さこゼロ短編集

さこゼロ

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猫のミケットはご主人様を探すにゃー【青の魔女②】

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「ご主人様、昨日は結局、帰って来なかったにゃ」

 玄関で丸くなりながら、三毛猫のミケットは寂しそうに呟いた。

 最近なんだか元気がなかったし、少し心配になってくる。外はもう朝だ。

 ミケットはむくりと起き上がると、部屋の奥へと移動する。それから水飲み場で水分を補給するが、空腹でお腹がぐううと鳴った。

「仕方ない、探しに行くにゃ。全く世話の焼けるご主人様にゃ」

 ミケットは前脚を伸ばしてお尻を突き出し、ぐぐぐと大きく伸びをする。それからプルプルと頭を振ると、いつも開いてる小さな小窓から外の世界へと躍り出た。

 ~~~

「来てねーぞ」

 アメショのシルバーが、エサを頬張りながら短く答えた。

 ここは庭の広い大きなお家。出てくる食べ物の質も高いので、ミケットも時々こうして顔を突き合わせる。相席食堂だ。

「てか、お前のご主人が、俺の食べ物をタカリになんて来ねーだろ」

「…それもそうだにゃ」

「ご主人探すなら、お前の好きな場所じゃなくて、ご主人の好きな場所を探さねーと」

「なるほどにゃ! シルバー天才だにゃ!」

 ミケットは瞳を輝かせると、シルバーにひと声かけてから、ひょいと庭の塀を飛び越えた。

 ~~~

『知ってます、奥さん? 昨晩そこのコンビニ前の交差点で、若い女性の飛び込み自殺があったそうよ』

『ええ、聞きました。まだ学生さんだったとか。トラックの運転手さんもお気の毒に』

 塀の上をトコトコ歩いていたミケットは、噂話をするふくよかな女性二人組の頭の上を通過する。

 それから脚の速い鉄の塊がたくさん通る場所に近付くと、不意に慣れた気配に包まれた。

「ご主人様の気配だにゃ!」

 ミケットは辺りをキョロキョロ見回すと、いつでも明るいお店を発見する。

「あれは、ご主人様がいつも食べ物を仕入れる場所だにゃ」

 そのまま一目散に駆け寄って、裏手の倉庫から屋根の上に駆け登った。

「ここでずっと待ってたら、きっとご主人様が来る筈にゃ」

 ミケットはムフーと鼻息を鳴らすと、入り口の見える場所で丸くなる。

 そうして幾日も幾日も待ち続けた。

 ~~~

「あなた、こんな所で何をしてるの?」

 不意に声をかけられ、ミケットは驚いて両眼を見開いた。

 目の前に、水色ワンピースを着た、中学生くらいの少女が立っている。艶のある黒髪ロングのポニーテールが、爽やかな風に心地良く揺れていた。

 周りには、白い花の咲くお花畑が広がっている。

 気が付くと、ここに一人で座り込んでいた。

「聞こえないの?」

 少女がぐぐいと、顔を近付けてくる。

「…分からない。何かを探していた気がする」

「そう、よっぽど大事な物だったのね。可愛い顔が台無しよ」

 少女はミケットの手を取ると、直ぐそばの泉へと連れて行く。その動作に、何故だか不思議な違和感を覚えた。

「あなた涙でぐしゃぐしゃだから、先ずは顔を洗ってサッパリしなさい」

 透明に透き通ったその泉は、キラキラと日射しを照り返して凄く眩しい。少し顔をしかめながら、言われるがままミケットは水面を覗き込む。

 そこに映し出された顔立ちは、人間の少女のものだった。

 慌てて手足を確認する。それから頭、ついでにお尻。耳と尻尾は生えてるが、何だかいつもと違うような感じがした。

「何をしてるの? 早くサッパリしちゃいなさい」

「う、うん」

 バシャバシャと顔を洗い終わると、目の前に手ぬぐいが差し出される。ミケットはそのままそれを受け取って、ゴシゴシと濡れた顔を拭き取った。

「もう一度、聞くわね。ここで何をしてたの?」

「…分からない」

 ミケットはゆっくりと首を振る。

「じゃあ、何を探してるの?」

「…思い出せない」

 ミケットの非協力的な反応に、少女は小さく溜め息を吐いた。

「だったら名前。あなたの名前を教えてよ」

「……」

「まさか、名前も分からないの⁉︎」

「…ミケット」

「ミケット⁉︎」

 少女の驚いた反応に、ミケットは思わず顔を見上げた。思えばこの少女には、何だか不思議な懐かしさがある。

「……まさかね」

 少女は自分を言い聞かせるように呟くと、俯き加減で首を横に振った。

「あの…?」

「ああ、ごめんなさい」

 ミケットの戸惑いに気付いてか、少女は再びその表情に笑顔を灯す。

「ここはこんな見た目だけど、怖い魔獣のいる危険な場所なの。とりあえず師匠せんせいのところに案内するから、一緒についていらっしゃい」

 少女にグイッと右手を引かれ、ミケットは慌てて立ち上がった。それから頭ひとつ分背の高い少女の顔を、歩きながらもそっと見上げる。

「…えっと」

「ああそうね、私はハツカ。初夏と書いてハツカ。まあ漢字なんてどうでもいいか。後から勝手に付けただけだし」

 ハツカは明るく笑い声をたてると、それからマジマジとミケットを観察した。

「それにしても、あなた子どものクセに、綺麗で長い足をしてるわね」

 薄汚れたような灰色のシャツ一枚の下には、スラリとした長い足が伸びている。

「蹴り技主体で戦い方を覚えたら、きっとスゴくえるでしょうね」

「バエル?」

「ああ、えっと…とても素敵だって事よ」

「そうか。だったらバエルように頑張る」

「ふふ、頑張って」

 二人は仲良く手を繋いで、森の中を歩いて行く。

 もしかしたら探し物は見つかったのかもしれないと、ミケットは何となくそう思った。



 ~おしまい~
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