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チートで迷いを断ち切る

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俺の能力は【心を読む】ことである。
言うまでもない事だが、これは当然圧倒的なチート。
相手の手札を一方的に覗き込みながらポーカーをしているようなものなので、この異世界グランバルドに来てから何の不自由もなく暮らせてきた。
2人も美人の嫁を娶れた上に、爵位も貰えて今では市長様だ。
遂には現地人が何千年も成し得なかった異種族との意思疎通すらも成功させた。

敢えて言おう。
今の俺はまさしく無敵だ。


…但し、能力を見破られなければ。





「伊勢海クン。
さっきクッド全権に頂いたのだけれど…
この固形フード食べる?」


『一口だけ貰うよ。』



俺の正面に陣取っているベスおばが見え透いた親切顔で食糧を手渡してくる。
全権大使から食べ物を強請るのやめてな?
外交問題になるからさ。
俺がコボルト将校のクッド全権をチラ見すると、肯定のジェスチャーを貰えてしまったので仕方なく口に入れる。


「──。」


まずい。
食べた事は無いがドッグフードの味がする。
ベスおばが何故旨そうに貪っているのかは理解不能。


ここはリザード領内の迎賓船。
大使とは言え、コボルトの尉官に挨拶をする為にリザード勢力の顕官将星が列を成している。
何としてもここで「休戦」あわよくば「終戦」まで持って行きたいのだろう。


【イセカイ伯爵。
小官は一介の武官です。
そもそも軍の作戦行動に対して何ら権限を持たされておりません。
ただ、上官からはリザードの皆様のメッセージを遺漏なく伝達するように指示されております。
その旨、お伝え願いたい。】


俺は場のリザード達に、そのまま捻りなく通訳する。
ヴァーヴァン主席は一瞬辛そうな表情をしたが、めげずに国書(実質的な降伏打診である)の贈呈を申し出た。


【はい。
書面を託された場合は受け取る様に指示されております。
ただ私には閲覧権がないので、純粋な伝令のみになってしまいます。
その旨御理解下さい。
申し訳ありませんが、国書の内容に対してコメントする権限を小官は持ち合わせておりません。】



俺はクッド全権の心中をもう少し細やかに観察したいのだが、ベスおばが俺の真近に陣取って一挙一動を観察しているので派手にスキルは使えない。


「イセカイの妻で御座います。」


この旅でこの女はずっとそう主張しているので、誰も制止してくれない。
まあ事実、ヴィルヘルム公爵にも関係を承認されてしまっているし、何より謎の赤い糸で互いの小指が結ばれている為、リザードもコボルトも「まあコイツラは余程仲の良い夫婦なんだろう」と表情で勝手に納得してしまっている。


『なあ。
公務なんだから、あっち行けよ。』


「はぁ?
新参の伯爵の分際で、公爵嫡女のワタクシに指図するわけ?」


…クッソ。
ああ言えばこう言いやがって。


「…伊勢海クン。
考えてもみてよ。
アナタ、全種族休戦をしたいのよね?
ワタクシを立ち会わせておいた方が成功率上がるわよ?
帝都首脳部に掌返しされたくないでしょ?」


『アンタが口添えしてくれるのか?』


「ワタクシは便利よ?
伊勢海クンの翻訳能力はなかなかだけど…
役人語や宮廷言葉までは理解出来てない訳じゃない?」



…確かにな。
この女が協力してくれれば、話は早いのだろう。
絶対に余計な事を仕掛けて来る事は明白だが。


『じゃあさ。
帰ったら皆にゴブリンを殺さない様に呼び掛けてくれよ。』


「…いいわよ。」


『報酬として何を支払えばいい?』


「ワタクシ、アナタの使用人ではないけど?」


『…失礼。
では、その旨をお願いさせてくれ。
ゲレルさんには特に念を押しておいてくれ。』


「了解。
他の的で遊ばせるわ。」



ゴブリンの商人に『私の義父は権力を持っているので、ゴブリンへの攻撃停止は上手く行くと思う』とだけ伝えた。
彼は(以後、姓のゲーゲーで表記する)猜疑の目を変えぬまま「…お気遣い感謝します。」とだけ述べた。
まあ、俺がゲーゲーでも信用しないだろう。


ゲーゲーは極めて頑なで、俺が差し出した食糧に手も付けてくれなかったのだが、クレアの描いた絵には強く関心を示して、「イラストレーションで外交交渉を行うのは良案ですな。」と答えた。
その後、クレアから借りた画材で何やら試みていたので、根がアグレッシブな男なのだろう。
ひょっとするとゴブリン社会でも教養階級に属しているのかも知れない。


その後、数日を掛けてリザード領のイヌ科がコボルト領に走り去って行った。
どうも犬同士で連絡し合っているらしい。
クッド全権が真顔で「その様に命じましたので。」と答えたので、そういうものなのだろう。


俺は恐る恐る『人間種の領内にもイヌ科の皆様がおられるのですが、そちらに送還して宜しいでしょうか?』と尋ねると、初めてクッド全権が表情を崩し(多分笑っていたのだと思う)俺に握手を求めてきた。


あ、今の俺。
グランバルドに対して物凄く貢献している。
後で色々バレても、少しは情状酌量して貰えるかも。


【心を読める】こと、日本人である事を隠していること。
バレた時の反応が怖すぎるので、稼げそうなポイントは稼いでおきたい。



クレアとゲーゲーの遣り取りを微笑ましく見ていたドランが尋ねて来る。


「おいチート。
犬を返すなんて…
そんな事、勝手に約束していいものなのか?」


『こちらから言っておかないと拙いですよ。
コボルトが人間種の存在をハッキリ認識してしまった以上。
早かれ遅かれ《イヌ科の存在》は問い質されるでしょうから。』


「確かにな。
後になって発覚したら外交感情が拗れるか。」



更に翌日。
通信機を固定してある旗艦に戻れたので、帝都に打電して復命より先に犬とゴブリンの件を頼んでおく。
律儀にもその場に七大公全員が揃っていたらしいのだが、七人全員がそれぞれに賛同の宣誓もしてくれた。
続いて、義父ヴィルヘルムを含む五公爵家も同様に宣誓してくれる。


ヴァ―ヴァン主席がクッド全権に【人間種の社会はこの12家が共和統治しております。 即ち人間種全体がこの件に賛同した事を意味します】耳打ちする。
全権も少し肩の荷が降りたのか、少し緊張の緩んだ風にも見えた。



6時間ほどの通信が終わり、一旦クッド全権が国書を持ち帰ることになった。
彼は秋田犬のような犬に何事かを命じてから。

【この者に人間領内での連絡役を命じました】

と俺に伝えた。
少し返答に困ったが
『承知しました。 グランバルド領内のイヌ科の皆様への連絡は彼に任せます。
私も可能な限りサポートを致します。』
と全権が喜びそうな回答をしておいた。

内心、《犬なんかに外交任せていいのだろうか?》とも思うのだが、流石にクッド全権が選抜しただけあって賢そうな顔つきをしていた。
立ち居振る舞いにも何となく品がある。
後で知った事だが、と或るリザード貴族の飼っていた偵察犬だったらしい。
長年、貴族の私有地で魔物の探査を任されていたらしく、動きがキビキビしていた。
そこら辺もクッド全権のお眼鏡に叶った理由だろう。

物は試しと【心を読んでみる】。
【新しい任務だ、頑張るぞ!】
と殊勝な心掛けをしていたので、仕事を任せるに値する秋田犬のようだった。

クッド全権が【人間種の皆様の指示にちゃんと従う事。 よいな!】と厳しく念を押す。
何故コボルトがイヌ科の社会でここまで威張っているのか理解に苦しむのだが、肝心の秋田犬が嬉しそうなので口は挟まない。
種族が違えば常識が違うのだ。



…種族が違えば常識が違う。

そうだよな。
他の種族、いや他の人間が標準座標≪√47WS≫のやってることに反発するとは限らないんだよな。
俺はこっちに内密で戦争を煽ってる時点で、奴らを敵認定しているのだが…
所詮は俺一人の価値観に基づいた敵意に過ぎず… オークやらリザードやらコボルトやらゴブリンの価値観ではそれを崇めるのかも知れない。



『ドランさん。
俺が今やってることに意味とかあるんですかね?』


「死ぬ奴が減るからいいんじゃね?
どうした?
急に不安になったか?」


『はい。
良かれと思ってアレコレやってるんですけど。
何か自信が無くなってきて。』


「俺は助かってるぞ。
今まではリザードに怯えて街壁の外にすら中々出られなかったからな。
こうやって一緒に卓を囲む日が来るなんて、未だに信じられんw

他の奴らの事は知らん。

俺は…
俺とバランはオマエの偉業に助けられてる。」


『…ありがとうございます。
少し楽になりました。』



そうか。  
ドランに師匠。
そして俺を含めた3人に益があるのなら、ある程度納得しても良いのかな。



『なあ、俺のやってる事って…
アンタにとっては迷惑ではない?』


「えー、全然迷惑じゃないわよw
その証拠にまだ殺してないじゃない?」


そうだな。
俺のやってることが本当に社会に都合が悪ければ…
そのうち誰かが殺しに来るだろう。

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