上 下
86 / 98
番外編

イバキ市奪還作戦 14

しおりを挟む
ホリンは大きく息を吸い込むと「くっ」と気合いを入れた。同時に金色の闘気オーラが、全身から炎のように噴き上がる。

「鬼神…招来」

ホリンは脱力するように目を閉じた。すると噴き上がったオーラが収縮を始め、ただ一点、ホリンの額の中心へと集まってくる。

その直後、ホリンは勢いよく目を見開いた。

「開、眼!!」

次の瞬間、ホリンの額のオーラから、一条の光が光線のように真っ直ぐ伸びていく。

「がぁぁあああーー!」

同時に断末魔のような声で咆哮すると、仰反るように天を仰いだ。

一条の光は徐々にその太さを増し、やがて夜空を照らすほどの光を放った。

「やっと出番かよ!遅いってんだ!」

突然、荒々しい男の声が辺りに響く。

肩に光槍を担ぎ振り返ったホリンの額には、縦に裂けるように黄金に輝く第三の眼が開いていた。

それから光槍を右手でクルリと一回転させると、両手で構えて腰を落とす。そのまま見上げるように、岩石の巨兵をギロリと三ツ眼で睨みつけた。

「こんな木偶の坊相手に、何時までも手こずってんじゃねーよ!」

ホリンはダンッと地面を蹴ると、一瞬でハベードの巨兵の背後に到達する。遅れて激しい爆裂音が響くと、岩石の巨兵の右足が砕け散った。

突然バランスを失い、ハベードの巨兵の姿勢が大きく傾く。巨兵の頭上に立っていたハベードも、自由落下のような浮遊感に襲われた。

「なぬ?」

頭に血が昇っていたハベードは、訳も分からず気が動転する。しかし瞬時に動揺から脱すると、右足修復のために巨兵の頭頂部をコツンと突いた。

だが次の瞬間、凄まじい轟音と共に巨兵の左足が砕け散る。右足の修復はまだ間に合っていない。

支えを失ったハベードの巨兵の上半身が、当然のように落下を始めた。反応の遅れたハベードも一瞬落下に巻き込まれる。

しかしハベードは冷静に魔力を練成すると、瞬時に浮遊状態に移行した。

巨兵の上半身は爆音と共に地面に激突し、大地が激しく振動する。凄まじい土煙が舞い上がり、ハベードの周囲を覆い尽くした。

「邪魔だっ!」

ハベードは杖を横にフイと振って、土煙をバッと吹き飛ばした。そして視界が開けた瞬間、黄金に輝く禍々しい瞳が自身の目前に迫っていた。

   ~~~

ホリンは光槍でハベードを真上から叩きつけた。ハベードは堪えきれず隕石のように落下し、地面に激突する。

その衝撃で地面がクレーターのように陥没し、ハベードの防護壁が一撃で粉微塵になった。

「馬鹿な!」

ハベードは狼狽しながらも防護壁を再展開する。そして忌々しそうに上空を見上げた。

「何処、見てんだよ!」

突然背後から声が響く。

振り向く暇もなく、凄まじい衝撃により再び防護壁が砕け散った。

ハベードは最早本能だけで防護壁を再展開させた。

粉砕…再展開、粉砕…再展開、粉砕…再展開。

ホリンの一撃で、ハベードの防護壁はことごとく打ち砕かれていく。

「けっ!反応だけは早えーじゃねーか」

ホリンが嬉々として嗤った。

(馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な…)

ハベードともあろう者が防戦一方である。とても認める訳にはいかなかった。

「キサマ、一体何者だ!」

「『神槍ゲイボルグ』のホリンだ。此の名、地獄の駄賃に取っときな」

ホリンが意地悪く嗤う。

「人間ごときが…図に乗るな!」

ハベードは激昂すると同時に、瞬時に魔力を爆発させた。自身を中心に、凄まじい衝撃波が円環状に広がっていく。

大量の土煙が舞い上がり、周囲の視界が遮られる。しかし右前方にユラリと映った人影を、ハベードは見逃さなかった。

「馬鹿めっ!」

ハベードは杖を向けて巨兵の上半身をフワリと持ち上げると、人影目掛けて叩きつけた。

激しい轟音と共に、地面がグラグラと揺れる。

舞い上がった土煙で更に視界が悪くなるなか、しかしその人影は未だ健在であった。

「今なら引っ掛かると思ったよ」

アサノのあざけるような声が周囲に響く。

「ぐがっ!」

その瞬間、ハベードは胸に熱いモノを感じた。

背後から防護壁を貫いた光の槍が、ハベードの胸まで貫いていた。
しおりを挟む

処理中です...