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チートで祝福を受ける
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前線都市で最高の評価をされている薬剤師は2人。
1人は当然ゴードン夫人。
同じくらいに名前が挙がるのがケイト婆さん。
ずっと探していたが出逢えなかったので、半ば断念していた。
今こうやって邂逅し、見つけられなかった理由を悟る。
この人は(女子の間で)有名な占い師。
本業は薬剤師だが、その事実を知らない常連が多い。
店名は「前線占いハウス」。
占い・人生相談・製薬のみならず解呪までもを得意とする。
言われてみれば何度か通りかかった記憶はあるが、全く占いに興味を持っていないのでスルーしていた。
俺が女ならケイト婆さんとはもっと早く出逢っていたかも知れない。
ケイト婆さんに相対しているのは、俺・メリッサ・ベスおば・フランコ司祭の4人。
ベスおばとフランコ司祭はジュニアスクールからの幼馴染らしく、同期生への悪口に華を咲かせていた。
2人はスクールカースト的にも思想的にも実家の政治姿勢的にも対立する立場にあったが、その割にはまあまあ平和的な関係を築いている。
そして、店内。
ケイト婆さんはゴミでも見るような目で赤い糸を眺めている。
「アナタがケイトね。
この呪いを解いて頂戴。
腕利きの解呪師と聞いておりますわ。
今、手持ちはありませんがこの二人が支払いますので。」
「…無理さね。」
「ハア!?
この料金表に《解呪全般請け負います》って書いてるじゃない!
どんな呪いも解除出来るって売り文句は嘘ですの!?」
「看板に偽りはない。
確かにアタシはどんな呪いでも解除可能だ。
そういうスキルも持ってるしな。」
「だったら!」
「だが、それは呪いではない。
むしろ逆。
神の祝福じゃ。
破門の身とは言え、聖職を生業とするアタシに祝福の奇跡を否定する事は出来ない。」
「だーかーらー!
この男とワタクシは何の関係もありませんの!
他人! 全くの他人! むしろ、生理的に無理な分他人以下の存在ですわ!」
「ふーん。
他人との間に祝福線が発動するとは思えないけどね。」
「これは何かの手違い!
こんな卑しい男と結婚だなんて、ワタクシ帝都に帰れなくなってしまいますわ!
この男ったら、ゴミだのヤクザだのスライムだの解体など、そんな下賤仕事にばかり携わっておりますのよ!
酷いと思いませんこと!?」
「…他人の割に随分詳しいねえ。」
「そ、それは一緒の建物で暮らしておりますし!」
「…ん?
…そこ詳しく。」
「ですからあ!!
ワタクシこの街に土地勘が無くて!
それで仕方なくこの男の家に寝泊まりしておりますの!」
「??
同棲してるんなら他人じゃなくね?」
「同棲とかそんなものじゃありませんわ!
大きなビルなの!!
他にもいっぱい入居者はおりますわ!
この男、家主の立場を笠に着てワタクシに無理難題を押し付けて来ますのよ!」
「??
ああ、家主と店子の関係なのね?
別に同じ部屋で暮らしている訳ではない、と。」
「…あ、いや。」
「ん?
同じ部屋では暮らしてないんだよね?」
「…あ、いやワタクシも忙しいですし。
仕事関係の資料もこの男の部屋に置いておりますので…
3日に1回くらいは… いえ、3日に2日くらいはこの男の部屋で眠りますわ。」
「じゃあ、自分の部屋で寝るのは3日に1日だけ?」
「いえ、研究が忙しいので3日に1日は徹夜ですわね。」
「…それ、同棲じゃね?」
「違いますわ!!
たまたまこの男の部屋が便利だから仮眠に使ってるだけですわ!!」
「えっと… じゃあセックスはしてないんだね?」
「いや、そのモゴモゴ」
「ん? そこは大切な部分だよ。 嘘偽りなく答えてね?
セックスはしたの?」
「ち、違いますのよ!
ワタクシにその気はなかったのに!
卑劣なこの男に強姦されましたの!!
ワタクシ何度も殴られましたのよ!
お父様にもぶたれたことがないのに!」
「強姦?
それっていつ?」
「もう3ヶ月くらい前になりますかしら…」
「それ以来はどこに寝泊まりしてるの?」
「ですから、この男の部屋です!」
「???
それ以降は当然セックスもレイプも無いんだよね?」
「…いや、そのモニョモニョ」
「???
…ヤッてるじゃん。
ヤリまくってるじゃん!
何で出て行かないの?」
「ワタクシも今すぐにでも出て行きたいですわよ!!!
こんな屈辱的な生活っ! 生まれて初めてですからァ!!!
でも、仕事が途中だから出るに出れませんの!!!」
「仕事?」
「どうしても書き上げたい論文があるんですぅー!!」
「別の宿に泊まって書けばよくね?」
「ですからああ!!
この男と共同執筆しているから出て行けないんですうう!!!!」
「?? え? ゴメン、アンタの言い分理解出来ない。」
「あああああ!!!!
ですから! この男とは単なるビジネス!
利害が一致しているから、数十億円単位の取引をして! 共著して!
共同開発した新薬を民部省に特許出願してますのよ!!」
「めっちゃ仲いいやん?」
「別に一緒に仕事したからって男女の仲になる訳もないでしょ!
あくまで仕事! あくまでビジネス! ビジネスのみ!!」
「でもセックスしてるんやろ?」
「…ぐぬぬ。」
「で?
後ろのお嬢ちゃんは…」
「第一夫人のメリッサです!
イセカイの妻で御座います!
正妻です!
この人は妾! 使用人! ただの居候!」
「ハァ!!!????
このワタクシに向かって使用人ですってええ!!!!
ふざけるなこのメス豚!!!! (ボコオオボコオ!)
第一夫人はワタクシ! ワタクシが正妻!!!!
オマエみたいな低能の乞食は最下層の便所奴隷でもやってなさい!!」
『やめろォ!!!』
あまりに酷いメリッサへの仕打ちに怒った俺がベスおばの顔面を殴り付けながらメリッサを庇う。
何とかメリッサを守ろうとするが、鬼の形相のベスおばに片手でボコボコにされる。
側にいたフランコ司祭もついでに殴り回される。
フランコと二人まとめて壁に叩きつけられてぐったりとする。
折れた歯が床にコロコロ転がるが、それがどちらの者なのかすら見当が付かない。
何とか起き上がろうとするが、メリッサを投げつけられて3人で目を回す羽目になる。
「仲いいねえ。」
「どこが!!!」
「アンタ男に殴られたことなんて無いだろ?」
「ある訳ないでしょ!!」
「でな。
あそこで転がってる男も、女を殴るどころか喧嘩一つしたことがないんだよ。
多少の戦闘力を感知出来てるから、武器の一つは隠し持ってるんだろうけどさ。
それが… アンタに対してだけは躊躇いなく殴る。」
「それが何よ!」
「それくらい、お互いに特別な存在なんじゃよ。」
「…で、赤い糸を消す方法は?」
「アタシには消せない。
技術的にも教義的にも消せない。」
「じゃあ、いっそのこと!」
「一言言っておくけど。
その男を殺しても糸が消えない可能性が高いよ。
死後100年くらいは運命線は輝き続けるんだってさ。
だから、死体隠蔽が不可能。」
「…平民とは言え殺したのがバレるのは拙いですわ。」
「ここ、自治都市だから幾らアンタが貴族でも無礼討ちは出来ないからね。
新しい市長は犯罪に相当厳しいらしいし。」
「…この男が市長らしいですわよ。」
「…え?
え? は? え え え???
市長!?
じゃあこれがチート・イセカイ市長!?
え!? ヤクザ上がりの豪傑だって聞いたよ!?
ホントにコレ!?」
「ええ。
これが伊勢海地人です。」
「…防疫剤を自腹で製作した名君!」
「作ったのはワタクシですわ!
レシピを発見したのはこの男ですケド…」
「仲いいじゃん!
黄金タッグじゃん!」
「よくない!!」
「セックスしてるじゃん?」
「あーーーー!!!
うるさいうるしぃあうるさいうるさい!!!!
もういい!!
解決策を示しなさいよ!!!!
この赤い線を見られない方法を考えなさい!!!」
「ずっと手を繋いでいれば他人から線は見られずに済むんじゃね?」
「嫌よ!!!!
絶対嫌!
慣れ合うくらいなら殺し合いで決着を付けますわ!
この男もそのつもりらしいですし!」
「…それだけ気が合うんだから、もう諦めたら。」
「…気は合いません。
合うのは利害だけ。」
「そんなに嫌なら第一夫人の座をあの子にあげたら?」
「やーよ!!!!
あんな女に負ける位なら死んだ方がマシ!!!」
「やれやれ。」
『…俺からも少しいいか?』
「おや、見た目によらずタフだね。
流石は名君。
噂になってるよ、騎士を率いて荷馬車強盗のジーンを捕まえたんだって?
それも陣頭に立って、名誉の負傷をする位に奮戦したそうじゃないか。」
『虚聞でありましょう。
たまたま、その場に居合わせただけですよ。』
「ふっw
…それで聞きたい事とは?」
『解呪が困難ということは理解した。
なら逆に、この赤い糸がある事のメリットを知りたい。
勿論、これからも解決方法を探るつもりだが。』
「お互いの居場所が解る。
それが最大のメリットだよ。」
「ワタクシには悪夢にしか感じませんけどね。」
「2人ともよくお聞き。
いつでも! どこでも! どんな状況でも!
お互いの居場所が解る。
それがメリットだから。」
『使い道を考えておくよ。』
「あら、ワタクシ早速思いつきましたけど。」
『何だよ?』
「用済みになった伊勢海地人を抹殺する時に探す手間が省けますわ。
逃げても隠れても無駄、必ず見つけ出して息の根を止めてやりますから。」
『流石は博士。』
「茶化さないで。」
『なあ、俺ってまだ用済みになってないのか?』
「アナタにお願いしたい事は山ほどあるのよ。
グランバルドをより良く発展させる為にもね。」
『なるほどな。
俺だってグランバルドの人々により良く発展的な暮らしをさせたいと思っている。』
「…なあ、アンタら二人。
これからどうするつもりだい?
2人にその気が無くとも、赤い線はすぐに帝国中の噂になるよ。」
「…でしょうね。」
『結婚はメリッサとする。』
「ハア!?
アナタ、ワタクシに喧嘩売ってるの?」
『俺とアンタは相容れない。
だから無理に婚姻関係を結ぶ必要はない。
お互い奇跡なんて信じてないだろ?
こんなもの単なる現象だ。
奇跡なんて仕掛けがバレてないだけの手品だ。
アンタもそう思うクチだろ?』
「…お気遣いありがとう。
現実問題としてこの糸はどうするの?」
『俺達が堂々と婚姻を否定していればいいだけだ。
アンタの実家、デカいんだよな?』
「ヴィルヘルム家はグランバルド最高の血統よ。
その中でもワタクシは本家の長女!
七大公とか名乗ってる成り上がり共とは格が違うわ。
お父様は温厚なだけの平凡人だけど…
それでもヴィルヘルム家の権威は別格よ!」
「…ん? おんこう? へいぼん?」
一瞬ケイトが怪訝そうな表情をする。
『実家が太いのは良い事だ。
そのお父様とやらに現象の解決をお願いしておくんだな。
俺もこの発光現象を終了させる手段を探しておくよ。』
「イセカイ市長。
神の奇跡は絶対だよ。
覆す事など不可能。」
『そりゃあ、聖職者としての貴方は立場上そう仰るでしょうが…』
「確かにアタシは元聖職者だが、神学部じゃない、史学部ルートだ。
信仰ではなく、検証と再現を専門としていた。」
『つまり神学的な話では無く、科学的見地から神の奇跡を語る、と?』
「現にスキルボーナスは各地の神像がもたらすだろうが?
実際に恩恵がある以上、そこには科学的な根拠が必ず存在する。」
『スキルボーナス!? 各地の神像!?』
「ほら、どんな辺鄙な村にも教会と神像はあるだろうが。
いや、確かにこの街には無いが。」
『どうして前線都市には無いんだよ!?』
「いや、教会は神祇省の管轄なんだから…
そりゃあ軍が撤退する時に一緒に撤退したに決まってるじゃないか。」
『前線都市以外の全グランバルド自治体に神像が存在するんだな!?』
「そんなもの常識だろうが。」
『ケイトさん。 神像のデザインを確認する方法はある?
大至急知りたいんだけど。』
「ハア?
そんなもの学童一年生の段階で真っ先に習うじゃろう。」
『あ、俺学校行ったことないし、この街以外知らないんだ。』
「イセカイ市長って出身どこよ?」
『大阪。』
「あー、ごめん。 その村の名前は聞いた事無いわ。
それにしても学校行ってないって意外だねえ。
かなり学があるとは噂になっているんだけど。
アタシはてっきりガタイのいいインテリヤクザを想像していたんだけどねえ。」
『神像のデザインを知る方法は無いか?』
ケイト婆さんは無言で宗教書をこちらに突き出し、表紙をトントン叩いた。
想像以上に写実的な像のイラストが刷られている。
…やはり。
服の意匠が極めて酷似している。
俺が最初に会った標準座標≪√47WS≫の着ていた服に非常に似ている。
『ありがとう。
スキルボーナスについても教えて欲しい。』
「?
いや、それも常識じゃろう?
新たにスキルを身に着けた者や、スキルレベルを上げた者には《神の恩寵》が与えられる。
全ての傷病が完治し、寿命は格段に伸び、ポジティブな多幸感が長期に渡って継続する。
更には教会から巨額の報奨金が支給される。」
『やっぱり、みんな神像に祈るの?
信心深く?』
「はははw
信心なんてないww
カネだよ、カネw
無料でスキルレベル確認が出来て、あわよくば大金が貰えるんだよ?
どんな辺鄙な田舎村でも神像の前は行列が出来てるよw」
『その… ちゃんとカネは支払われてるのか?』
「当然。
それが神祇省の存在意義だからね。
ロイド・ゴールドマンの逸話くらいは聞いた事ない?
共和制移行後すぐの頃にさあ、《複製スキル》で有名だった男が、スキルレベルアップと共に神に認められて、グランバルド全土に響く神託と共に神々の一柱に列席されたあの逸話。
貧乏な鍛冶屋の見習いが今では信仰の対象だよ。
ゴールドマンの子孫には今でも神祇省内にポストを与えられている。
まったく、御先祖様様だねww」
複製スキル?
それを成長させた男に神託が下った?
俺は標準座標≪√47WS≫の台詞を思い出す。
【次元跳躍プログラムと、元素複製プログラムは引き当てたから
後は狂戦士プログラムだけ回収出来たら、ワシも出世出来るんだが。
要は知的生命体に無思考で殺し合いをさせたいだけなのよねーw】
それってアイツらが《元素複製プログラム》を引き当てたってことだよな?
ここ、詳しく知りたい。
標準座標≪√47WS≫に一泡ふかす為のヒントになり得る。
『…スキル関連、いや神祇省や神像、ゴールドマンの逸話を記した書籍があれば
売って貰えないだろうか?
出来れば前知識が無くても読める初学者用の書籍が欲しい!
礼は弾む!』
「市長、アンタ何を言っとるんだい?
毎月役人が大々的に配っとるだろうが。
ほい聖書。
え!? アンタ、ひょっとして聖書すら知らなかったのかい!?
どういう育ちをしてきたんだか。
親御さんはよっぽどの非常識人だねえ!」
『これ、お幾らしますか?
是非、譲り受けたいです。』
「無料に決まっとるだろうが。
法律にもちゃんと定められているじゃろ?
全てのグランバルド人には神の教えを書き記した聖書を読み広める義務がある、と。
聖書を広めるのにカネなんか取ったら重労働刑だよ!
信心深い領主の治める村なら縛り首になっちまうw」
『では、遠慮なく。』
俺は不審そうな表情でこちらを睨んでるベスおばからエクスポーションを没収すると、メリッサとフランコ司祭を蘇生させてから家路に着いた。
『なあ、今までの非礼は詫びるからさ。
正式に俺と組んでくれないか?
出来る範囲で便宜は図らせて貰う。
これまでの冷淡な対応をまずは謝罪させて欲しい。』
「あーら、伊勢海クンったら
ようやく自分の立場が分かってきたみたいじゃないww
そうねえ、犬の鳴き真似しながら街を3周出来たら多少は考えてあげなくもないわねwww」
『頼む、フランコ司祭。
今まで済まなかった!』
「そっちかーい! ファファファファー―イ!!」
「え? 私ですか?
いや、イセカイ市長。
私も元々、そのこういう立場で来てしまっておりますし
どうこう言えた義理では。」
『司祭、俺の事はチートと呼んで欲しい。
歳も近いようだし、そんな丁寧な言葉遣いもやめてくれ。』
「はははw
それじゃあ私の事もニックと呼んで下さい。
改めて宜しくお願いしますね、チート。」
「ファファファー!?」
俺は工房に戻ると、早速誠意を示す事にする。
『ニックはコレクターって話だけど。
俺の持ち物で欲しいものある?』
「あ、いや。
うーん。
じゃあ普段身に着けているものを。
未来の聖遺物になる予定だしねw。」
『じゃあ、この解体刀、プレゼントするよ。
職人としての俺が初めて使ったものだし、価値はあると思う。
後、俺が故郷から着て来た服も譲渡する。
あ、眼鏡の破片とか必要?』
「ちょっと待って!
流石に刀剣は拙いって!
刀は戦士の魂! 職人の魂じゃないですか!」
『価値はあるんでしょ?』
「そりゃあ、奇跡を起こした人間の佩刀なんて
聖遺物リストの筆頭に来るけど。」
『じゃあ、ニックが持ってて欲しい。
秘跡認定だったか?
それもニックがやってくれていいと思ってる。』
「ちょっと伊勢海クン!
ワタクシは嫌よ!!」
『じゃあ、この女が賛成したら、でいいよ。』
「エリー… 頼むよ。
子供の頃からの付き合いだろ?
散々君の我儘に付き合って来たんだから、一度くらい僕の望みを聞いてくれよ。」
「嫌なものは嫌!」
「僕を認定者に指名した方が君の得だよ?
指名が遅れちゃうと、神祇省から君のご実家に問い合わせが行くと思うけど?
来月は予算決議でしょ?
君のお父様も困ると思うけどなあ。
僕を認定者に指名してくれたら、そこら辺は全部ブロック出来るけど?」
「ぐぬぬ… 弱虫ニコラスの分際で…
人の足元見よってからに!」
「はははw
じゃあ、ここにサインいいかな?
あ、エリーは勿論フルネームで、こっちの空欄に花押もお願いね?」
「アンタ、覚えてなさいよ!」
「うー、怖い怖い。
じゃあ、ニートもここにサインお願い出来るかな?」
『了解。
ベスも嫌がってるし、極力目立たない様にお願いするよ。』
「安心してよ!
調査に時間が掛かってる事にするから。
その間、それこそ《解呪》に成功すれば、僕の権限で話を流せる!」
ニックの聖職者としての序列は大したことが無い。
精々係長に毛が生えたレベルの存在だ。
ただ、実家のフランコ家が帝国屈指の大富豪であり、神祇省にかなりの額の寄付を行っている。
(建前上、宗教行為なので明らかな賄賂でありながら賄賂ではない。)
なので、ニコラス・デ・フランコ司祭はかなり好き勝手が許される。
その証拠に管轄教区の所属でも無いに関わらず前線都市への従軍僧派遣を志願して、無理矢理自身をポストに捻じ込んでいる。
こんなゴリ押しが官僚社会で許される訳が無いのだが、カネさえあれば簡単に許される。
世の中は所詮カネが全てなのである。
酷い話であるが、この状況では助かる。
少なくとも、自分に好意的でない宗教官僚が派遣されてしまった場合、情勢が俺にとって不利に働く可能性も考えられるのだから。
「エリー、チート、逆に僕から君達に出来る事はある?」
「一発殴らせなさいよ。」
「さっき散々殴られたよ、奥歯が折られたのなんて生まれて初めてだ。」
「あっそ、次は前歯を叩き折ってやるわ。」
昔からこういう女だったらしい。
ヴィルヘルム家自体が戦国の気風を残す気の荒い家系として有名なのだが、その中でもこの女は持て余されてる、とのこと。
「チートは?」
『俺に神学を教えて欲しい。
子供相手の説法レベルで構わないから。』
「ははは、僕の苦手分野だけど頑張るよ。
数学ならお役に立てるんだけどさw」
『え! ニックは数学出来る人なの?』
「御存知の通りフランコ家は商家だからね。
数学は徹底的に叩き込まれるよw」
『標準座標≪√47WS≫…』
「ん? ゴメン、天文学はちょっとw
天蓋の先の計測なんて、イマイチ興味が湧かなくてさww」
…前から思っていたがグランバルドは学術レベル高いのか?
レザノフ・ベスおば・司祭のニック。
たまたま英才との邂逅に恵まれただけなのかも知れないが…
何でオマエらそんなに一瞬で理解してしまえるんだ?
『ごめん。
そこにちょっとした用事があってさw』
「はははw
じゃあそれは神学の域だねw
生憎、僕は天文学以上に神学に興味が無くてねww」
2人で笑った。
届くな… 標準座標≪√47WS≫に。
ゴールが見えて来た。
その夜、師匠の許可を得てメリッサとの婚姻を行った。
申し訳なくなる程簡素なものだったが、本職の司祭が祝福してくれたのだから、まあ及第点であろう。
近いうちに未亡人にしてしまうのは心苦しいが、あのガラクタを早期に文字通りの聖遺物にしてやれるのだから、この世界にとってはトントンだ。
1人は当然ゴードン夫人。
同じくらいに名前が挙がるのがケイト婆さん。
ずっと探していたが出逢えなかったので、半ば断念していた。
今こうやって邂逅し、見つけられなかった理由を悟る。
この人は(女子の間で)有名な占い師。
本業は薬剤師だが、その事実を知らない常連が多い。
店名は「前線占いハウス」。
占い・人生相談・製薬のみならず解呪までもを得意とする。
言われてみれば何度か通りかかった記憶はあるが、全く占いに興味を持っていないのでスルーしていた。
俺が女ならケイト婆さんとはもっと早く出逢っていたかも知れない。
ケイト婆さんに相対しているのは、俺・メリッサ・ベスおば・フランコ司祭の4人。
ベスおばとフランコ司祭はジュニアスクールからの幼馴染らしく、同期生への悪口に華を咲かせていた。
2人はスクールカースト的にも思想的にも実家の政治姿勢的にも対立する立場にあったが、その割にはまあまあ平和的な関係を築いている。
そして、店内。
ケイト婆さんはゴミでも見るような目で赤い糸を眺めている。
「アナタがケイトね。
この呪いを解いて頂戴。
腕利きの解呪師と聞いておりますわ。
今、手持ちはありませんがこの二人が支払いますので。」
「…無理さね。」
「ハア!?
この料金表に《解呪全般請け負います》って書いてるじゃない!
どんな呪いも解除出来るって売り文句は嘘ですの!?」
「看板に偽りはない。
確かにアタシはどんな呪いでも解除可能だ。
そういうスキルも持ってるしな。」
「だったら!」
「だが、それは呪いではない。
むしろ逆。
神の祝福じゃ。
破門の身とは言え、聖職を生業とするアタシに祝福の奇跡を否定する事は出来ない。」
「だーかーらー!
この男とワタクシは何の関係もありませんの!
他人! 全くの他人! むしろ、生理的に無理な分他人以下の存在ですわ!」
「ふーん。
他人との間に祝福線が発動するとは思えないけどね。」
「これは何かの手違い!
こんな卑しい男と結婚だなんて、ワタクシ帝都に帰れなくなってしまいますわ!
この男ったら、ゴミだのヤクザだのスライムだの解体など、そんな下賤仕事にばかり携わっておりますのよ!
酷いと思いませんこと!?」
「…他人の割に随分詳しいねえ。」
「そ、それは一緒の建物で暮らしておりますし!」
「…ん?
…そこ詳しく。」
「ですからあ!!
ワタクシこの街に土地勘が無くて!
それで仕方なくこの男の家に寝泊まりしておりますの!」
「??
同棲してるんなら他人じゃなくね?」
「同棲とかそんなものじゃありませんわ!
大きなビルなの!!
他にもいっぱい入居者はおりますわ!
この男、家主の立場を笠に着てワタクシに無理難題を押し付けて来ますのよ!」
「??
ああ、家主と店子の関係なのね?
別に同じ部屋で暮らしている訳ではない、と。」
「…あ、いや。」
「ん?
同じ部屋では暮らしてないんだよね?」
「…あ、いやワタクシも忙しいですし。
仕事関係の資料もこの男の部屋に置いておりますので…
3日に1回くらいは… いえ、3日に2日くらいはこの男の部屋で眠りますわ。」
「じゃあ、自分の部屋で寝るのは3日に1日だけ?」
「いえ、研究が忙しいので3日に1日は徹夜ですわね。」
「…それ、同棲じゃね?」
「違いますわ!!
たまたまこの男の部屋が便利だから仮眠に使ってるだけですわ!!」
「えっと… じゃあセックスはしてないんだね?」
「いや、そのモゴモゴ」
「ん? そこは大切な部分だよ。 嘘偽りなく答えてね?
セックスはしたの?」
「ち、違いますのよ!
ワタクシにその気はなかったのに!
卑劣なこの男に強姦されましたの!!
ワタクシ何度も殴られましたのよ!
お父様にもぶたれたことがないのに!」
「強姦?
それっていつ?」
「もう3ヶ月くらい前になりますかしら…」
「それ以来はどこに寝泊まりしてるの?」
「ですから、この男の部屋です!」
「???
それ以降は当然セックスもレイプも無いんだよね?」
「…いや、そのモニョモニョ」
「???
…ヤッてるじゃん。
ヤリまくってるじゃん!
何で出て行かないの?」
「ワタクシも今すぐにでも出て行きたいですわよ!!!
こんな屈辱的な生活っ! 生まれて初めてですからァ!!!
でも、仕事が途中だから出るに出れませんの!!!」
「仕事?」
「どうしても書き上げたい論文があるんですぅー!!」
「別の宿に泊まって書けばよくね?」
「ですからああ!!
この男と共同執筆しているから出て行けないんですうう!!!!」
「?? え? ゴメン、アンタの言い分理解出来ない。」
「あああああ!!!!
ですから! この男とは単なるビジネス!
利害が一致しているから、数十億円単位の取引をして! 共著して!
共同開発した新薬を民部省に特許出願してますのよ!!」
「めっちゃ仲いいやん?」
「別に一緒に仕事したからって男女の仲になる訳もないでしょ!
あくまで仕事! あくまでビジネス! ビジネスのみ!!」
「でもセックスしてるんやろ?」
「…ぐぬぬ。」
「で?
後ろのお嬢ちゃんは…」
「第一夫人のメリッサです!
イセカイの妻で御座います!
正妻です!
この人は妾! 使用人! ただの居候!」
「ハァ!!!????
このワタクシに向かって使用人ですってええ!!!!
ふざけるなこのメス豚!!!! (ボコオオボコオ!)
第一夫人はワタクシ! ワタクシが正妻!!!!
オマエみたいな低能の乞食は最下層の便所奴隷でもやってなさい!!」
『やめろォ!!!』
あまりに酷いメリッサへの仕打ちに怒った俺がベスおばの顔面を殴り付けながらメリッサを庇う。
何とかメリッサを守ろうとするが、鬼の形相のベスおばに片手でボコボコにされる。
側にいたフランコ司祭もついでに殴り回される。
フランコと二人まとめて壁に叩きつけられてぐったりとする。
折れた歯が床にコロコロ転がるが、それがどちらの者なのかすら見当が付かない。
何とか起き上がろうとするが、メリッサを投げつけられて3人で目を回す羽目になる。
「仲いいねえ。」
「どこが!!!」
「アンタ男に殴られたことなんて無いだろ?」
「ある訳ないでしょ!!」
「でな。
あそこで転がってる男も、女を殴るどころか喧嘩一つしたことがないんだよ。
多少の戦闘力を感知出来てるから、武器の一つは隠し持ってるんだろうけどさ。
それが… アンタに対してだけは躊躇いなく殴る。」
「それが何よ!」
「それくらい、お互いに特別な存在なんじゃよ。」
「…で、赤い糸を消す方法は?」
「アタシには消せない。
技術的にも教義的にも消せない。」
「じゃあ、いっそのこと!」
「一言言っておくけど。
その男を殺しても糸が消えない可能性が高いよ。
死後100年くらいは運命線は輝き続けるんだってさ。
だから、死体隠蔽が不可能。」
「…平民とは言え殺したのがバレるのは拙いですわ。」
「ここ、自治都市だから幾らアンタが貴族でも無礼討ちは出来ないからね。
新しい市長は犯罪に相当厳しいらしいし。」
「…この男が市長らしいですわよ。」
「…え?
え? は? え え え???
市長!?
じゃあこれがチート・イセカイ市長!?
え!? ヤクザ上がりの豪傑だって聞いたよ!?
ホントにコレ!?」
「ええ。
これが伊勢海地人です。」
「…防疫剤を自腹で製作した名君!」
「作ったのはワタクシですわ!
レシピを発見したのはこの男ですケド…」
「仲いいじゃん!
黄金タッグじゃん!」
「よくない!!」
「セックスしてるじゃん?」
「あーーーー!!!
うるさいうるしぃあうるさいうるさい!!!!
もういい!!
解決策を示しなさいよ!!!!
この赤い線を見られない方法を考えなさい!!!」
「ずっと手を繋いでいれば他人から線は見られずに済むんじゃね?」
「嫌よ!!!!
絶対嫌!
慣れ合うくらいなら殺し合いで決着を付けますわ!
この男もそのつもりらしいですし!」
「…それだけ気が合うんだから、もう諦めたら。」
「…気は合いません。
合うのは利害だけ。」
「そんなに嫌なら第一夫人の座をあの子にあげたら?」
「やーよ!!!!
あんな女に負ける位なら死んだ方がマシ!!!」
「やれやれ。」
『…俺からも少しいいか?』
「おや、見た目によらずタフだね。
流石は名君。
噂になってるよ、騎士を率いて荷馬車強盗のジーンを捕まえたんだって?
それも陣頭に立って、名誉の負傷をする位に奮戦したそうじゃないか。」
『虚聞でありましょう。
たまたま、その場に居合わせただけですよ。』
「ふっw
…それで聞きたい事とは?」
『解呪が困難ということは理解した。
なら逆に、この赤い糸がある事のメリットを知りたい。
勿論、これからも解決方法を探るつもりだが。』
「お互いの居場所が解る。
それが最大のメリットだよ。」
「ワタクシには悪夢にしか感じませんけどね。」
「2人ともよくお聞き。
いつでも! どこでも! どんな状況でも!
お互いの居場所が解る。
それがメリットだから。」
『使い道を考えておくよ。』
「あら、ワタクシ早速思いつきましたけど。」
『何だよ?』
「用済みになった伊勢海地人を抹殺する時に探す手間が省けますわ。
逃げても隠れても無駄、必ず見つけ出して息の根を止めてやりますから。」
『流石は博士。』
「茶化さないで。」
『なあ、俺ってまだ用済みになってないのか?』
「アナタにお願いしたい事は山ほどあるのよ。
グランバルドをより良く発展させる為にもね。」
『なるほどな。
俺だってグランバルドの人々により良く発展的な暮らしをさせたいと思っている。』
「…なあ、アンタら二人。
これからどうするつもりだい?
2人にその気が無くとも、赤い線はすぐに帝国中の噂になるよ。」
「…でしょうね。」
『結婚はメリッサとする。』
「ハア!?
アナタ、ワタクシに喧嘩売ってるの?」
『俺とアンタは相容れない。
だから無理に婚姻関係を結ぶ必要はない。
お互い奇跡なんて信じてないだろ?
こんなもの単なる現象だ。
奇跡なんて仕掛けがバレてないだけの手品だ。
アンタもそう思うクチだろ?』
「…お気遣いありがとう。
現実問題としてこの糸はどうするの?」
『俺達が堂々と婚姻を否定していればいいだけだ。
アンタの実家、デカいんだよな?』
「ヴィルヘルム家はグランバルド最高の血統よ。
その中でもワタクシは本家の長女!
七大公とか名乗ってる成り上がり共とは格が違うわ。
お父様は温厚なだけの平凡人だけど…
それでもヴィルヘルム家の権威は別格よ!」
「…ん? おんこう? へいぼん?」
一瞬ケイトが怪訝そうな表情をする。
『実家が太いのは良い事だ。
そのお父様とやらに現象の解決をお願いしておくんだな。
俺もこの発光現象を終了させる手段を探しておくよ。』
「イセカイ市長。
神の奇跡は絶対だよ。
覆す事など不可能。」
『そりゃあ、聖職者としての貴方は立場上そう仰るでしょうが…』
「確かにアタシは元聖職者だが、神学部じゃない、史学部ルートだ。
信仰ではなく、検証と再現を専門としていた。」
『つまり神学的な話では無く、科学的見地から神の奇跡を語る、と?』
「現にスキルボーナスは各地の神像がもたらすだろうが?
実際に恩恵がある以上、そこには科学的な根拠が必ず存在する。」
『スキルボーナス!? 各地の神像!?』
「ほら、どんな辺鄙な村にも教会と神像はあるだろうが。
いや、確かにこの街には無いが。」
『どうして前線都市には無いんだよ!?』
「いや、教会は神祇省の管轄なんだから…
そりゃあ軍が撤退する時に一緒に撤退したに決まってるじゃないか。」
『前線都市以外の全グランバルド自治体に神像が存在するんだな!?』
「そんなもの常識だろうが。」
『ケイトさん。 神像のデザインを確認する方法はある?
大至急知りたいんだけど。』
「ハア?
そんなもの学童一年生の段階で真っ先に習うじゃろう。」
『あ、俺学校行ったことないし、この街以外知らないんだ。』
「イセカイ市長って出身どこよ?」
『大阪。』
「あー、ごめん。 その村の名前は聞いた事無いわ。
それにしても学校行ってないって意外だねえ。
かなり学があるとは噂になっているんだけど。
アタシはてっきりガタイのいいインテリヤクザを想像していたんだけどねえ。」
『神像のデザインを知る方法は無いか?』
ケイト婆さんは無言で宗教書をこちらに突き出し、表紙をトントン叩いた。
想像以上に写実的な像のイラストが刷られている。
…やはり。
服の意匠が極めて酷似している。
俺が最初に会った標準座標≪√47WS≫の着ていた服に非常に似ている。
『ありがとう。
スキルボーナスについても教えて欲しい。』
「?
いや、それも常識じゃろう?
新たにスキルを身に着けた者や、スキルレベルを上げた者には《神の恩寵》が与えられる。
全ての傷病が完治し、寿命は格段に伸び、ポジティブな多幸感が長期に渡って継続する。
更には教会から巨額の報奨金が支給される。」
『やっぱり、みんな神像に祈るの?
信心深く?』
「はははw
信心なんてないww
カネだよ、カネw
無料でスキルレベル確認が出来て、あわよくば大金が貰えるんだよ?
どんな辺鄙な田舎村でも神像の前は行列が出来てるよw」
『その… ちゃんとカネは支払われてるのか?』
「当然。
それが神祇省の存在意義だからね。
ロイド・ゴールドマンの逸話くらいは聞いた事ない?
共和制移行後すぐの頃にさあ、《複製スキル》で有名だった男が、スキルレベルアップと共に神に認められて、グランバルド全土に響く神託と共に神々の一柱に列席されたあの逸話。
貧乏な鍛冶屋の見習いが今では信仰の対象だよ。
ゴールドマンの子孫には今でも神祇省内にポストを与えられている。
まったく、御先祖様様だねww」
複製スキル?
それを成長させた男に神託が下った?
俺は標準座標≪√47WS≫の台詞を思い出す。
【次元跳躍プログラムと、元素複製プログラムは引き当てたから
後は狂戦士プログラムだけ回収出来たら、ワシも出世出来るんだが。
要は知的生命体に無思考で殺し合いをさせたいだけなのよねーw】
それってアイツらが《元素複製プログラム》を引き当てたってことだよな?
ここ、詳しく知りたい。
標準座標≪√47WS≫に一泡ふかす為のヒントになり得る。
『…スキル関連、いや神祇省や神像、ゴールドマンの逸話を記した書籍があれば
売って貰えないだろうか?
出来れば前知識が無くても読める初学者用の書籍が欲しい!
礼は弾む!』
「市長、アンタ何を言っとるんだい?
毎月役人が大々的に配っとるだろうが。
ほい聖書。
え!? アンタ、ひょっとして聖書すら知らなかったのかい!?
どういう育ちをしてきたんだか。
親御さんはよっぽどの非常識人だねえ!」
『これ、お幾らしますか?
是非、譲り受けたいです。』
「無料に決まっとるだろうが。
法律にもちゃんと定められているじゃろ?
全てのグランバルド人には神の教えを書き記した聖書を読み広める義務がある、と。
聖書を広めるのにカネなんか取ったら重労働刑だよ!
信心深い領主の治める村なら縛り首になっちまうw」
『では、遠慮なく。』
俺は不審そうな表情でこちらを睨んでるベスおばからエクスポーションを没収すると、メリッサとフランコ司祭を蘇生させてから家路に着いた。
『なあ、今までの非礼は詫びるからさ。
正式に俺と組んでくれないか?
出来る範囲で便宜は図らせて貰う。
これまでの冷淡な対応をまずは謝罪させて欲しい。』
「あーら、伊勢海クンったら
ようやく自分の立場が分かってきたみたいじゃないww
そうねえ、犬の鳴き真似しながら街を3周出来たら多少は考えてあげなくもないわねwww」
『頼む、フランコ司祭。
今まで済まなかった!』
「そっちかーい! ファファファファー―イ!!」
「え? 私ですか?
いや、イセカイ市長。
私も元々、そのこういう立場で来てしまっておりますし
どうこう言えた義理では。」
『司祭、俺の事はチートと呼んで欲しい。
歳も近いようだし、そんな丁寧な言葉遣いもやめてくれ。』
「はははw
それじゃあ私の事もニックと呼んで下さい。
改めて宜しくお願いしますね、チート。」
「ファファファー!?」
俺は工房に戻ると、早速誠意を示す事にする。
『ニックはコレクターって話だけど。
俺の持ち物で欲しいものある?』
「あ、いや。
うーん。
じゃあ普段身に着けているものを。
未来の聖遺物になる予定だしねw。」
『じゃあ、この解体刀、プレゼントするよ。
職人としての俺が初めて使ったものだし、価値はあると思う。
後、俺が故郷から着て来た服も譲渡する。
あ、眼鏡の破片とか必要?』
「ちょっと待って!
流石に刀剣は拙いって!
刀は戦士の魂! 職人の魂じゃないですか!」
『価値はあるんでしょ?』
「そりゃあ、奇跡を起こした人間の佩刀なんて
聖遺物リストの筆頭に来るけど。」
『じゃあ、ニックが持ってて欲しい。
秘跡認定だったか?
それもニックがやってくれていいと思ってる。』
「ちょっと伊勢海クン!
ワタクシは嫌よ!!」
『じゃあ、この女が賛成したら、でいいよ。』
「エリー… 頼むよ。
子供の頃からの付き合いだろ?
散々君の我儘に付き合って来たんだから、一度くらい僕の望みを聞いてくれよ。」
「嫌なものは嫌!」
「僕を認定者に指名した方が君の得だよ?
指名が遅れちゃうと、神祇省から君のご実家に問い合わせが行くと思うけど?
来月は予算決議でしょ?
君のお父様も困ると思うけどなあ。
僕を認定者に指名してくれたら、そこら辺は全部ブロック出来るけど?」
「ぐぬぬ… 弱虫ニコラスの分際で…
人の足元見よってからに!」
「はははw
じゃあ、ここにサインいいかな?
あ、エリーは勿論フルネームで、こっちの空欄に花押もお願いね?」
「アンタ、覚えてなさいよ!」
「うー、怖い怖い。
じゃあ、ニートもここにサインお願い出来るかな?」
『了解。
ベスも嫌がってるし、極力目立たない様にお願いするよ。』
「安心してよ!
調査に時間が掛かってる事にするから。
その間、それこそ《解呪》に成功すれば、僕の権限で話を流せる!」
ニックの聖職者としての序列は大したことが無い。
精々係長に毛が生えたレベルの存在だ。
ただ、実家のフランコ家が帝国屈指の大富豪であり、神祇省にかなりの額の寄付を行っている。
(建前上、宗教行為なので明らかな賄賂でありながら賄賂ではない。)
なので、ニコラス・デ・フランコ司祭はかなり好き勝手が許される。
その証拠に管轄教区の所属でも無いに関わらず前線都市への従軍僧派遣を志願して、無理矢理自身をポストに捻じ込んでいる。
こんなゴリ押しが官僚社会で許される訳が無いのだが、カネさえあれば簡単に許される。
世の中は所詮カネが全てなのである。
酷い話であるが、この状況では助かる。
少なくとも、自分に好意的でない宗教官僚が派遣されてしまった場合、情勢が俺にとって不利に働く可能性も考えられるのだから。
「エリー、チート、逆に僕から君達に出来る事はある?」
「一発殴らせなさいよ。」
「さっき散々殴られたよ、奥歯が折られたのなんて生まれて初めてだ。」
「あっそ、次は前歯を叩き折ってやるわ。」
昔からこういう女だったらしい。
ヴィルヘルム家自体が戦国の気風を残す気の荒い家系として有名なのだが、その中でもこの女は持て余されてる、とのこと。
「チートは?」
『俺に神学を教えて欲しい。
子供相手の説法レベルで構わないから。』
「ははは、僕の苦手分野だけど頑張るよ。
数学ならお役に立てるんだけどさw」
『え! ニックは数学出来る人なの?』
「御存知の通りフランコ家は商家だからね。
数学は徹底的に叩き込まれるよw」
『標準座標≪√47WS≫…』
「ん? ゴメン、天文学はちょっとw
天蓋の先の計測なんて、イマイチ興味が湧かなくてさww」
…前から思っていたがグランバルドは学術レベル高いのか?
レザノフ・ベスおば・司祭のニック。
たまたま英才との邂逅に恵まれただけなのかも知れないが…
何でオマエらそんなに一瞬で理解してしまえるんだ?
『ごめん。
そこにちょっとした用事があってさw』
「はははw
じゃあそれは神学の域だねw
生憎、僕は天文学以上に神学に興味が無くてねww」
2人で笑った。
届くな… 標準座標≪√47WS≫に。
ゴールが見えて来た。
その夜、師匠の許可を得てメリッサとの婚姻を行った。
申し訳なくなる程簡素なものだったが、本職の司祭が祝福してくれたのだから、まあ及第点であろう。
近いうちに未亡人にしてしまうのは心苦しいが、あのガラクタを早期に文字通りの聖遺物にしてやれるのだから、この世界にとってはトントンだ。
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