。それから頭、ついでにお尻。耳と尻尾は生えてるが、何だかいつもと違うような感じがした。
「何をしてるの? 早くサッパリしちゃいなさい」
「う、うん」
バシャバシャと顔を洗い終わると、目の前に手ぬぐいが差し出される。ミケットはそのままそれを受け取って、ゴシゴシと濡れた顔を拭き取った。
「もう一度、聞くわね。ここで何をしてたの?」
「…分からない」
ミケットはゆっくりと首を振る。
「じゃあ、何を探してるの?」
「…思い出せない」
ミケットの非協力的な反応に、少女は小さく溜め息を吐いた。
「だったら名前。あなたの名前を教えてよ」
「……」
「まさか、名前も分からないの⁉︎」
「…ミケット」
「ミケット⁉︎」
少女の驚いた反応に、ミケットは思わず顔を見上げた。思えばこの少女には、何だか不思議な懐かしさがある。
「……まさかね」
少女は自分を言い聞かせるように呟くと、俯き加減で首を横に振った。
「あの…?」
「ああ、ごめんなさい」
ミケットの戸惑いに気付いてか、少女は再びその表情に笑顔を灯す。
「ここはこんな見た目だけど、怖い魔獣のいる危険な場所なの。とりあえず師匠のところに案内するから、一緒についていらっしゃい」
少女にグイッと右手を引かれ、ミケットは慌てて立ち上がった。それから頭ひとつ分背の高い少女の顔を、歩きながらもそっと見上げる。
「…えっと」
「ああそうね、私はハツカ。初夏と書いてハツカ。まあ漢字なんてどうでもいいか。後から勝手に付けただけだし」
ハツカは明るく笑い声をたてると、それからマジマジとミケットを観察した。
「それにしても、あなた子どものクセに、綺麗で長い足をしてるわね」
薄汚れたような灰色のシャツ一枚の下には、スラリとした長い足が伸びている。
「蹴り技主体で戦い方を覚えたら、きっとスゴく映えるでしょうね」
「バエル?」
「ああ、えっと…とても素敵だって事よ」
「そうか。だったらバエルように頑張る」
「ふふ、頑張って」
二人は仲良く手を繋いで、森の中を歩いて行く。
もしかしたら探し物は見つかったのかもしれないと、ミケットは何となくそう思った。
~おしまい~
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
なお、スピンオフもございます。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた
しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。
すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。
早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。
この案に王太子の返事は?
王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる