74 / 138

チートでリモート尋問される

しおりを挟む
目を覚ますと昼だった。
リビングで休憩していた師匠に昨日の礼を述べる。
まさかこの人がリザードの接待をしてくれてるとは思わなかった。


「ねえ、伊勢海クン!
ワタクシへのお土産は!」


『ニックがオーガの佩刀を買って帰って来たから、後で見せて貰えよ。』


「伊勢海クンからのお土産を寄越しなさいよ!
ワタクシも行きたかったのに!」


『あ、ポケットにオークの麻薬が残ってた。』


「麻薬! 頂戴頂戴! 
伊勢海クンもたまには役に立つじゃない。」


『駄目だ。
早急にしかるべき機関に提出し、成分分析を依頼しなければならない。』


「それこそワタクシに頼みなさいよ!」


『ん?
アンタ、そんな事も出来るのか?』


「当たり前でしょ!
ワタクシ、薬学アカデミーの…」


『ああ、スマン。
アンタの書いた論文に《医療用麻薬運用の現状と課題》があったな。
あれ凄く良かったよ。
俺は別に集権論者ではないんだけど、危険性・中毒性の強い薬物は中央で一括管理するべきと思う。
アンタの主張に俺も賛同するよ。』


「…。

今日中に、成分表を制作しておくから、後で何カ所かの署名だけお願い。」


『助かる。
今回は済まなかったな。』


「…済まなかったじゃないわよ。
アナタへの祝福線がいきなり河の中に沈んだ時はちょっと焦ったのよ!」


『俺が河の中を移動していたのは確認出来たか?』


「ええ、急に線が伸びるから
レザノフも叫び出すし。
アナタ達お友達なの?」


『いや全然。
仕事上の付き合いだよ。
お互いの立場を忘れて話せるのなら盛り上がるとは思うけどね。』



「ふーん、仲の宜しいことで。」


『そんなことより、オーク種の思考が判明した。
大至急、議長閣下に伝えてくれ。
オークが人間種に対し…  


ベスおばが無造作にコンパクトのボタンを押す。
この女、人を呼びつけるのに一切抵抗が無いんだな。


「あ、ポーシャ。 アンタのお父様呼んで来て。  
は? 議会?  じゃあ、アンタ以外の誰かでいいわ。」


『オークと人間種の国境? 緩衝地帯? 
そこはオークの聖地なんだ。
で、人間種側が彼らの墳墓を破壊している事を憤慨している。
中央もオークと戦争したい訳じゃないんだろ?
この事実さえ共有できれば無駄な争いは避けられると思うが…』


「アナタ何がしたい訳?」


『ただ世界を静謐にしたいだけだよ。
何事も起こらないなら、それに越したことは無いだろう?』


「あっそ、つまんない男。  …面白いけど。

あっ! ルネ君♪  ごきげんよう~♪ 元気ちてまちたか~♪ chu♪」


突然、ベスおばのトーンが変わる。
最初は男絡みかと思ったが、返信の声がまだ幼かったので縁戚か何かの少年だと思う。


「そうでちゅよ~♪
ワタクシ、お仕事頑張ってますの~♪
またルネ君に逢いたいな~♪
うふふふ~
身長伸びた?
あはは
照れちゃって可愛らしいですわ♪

あ、そうそう。
どうでもいいけど、軍がオークと睨み合ってる緩衝地帯あるじゃない?
アレ、オークにとっての聖地みたい。
後、彼らの墳墓? それを騎士団が壊してる事に怒ってるらしいわよ、知らんけど。

そんな事よりルネ君、少し声が大人になったんじゃない?
うふふふ♥
あら~
ワタクシの為に背伸びしてくれてるの~?
キャー♪  嬉し~♪

ん?
帝都には帰らないわよ。
今の話、マティアス様に伝えておいてね。」


「ルネ! 次は母の番です!
何ですか、オマエは親を差し置いて長々と(バシーン!)

ああ、お姉様! 私ねこの前とうと(ガチャンツーツー)」


ベスおばは通信を終えると、オークの麻薬をくちゃくちゃ噛みながら調合室へ降りていってしまった。
俺は師匠と食事の続きを取りながら、今後の事を話し合った。

特にクレアのイラストが案外有効だった件を喜んでくれる。
《落ち着いたら解体業のノウハウ公開に使いたい》
とのことだ。


『職人がノウハウを明かすのですか?』


「社会にとってはその方が有用じゃない?
ベスさんじゃないけれどさ。」


『師匠には今後の生活があります!』


「オマエには今後が無いのか?」


『派手に動き過ぎました。
流石に腹を括って…  
長生きは諦めてます。』


「レザノフ卿か?」


『あの人の殺気が凄くてw』


「確かに露骨だよな。
あの人って元は軍属だろ?
特命とか受けてるクチかな?
アレは何とかならんのか?」


『レザノフを何とかした所で、もっと物分かりの悪い人間が来るだけですよ。
一応協力してくれている点は多いので、助けられてはいるのですが…』


「助けてくれるならいいんじゃない?」


『でも、一段落したら俺を殺すつもりなんですよ?
最近は全然殺気隠さなくなってきてるしw』


「確かにw
昨日もずっとサーベルをカチャカチャさせてたよw
兵隊って嫌な人種だよなwww」


『まったくですww

…と言う訳で、俺が死ぬか殺されるかした場合
師匠とラルフ君に後事を託させて下さい。』


「ドランは?」


『前にこの話をチラッとしたら《勘弁してくれ》って逃げられました。』


「そりゃあアイツが正しい。
俺も正直逃げたい気分だが…
昨日リザードと接触してみて、オマエのやりたい事がようやく理解出来たよ。
今チートが行っている接触行為はグランバルド人にとって必要なことだ。
少なくとも目を背けるべきではないと思う。」



何より、師匠が賛同してくれたことに安堵した。
これで、もう思い残す事もなくなってしまったな。



その後、階下で臓物処理をしていたらマティアス議長からベスおばに通信が入ったらしく、調合室に呼び出される。

まずは。
《実在確認までおとなしくしていろ》
と言われた矢先にオーク見物へ行ったことを一通り叱責される。

そして墳墓の件を伝えると、側に控えていたらしい野太い声の男に色々と尋問される。
ナントカ元帥と名乗っていたから軍のお偉いさんなのだろう。
ベスおばとも面識があるようなので、ある程度話はスムーズに進んだ。
この元帥はどういう訳か俺の実在を確信していた。


俺はリザードから教わったオークへの作法。
《片膝を地に付けて両手を広げるジェスチャー》
も伝達しておく。


「戦意の放棄かね…
参ったな、今まで将兵たちに訓示していた事と真逆ではないか。」


『向こうもあまり人間種に敵愾心を持っていないようでした。
多分、こっちがジェスチャーを取ってみたら、向こうも返礼してくれると思いますよ。』


「兵士にそれを命ずるのもな…」


『私がそちらまで行って実験台になりましょうか?』


「いや、まずはこの老骨が試してみよう。
私が殉職し終わったら、後は君にお願いさせてくれ。」


『承知しました。
リザードは仲介に抵抗が無いようですが、オーク側は人間種とリザード種からの挟撃を警戒していました。
その点、刺激しないように注意して下さい。』


「ありがとう。
君の報告は妙に信憑性が高い。

…ただ、その結論に辿り着いた論拠を教えてくれ。」


『リザードやオークがそう言ってました、というのは論拠として弱いですよね?』


「せめて公文書に残せる論拠をくれよ。
私も議会に報告義務があるからさあ。」


『絵です。』


「絵? 絵画の絵?」


『提出用の複製を用意しておりますが、それで十分意図は通じました。
リザードの絵、人間種の絵、仲良くしている様子。
そういう情景をデフォルメして描かせたのですよ。』


「通じるのか!?」


『流石に一発では意思疎通出来ませんでしたが…
少なくとも交渉の意志は汲み取ってくれました。』


「うーん、にわかには信じ難いな…」


『でも元帥閣下も、戦場で丸腰のリザードやオークが絵を掲げながら遠慮がちに接近してきたら
流石に攻撃はしないでしょ?』


「出来る訳ないよー。
何千年も続いてきた、よく分からない戦いの解決の端緒になるかも知れないもの。」


『向こうも馬鹿ではないので、そこは理解してます。
少なくとも士官クラスはちゃんと教育を受けてますし、抽象的な思考能力があります。』


「どうして士官だと解ったのだね!?」


『兵隊さんって出世すればするほど
当然の権利の様な顔をして威張り散らしてますし。
まだ軍隊の中でそれをするのは許せるとして、組織外の人間にも横柄でしょ?』


「…それを私に言うかね。」


『元帥閣下はフランクな方だとお見受けしましたけど…
どうせ少数派なんですよね?』


「…まあね。
若い頃は苦労したよ。
要するにリザードもオークも、社会を作っている限り結局は似たものだ、と言いたい?」


『役人と軍人は特に顕著ですね。』


「そこは同意する。
それじゃあ、私が生きて帰ったら、続きを聞かせてくれ。」


『緩衝地帯に行かれるんですか?』


「話の流れ上、行かない訳にはならんだろう?
こんな危険な実験、部下にやらせる訳にはいかんしな。」


『先程の発言を撤回します。
軍人さんはみな、責任感があって信頼できる相手です!』


「っふww
じゃあな、お調子者ww」


その後も色々な省庁のオジサンが出てきて、ありとあらゆる角度から叱責と尋問を受けた。
腹話術説は、彼らの中でもう解消されているらしい。
俺とベスおばの価値観は近い点もあるが、根源の部分で相反しているからな。
聞く人が聞けばわかるのだろう。


結局、その日も夜遅くまで根掘り葉掘りの尋問が続き、終わった頃には完全に日が沈んでいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

異世界転生日録〜生活魔法は無限大!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
☆感想の受付開始しました。 【あらすじ】   異世界に転生したルイは、5歳の高熱を境に、記憶を取り戻す。一度は言ってみたい「ステータス・オープン」で、ステータスを見れることに気付いた。スキル「生活魔法∞(無限大)」を発見。その意味を知るルイは、仄かに期待を抱いた。  それと同時に、今世の出自である農家の四男は、長男大事な両親の態度に、未来はないと確信。  家族に隠れて、ステータスにあったスキルの一つ「鑑定」を使い、村のお婆(薬師)相手に、金策を開始。  十歳の時に行われたスキル鑑定の結果を父に伝えたが、農家向きのスキルではなかったルイは「家の役には立たない」と判断され、早々に家を追い出される。   だが、追放ありがとう!とばかりに、生活魔法を知るべく、図書館がある街を目指すことにしたルイ。  最初に訪れた街・ゼントで、冒険者登録を済ませる。だがそのギルドの資料室で、前世の文字である漢字が、この世界の魔法文字だという事実を知ることになる。  この世界の魔法文字を試したルイは、魔法文字の奥深さに気づいてしまった。バレないように慎重に……と行動しているつもりのルイだが、そんな彼に奇妙な称号が増えて行く。  そして、冒険者ギルドのギルドマスターや、魔法具師のバレンと共に過ごすうちに、バレンのお師匠様の危機を知る。  そして彼に会いにいくことになったが、その目的地が、図書館がある魔法都市アルティメットだった。  旅の道中もさることながら、魔法都市についても、色々な人に巻き込まれる運命にあるルイだったが……それを知るのは、まだ先である。 ☆見切り発車のため、後日変更・追記する場合があります。体調が不安定のため、かける時に書くスタイルです。不定期更新。 ☆カクヨム様(吉野 ひな)でも先行投稿しております。

【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~

シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。 前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。 その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。

無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~

甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって? そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...