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チートで牙を研ぐ
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メリッサは特に何もしない女だ。
リビングと俺の部屋を往復するくらいで、殆ど外出しない。
たまに工房を掃除したり、師匠たちの給仕をしてくれる。
何より、俺が何をしようが一々詮索しない。
俺は最高の女を引き当てた気がする。
逆にノエルは甲斐甲斐しい。
俺達のビジネスについて何らかの貢献をすべき、という強迫観念がある。
ちなみに、クレアに絵を描かせるアイデアはノエルの発案である。
後、良い意味でコミュ力がある。
メリッサや師匠達とも上手く打ち解けてくれているのは正直助かる。
こんな二人に挟まれて、俺は本当に幸せ者だと思う。
今日は誰からも呼びつけられていないので、工房の仕事を手伝う。
と言っても、スライムがちゃんと臓物を処理出来ているかを確認するだけである。
「なあチート。
リザード達にスライム処理を披露してみないか?」
俺が赤スライムをつんつんして分裂を促していると、ドランさんが提案してきた。
『スライムをですか!?』
「俺が見た所、アイツらあんまり固形物を食べないのね?
ずっと食用油みたいなものをチューチュー吸ってるイメージあってさ。
ひょっとするとスライムの需要は結構あるんじゃないかな?」
『いいですね。
次に顔を出した時に披露してみます。』
「今、クレアに絵を描かせてるじゃない?
手が空いたらスライムの取り扱い説明書も任せてみないか?」
『ええ、やってみましょう。
幾ら位、謝礼を払えばいいんですかね?
クレアちゃん何か言ってました?』
「ああ、ゴメン。
俺が勝手に払っちゃった。
5万ウェンあげたら機嫌よく仕事してくれてる。」
『あ、すみません!
全部ドランさんに丸投げしちゃってて。
あの… お二人はまだ付き合ってるんですか?』
「ありがたいことにまだ構って貰えてるよw
言ってなかった?
この近くに宿を取ってるんだ。」
『工房を使ってくれてもいいのに。』
「アイツ、俺と一緒で団体行動苦手だからな。
こういう人の多い職場には住みたくないみたいだ。
安宿でゴロゴロしているのが性に合ってるってさw」
『安宿?』
「ほら、裏通りの女宿あるじゃない?
一階が居酒屋になってるトコ。
金物屋の隣。」
『あんな所に住ませてるんですか!?』
「宿ってあるようで無いんだよ。
俺も結構探したんだぜ。
セントラルホテルも潰れちゃったしさ。
あれって廃業確定なの?」
『オーナーのバンガロスさんが所有権放棄しちゃったので。』
「…え? あんなデカい建物って捨てれるものなの?
売ればいいのに。」
『最近ずっと赤字だったらしいですよ。
ほらずっと景気悪いじゃないですか?
それで外からの客が殆ど来なくなったから…』
俺がこのグランバルドに来て初めて宿泊した宿が向かいのセントラルホテルである。
内装も結構綺麗だったし部屋数も多い。
放置するのはあまりに惜しいのだが。
「なあ、チート。
ちゃんとカネ払うからさ。
アソコ、使わせてくれないか?」
『え?
向かいに宿泊するんですか!?』
「宿泊っていうか、賃貸だな。
女と住むなら、多少高くてもいいから綺麗な場所に住みたいよ。」
『…。』
「すまん。 我儘だったな。
忘れてくれ。」
『いえ、ちょっと商業ギルドに聞いてみます。』
ドランのアイデアは非常に的確である。
前線都市が帝国の最南端に位置している以上、宿泊客は見込みにくい。
(そもそも最高権力者のマティアス議長からして、この近辺を帝国領と認識してないんだよな。)
なら、住民向けの賃貸に切り替えた方が需要あるんじゃないか?
俺は工房から出ると商業ギルドに行く為に人力車を呼ぼうとして…
待てよ?
どうせレザノフって俺を監視してるんだよな?
『レザノフさーーーん!!!
今、ちょっといいですかーーー!!!
急ぎ報告したいことがあるんですけどーーー!!』
通行人がジロジロこちらを見るが気にせずに叫び続ける。
3回目を叫んでいる時に、御者のカールさんがどこからともなく出現した。
ほーらね。
近くで監視していたでしょ?
「こんにちはチート市長!
偶然この辺を歩いていたら、急にお声が聞こえたので驚きましたよw」
あのさあ。
そんな見え透いた嘘を平然とつける神経に驚くんだけどさあ。
『レザノフ卿に確認したい事があるのですが…』
「お! それならすぐに馬車を!」
『あ、いや。
私も忙しいので伝言をお願いしていいですか?』
「…はい。」
このカールという御者はレザノフ卿の直属の部下(少尉)で、俺を殺すor死体遺棄する係だ。
そんな奴の馬車に乗るのは流石に、ね…
俺はカールに《セントラルホテル跡を市営住宅に転用する案の是非》をレザノフに尋ねておいてくれるよう依頼する。
流石に今日はあの男の顔を見ずに済むと思って、清々しい気分で屋台街に向かい、焼き鳥セットを堪能することにした。
「今日は卵も出来ますよ!」
と店員がプッシュしてきたので、何の変哲もない茹で卵を2つ注文してかぶり付く。
こんなただ茹でただけの卵が1個1000ウェンである。
それを考えると日本の養鶏業者は優秀だね。
追加で人参のピクルスを注文して《ポーション葛湯》を啜りながら無為を楽しむ。
久しぶりに酒でも飲もうかと思案していたら、いつのまにかレザノフが真正面に座っていた。
「遅れて申し訳ありません。」
『…あ、いえ。』
参ったなあ。
俺、アンタを呼んだ覚えはないし、何なら顔を見たくなかったんだけどな。
「流石ですね。
確かに密談をするなら、こういう屋台街は逆にいいんですよ。
意外に漏洩のリスクが低い。」
なるほど。
レザノフ卿みたいな本職の情報部員から見れば、こういう場所に呼び出された(と思った)時点で密談と判断するんだな。
『セントラルホテルの件なのですが…』
と切り出すと怪訝そうな表情で見られる。
いやいや分かってるよ、リザード・オーク関連も大切だけどさあ。
アンタ表向きは商業ギルド長な訳じゃない?
一応、本分は守ってよね?
『概要はカールさんに伝えた通りですが、あそこを市営の賃貸住宅に出来ませんか?
それって法律的に問題あります?』
「…あ、いえ。
あそこは市有地なので、市長がコーサイン出せば割と自由に使えますよ?
市長が予算を割り振ったら、運営や更地化の為の業者入札も可能ですし。」
『空き地は市長権限で使い道を決めれるってことですか!?』
「…はい。」
『そんなもの、その気になれば幾らでも自分に利益誘導出来ちゃうじゃないですか?』
「でしょうね。
周囲からイセカイ市長がどう見えているか、という事です。
無論、私はイセカイ市長が私欲と対極の欲を持たれている事を存じておりますが。」
一々、棘の多い男だなあ。
『空いてる賃貸は多いですか?』
「…多いですよ。」
『では市営住宅に転用します。
反対ではないですよね?』
「私には反対する権限が無いんですよ。
というより、市長が提出した法案を却下する権限を誰も保有していないのです。」
『そ、そんなのまるで独裁者じゃないですか。
流石にマズいでしょ!』
「ですから。
皆がそういう目でイセカイ市長の一挙手一投足を見ているんですよ。
自重して下さいね。」
『ではセントラルホテルを市営住宅化する法案を出したいので…
起草をお願い出来ますか?』
「イセカイ市長が仰るのなら従いますが…
どうせ良心的な価格にしちゃうんですよね?」
『スラムの連中を全員城内に入れたいんです。
冬が来る前に。』
「それをやると賃貸相場が大崩れしますよ?」
『崩れた方が、住民は助かるでしょう。
そりゃあ地主は困るかも知れませんが。』
「一応説明しておきますが…
地主の中には中央貴族も含まれますよ?
前線都市の地主は、今や殆どが商都住みの資産家達ですが。」
『なるほど。
テナントのオーナーって私の権限で調べる事は可能ですか?』
「…可能です。
市長には資料室職員に対して資料請求権がありますから。
前線都市のデータであれば、概ね請求通りの資料を取り寄せる事が可能です。」
『では改めて秘書室長を派遣します。
ああ、そんな目で見ないで下さいよ。
私は単に市民の生活水準を向上させたいだけなんです。
商業ギルドだって冬に餓死者凍死者を出したい訳じゃないんですよね?』
「ええ、それはまあ。」
『では私はこれで。』
「イセカイ市長!
本題を!」
ああ、昨日の事か。
元帥と話したら、《対オーク戦線に行く》って言ってたよな。
「その話を詳しく!!」
後でレザノフに滅茶苦茶怒られた。
そりゃあ軍人さんにとっては、自分達の上官が大事なのかも知れないけどさ。
俺達庶民にとっては目先の家賃の方が遥かに大事だよ。
一旦レザノフ卿と別れて工房に戻り、セントラルホテル案件の各所への連絡役を小太りオジサンにお願いする。
この人とノレさんは半分公人なので、俺の任期中は給与を市から出して貰う事にした。
レザノフ卿曰く、「市長が提出した法案を却下する権限を誰も保有していない」との事なので、俺が指名する特別職従事者に給与を払う為の草案も考えて貰う事にした。
アンタは俺を殺そうとしているんだから、当然これくらいの協力はしてくれるよな?
夕方に小太りオジサンがセントラルホテルの鍵一式を持って帰ってきたので、1人でこっそり下見に行ってみる。
撤退は最近だったというのに、建物内はホコリでいっぱいになっていた。
ふーー。
久しぶりに人目のない所に来れた。
市長になってから、全く身動きが取れずに困っていたのだ。
色々試したい事があったというのに…
役職に就くのも考え物だな。
ともあれ、ようやく俺のスキルを試せる。
これラノベとかなら第一話で済ませるイベントなんだがな…
『出ろ! スライム!』
俺は密かに持ち込んだスライムを全てフロアにブチ撒ける。
ふふっw
この数か月でかなり繁殖に成功した。
今回、俺がメインで持参したのは粉塵処理を得意とする黒スライム。
最初見た時から、掃除用具としての可能性を考え続けてきた。
『全ての黒スライムは建物内に存在する全ての埃ゴミを消化して、この壺に入れよ!
赤スライムと白スライムは俺と来い!』
言うまでも無い事だが、俺は全てのスライムに血や体液を与えて従属化させている。
なので、全てのスライムは俺の命令に100%従うのである。
横目で黒スライムの的確な清掃を確認しながら、俺は下水道への入り口を探った。
案の定、ボイラー室のような区画がこの街の下水道に直結していた。
俺は悪臭に堪えながら下水道に侵入すると、水質浄化を得意とする白スライムを四方に放ち、有機物分解を得意とする赤スライムの餌となりそうなものを探した。
簡易実験の結果、赤スライムにはヘドロを食べさせることにする。
本当は丸一日でも下水道で実験を続けたいのだが、赤い糸で俺の大体の居場所が特定されてしまう以上、長居は出来ない。
---------------------------------------------
[伊勢海地人 スライムの色別用途]
スライムは原則的にどんなゴミでも消化可能。
但し、得手不得手があり、得意分野以外の消化は極度に遅い。
また他の色のスライムと混ぜて運用すると極度に作業効率が落ちる。
赤 → 有機物全般
青 → 無機物、特に金属が鉱物
黄 → 繊維質、木材や稲藁
黒 → 粉塵の様な微細物の吸着に特化。
白 → 水質浄化
----------------------------------------------
俺は赤白のスライム達に今後の指示を出すと、フロアに戻り黒スライム達の仕事をチェックした。
よし! 予想通り!
少し綺麗にし過ぎてしまったが、スライム清掃は成功だ。
俺はスライムの自動運用に自信を深める。
これを試したくてうずうずしていたのだが、中々機会に恵まれなかったからな…
告発騒動で思い知らされた事だが、最低限の戦闘力は必要だ。
今まではゲドやヨーゼフが周囲に居るから守って貰えば良いと思っていたが…
いざ痛い目に遭ってみると、最終的には己に戦闘力が無ければ意味が無い事を嫌というほど認識させられた。
なので、俺も隠し玉を増やしておく。
キティに察知され掛かった時は本当に焦ったが、戦闘準備は少しずつしていた。
情勢が情勢なので、これからは戦力増強のペースを上げる、それだけの話だ。
俺がここまで好き勝手やっている以上、修羅場は今後も訪れるだろうし。
そもそも標準座標≪√47WS≫への報復(当然、殺害以外の選択肢はない)を誰かに譲るつもりはない。
こんな巨大で人目の無い実験場が手に入ったのは本当に幸運であった。
俺は服の下にいつも仕込んでいる赤スライム(最初にテイムしたお気に入り)に全身を洗濯消臭させると、近所の売店で手土産を買って工房に帰った。
メンバーが増えると夕食を買って帰るのも一苦労だ。
食卓でのこと。
メリッサが最近プラムの砂糖漬けを作り始めたらしく、皆で大いに舌鼓を打った。
リビングと俺の部屋を往復するくらいで、殆ど外出しない。
たまに工房を掃除したり、師匠たちの給仕をしてくれる。
何より、俺が何をしようが一々詮索しない。
俺は最高の女を引き当てた気がする。
逆にノエルは甲斐甲斐しい。
俺達のビジネスについて何らかの貢献をすべき、という強迫観念がある。
ちなみに、クレアに絵を描かせるアイデアはノエルの発案である。
後、良い意味でコミュ力がある。
メリッサや師匠達とも上手く打ち解けてくれているのは正直助かる。
こんな二人に挟まれて、俺は本当に幸せ者だと思う。
今日は誰からも呼びつけられていないので、工房の仕事を手伝う。
と言っても、スライムがちゃんと臓物を処理出来ているかを確認するだけである。
「なあチート。
リザード達にスライム処理を披露してみないか?」
俺が赤スライムをつんつんして分裂を促していると、ドランさんが提案してきた。
『スライムをですか!?』
「俺が見た所、アイツらあんまり固形物を食べないのね?
ずっと食用油みたいなものをチューチュー吸ってるイメージあってさ。
ひょっとするとスライムの需要は結構あるんじゃないかな?」
『いいですね。
次に顔を出した時に披露してみます。』
「今、クレアに絵を描かせてるじゃない?
手が空いたらスライムの取り扱い説明書も任せてみないか?」
『ええ、やってみましょう。
幾ら位、謝礼を払えばいいんですかね?
クレアちゃん何か言ってました?』
「ああ、ゴメン。
俺が勝手に払っちゃった。
5万ウェンあげたら機嫌よく仕事してくれてる。」
『あ、すみません!
全部ドランさんに丸投げしちゃってて。
あの… お二人はまだ付き合ってるんですか?』
「ありがたいことにまだ構って貰えてるよw
言ってなかった?
この近くに宿を取ってるんだ。」
『工房を使ってくれてもいいのに。』
「アイツ、俺と一緒で団体行動苦手だからな。
こういう人の多い職場には住みたくないみたいだ。
安宿でゴロゴロしているのが性に合ってるってさw」
『安宿?』
「ほら、裏通りの女宿あるじゃない?
一階が居酒屋になってるトコ。
金物屋の隣。」
『あんな所に住ませてるんですか!?』
「宿ってあるようで無いんだよ。
俺も結構探したんだぜ。
セントラルホテルも潰れちゃったしさ。
あれって廃業確定なの?」
『オーナーのバンガロスさんが所有権放棄しちゃったので。』
「…え? あんなデカい建物って捨てれるものなの?
売ればいいのに。」
『最近ずっと赤字だったらしいですよ。
ほらずっと景気悪いじゃないですか?
それで外からの客が殆ど来なくなったから…』
俺がこのグランバルドに来て初めて宿泊した宿が向かいのセントラルホテルである。
内装も結構綺麗だったし部屋数も多い。
放置するのはあまりに惜しいのだが。
「なあ、チート。
ちゃんとカネ払うからさ。
アソコ、使わせてくれないか?」
『え?
向かいに宿泊するんですか!?』
「宿泊っていうか、賃貸だな。
女と住むなら、多少高くてもいいから綺麗な場所に住みたいよ。」
『…。』
「すまん。 我儘だったな。
忘れてくれ。」
『いえ、ちょっと商業ギルドに聞いてみます。』
ドランのアイデアは非常に的確である。
前線都市が帝国の最南端に位置している以上、宿泊客は見込みにくい。
(そもそも最高権力者のマティアス議長からして、この近辺を帝国領と認識してないんだよな。)
なら、住民向けの賃貸に切り替えた方が需要あるんじゃないか?
俺は工房から出ると商業ギルドに行く為に人力車を呼ぼうとして…
待てよ?
どうせレザノフって俺を監視してるんだよな?
『レザノフさーーーん!!!
今、ちょっといいですかーーー!!!
急ぎ報告したいことがあるんですけどーーー!!』
通行人がジロジロこちらを見るが気にせずに叫び続ける。
3回目を叫んでいる時に、御者のカールさんがどこからともなく出現した。
ほーらね。
近くで監視していたでしょ?
「こんにちはチート市長!
偶然この辺を歩いていたら、急にお声が聞こえたので驚きましたよw」
あのさあ。
そんな見え透いた嘘を平然とつける神経に驚くんだけどさあ。
『レザノフ卿に確認したい事があるのですが…』
「お! それならすぐに馬車を!」
『あ、いや。
私も忙しいので伝言をお願いしていいですか?』
「…はい。」
このカールという御者はレザノフ卿の直属の部下(少尉)で、俺を殺すor死体遺棄する係だ。
そんな奴の馬車に乗るのは流石に、ね…
俺はカールに《セントラルホテル跡を市営住宅に転用する案の是非》をレザノフに尋ねておいてくれるよう依頼する。
流石に今日はあの男の顔を見ずに済むと思って、清々しい気分で屋台街に向かい、焼き鳥セットを堪能することにした。
「今日は卵も出来ますよ!」
と店員がプッシュしてきたので、何の変哲もない茹で卵を2つ注文してかぶり付く。
こんなただ茹でただけの卵が1個1000ウェンである。
それを考えると日本の養鶏業者は優秀だね。
追加で人参のピクルスを注文して《ポーション葛湯》を啜りながら無為を楽しむ。
久しぶりに酒でも飲もうかと思案していたら、いつのまにかレザノフが真正面に座っていた。
「遅れて申し訳ありません。」
『…あ、いえ。』
参ったなあ。
俺、アンタを呼んだ覚えはないし、何なら顔を見たくなかったんだけどな。
「流石ですね。
確かに密談をするなら、こういう屋台街は逆にいいんですよ。
意外に漏洩のリスクが低い。」
なるほど。
レザノフ卿みたいな本職の情報部員から見れば、こういう場所に呼び出された(と思った)時点で密談と判断するんだな。
『セントラルホテルの件なのですが…』
と切り出すと怪訝そうな表情で見られる。
いやいや分かってるよ、リザード・オーク関連も大切だけどさあ。
アンタ表向きは商業ギルド長な訳じゃない?
一応、本分は守ってよね?
『概要はカールさんに伝えた通りですが、あそこを市営の賃貸住宅に出来ませんか?
それって法律的に問題あります?』
「…あ、いえ。
あそこは市有地なので、市長がコーサイン出せば割と自由に使えますよ?
市長が予算を割り振ったら、運営や更地化の為の業者入札も可能ですし。」
『空き地は市長権限で使い道を決めれるってことですか!?』
「…はい。」
『そんなもの、その気になれば幾らでも自分に利益誘導出来ちゃうじゃないですか?』
「でしょうね。
周囲からイセカイ市長がどう見えているか、という事です。
無論、私はイセカイ市長が私欲と対極の欲を持たれている事を存じておりますが。」
一々、棘の多い男だなあ。
『空いてる賃貸は多いですか?』
「…多いですよ。」
『では市営住宅に転用します。
反対ではないですよね?』
「私には反対する権限が無いんですよ。
というより、市長が提出した法案を却下する権限を誰も保有していないのです。」
『そ、そんなのまるで独裁者じゃないですか。
流石にマズいでしょ!』
「ですから。
皆がそういう目でイセカイ市長の一挙手一投足を見ているんですよ。
自重して下さいね。」
『ではセントラルホテルを市営住宅化する法案を出したいので…
起草をお願い出来ますか?』
「イセカイ市長が仰るのなら従いますが…
どうせ良心的な価格にしちゃうんですよね?」
『スラムの連中を全員城内に入れたいんです。
冬が来る前に。』
「それをやると賃貸相場が大崩れしますよ?」
『崩れた方が、住民は助かるでしょう。
そりゃあ地主は困るかも知れませんが。』
「一応説明しておきますが…
地主の中には中央貴族も含まれますよ?
前線都市の地主は、今や殆どが商都住みの資産家達ですが。」
『なるほど。
テナントのオーナーって私の権限で調べる事は可能ですか?』
「…可能です。
市長には資料室職員に対して資料請求権がありますから。
前線都市のデータであれば、概ね請求通りの資料を取り寄せる事が可能です。」
『では改めて秘書室長を派遣します。
ああ、そんな目で見ないで下さいよ。
私は単に市民の生活水準を向上させたいだけなんです。
商業ギルドだって冬に餓死者凍死者を出したい訳じゃないんですよね?』
「ええ、それはまあ。」
『では私はこれで。』
「イセカイ市長!
本題を!」
ああ、昨日の事か。
元帥と話したら、《対オーク戦線に行く》って言ってたよな。
「その話を詳しく!!」
後でレザノフに滅茶苦茶怒られた。
そりゃあ軍人さんにとっては、自分達の上官が大事なのかも知れないけどさ。
俺達庶民にとっては目先の家賃の方が遥かに大事だよ。
一旦レザノフ卿と別れて工房に戻り、セントラルホテル案件の各所への連絡役を小太りオジサンにお願いする。
この人とノレさんは半分公人なので、俺の任期中は給与を市から出して貰う事にした。
レザノフ卿曰く、「市長が提出した法案を却下する権限を誰も保有していない」との事なので、俺が指名する特別職従事者に給与を払う為の草案も考えて貰う事にした。
アンタは俺を殺そうとしているんだから、当然これくらいの協力はしてくれるよな?
夕方に小太りオジサンがセントラルホテルの鍵一式を持って帰ってきたので、1人でこっそり下見に行ってみる。
撤退は最近だったというのに、建物内はホコリでいっぱいになっていた。
ふーー。
久しぶりに人目のない所に来れた。
市長になってから、全く身動きが取れずに困っていたのだ。
色々試したい事があったというのに…
役職に就くのも考え物だな。
ともあれ、ようやく俺のスキルを試せる。
これラノベとかなら第一話で済ませるイベントなんだがな…
『出ろ! スライム!』
俺は密かに持ち込んだスライムを全てフロアにブチ撒ける。
ふふっw
この数か月でかなり繁殖に成功した。
今回、俺がメインで持参したのは粉塵処理を得意とする黒スライム。
最初見た時から、掃除用具としての可能性を考え続けてきた。
『全ての黒スライムは建物内に存在する全ての埃ゴミを消化して、この壺に入れよ!
赤スライムと白スライムは俺と来い!』
言うまでも無い事だが、俺は全てのスライムに血や体液を与えて従属化させている。
なので、全てのスライムは俺の命令に100%従うのである。
横目で黒スライムの的確な清掃を確認しながら、俺は下水道への入り口を探った。
案の定、ボイラー室のような区画がこの街の下水道に直結していた。
俺は悪臭に堪えながら下水道に侵入すると、水質浄化を得意とする白スライムを四方に放ち、有機物分解を得意とする赤スライムの餌となりそうなものを探した。
簡易実験の結果、赤スライムにはヘドロを食べさせることにする。
本当は丸一日でも下水道で実験を続けたいのだが、赤い糸で俺の大体の居場所が特定されてしまう以上、長居は出来ない。
---------------------------------------------
[伊勢海地人 スライムの色別用途]
スライムは原則的にどんなゴミでも消化可能。
但し、得手不得手があり、得意分野以外の消化は極度に遅い。
また他の色のスライムと混ぜて運用すると極度に作業効率が落ちる。
赤 → 有機物全般
青 → 無機物、特に金属が鉱物
黄 → 繊維質、木材や稲藁
黒 → 粉塵の様な微細物の吸着に特化。
白 → 水質浄化
----------------------------------------------
俺は赤白のスライム達に今後の指示を出すと、フロアに戻り黒スライム達の仕事をチェックした。
よし! 予想通り!
少し綺麗にし過ぎてしまったが、スライム清掃は成功だ。
俺はスライムの自動運用に自信を深める。
これを試したくてうずうずしていたのだが、中々機会に恵まれなかったからな…
告発騒動で思い知らされた事だが、最低限の戦闘力は必要だ。
今まではゲドやヨーゼフが周囲に居るから守って貰えば良いと思っていたが…
いざ痛い目に遭ってみると、最終的には己に戦闘力が無ければ意味が無い事を嫌というほど認識させられた。
なので、俺も隠し玉を増やしておく。
キティに察知され掛かった時は本当に焦ったが、戦闘準備は少しずつしていた。
情勢が情勢なので、これからは戦力増強のペースを上げる、それだけの話だ。
俺がここまで好き勝手やっている以上、修羅場は今後も訪れるだろうし。
そもそも標準座標≪√47WS≫への報復(当然、殺害以外の選択肢はない)を誰かに譲るつもりはない。
こんな巨大で人目の無い実験場が手に入ったのは本当に幸運であった。
俺は服の下にいつも仕込んでいる赤スライム(最初にテイムしたお気に入り)に全身を洗濯消臭させると、近所の売店で手土産を買って工房に帰った。
メンバーが増えると夕食を買って帰るのも一苦労だ。
食卓でのこと。
メリッサが最近プラムの砂糖漬けを作り始めたらしく、皆で大いに舌鼓を打った。
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科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
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間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
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俺は異世界転生者カドマツ。
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例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
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