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チートで新宮から尾鷲を目指す

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《伊勢海》という姓が示す通り、俺の家は元々三重県の家系だ。
なので、前線都市の位置関係を三重県で例える。
(縮尺は相当異なるが)

まず、グランバルド帝国の輝かしき帝都は三重で例えれば四日市の辺りにある。
そこから同心円状に広大な帝都都市圏が広がっており、亀山・津・桑名辺りまでが帝都の直轄圏である。
貴族達の所領は概ねここら辺に集中している。

皇帝時代の末期に《大開拓運動》が行われ、帝国はその南限を志摩半島辺りから尾鷲市辺りまで広げた。
(あくまで距離感覚の話ね。)
当時の南限都市はフロンティアビジネスの拠点となり《商都》と呼称されるようになった。
この開拓は相当に無理を重ねたらしく、帝国財政は初の破綻を経験する。
猶も拡張路線を続けようとした皇帝(廃帝、名は残されていない)だったが、即位20周年セレモニーの前日に急死。
以降今日まで、グランバルドは帝国でありながら皇帝を立てず有力貴族による会議体が内閣を指名する寡頭統治が行われている。

その有力貴族とは、大公の称号と選帝の資格を持つ七国の太守。
皇帝時代以前の夏冬戦国時代に皇帝家と激しく覇を競った七国の王家である。
七家は廃帝以降、帝位を巡って暗闘を繰り広げるも、その一環として繰り返し行われた政略結婚により自然に一体化し、《七つの大公家》から《七大公家という一つの家》となった。
現在、グランバルド帝国は《七大公家》なる強大極まりないファミリーによって支配されている。
(全ての王家が連合した王家なのだから強大で当然だ。)

七大公家は連合政権らしく、成立以来の1800年間において極めて穏当な政治を行ったが、近年一つだけ政治的大冒険を行った。
それが尾鷲以南のリザード居住地への侵攻である。
尾鷲以南が2本の巨大河川に挟まれた中洲式半島である事を突き止めた七大公家は100年前に南進を開始。
20年かけて中洲の先端に到達、軍事技術の粋を尽くして遥か南端の新宮市付近に超巨大要塞を築城した。
これが80年前に誕生した前線都市の成り立ちである。
この南進によってグランバルドは今では総生産量の2割強を占める広大な農地を確保した。
首脳部の試算では帝国経済は躍進する筈だったが、目論見は大きく外れる。

水軍力に優れたリザード種族は前線都市を挟む両大河を封鎖。
散発的な上陸戦を仕掛けてきた。
帝国は応戦するも戦闘の度に惨敗。
水際での防戦を断念した上層部は戦線を放棄し撤兵。
将兵とその家族は商都まで後退し、行き場のない貧民だけが残った。
こうして前線都市には帝国内でも大貴族領にのみ与えられる自治権を付与され《自治都市》に昇格した。
要するに国家に捨てられたのである。

これが50年前の話。
以後、前線都市はリザードの襲撃に怯えながら城壁の中で息をひそめ続けて生きて来た。
確実に言えることだが、好きでここに住んでいる者は居ない。
住民の夢は、カネを貯めて商都の居住権を買うこと。

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という話を魚類加工業者のペドラザ親方に教えて貰った。
ちなみにペドラザ親方は昔商都に行ったことがある。

『いやー。  壮大な世界観ですなー。』

「何を言っとるんだねキミは。
こんなもの子供でも知ってる常識やろがい。」

『ははは。
無学なものでして。
お恥ずかしい限りです。』


…いやマジで恥ずかしい。
なーにが《ネタバレ異世界》だよ。
全然バレてないやん!

今、俺は前線都市の最南端の城壁外に居る。
まさしく眼前で二本の大河が合流しており、その果てには何も見えない。
亀のような形状の船舶が絶え間なく移動しているが、あれこそがリザードの軍船であるとのこと。
この様にリザード種族が完全に制河権を掌握している為、前線都市は平坦な河沿いに位置しながらも水運・漁労を封じられている。
唯一、この中洲の先っぽに紛れ込んで来る鮭だけが河川の恵みである。

そして俺は今、その大河の恵みを三枚下ろしにする作業を手伝っている。
鱗を半自動で削ぎ落とす装置に感動しながら精勤。
これ日本に持ち帰れないかな…


「いい手際じゃねえか。」

『一時父親と魚料理に凝っていた時期がありまして。』

そう、カネが無いのにどうしても刺身が喰いたい俺達親子は一時魚捌きに凝っていた。
すぐに、刺身はスーパーで買うのが一番であるとの結論に至ったが。

前線都市の人口は役所が把握している限りでは5万人。
(各関係者は実数6万を想定している)
商都は城壁内に50万弱、都市圏全体で150万弱の人口を誇るとのこと。

『へえ、商都って凄いですねえ。』

「何せ花の商都よ。
俺もカネさえあれば、こんな糞町でこんな糞仕事をせずに済むのにな。」

『何でカネが無いんですかね?』

「ウチは親が流れ者だったからなあ。
アンタは?」

『俺の父親、カネも無い癖に働かない人だったんです。』

「ああ、そりゃあ駄目だなあ。
男は仕事してないと心が腐るぞー。」

『腐りますか?』

「ってか、どんな下らない仕事でもさあ。
手を動かしてると気が紛れるよ。
仕事に優る精神安定剤はないってねw」

『確かに…
今、俺…  落ち着いてますもん。
魚捌いてアラをスライムに喰わせてると…
何か落ち着きますよね。』

「あのさあ、兄ちゃん。
このスライム貰っていいのか?」

『いいッスよ。
あると便利でしょ?』

「使ってみるとイケるな。
本当に金払わなくていいのか?」

『宿代ですよ。』

「あんなあばら家で宿代もあるかよww」

確かにペドラザ親方の自宅(違法建築)は薄汚いバラックだったが、窓越しに合流した大河が見えてるのがいいよな。
リザードの軍船も見慣れれば趣きがあっていい。
どういう訳かグランバルド人には鮭皮を食す習慣がなかったので、分けて貰って七輪で炙ったものを肉醤で味付けしたものを貪る。
ペドラザ一家に勧めるも、みな気味悪がって逃げ出してしまった。

あれ?
鮭皮食べるのってそんなにおかしいか?
あー、白いご飯の上に乗っけて掻きこみたい。

『コメは無いのか?』
と尋ねると、帝都の遥か北には稲作が盛んな地があるとのことだった。
よってグランバルドの南限たる前線都市にはほぼ流れて来ない。
「商都であれば、或いは入手の可能性もあるかも」
とのこと。

商都かあ。
こことは名張市と名古屋市くらい人口規模違うらしいし、さぞかし栄えているのだろう。
一度行ってみても面白いかもな。
新宮から尾鷲まで(実際距離はその数十倍)魔物溢れる荒野を移動するだけだから…
まあ何とかなるだろう。
乗合馬車は冒険者が警護してくれるようだしな。

俺は廃瓶に注いで貰った葛茶を啜りながら、リザードの軍船が行きかう様を眺めて。
それも飽きたのでハンモックで眠った。

城外の人間がハンモックを多用する理由は虫の多さにあると聞いたので、赤スライムに虫を食べる様に命令してみる。
当然、言葉は通じないので何度も虫に向かって押し付けてやる。
そのうち意図が通じたのか、赤スライムは虫を押しつぶして絶命させてから消化吸収するようになった。
朝になるとバラックから虫の気配が消えていたのでペドラザ一家と共に驚き、大いに喜んだ。

しばし防虫談義で盛り上がっているとラルフ君が尋ねてきたので本当に驚いた。
君、よくこんな所に来たな。
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