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チートで健康で文化的な最低限度の生活を保障する

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余程リザードを気に入ったのか、最近の師匠はずっと城門先の交易ポイントに入り浸っている。
師匠が解体の名手である事は彼らの間にも広まっており、両脇にトードを抱えて頻繁に遊びに来るようになった。

何せリザードは大柄な分、手も巨大である。
トードの魔石を無傷で取り出すような芸当はほぼ不可能である。
(人間種の中でもこんな神業は師匠くらいにしか出来ないらしいが…)

毎夕、師匠が河原沿いの交易ポイントに《出勤》してしまう為に、狩りを終えた冒険者達も自然に交易ポイントに集まるようになった。


結果、種族間マーケットがそこに生まれた。
なまじバラン師匠に政治性の無いのが良かったのだろう。
出来上がったのは、純粋なビジネスの場だった。

人間種の中で解体経験のある者が1カ所に集まり、リザードの持参するトードを解体し続けた。
名手バランや生真面目なラルフ君が講師として皆にコツを教えるので、器用な者なら美品とは行かなくともキズの少ない魔石くらいなら取り出せるようになった。


師匠の取引は極めてシンプルである。
リザードが持ってきたトードを無料で解体。
解体物は全て相手に渡す。
彼らが欲しいのは美品魔石と搾油用のトードの肉。
毒袋は邪魔らしく暗黙の了解で師匠の取り分となる。
それだけでは申し訳ないと感じるのか、リザード側は1匹解体毎に20枚の翡翠コインを支払って来る。
美品魔石を取り出したら何と500枚も支払われる。
(俺も師匠も翡翠コインの価値がイマイチわからんのだが。)
500枚では足りぬと彼らは感じるのか、鉄塊や銅塊を渡してくる。

リザード達はこちらに心を許し始めているのか、俺達人間種の目の前でトードの搾油を行う様になった。
(こちらが容器を持っていれば少しは分けてくれる。)
互いにカタコトの言語で話しているうちに、リザード種が魔物を絞って抽出した油を主食としている事がわかった。
それも爬虫類の油がメインで、哺乳類の油も飲めなくは無いが爬虫類のそれより数段劣るらしい。

彼らにとってトードよりもスネークの方が価値が高いらしく、人間側がスネークを持って行くとその度リザード側から歓声が上がる。
スネークを持ってきただけで一匹300枚前後の翡翠コインが支払われるので、彼らにとってはトードよりも相当貴重な獲物なのだろう。

長牙猪の牙も喜ばれた。
製粉して船舶機械に用いる潤滑油の材料とするらしい。


この様な流れがあり、毎夕人間種・リザード種が50名ずつ程が集うので交易ポイントはいつも盛況になった。
誰が置いたのか、虎柄の敷物やリザード式の天秤も据えられ、言語表や相場表まで設置されるようになった。
まさしく奇跡である。






以前俺が師匠に
『越冬用の備蓄が全方面的に足りない』
と愚痴った事がある。

律儀に覚えていてくれたのだろう。
この取引を通じて、大量の塩を確保してくれた。
更には職工ギルド用に鉄塊・銅塊もリザードから購入し、規定を上回る備蓄を確保した。


「これだけの塩があれば越冬用の漬物が作れるだろう?
ヘルマン組長が紹介してくれた陶工も軌道に乗り始めてるし
塩漬け肉のストックを増やしておこう。」


師匠は普段政治的な主張を全くしないのだが、この人なりに色々と考えてくれているのだろう。
クレアの解説イラストも積極的に描かせているしな。

一々口には出さないが。
師匠はレザノフやヌーベルが監視の為に周辺に待機せざるを得なくなるように、この状況を敢えて作ってくれたようだ。
おかげで少しだけ俺への監視が緩まった。



マークの外れた俺は赤い糸対策でベスおばを工房地下室に待機させるようにした。
(この光の糸がある限り、衆目に晒され続けるからな。)
最近はこの女の扱い方も解ってきて、『地下室に仮眠スペースを作ったけど、俺専用だから勝手に触るなよ!』と釘を刺す事で、地下室に引き籠らせる事に成功した。

顔を合わす度に

『馬鹿野郎! 
この仮眠室は相当な大金を費やして作った俺の秘密基地だぞ!
絶対に入るんじゃないぞ!!』

と怒鳴り散らしているので、ベスおばはほぼ地下室の人になった。
ドヤ顔で地下室に籠城しているこの女を見ると、平和の尊さを痛感する。






この様にして赤い糸の対策を完了した俺は下水道経由で街の各所に出没する事が可能になり、ようやくヘルマン組長への挨拶を実現させる事が出来た。


『ヘルマンさん、申し訳ありません。
変な噂が先行しているようで。』


「孫って話なあ。
隠し子が居るのは事実だが…
キミはロディの息子では無いんだよな?」


『すみません。
ロディという方は存じません。』


「だろうな。
ワシもキミが隠し孫だという噂は否定しているのだが。
ちょっとムキになり過ぎたみたいで。
逆に風説に信憑性を持たせてしまったようだ。
スマン。」


『いえ。
私の方はですね。
ドレークギルド長が真に受けているようで。
なまじ大組織のトップがその前提で俺に接するもので…
冒険者の間では、ほぼ事実になりつつあります。』


「あー。
確かにドレーク君からすれば、キミはワシの縁者に見えるだろうな。
うん、手打式の流れとか振り返れば、…そうだよな。」


『すみません。
勿論、ドレークにも不用意な発言をしないように釘を刺して…
彼も従ってくれているのですが…
それが却って噂に真実味を持たせてしまって。』


「もう修正不可能、か。」


結局、会合の果てに《チートヘルマン組長の隠し孫説》を打ち消すのが不可能だと悟り、誤解を利用する事となった。

ヘルマン組長は、俺の活動を組織を挙げてサポートする。
(組員達とも正式に挨拶を交わした。)
俺はヘルマン組長の娘夫妻(ヘレンさんとゲイリー親方)のいっそうの庇護を確約する。


【やっぱり組長のお孫さんだったのか…】
【お孫さんを市長に据えるなんて、ウチの組長パネエ!】
【言われてみれば目元が似てる! いやそんな気がしてきた!】
【街の裏と表を両方支配するなんて、組長はホンマに恐ろしいお方やでぇ!】


俺が隠し孫だと思い込まれている所為か、組員達は今まで以上に好意的に接してくれている。
日陰者の自分達が《自治都市の市長》と直接繋がりを持てた事に興奮しているらしい。


『ヘルマンさん。  …皆。
冬が来る前にスラムの皆を城壁の中に収容します。
今、急ピッチで空き家の接収と補修を行ってます。』


「収容?
外のシノギはどうなる?」


『稼業は続けて貰って結構ですが
住民全員に城内での住居を確保して貰います。
商業ギルド長にも警告されているのですが…
今年の冬は記録的な寒波が吹き荒れる可能性が高いようです。』


「乞食同然の貧民も居るんだぞ?
城内の家賃なんて払える訳がない」


『…生活は前線都市が保護します。
市長の俺が保証します。』


「街が払う?
そんな話は聞いた事がないぞ!
ここは自治都市で殆ど予算が無いって聞いたぞ?
中央からの補助金も貰えてないんだろ?
貧民なんて養ってたら財政が破綻するんじゃないのか!?

何でそんなことをする!?
意味が無いじゃないか!」



オマエらヤクザの癖に真面目だな。
俺の地元じゃ、生ポ貰いながらセルシオに乗ってたぞ?

なあ。
何でこんなことをするのかって?

決まってるじゃないか。




『人間には…
健康で文化的な最低限度の生活を送る権利があるからです。』



最終決戦も近い。
たったの一つだけ貴方達に還元しておくよ。
遺産代わりに受け取っておいてくれ。
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