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第5話:未知
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カーテンを閉め切った自室の中は外界の乱暴な明るさに反して仄暗く。26度、普段ならクーラーの冷気がひんやりと肌を冷まして眠気を誘うものだ。
それなのに、どうして今日は、身体の芯で40度の高熱が沸き上がるようで、眠気を押しのけて切なさが疼く。
保健室で眠っている間、あいつに何かされたに違いなかった。そうでもなければ、身体中をじっくりと猛烈に巡る、この煩わしさの説明がつかない。
ベッドの上に仰向けになっていると、パジャマの前のボタンを全て外していたので、ひんやりとした空気に、火照った胸や腹がさらされる。くらくらと、眩暈に似た浮遊感の中で、理性が、自分の中の未知の部分に流されないように努めることしかできない無力さに打ちのめされる。呼吸はずっと、荒いままだ。普段と何も変わらないいつもの天井が、甘ったるい夢見心地の中では、ずいぶん高く遠いように見える。壁に掛かった時計は、昼3時を回っていた。
(最初に捕まった時から、狙われて......付きまとわれてるんだ、きっと......)
ぼうぜんとして上手くまとまらない思考回路をやっとの思いで整理しながら、あいつどう対処するべきか考える。
(誰かに助けてもらうにしても、どう説明すれば......?)
気味の悪い怪物にーーーなんて言ったところで、悪い夢でも見たのだと笑われるに決まっている。それで臆病だ何だと言われるのもイヤだ。今井や田高......友人なら信じてくれるかもしれないが、あいつらを巻き込んでしまうのは絶対にダメだ。
かといって、あんなもの、真っ向から立ち向かっていって追い払えるとは思えない。だいいち、他の人の助力があったとしても、正体不明の怪物を、人の手でどうにかできるのだろうか?
「"."~~~..."."~~~...」
鳴き声が、扉の向こうから部屋に入ってくる。はっと身体を起こす。
不気味な声だったはずだ。それなのに、その響きが鼓膜を震わせるたび、視界が歪むような脳の充血を覚える。唾液が止まらなくなる。顔が紅潮するのを感じる。
あいつの思うままに、自分の身体が作り変えられている、その事実に恐怖することさえ忘れーーー本能の促すままに、扉を開ける。
「"."~~~..."."~~~...」
ぬっと目の前に立ちはだかる化け物の影は今までと変わりなく気味が悪いはずなのに、それが、自分の全てを預けてしまいたくなる包容力を持っているように見えて、思考がぼやける。
「"."~~~..."."~~~...」
耳元で囁くような声に全身を支配され、身体を支えていた芯が抜き取られたような脱力感。化け物に跪くような形で、その場に崩れ落ちる。
これ以上は、本当に戻れなくなる。なけなしの理性に何とか引き止められて、化け物に
「なんなんだよおまえ、やめろよ、もう」
一瞬、時が止まったような静寂。化け物は何もしてこない。
「もう、ヘンにしないで......」
身体の欲求と心の声のズレにもみくちゃにされて、ほとんど泣きだすようなか細い声になってしまった。
ひゅ、と風を切る音がした。
突然、景色がぐんと動いた。急な出来事に意識が置き去りにされ、しばらく何が起きたか分からなかった。だんだんと気づいたのは、背後に回り込んでいた触手に、信じられないほどの力で押されたこと。そして、抗いようのないほど強く、化け物に抱きしめられているということ。
化け物の身体に押し付けられて目が開けられない。声も出せないほど窮屈に身体を密着させられて、息が苦しい。まるで背後に壁ができたような力強さで押し付けられ、身動きがとれない。
化け物の身体は人の脂肪のような柔らかさとハリがあり、じっとりと湿っていて、何より熱い。
その、胸と腹の部分に密着した部分がぐねぐね蠢くのを感じる。動きによって与えられる全身を痺れさせる快楽から逃げようとしても、抱きしめる力にどうしようもない。
そして、部屋着のズボンと下着が器用に脱がされる。
(こいつ、何して)
ちゅ、と接吻に似た音。
ぢゅっ、という粘液がこすれる音。
(う、)
思考回路の断線。
意識がスパーク。
未知の感覚。
一点に注がれた神経をめちゃくちゃにかき混ぜるような浮遊感に、腰が砕ける。
いままで考えていたこと、いま考えること、これから考えようとしていたことーーー脳が強制的にそれら全てを放り投げて、いま走る刺激だけに夢中になる。
その後、拘束から解放されて夜の7時頃に目覚めるまでの記憶が、すっぽりと抜けている。
しかし、それが精通だった。
それなのに、どうして今日は、身体の芯で40度の高熱が沸き上がるようで、眠気を押しのけて切なさが疼く。
保健室で眠っている間、あいつに何かされたに違いなかった。そうでもなければ、身体中をじっくりと猛烈に巡る、この煩わしさの説明がつかない。
ベッドの上に仰向けになっていると、パジャマの前のボタンを全て外していたので、ひんやりとした空気に、火照った胸や腹がさらされる。くらくらと、眩暈に似た浮遊感の中で、理性が、自分の中の未知の部分に流されないように努めることしかできない無力さに打ちのめされる。呼吸はずっと、荒いままだ。普段と何も変わらないいつもの天井が、甘ったるい夢見心地の中では、ずいぶん高く遠いように見える。壁に掛かった時計は、昼3時を回っていた。
(最初に捕まった時から、狙われて......付きまとわれてるんだ、きっと......)
ぼうぜんとして上手くまとまらない思考回路をやっとの思いで整理しながら、あいつどう対処するべきか考える。
(誰かに助けてもらうにしても、どう説明すれば......?)
気味の悪い怪物にーーーなんて言ったところで、悪い夢でも見たのだと笑われるに決まっている。それで臆病だ何だと言われるのもイヤだ。今井や田高......友人なら信じてくれるかもしれないが、あいつらを巻き込んでしまうのは絶対にダメだ。
かといって、あんなもの、真っ向から立ち向かっていって追い払えるとは思えない。だいいち、他の人の助力があったとしても、正体不明の怪物を、人の手でどうにかできるのだろうか?
「"."~~~..."."~~~...」
鳴き声が、扉の向こうから部屋に入ってくる。はっと身体を起こす。
不気味な声だったはずだ。それなのに、その響きが鼓膜を震わせるたび、視界が歪むような脳の充血を覚える。唾液が止まらなくなる。顔が紅潮するのを感じる。
あいつの思うままに、自分の身体が作り変えられている、その事実に恐怖することさえ忘れーーー本能の促すままに、扉を開ける。
「"."~~~..."."~~~...」
ぬっと目の前に立ちはだかる化け物の影は今までと変わりなく気味が悪いはずなのに、それが、自分の全てを預けてしまいたくなる包容力を持っているように見えて、思考がぼやける。
「"."~~~..."."~~~...」
耳元で囁くような声に全身を支配され、身体を支えていた芯が抜き取られたような脱力感。化け物に跪くような形で、その場に崩れ落ちる。
これ以上は、本当に戻れなくなる。なけなしの理性に何とか引き止められて、化け物に
「なんなんだよおまえ、やめろよ、もう」
一瞬、時が止まったような静寂。化け物は何もしてこない。
「もう、ヘンにしないで......」
身体の欲求と心の声のズレにもみくちゃにされて、ほとんど泣きだすようなか細い声になってしまった。
ひゅ、と風を切る音がした。
突然、景色がぐんと動いた。急な出来事に意識が置き去りにされ、しばらく何が起きたか分からなかった。だんだんと気づいたのは、背後に回り込んでいた触手に、信じられないほどの力で押されたこと。そして、抗いようのないほど強く、化け物に抱きしめられているということ。
化け物の身体に押し付けられて目が開けられない。声も出せないほど窮屈に身体を密着させられて、息が苦しい。まるで背後に壁ができたような力強さで押し付けられ、身動きがとれない。
化け物の身体は人の脂肪のような柔らかさとハリがあり、じっとりと湿っていて、何より熱い。
その、胸と腹の部分に密着した部分がぐねぐね蠢くのを感じる。動きによって与えられる全身を痺れさせる快楽から逃げようとしても、抱きしめる力にどうしようもない。
そして、部屋着のズボンと下着が器用に脱がされる。
(こいつ、何して)
ちゅ、と接吻に似た音。
ぢゅっ、という粘液がこすれる音。
(う、)
思考回路の断線。
意識がスパーク。
未知の感覚。
一点に注がれた神経をめちゃくちゃにかき混ぜるような浮遊感に、腰が砕ける。
いままで考えていたこと、いま考えること、これから考えようとしていたことーーー脳が強制的にそれら全てを放り投げて、いま走る刺激だけに夢中になる。
その後、拘束から解放されて夜の7時頃に目覚めるまでの記憶が、すっぽりと抜けている。
しかし、それが精通だった。
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退会済ユーザのコメントです
エロい!
触手と男の娘(まだ女の子っぽい男の子ってだけだけど。)の組み合わせ。
しかもそれが小説でというぜいたくさ。
最高です。
続きが見たいという一言に尽きます。
頑張ってください!
感想ありがとうございます!
忙しい時期に、こういったありがたいお褒めの言葉をいただけるのはとても励みになります。
相変わらず不定期更新(来週辺りからペースを上げられそうです...)ですが、ご期待に応えられるよう頑張ります!