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チートで権力を掌握する。
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ドレークの紹介でセックスさせて貰ったメリッサという女は生粋の馬鹿だった。
俺を陥れる為に馬鹿のフリをしているんじゃないかと不安になるくらいの馬鹿だった。
いや冷静に考えれば、賢い女が俺なんかに引っ掛かる筈もなく、俺とセックスしている時点で底抜けの大馬鹿女であることは確定なのだが…
ドレーク達ヤクザ勢のハニトラの可能性が高いので、何度も繰り返して【心を読んでいる】のだが、魂胆らしきものが見て取れない。
【チートはこの街の権力者。
だってあんな凄いビルに住んでるんだから。
よくわからないけど凄い。
凄いから凄い。
チートの女になれば私を馬鹿にした奴らを見返してやれる!】
ずっと【思考を読んで】出した結論が、この女は健常者ではないということだ。
俗に言う《ギリ健》とか《ボーダー》と言う奴で、何とか生活は出来なくもないが、まともに仕事は出来ないという一番悲惨な知能水準の持ち主である。
ちなみに父や俺もそれに近い。
低能を騙すのは流石に気が引けるので、俺が権力者でも何でも無い事を丁寧に説明してやるのだが、この馬鹿はそれを謙遜だと解釈して俺への評価を勝手に高めた。
(確かに俺はなりふり構わずセックスしたいと願っていたが。
ヤリ終わった今はちゃんとなりふり構いたいのだ。)
ラノベでは見た事はないが、異世界にだって知的障碍者は存在するだろうし、それが美人なら周囲から利用されるだろう。
現に、今回の飲み会もドレーク夫人の息の掛かったギャラ呑み女子にいいように利用されて連れて来られたようだった。
メリッサは馬車代として5000ウェンを分配されてはしゃいでいたが、他の女達は数万ウェンの手当てを貰っていた。
馬鹿だから相場もわからないし、馬鹿だから舐められて搾取されているのだろう。
あー、こういうギリ健女が騙されてAVとかに出るんだろうな。
しかし身体はスレンダーで美人なので、酒場宿(異世界のラブホ)に追加料金を払って延長セックスをしてしまった。
【宿に1万ウェンも払って延長してくれた、私は愛されてる!
これはチャンス!】
相変わらず思考が低能過ぎて罪悪感が沸くので、この女の思考は読まない事にする。
飲み会で持ち帰りなんて、陽キャはみんなやってることだよな?
何か俺が悪い事してるみたいで後味が悪い。
いや、女の知能なんてこんな程度かも知れんけどさ。
「ねえ、チート。
これからどうする?」
一通り出し終わって、俺はすっかり賢者モードになっている。
さっさと帰って寝たいのだが、期待のこもった目で質問されてしまうと真剣に考えざるを得ない。
『メリッサの予定教えてよ。』
「あのねあのね!
私、中央区のレストランで働いてるんだよ!
最近は《別に来なくてもいい》って言われてるんだけど
お金が無くなった時は出勤するの!」
頭痛を堪えながら、メリッサの【心を再度読んで】みる。
直訳すると、この女は遠縁の者が経営するレストランのウェイトレス見習いらしい。
容姿が良いので最初は期待されていたが、無能なので皿洗いと皿運びしかやらせて貰ってないらしい。
経営者からすると、居ても居なくてもいい存在のようだ。
あまりに使えないので、最近は先輩ウェイトレスの裏副業(ヤクザイベントのコンパニオン)に回されてるということ。
店の名前は《ル・ノービス》。
商業ギルド庁舎の向かいにある格式高い店だ。
レザノフ卿も中央からの来客をもてなす時に使っている程である。
まあ、この馬鹿には務まらんだろう。
案の定、この女にレストランのメニューを尋ねてみても何一つ品名を挙げる事が出来なかった。
アンタその仕事向いてないよ。
『じゃあ中央区に住んでるの?』
「まさかあw
あの辺家賃高いから、西区の女宿に泊まってるよ。
チップをいっぱい貰えた日はね、ランクの高い女宿に泊まれるんだよ!」
???
この女、まさかと思うが定宿すらないのか?
え? え?
そんなので生活が成り立つものなのか?
いや、このレベルの美人がそんな根無し草みたいな生活してたら
タチの悪い男の喰い物にされちゃわないか?
…あ、そうか。
現にドレークや俺の喰い物にされてるか…
くっそ。
後味悪いな。
『わかった。
ちょっと待って。
メリッサの生活が成り立つようにちょっと考えてみるよ。』
「ふえっ?」
俺はメリッサから家賃や給金を聞き出した。
女宿とやらに泊まったことが無いので、ハッキリとしたことは言えないが、どう考えても搾取されてるように感じたので、善後策を練る。
【しゅごい!
チートが私の為に色々考えてくれてる!
愛されてる!】
馬鹿!
オマエの知能じゃ何万年経ってもロクな答えが出てこないから、代わりに俺が考えているのだ!
『とりあえず、俺ドレークさんと仲が良いからさ。
奥さんにメリッサがランクの高い場所に住む方法を聞いてみるよ。』
【え!?
チートってエレノア様とも直で話せるくらい凄い人なの!?
しゅごい!
この人ってやっぱり権力持ってる!】
ん?
エレノア?
ドレーク夫人の事か?
あの人、結構権力あるのか?
女社会の仕組みってよくわからないな…
『今日の予定とかあるのか?』
「チートと一緒に居る~♪」
おいおい。
《予定》と《願望》を区別して話す事も出来ないのか?
参ったな。
コイツとセックスしていると俺が悪者になってしまうのではないか?
いや、俺はどう思われてもいいんだが、工房の名に傷がつくと困る。
あ、そうか!
だからこそ接待用の女ってそういう女を使うんだ!
顔も身体もいいから一晩ヤルだけならいいんだけど、生まれ育ちや知能に難があるから関係を続けたくないタイプ!
あー、そうかそうか。
妙に納得した。
ヤクザってそういう風にして座組してるんだな。
流石はドレーク夫妻。
『俺のビルでちゃんとしたシャワーでも浴びて行きなよ。
食事も出すからさ。』
「ホント!
行っていいの!?」
メリッサは美人の割に自己評価が低い。
その癖、何故か自分を頭脳派だと思い込んでいる。
馬鹿は自分が馬鹿だと気付かないから馬鹿なのだろう。
普段ベスおばを見ているからよくわかる。
今、わかった。
賢い女とは満遍なく平均点を取れる女だ。
男とは評価軸が真逆なのだ。
いい女とは無難な女であり、無難な男は断じて良い男ではない。
俺は工房に帰ると朝帰りを皆に詫び、メリッサを入館させる許可を取った。
シャワーを浴びさせている間に手短に事情を説明し、ベスおばには『苛めるなよ』と釘を刺しておく。
「兄弟子の愛人にするのですか?」
『いや、ちょっと迷ってて…
俺とは話が合わないような気がする。』
その一言でラルフ君は全てを察してくれた。
「兄弟子は頭脳派ですから、相当頭の良い女性じゃないと釣り合わない気がします。
少なくとも高等教育を受けた教養人でないと話し相手にならないでしょう。」
そうなんだよな。
俺がこの世界の常識を知らない+【心を読めて】しまうから、相当賢い相手じゃないと言葉のキャッチボールが成立しないんだよな。
軽妙な軽口を交わし合える高知能ヒロインが登場してくれると助かるんだが。
「兄弟子的には行きずりですか…?」
『ラルフ君にだから正直に言うね。
誰でもいいからセックスしたかった。
何かゴメン。』
「いや、ボクも男なので気持ちはわかります。
緩やかにフェードアウトしたいのですね?
相手から恨まれない様に、それでいて世間から非難されないように。」
『ラルフ君。
君、【心が読める】んじゃないか?』
「いやいや。
兄弟子の心中を推し量るのは弟弟子としての当然の義務ですよ!」
おお…
君、本当に凄い奴だな。
職人倫理はチートをも超えるか…
「生活相談に乗る、という体でドレークさんの奥様に引き取って貰いましょう。
ボクはそういう作法を知らないのですが…
その際、双方に纏まった額のチップを渡せば円満に捗るかと…」
『それが一番無難そうだね。
ラルフ君の案に従うよ。
いつもありがとう。』
その後、リビングでメリッサとドランさんの3人で飯を食う。
レストランに勤めているくせにロクな物を食べさせて貰っていないようなので、良質の干し肉を熱湯でスープにして提供する。
フルーツポーションセットを物欲しそうに見ていたので、アップル味を飲ませてやる。
どうしてアップル味を選んだのかって?
ベスおばの好物だからに決まってるじゃないか。
その後メリッサを俺に部屋で休憩させ、俺は冒険者ギルドに顔を出す。
ドレークやヘルマン組のヤクザ達に昨日の礼を述べる。
【心を読んだ】限り、向こうも俺に感謝している様だったので少し安堵する。
『ドレークギルド長。
昨日のギャラ呑み女子なのですが。』
「ん?
あの子気に入ってくれた?
エルフのハーフだったかな?」
『生活に困ってるみたいなんで、軽く支援しても良いでしょうか?』
「うーん。
これオッサンの経験則なんだけどさ。
頭の悪い女って、頭が悪いから生活に困る訳だし
誰かに捕まるまでは、同じ苦労を繰り返すよ。」
『なるほど。
ちなみに頭の良い女はどうなるんです?』
「不幸になる。」
『救いがありませんね。』
「でも鈍感なら自分が不幸だと気付かずに済む。
だから女は馬鹿で鈍いのが一番幸せなんだ。」
『ギルド長の奥様は聡い雰囲気ですけど…』
「だから哀れに思って情が移った。
所帯なんて持つつもりはなかったんだけどね。
どうせ誰かに情を移すなら、頭の良い女を選んだ方がいいよ。
馬鹿は足を引っ張る。
ヤクザの世界でもさ、奥さんが馬鹿な奴はみんな破滅してるから。」
なるほど。
酸いも甘いも噛み分けて来たこの男が言うなら間違いないだろう。
『問題は賢い女は私に引っかかってくれない点なんですよね。』
そう言って二人で大笑いした。
金一封を手渡しながら奥様(エレノア夫人)にケアをお願いする。
結果として高いセックスになったが、こういうドタバタした刺激的な生活を送ってみたかったので悪い気はしない。
「ああ、それとチート君。
市民会議サボってるんだって?
ロドリゴ爺さんが怒ってたぞ?」
『え?
し、市民会議?』
「だって君、上級市民でしょ?
隣は権利付き物件だからさ。」
『あ、はい。
あのビルを買う時にそんな事を言われたような気が…』
「ロドリゴ爺さんは、この冒険者ギルド会館も含めてここらの物件を所有している大地主ね。
モリソン家と共に前線都市の草創期に功があった人物なんだよ。」
ああ、モリソン爺さん。
懐かしいなぁ。
「市民会議はちゃんと出席しなくちゃ。」
『あ、いえ。
誘われたことなかったので…』
「そう?
ああ、じゃあ行き違いかもね。
いいよ。
近所だしロドリゴ爺さんに伝言しておくよ。」
聞くところによると、上級市民には市民会議に出席する義務があるらしい。
慌てて工房に帰り登記書類を読むと、小さな字でそれっぽい事を書いてある。
そもそも俺、本当に上級市民なのか?
大体、上級市民って何だ?
人力車を捕まえて職務中のレザノフ卿を訪ねる。
【心の中】では迷惑がっていたが、柔和な笑顔でレザノフ卿は応対してくれた。
「確かにチートさんは上級市民ですよ?
前も説明しましたよね?
市民会議に出席していない?
それは由々しき事態ですな。
もっと自覚を持って下さい。」
事情がわからないまま説教される。
丁度、庁舎にロドリゴ爺さんとやらが来ていたらしく、商業ギルドの人が引き合わせてくれる。
見た目80過ぎの爺さんだ。
この爺さんもレザノフ卿と同じことを言って公開説教してくる。
「イセカイ君だっけ?
駄目だよー。
議会さぼったら。
モリソンの奴からは何の引継ぎもされてないけど
ワシも何の連絡もしてないけど
それでも君の落ち度だよー。」
は?
何で俺の落ち度?
おいおい。
何の説明も受けてない俺が、何で怒られなきゃいけないんだよ。
くっそ、この糞ジジー公開で説教しやがって。
「じゃあ、今から歓迎会も兼ねて議会開こうか?」
『ファ、ファイ?』
「丁度、他のメンバーも庁舎に居るんだよ。
皆の予定合わすの結構手間だしの。」
『あ、そういうことなら。』
ロドリゴ爺さんはパンガロスと言う名の爺さんを連れて来た。
70代位に見えるが、ロドリゴよりやや先輩らしい。
ジジイの年齢なんてマジ興味ないけどな。
「あー、じゃー。
全員揃った訳だし始めますか。」
「さんせー。
それでは市民会議を開会します。」
『ちょっと待って下さいよ!
俺を入れても3人しか居ないじゃないですか!?』
「ん?
前線都市の議席数は今のところ上限3つだよ?
モリソンの奴から聞いてない?」
『あ、いえ。
そういう引継ぎは頂けなかったので。』
庁舎の最上階の無駄に立派な議場の中で茶番が始まる。
看板に《賢人会議》と記載されていたのが逆に腹が立つ。
議席は200以上あったが、議会の参加者が10名を越えた事はないらしい。
全く持って税金の無駄である。
『え?
レザノフ卿が記録係をされるんですか?
部下の方ではなくて?』
「職位の関係で、私にしか議場への入室資格が無いんですよ。」
という訳で。
俺・ロドリゴ爺・バンガロス爺・レザノフ卿の4人で市民会議が突如始まる。
言っておくが俺は何の説明も受けていない。
仕方が無いので自己防衛の為に【心を読ませて】貰う。
【ふー。 ようやく貧乏くじの押し付け先が見つかったわい。】
【モリソンの奴め、一人だけいい思いをしやがって。
ようやく商都に移れるわい。】
案の定。
このジジイ共はモリソン同様に俺に何かを押し付けて商都に引っ越す気でいた。
「イセカイ君。
何か議題に挙げたいことある?」
『え!?
議題?
そんな急に言われても。』
「駄目だよー。
若者はもっと政治に関心を持たなきゃ。
可決したい条例案の一つも無いのかね?」
『あ、じゃあ。
スライムをですねー。』
「さんせー。」
「さんせー。」
『ファ、ファファイ!?』
「じゃあレザノフ君。
法案内容は後からイセカイ君に聞いておいて。」
「は… はい。
畏まりました。」
「じゃあ本題に入るね。
ワシとロドリゴ君は高齢の為、退職します。
議員年金と議員退職金の振込先は商都のドピルパン銀行で。」
「あ、ワシはベアーズ信用金庫でお願いね。」
『ちょっと待ってくださいよ!
え!? え!? え!?
状況が理解出来ないですよ!』
「え? だってワシ。
今年で82歳だよ?」
「ワシはフレッシュ80歳♪」
『え? え? え?
レザノフ卿! 何か言って下さいよ!』
「いや…
商業ギルドに議会での発言権は無いから。
私の職務は、ここでの決定事項を中央に報告するだけです。」
『ん? ん? ん~?』
「じゃあ、決を採りまーす。
ワシとバンガロス先輩の引退に賛成のひとー。
はーい♪ ワシさんせー♪」
「さんせー。」
『ちょっと待って下さいよ!!
今日は挨拶だけってさっき言ったじゃないですか!?』
「全議員の3分の2が賛成しましたので、退職申請は可決
となりまーす。」
『おい!! 待てよアンタら!!!』
「はー。
やっと重荷が取れたわい。
商都に行ったらモリソンの奴を締め上げてやらなきゃ。」
「いやあ、自分から獲った議席だけどさ。
まさか80過ぎてまで、働かされるとは想定してなかったよ。」
「それな。
まさか議員辞めるまで引っ越し出来ないなんて裏ルールがあるなんてな。」
「ワシ、商都の物件買ってから20年寝かしてありますよ。」
「ワシなんて30年塩漬けだわww」
『おいいいいい!!!
アンタら無責任だろ!!
一体、この街はどうなるんだよ!!』
「ん?
まあ、ワシらも老い先短いし…
後は若い君が何とかしなさい。
応援しとるよ、カネは出さんけど。」
「それじゃあ頑張ってな、イセカイ市長。」
『は!? 市長!?』
「レザノフ君、説明してあげて。」
「あー、自治都市というのはですね。
通常、上級市民の合議によって運営されるんです。
呼称は市民会議ですね。」
『いや、それはさっき聞きましたけど。』
「何らかの事情で上級市民が1名のみになった場合。
その者が市長となります。」
『???』
「気持ちは理解出来ますが…
そういう規則なので。」
『市長って…
何をするんですか?』
「一般的には徴税の代行と防衛の指揮ですね。」
『徴税?』
「安心して下さい。
ここは自治都市なので、直接税は免除されてます。
印紙代等は今後も商業ギルドが納付し続けますので…
税金周りは考える必要はありません。」
『なるほど。
防衛の指揮、というのは?』
「あまり現実的ではありませんが
大規模な盗賊団などが攻めてきた場合に防衛責任が発生します。」
『防衛責任?』
「都市が陥落した場合や、敵前逃亡してしまった場合…
その軍人と同じ法律が適用されます…」
『ん? ん? んー?』
「要は戦時の行動が軍法会議で裁かれるのです。
勿論、極刑は斬首刑ですね。
あ、ちなみに前線都市は現在《戦時》ですので。」
『ざ、斬首…』
「御安心下さい!
それは戦乱時の名残ですよ。
市長が戦闘指揮なんてケースは…
あー、リザード族の攻勢があった場合。
腹を括って下さいね。
私も地獄にお供しますので。」
『じ、地獄!?』
「物の例えですよ。
リザードが攻めてきたらどのみち勝負にすらならないと思うので…
その時は城を枕に討ち死して下さい。」
『…はい。』
「あー、レザノフ君。
ワシらもういい?」
「急な話だったから、飯がまだなんだよね。」
『おい! アンタらちょっと待てよ!!!』
「それじゃあイセカイ市長、がんばってねー。」
「おつかれーっす。」
ジジイ共はやたら機敏な動きで議場を立ち去ってしまった。
議員バッチ(?)っぽい物が議場の入り口に2つ落ちていたので、戻る気はなさそうである。
「じゃあ、チート市長。
最初の法案は、スライムの…」
『…スライムを解体・食肉業界で運用させて貰いたくて。』
「では、この草案に目を通して下さいね。
と言っても帝国食品衛生法に特例条項を付け足しただけですけど。」
『要するにこの街ではスライムを食肉現場で使えることになった、と。』
「そういうことです。
チート市長が印判を押してから72時間後に発令されます。」
『印判?』
「あ、公文書用の家紋です。
当然お持ちですよね?」
『か、家紋あったかな。
厳密に調べればあるかも知れませんが…
なさそうな気がします。』
「え?
家紋がない?
いや、困りますよ!
市長に家紋が無い、というのは法運用上、本当に困るんです!」
『そ、そんな事言われても。』
「根底から諸法令を改正しなくちゃならない!
どれだけの手間と経費が掛かると思うんですか!」
『え? これ私が悪い流れ?』
「極めてグレーな運用ですが…
奥様の家紋を使えなくもないです。
いや、流石にこれは拙いかな。」
『あ、独り身です。』
「恋人とか居ないんですか?」
『昨日仲良くなった子が居るんですけど…
レストランのバイトですから、ちょっと期待できないっぽいです。』
「うーん。
困った… 困りましたね。」
『グランバルドの人って全員家紋持ってるですか?』
「まあ普通の家柄の人は大体…」
『持ってない人も居るんでしょ?
今までどうしてたんですか?』
「非常に申し上げにくい事ですが…
家紋も持たないような出身の方は…
そもそも上級市民はおろか、下級市民になる事すら極めて困難でして…」
『…家紋ないです。』
「わかりました。
私の方で法務省に問い合わせてみます。
スライム法案に関しては…
《議決はしたが発令はされていない》状態です。
当面は、法務省に決議案を提出して認可が下りてから発布、という形になります。
問題が無さそうなら商都支局で決済出来ますが、差し支えありそうなら法務大臣の判断を仰ぐことになります。」
『…はい。』
「じゃあ、まあ。
納得は出来ないかも知れませんが…
市長職頑張って下さい。
リザードが攻めて来ない事だけ祈ってましょう。」
こうして俺は市長になった。
ラノベで散々読んできた展開だが…
何か思ってたんと違う。
俺を陥れる為に馬鹿のフリをしているんじゃないかと不安になるくらいの馬鹿だった。
いや冷静に考えれば、賢い女が俺なんかに引っ掛かる筈もなく、俺とセックスしている時点で底抜けの大馬鹿女であることは確定なのだが…
ドレーク達ヤクザ勢のハニトラの可能性が高いので、何度も繰り返して【心を読んでいる】のだが、魂胆らしきものが見て取れない。
【チートはこの街の権力者。
だってあんな凄いビルに住んでるんだから。
よくわからないけど凄い。
凄いから凄い。
チートの女になれば私を馬鹿にした奴らを見返してやれる!】
ずっと【思考を読んで】出した結論が、この女は健常者ではないということだ。
俗に言う《ギリ健》とか《ボーダー》と言う奴で、何とか生活は出来なくもないが、まともに仕事は出来ないという一番悲惨な知能水準の持ち主である。
ちなみに父や俺もそれに近い。
低能を騙すのは流石に気が引けるので、俺が権力者でも何でも無い事を丁寧に説明してやるのだが、この馬鹿はそれを謙遜だと解釈して俺への評価を勝手に高めた。
(確かに俺はなりふり構わずセックスしたいと願っていたが。
ヤリ終わった今はちゃんとなりふり構いたいのだ。)
ラノベでは見た事はないが、異世界にだって知的障碍者は存在するだろうし、それが美人なら周囲から利用されるだろう。
現に、今回の飲み会もドレーク夫人の息の掛かったギャラ呑み女子にいいように利用されて連れて来られたようだった。
メリッサは馬車代として5000ウェンを分配されてはしゃいでいたが、他の女達は数万ウェンの手当てを貰っていた。
馬鹿だから相場もわからないし、馬鹿だから舐められて搾取されているのだろう。
あー、こういうギリ健女が騙されてAVとかに出るんだろうな。
しかし身体はスレンダーで美人なので、酒場宿(異世界のラブホ)に追加料金を払って延長セックスをしてしまった。
【宿に1万ウェンも払って延長してくれた、私は愛されてる!
これはチャンス!】
相変わらず思考が低能過ぎて罪悪感が沸くので、この女の思考は読まない事にする。
飲み会で持ち帰りなんて、陽キャはみんなやってることだよな?
何か俺が悪い事してるみたいで後味が悪い。
いや、女の知能なんてこんな程度かも知れんけどさ。
「ねえ、チート。
これからどうする?」
一通り出し終わって、俺はすっかり賢者モードになっている。
さっさと帰って寝たいのだが、期待のこもった目で質問されてしまうと真剣に考えざるを得ない。
『メリッサの予定教えてよ。』
「あのねあのね!
私、中央区のレストランで働いてるんだよ!
最近は《別に来なくてもいい》って言われてるんだけど
お金が無くなった時は出勤するの!」
頭痛を堪えながら、メリッサの【心を再度読んで】みる。
直訳すると、この女は遠縁の者が経営するレストランのウェイトレス見習いらしい。
容姿が良いので最初は期待されていたが、無能なので皿洗いと皿運びしかやらせて貰ってないらしい。
経営者からすると、居ても居なくてもいい存在のようだ。
あまりに使えないので、最近は先輩ウェイトレスの裏副業(ヤクザイベントのコンパニオン)に回されてるということ。
店の名前は《ル・ノービス》。
商業ギルド庁舎の向かいにある格式高い店だ。
レザノフ卿も中央からの来客をもてなす時に使っている程である。
まあ、この馬鹿には務まらんだろう。
案の定、この女にレストランのメニューを尋ねてみても何一つ品名を挙げる事が出来なかった。
アンタその仕事向いてないよ。
『じゃあ中央区に住んでるの?』
「まさかあw
あの辺家賃高いから、西区の女宿に泊まってるよ。
チップをいっぱい貰えた日はね、ランクの高い女宿に泊まれるんだよ!」
???
この女、まさかと思うが定宿すらないのか?
え? え?
そんなので生活が成り立つものなのか?
いや、このレベルの美人がそんな根無し草みたいな生活してたら
タチの悪い男の喰い物にされちゃわないか?
…あ、そうか。
現にドレークや俺の喰い物にされてるか…
くっそ。
後味悪いな。
『わかった。
ちょっと待って。
メリッサの生活が成り立つようにちょっと考えてみるよ。』
「ふえっ?」
俺はメリッサから家賃や給金を聞き出した。
女宿とやらに泊まったことが無いので、ハッキリとしたことは言えないが、どう考えても搾取されてるように感じたので、善後策を練る。
【しゅごい!
チートが私の為に色々考えてくれてる!
愛されてる!】
馬鹿!
オマエの知能じゃ何万年経ってもロクな答えが出てこないから、代わりに俺が考えているのだ!
『とりあえず、俺ドレークさんと仲が良いからさ。
奥さんにメリッサがランクの高い場所に住む方法を聞いてみるよ。』
【え!?
チートってエレノア様とも直で話せるくらい凄い人なの!?
しゅごい!
この人ってやっぱり権力持ってる!】
ん?
エレノア?
ドレーク夫人の事か?
あの人、結構権力あるのか?
女社会の仕組みってよくわからないな…
『今日の予定とかあるのか?』
「チートと一緒に居る~♪」
おいおい。
《予定》と《願望》を区別して話す事も出来ないのか?
参ったな。
コイツとセックスしていると俺が悪者になってしまうのではないか?
いや、俺はどう思われてもいいんだが、工房の名に傷がつくと困る。
あ、そうか!
だからこそ接待用の女ってそういう女を使うんだ!
顔も身体もいいから一晩ヤルだけならいいんだけど、生まれ育ちや知能に難があるから関係を続けたくないタイプ!
あー、そうかそうか。
妙に納得した。
ヤクザってそういう風にして座組してるんだな。
流石はドレーク夫妻。
『俺のビルでちゃんとしたシャワーでも浴びて行きなよ。
食事も出すからさ。』
「ホント!
行っていいの!?」
メリッサは美人の割に自己評価が低い。
その癖、何故か自分を頭脳派だと思い込んでいる。
馬鹿は自分が馬鹿だと気付かないから馬鹿なのだろう。
普段ベスおばを見ているからよくわかる。
今、わかった。
賢い女とは満遍なく平均点を取れる女だ。
男とは評価軸が真逆なのだ。
いい女とは無難な女であり、無難な男は断じて良い男ではない。
俺は工房に帰ると朝帰りを皆に詫び、メリッサを入館させる許可を取った。
シャワーを浴びさせている間に手短に事情を説明し、ベスおばには『苛めるなよ』と釘を刺しておく。
「兄弟子の愛人にするのですか?」
『いや、ちょっと迷ってて…
俺とは話が合わないような気がする。』
その一言でラルフ君は全てを察してくれた。
「兄弟子は頭脳派ですから、相当頭の良い女性じゃないと釣り合わない気がします。
少なくとも高等教育を受けた教養人でないと話し相手にならないでしょう。」
そうなんだよな。
俺がこの世界の常識を知らない+【心を読めて】しまうから、相当賢い相手じゃないと言葉のキャッチボールが成立しないんだよな。
軽妙な軽口を交わし合える高知能ヒロインが登場してくれると助かるんだが。
「兄弟子的には行きずりですか…?」
『ラルフ君にだから正直に言うね。
誰でもいいからセックスしたかった。
何かゴメン。』
「いや、ボクも男なので気持ちはわかります。
緩やかにフェードアウトしたいのですね?
相手から恨まれない様に、それでいて世間から非難されないように。」
『ラルフ君。
君、【心が読める】んじゃないか?』
「いやいや。
兄弟子の心中を推し量るのは弟弟子としての当然の義務ですよ!」
おお…
君、本当に凄い奴だな。
職人倫理はチートをも超えるか…
「生活相談に乗る、という体でドレークさんの奥様に引き取って貰いましょう。
ボクはそういう作法を知らないのですが…
その際、双方に纏まった額のチップを渡せば円満に捗るかと…」
『それが一番無難そうだね。
ラルフ君の案に従うよ。
いつもありがとう。』
その後、リビングでメリッサとドランさんの3人で飯を食う。
レストランに勤めているくせにロクな物を食べさせて貰っていないようなので、良質の干し肉を熱湯でスープにして提供する。
フルーツポーションセットを物欲しそうに見ていたので、アップル味を飲ませてやる。
どうしてアップル味を選んだのかって?
ベスおばの好物だからに決まってるじゃないか。
その後メリッサを俺に部屋で休憩させ、俺は冒険者ギルドに顔を出す。
ドレークやヘルマン組のヤクザ達に昨日の礼を述べる。
【心を読んだ】限り、向こうも俺に感謝している様だったので少し安堵する。
『ドレークギルド長。
昨日のギャラ呑み女子なのですが。』
「ん?
あの子気に入ってくれた?
エルフのハーフだったかな?」
『生活に困ってるみたいなんで、軽く支援しても良いでしょうか?』
「うーん。
これオッサンの経験則なんだけどさ。
頭の悪い女って、頭が悪いから生活に困る訳だし
誰かに捕まるまでは、同じ苦労を繰り返すよ。」
『なるほど。
ちなみに頭の良い女はどうなるんです?』
「不幸になる。」
『救いがありませんね。』
「でも鈍感なら自分が不幸だと気付かずに済む。
だから女は馬鹿で鈍いのが一番幸せなんだ。」
『ギルド長の奥様は聡い雰囲気ですけど…』
「だから哀れに思って情が移った。
所帯なんて持つつもりはなかったんだけどね。
どうせ誰かに情を移すなら、頭の良い女を選んだ方がいいよ。
馬鹿は足を引っ張る。
ヤクザの世界でもさ、奥さんが馬鹿な奴はみんな破滅してるから。」
なるほど。
酸いも甘いも噛み分けて来たこの男が言うなら間違いないだろう。
『問題は賢い女は私に引っかかってくれない点なんですよね。』
そう言って二人で大笑いした。
金一封を手渡しながら奥様(エレノア夫人)にケアをお願いする。
結果として高いセックスになったが、こういうドタバタした刺激的な生活を送ってみたかったので悪い気はしない。
「ああ、それとチート君。
市民会議サボってるんだって?
ロドリゴ爺さんが怒ってたぞ?」
『え?
し、市民会議?』
「だって君、上級市民でしょ?
隣は権利付き物件だからさ。」
『あ、はい。
あのビルを買う時にそんな事を言われたような気が…』
「ロドリゴ爺さんは、この冒険者ギルド会館も含めてここらの物件を所有している大地主ね。
モリソン家と共に前線都市の草創期に功があった人物なんだよ。」
ああ、モリソン爺さん。
懐かしいなぁ。
「市民会議はちゃんと出席しなくちゃ。」
『あ、いえ。
誘われたことなかったので…』
「そう?
ああ、じゃあ行き違いかもね。
いいよ。
近所だしロドリゴ爺さんに伝言しておくよ。」
聞くところによると、上級市民には市民会議に出席する義務があるらしい。
慌てて工房に帰り登記書類を読むと、小さな字でそれっぽい事を書いてある。
そもそも俺、本当に上級市民なのか?
大体、上級市民って何だ?
人力車を捕まえて職務中のレザノフ卿を訪ねる。
【心の中】では迷惑がっていたが、柔和な笑顔でレザノフ卿は応対してくれた。
「確かにチートさんは上級市民ですよ?
前も説明しましたよね?
市民会議に出席していない?
それは由々しき事態ですな。
もっと自覚を持って下さい。」
事情がわからないまま説教される。
丁度、庁舎にロドリゴ爺さんとやらが来ていたらしく、商業ギルドの人が引き合わせてくれる。
見た目80過ぎの爺さんだ。
この爺さんもレザノフ卿と同じことを言って公開説教してくる。
「イセカイ君だっけ?
駄目だよー。
議会さぼったら。
モリソンの奴からは何の引継ぎもされてないけど
ワシも何の連絡もしてないけど
それでも君の落ち度だよー。」
は?
何で俺の落ち度?
おいおい。
何の説明も受けてない俺が、何で怒られなきゃいけないんだよ。
くっそ、この糞ジジー公開で説教しやがって。
「じゃあ、今から歓迎会も兼ねて議会開こうか?」
『ファ、ファイ?』
「丁度、他のメンバーも庁舎に居るんだよ。
皆の予定合わすの結構手間だしの。」
『あ、そういうことなら。』
ロドリゴ爺さんはパンガロスと言う名の爺さんを連れて来た。
70代位に見えるが、ロドリゴよりやや先輩らしい。
ジジイの年齢なんてマジ興味ないけどな。
「あー、じゃー。
全員揃った訳だし始めますか。」
「さんせー。
それでは市民会議を開会します。」
『ちょっと待って下さいよ!
俺を入れても3人しか居ないじゃないですか!?』
「ん?
前線都市の議席数は今のところ上限3つだよ?
モリソンの奴から聞いてない?」
『あ、いえ。
そういう引継ぎは頂けなかったので。』
庁舎の最上階の無駄に立派な議場の中で茶番が始まる。
看板に《賢人会議》と記載されていたのが逆に腹が立つ。
議席は200以上あったが、議会の参加者が10名を越えた事はないらしい。
全く持って税金の無駄である。
『え?
レザノフ卿が記録係をされるんですか?
部下の方ではなくて?』
「職位の関係で、私にしか議場への入室資格が無いんですよ。」
という訳で。
俺・ロドリゴ爺・バンガロス爺・レザノフ卿の4人で市民会議が突如始まる。
言っておくが俺は何の説明も受けていない。
仕方が無いので自己防衛の為に【心を読ませて】貰う。
【ふー。 ようやく貧乏くじの押し付け先が見つかったわい。】
【モリソンの奴め、一人だけいい思いをしやがって。
ようやく商都に移れるわい。】
案の定。
このジジイ共はモリソン同様に俺に何かを押し付けて商都に引っ越す気でいた。
「イセカイ君。
何か議題に挙げたいことある?」
『え!?
議題?
そんな急に言われても。』
「駄目だよー。
若者はもっと政治に関心を持たなきゃ。
可決したい条例案の一つも無いのかね?」
『あ、じゃあ。
スライムをですねー。』
「さんせー。」
「さんせー。」
『ファ、ファファイ!?』
「じゃあレザノフ君。
法案内容は後からイセカイ君に聞いておいて。」
「は… はい。
畏まりました。」
「じゃあ本題に入るね。
ワシとロドリゴ君は高齢の為、退職します。
議員年金と議員退職金の振込先は商都のドピルパン銀行で。」
「あ、ワシはベアーズ信用金庫でお願いね。」
『ちょっと待ってくださいよ!
え!? え!? え!?
状況が理解出来ないですよ!』
「え? だってワシ。
今年で82歳だよ?」
「ワシはフレッシュ80歳♪」
『え? え? え?
レザノフ卿! 何か言って下さいよ!』
「いや…
商業ギルドに議会での発言権は無いから。
私の職務は、ここでの決定事項を中央に報告するだけです。」
『ん? ん? ん~?』
「じゃあ、決を採りまーす。
ワシとバンガロス先輩の引退に賛成のひとー。
はーい♪ ワシさんせー♪」
「さんせー。」
『ちょっと待って下さいよ!!
今日は挨拶だけってさっき言ったじゃないですか!?』
「全議員の3分の2が賛成しましたので、退職申請は可決
となりまーす。」
『おい!! 待てよアンタら!!!』
「はー。
やっと重荷が取れたわい。
商都に行ったらモリソンの奴を締め上げてやらなきゃ。」
「いやあ、自分から獲った議席だけどさ。
まさか80過ぎてまで、働かされるとは想定してなかったよ。」
「それな。
まさか議員辞めるまで引っ越し出来ないなんて裏ルールがあるなんてな。」
「ワシ、商都の物件買ってから20年寝かしてありますよ。」
「ワシなんて30年塩漬けだわww」
『おいいいいい!!!
アンタら無責任だろ!!
一体、この街はどうなるんだよ!!』
「ん?
まあ、ワシらも老い先短いし…
後は若い君が何とかしなさい。
応援しとるよ、カネは出さんけど。」
「それじゃあ頑張ってな、イセカイ市長。」
『は!? 市長!?』
「レザノフ君、説明してあげて。」
「あー、自治都市というのはですね。
通常、上級市民の合議によって運営されるんです。
呼称は市民会議ですね。」
『いや、それはさっき聞きましたけど。』
「何らかの事情で上級市民が1名のみになった場合。
その者が市長となります。」
『???』
「気持ちは理解出来ますが…
そういう規則なので。」
『市長って…
何をするんですか?』
「一般的には徴税の代行と防衛の指揮ですね。」
『徴税?』
「安心して下さい。
ここは自治都市なので、直接税は免除されてます。
印紙代等は今後も商業ギルドが納付し続けますので…
税金周りは考える必要はありません。」
『なるほど。
防衛の指揮、というのは?』
「あまり現実的ではありませんが
大規模な盗賊団などが攻めてきた場合に防衛責任が発生します。」
『防衛責任?』
「都市が陥落した場合や、敵前逃亡してしまった場合…
その軍人と同じ法律が適用されます…」
『ん? ん? んー?』
「要は戦時の行動が軍法会議で裁かれるのです。
勿論、極刑は斬首刑ですね。
あ、ちなみに前線都市は現在《戦時》ですので。」
『ざ、斬首…』
「御安心下さい!
それは戦乱時の名残ですよ。
市長が戦闘指揮なんてケースは…
あー、リザード族の攻勢があった場合。
腹を括って下さいね。
私も地獄にお供しますので。」
『じ、地獄!?』
「物の例えですよ。
リザードが攻めてきたらどのみち勝負にすらならないと思うので…
その時は城を枕に討ち死して下さい。」
『…はい。』
「あー、レザノフ君。
ワシらもういい?」
「急な話だったから、飯がまだなんだよね。」
『おい! アンタらちょっと待てよ!!!』
「それじゃあイセカイ市長、がんばってねー。」
「おつかれーっす。」
ジジイ共はやたら機敏な動きで議場を立ち去ってしまった。
議員バッチ(?)っぽい物が議場の入り口に2つ落ちていたので、戻る気はなさそうである。
「じゃあ、チート市長。
最初の法案は、スライムの…」
『…スライムを解体・食肉業界で運用させて貰いたくて。』
「では、この草案に目を通して下さいね。
と言っても帝国食品衛生法に特例条項を付け足しただけですけど。」
『要するにこの街ではスライムを食肉現場で使えることになった、と。』
「そういうことです。
チート市長が印判を押してから72時間後に発令されます。」
『印判?』
「あ、公文書用の家紋です。
当然お持ちですよね?」
『か、家紋あったかな。
厳密に調べればあるかも知れませんが…
なさそうな気がします。』
「え?
家紋がない?
いや、困りますよ!
市長に家紋が無い、というのは法運用上、本当に困るんです!」
『そ、そんな事言われても。』
「根底から諸法令を改正しなくちゃならない!
どれだけの手間と経費が掛かると思うんですか!」
『え? これ私が悪い流れ?』
「極めてグレーな運用ですが…
奥様の家紋を使えなくもないです。
いや、流石にこれは拙いかな。」
『あ、独り身です。』
「恋人とか居ないんですか?」
『昨日仲良くなった子が居るんですけど…
レストランのバイトですから、ちょっと期待できないっぽいです。』
「うーん。
困った… 困りましたね。」
『グランバルドの人って全員家紋持ってるですか?』
「まあ普通の家柄の人は大体…」
『持ってない人も居るんでしょ?
今までどうしてたんですか?』
「非常に申し上げにくい事ですが…
家紋も持たないような出身の方は…
そもそも上級市民はおろか、下級市民になる事すら極めて困難でして…」
『…家紋ないです。』
「わかりました。
私の方で法務省に問い合わせてみます。
スライム法案に関しては…
《議決はしたが発令はされていない》状態です。
当面は、法務省に決議案を提出して認可が下りてから発布、という形になります。
問題が無さそうなら商都支局で決済出来ますが、差し支えありそうなら法務大臣の判断を仰ぐことになります。」
『…はい。』
「じゃあ、まあ。
納得は出来ないかも知れませんが…
市長職頑張って下さい。
リザードが攻めて来ない事だけ祈ってましょう。」
こうして俺は市長になった。
ラノベで散々読んできた展開だが…
何か思ってたんと違う。
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