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チートで出羽守を迎える

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田中優希、というのがゲドパーティーに加盟した日本人の名である。
漠然と男をイメージしていたのだが、実物は女だった。
それもやや厄介なタイプである。

まず、ルックスが異様だった。
身長が明らかに180以上ある。
ただでさえ長身にも関わらず、癖の強い天然パーマ(アフロに近い)が更に盛り上がっている。
細身だが結構な筋肉質であり、そして何より顔にも癖がある。
ベスおば同様に、猛禽のような好戦的な顔立ちをしている。
兎に角、視覚的な威圧感が強い女なのだ。

そして恐ろしい事に、内面が洒落にならない。


【ここが前線都市!
リザードのど真ん中で生活するなんてグランバルド男性は逞しいわね♪
軟弱なジャップオスとは大違い!】


俺が【聞いた】第一声がこれである。
この一言を聞いた瞬間に、あらかた察する事が出来てしまう。
うーん、日本人カミングアウトがますます難しくなったな…


「貴方がチート市長ですね!
はじめまして、ユーキと申します!
日本から来ました!
今、向こうでも異世界転生が大流行なんですよ!
ピチピチJK17歳です!」


田中はそう言うと、突然俺に外人(地球の話ね)の様な密着ハグをしてきた。
平然と脚を俺の股の間に差し込んで来る。
オマエ一体どこの売女だよ!


【これくらい帝国ではデフォルトだよね♪
あー、それに引き換え日本は駄目。
男がみんなウジウジナヨナヨしていて、正常な恋愛が成立しないから。
あー、Twitterで呟きたい!
グランバルドが如何に恋愛面でも先進的で、日本が如何に遅れているかを熱く語りたい!
ジャップオス共をフルボッコにしたい!】


あー…
典型的な出羽守だな。
日本全否定海外全肯定の価値観を持ってる奴。
SNS上には結構居るよね。
コイツ、さぞかし異世界生活は楽しかったんだろうなあ。


「チート市長!
聞きましたよー。
お一人でリザードやオークの領域に攻め込んだんですって?
超クールじゃないっスか!!」


【この人、ドワーフとかゴブリンとかの混血かなあ?
ちょっと一般的な帝国人と顔立ちが違うよね。
どちらかと言えば日本人に雰囲気が近いからちょっと落ち着くわ。
私、ジャップオスは皆殺しにしたいくらい大嫌いだけど
日本風の海外男性は親近感沸くから大好き!】


『恐縮です。
ただ私の目的はあくまで和平合意ですので
戦闘は計画しておりません。』



また、凄いキャラが出現したな。
確か…
クラスメイトを惨殺して憲兵と斬り合いをしたとか言ってたなぁ。
わかる。
コイツならそれ位やりかねん。

それにしても日本人男性への殺意高すぎだろう…
これ、カミングアウトしたら命の危険があるな。


「チート市長ってお幾つなんですか?
まだお若いのにこの街の出世頭だって聞きましたよ
素敵ですぅ♡
付き合ってる女の人とか居ます?
あ、勿論 運命線の噂は聞いてますけどww」


【ゲレルさんも言ってた。
この男は超レアだから、必ず一発はヤッておけって。
噂じゃこの街に流れ着いてから3ヶ月で…
地元のヤクザを傘下に置いて市長職を強奪したって
顔は日本の基準だと典型的なヒョロチビ糞雑魚陰キャチー牛だけど…
もしもこの人がジャップだったら勿論ギルティだけど!
でもゴブリンとのハーフ?か何かだとしたら、それはそれで性的に興味ある!】


ゲレルさん、JKに変なこと吹き込まないで下さい。
後、ルッキズムやめろ!


『年齢は25歳。
妻帯者です。
最近、籍を入れました。』


「イセカイの妻で御座います。
エルフ族のメリッサと申します。」


いつの間にか沸いて来たメリッサが、俺の右隣をキープして田中を牽制する。
この女は家業を一切手伝わない代わりに、正妻の座が脅かされそうになると異常な俊敏さを発揮する。
メリッサの事を最初は低能だと思っていたのだが、女としてはそこそこクレバーなのかもと感じる様になった。。
(少なくともノエルやクレアからは立ち回りを賞賛されている)
どちらかと言えば俺みたいな庶人ではなく、貴族夫人でいる方が本領を発揮できるのかも知れない。


「あらあ。
奥様がおられたのですね。
申し訳御座いません。
ゲドパーティーに所属しているユーキと申します。」


【へえ。
エルフ?
これがねぇ。
大して可愛くないじゃんw
胸とか私の方が勝ってるしw
じゃあやっぱりチート市長も他種族?
だって日本の基準じゃ不細工だし。
まあいいや、鈍臭そうな奥さんだし
隙を見てちょっと火遊びする位はアリだよね♪】


メリッサが俺の腕にしがみ付いて離れない。
突然こんな異物が闖入して来たのではそれも仕方あるまい。


『部屋割りは妻に一任しておりますので、後は2人で相談して下さい。』


面倒なのでメリッサに丸投げする。


「今、身内の部屋割りを組み直している所ですので、ユーキさんは外で宿を取って下さい。」


メリッサは露骨に嫌がらせをする。
勿論、空き部屋はいっぱいあるけどな。
田中は特に食い下がる様子も見せずに、あっさりと引き下がってリビングから退去してくれた。



皆で階段を下りる途中、リビングに向かうベスおばとすれ違う。
田中は「初めまして」と言って軽く頭を下げた。


【よーし、打ち合わせ通り。
私とエリーとは面識が無い設定。
エリー・ゲレルさん・キティ、そして私の4人がこっそり結託している事は内緒だからね♪
うふふ。
この実態を知ったら皆驚くだろうなー。
実は冒険者ギルドの売買システムって重大な穴があるんだよねー。
そこに気づくなんてエリーって本当に天才w
こっそり提携するだけで、こんなにあっさり稼げるなんて凄いスキームだわww
このチート手法さえあれば異世界でも楽勝wwww
それにしてもエリーは本当に凄い。
キティとゲレルさんっていう二大巨頭とずっと昔から組んでたんだからww
みんな役者だから全然表情に出さないけどww
こんな最強女子パーティーに入れるなんて、私も中々なモンよ!】



…やはりか。
祝福線を手繰って戻って来たベスおば。
両脇をゲレルとキティが固めていた。
あれはたまたま雇ったのではなく、元々あの三人は昔からのチームだったのだ。
だがチームである事を隠していたという事は、何らかの良からぬ魂胆があるのだろう。

あー、【心を読む能力】があって助かった。
そうか、コイツラそのレベルで結託してたのか。
危ない危ない。
何を企んでいるのか探っておかなければ…

何故か【心が読めない】キティは論外として…
ベスおばとゲレルさん経由で探るのは難しいな。
あの二人は自己暗示が上手いのか、俺が頻繁に【心を読んで来た】が昔からグルだったという気配は全く感じなかった。
穴は田中だな。
この女は故マカレナ同様に、心の中でぺちゃくちゃ喋り倒しているタイプ。
コイツの【心】をチェックして、動向を監視しておかなきゃ。


兎に角。
この糞忙しい時期にあからさまなトラブルメーカーがやって来た。
噂通りロクでもない女だったが、ベスおばがキティ・ゲレルと昔から結託していたという情報を知れたのは大きい。



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