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番外編
イバキ市奪還作戦 15
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「ちっ…時間切れ、かよ」
ハベードを刺し貫いた体勢のまま、ホリンは力が抜けたように片膝をつく。黄金に輝く第三の眼が、湯気のようにすーと立ち昇り消えていった。
ホリンの「鬼神化」には制約が存在する。
己の闘気を爆発させて、一時的に鬼神のごとき力を得るが、5分程で肉体に限界が来てしまう。その後は肉体の回復に専念し、死んだように深い眠りに就いてしまうのだ。
ホリンにとっては、本当に最後の切り札であった。
「お…のれー」
ハベードは胸から突き出ている槍を握りしめ、首だけ振り向きホリンを睨みつける。
「ちゃんと、責任…とれよ」
ホリンはその場に両膝をつくと、槍を握ったままカクンと首がうな垂れた。
「任せろ!」
ターニャが一瞬で、ホリンとハベードの間にシュパンと現れる。それからホリンの槍を左手で握りしめると、稲妻が迸る右拳でハベードの顔面を豪快に殴りつけた。
「ぎゃああーーっっ」
ハベードはその一撃で槍からすっぽ抜け、絶叫を撒き散らせながら吹っ飛んでいく。
直ぐさまソアラたちがホリンの元に駆け寄り、眠るホリンの確保に成功する。
「この儂が、ここまで…」
向こうでハベードがふらふらと立ち上がった。そして怒りに満ちた紅い瞳でターニャを睨みつける。
「ゆ、赦さんぞーー!」
ハベードが喉も張り裂けんばかりに激昂した。その勢いで目深に被っていたフードがずれ落ち、その顔の容姿が剥き出しになる。
緑色の皮膚に頭髪はない。紅く大きなビー玉のような両眼を限界まで見開き、鼻と口元から紫色の血が流れて出ている。そして外套の内側から流れ落ちる血液で、ハベードの足下には紫色の血溜まりが出来ていた。
「あ…」
そのときターニャは、とても場違いな、何とも間抜けな声を出した。
次の瞬間、ハベードの背後に音も無く現れたアサノが、片手剣を深々と突き刺した。同時にハベードの全身に、バリバリと電撃が駆け巡る。
「オマエ、ちょっと迂闊すぎ」
「が……あ…」
アサノはハベードの耳元で囁くと、剣を引き抜きスッと離れた。
ハベードはビクビクと痙攣を起こしながら、首がカクンと天を仰ぐ。
同時に後方に控えていたサカシタが、渾身の力でハルバードを振り抜いた。
ハベードの首がスパンと跳ね飛び、ターニャの足元へと転がっていく。
「美味しーとこ、持ってかれたか」
ターニャは残念そうに微笑むと、右足でハベードの頭部を踏み潰した。
~~~
そのとき、ハベードの首の切断面から血液の替わりに大量の影が噴き出した。
それはいつのまにか黒い稲妻のようになり、夜空にト音記号のような形にとぐろを巻いていく。
先端部が見下ろす形で地面に向くと、赤い光が両眼のように見開かれた。
地上にいた兵士や冒険者たちは言葉を発することも出来ずに、ただ呆然と「ソレ」を見上げていた。
「ハベードを倒したか、人間どもよ」
突然、お腹にドンと響くような重く低い声が夜空に響き渡る。
「我はメフィルドである」
「な…」
アサノは目を見開いて絶句した。聞き間違えでなければ、その名は魔王の名前の筈である。
「何故無駄に抗う、人間よ?」
メフィルドは声を荒げてはいない。なのに何故か恐怖で体が竦む。
「遥かな過去に我の同胞を亡き者にした勇者の末裔は、我の配下によって既に滅ぼされておる。僅かな望みさえも残ってはおらんぞ」
「黙れっ!」
アサノは声を振り絞るように叫んだ。
「敵の言葉を鵜呑みにするほど、呑気に日和っちゃいねーよ!」
「ならば残されていない希望を、いつまでも探し続けるが良い。人間の娘よ」
黒い稲妻がグルグルと螺旋を描くと、中心に吸い込まれるように消えていった。イバキ市の夜空に静寂が訪れる。
「勇者の末裔?」
ターニャが隣のソアラに顔を向けた。
「古い伝承ですわ。架空の物語かと思ってましたけれど…」
ソアラはアサノの後ろ姿をじっと見つめる。
「キチンと調べる必要がありそうですわね」
この日、イバキ市奪還作戦は成功した。
しかし勝利の余韻に浸る者は誰もいなかった。
ハベードを刺し貫いた体勢のまま、ホリンは力が抜けたように片膝をつく。黄金に輝く第三の眼が、湯気のようにすーと立ち昇り消えていった。
ホリンの「鬼神化」には制約が存在する。
己の闘気を爆発させて、一時的に鬼神のごとき力を得るが、5分程で肉体に限界が来てしまう。その後は肉体の回復に専念し、死んだように深い眠りに就いてしまうのだ。
ホリンにとっては、本当に最後の切り札であった。
「お…のれー」
ハベードは胸から突き出ている槍を握りしめ、首だけ振り向きホリンを睨みつける。
「ちゃんと、責任…とれよ」
ホリンはその場に両膝をつくと、槍を握ったままカクンと首がうな垂れた。
「任せろ!」
ターニャが一瞬で、ホリンとハベードの間にシュパンと現れる。それからホリンの槍を左手で握りしめると、稲妻が迸る右拳でハベードの顔面を豪快に殴りつけた。
「ぎゃああーーっっ」
ハベードはその一撃で槍からすっぽ抜け、絶叫を撒き散らせながら吹っ飛んでいく。
直ぐさまソアラたちがホリンの元に駆け寄り、眠るホリンの確保に成功する。
「この儂が、ここまで…」
向こうでハベードがふらふらと立ち上がった。そして怒りに満ちた紅い瞳でターニャを睨みつける。
「ゆ、赦さんぞーー!」
ハベードが喉も張り裂けんばかりに激昂した。その勢いで目深に被っていたフードがずれ落ち、その顔の容姿が剥き出しになる。
緑色の皮膚に頭髪はない。紅く大きなビー玉のような両眼を限界まで見開き、鼻と口元から紫色の血が流れて出ている。そして外套の内側から流れ落ちる血液で、ハベードの足下には紫色の血溜まりが出来ていた。
「あ…」
そのときターニャは、とても場違いな、何とも間抜けな声を出した。
次の瞬間、ハベードの背後に音も無く現れたアサノが、片手剣を深々と突き刺した。同時にハベードの全身に、バリバリと電撃が駆け巡る。
「オマエ、ちょっと迂闊すぎ」
「が……あ…」
アサノはハベードの耳元で囁くと、剣を引き抜きスッと離れた。
ハベードはビクビクと痙攣を起こしながら、首がカクンと天を仰ぐ。
同時に後方に控えていたサカシタが、渾身の力でハルバードを振り抜いた。
ハベードの首がスパンと跳ね飛び、ターニャの足元へと転がっていく。
「美味しーとこ、持ってかれたか」
ターニャは残念そうに微笑むと、右足でハベードの頭部を踏み潰した。
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そのとき、ハベードの首の切断面から血液の替わりに大量の影が噴き出した。
それはいつのまにか黒い稲妻のようになり、夜空にト音記号のような形にとぐろを巻いていく。
先端部が見下ろす形で地面に向くと、赤い光が両眼のように見開かれた。
地上にいた兵士や冒険者たちは言葉を発することも出来ずに、ただ呆然と「ソレ」を見上げていた。
「ハベードを倒したか、人間どもよ」
突然、お腹にドンと響くような重く低い声が夜空に響き渡る。
「我はメフィルドである」
「な…」
アサノは目を見開いて絶句した。聞き間違えでなければ、その名は魔王の名前の筈である。
「何故無駄に抗う、人間よ?」
メフィルドは声を荒げてはいない。なのに何故か恐怖で体が竦む。
「遥かな過去に我の同胞を亡き者にした勇者の末裔は、我の配下によって既に滅ぼされておる。僅かな望みさえも残ってはおらんぞ」
「黙れっ!」
アサノは声を振り絞るように叫んだ。
「敵の言葉を鵜呑みにするほど、呑気に日和っちゃいねーよ!」
「ならば残されていない希望を、いつまでも探し続けるが良い。人間の娘よ」
黒い稲妻がグルグルと螺旋を描くと、中心に吸い込まれるように消えていった。イバキ市の夜空に静寂が訪れる。
「勇者の末裔?」
ターニャが隣のソアラに顔を向けた。
「古い伝承ですわ。架空の物語かと思ってましたけれど…」
ソアラはアサノの後ろ姿をじっと見つめる。
「キチンと調べる必要がありそうですわね」
この日、イバキ市奪還作戦は成功した。
しかし勝利の余韻に浸る者は誰もいなかった。
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