異世界ムフフ滞在記 ~ポンコツでゲイの僕が異世界転移したら、魔法の才能に目覚めた上にイケオジ騎士と相思相愛に!?~

古木クー太

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2章

2-12 悪夢の果てに

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「────ヤ・マ・オ・カ?」

 オフィスの喧騒の中、地獄の底から響くような、怒りを抑えつけた声が僕を呼んだ。

「はっ!?」

 僕は弾かれたように顔を上げた。目の前にはこめかみに青筋を浮かべ、明らかに憤怒している体育会系上司の顔があった。

「おい、山岡! てめえ、また居眠りか! やる気あんのか!」
「ま、誠にごめんなさいっ、ゴウズさん!」
「ゴウズって、誰だーーーーーーーッ!!!」

 上司の絶叫が、フロア中に響き渡った。



 その日から、僕の灰色の日常がまた始まった。

 朝は満員電車に揺られ、ぎゅうぎゅう詰めの車内で他人の背中のバッグで腹を押しつぶされる。

(……それにしても、なんだか動きづらいな……)

 いつものことだが、シャツの上からでも分かるほど突き出たこの腹の贅肉が、やけに邪魔に感じた。

 窓に映った自分の顔を見て、僕は小さくため息をつく。目の下には深い隈が刻まれ、肌は生気を失って土気色つちけいろをしている。希望も喜びも知らない、見慣れたいつもの僕の顔だ。

 会社ではミスの連続。上司に罵倒され、同僚にはうとまれ、夜は一人でコンビニ弁当を食べるだけの日々。

 ある日の帰り道、僕は精肉店の前で足を止めた。店先に並んだ豚肉の塊を見て、ふと、かすかな記憶が脳裏をよぎった。

(……豚肉か。もっと美味しい肉を食べたような……)

 いつ? どこで? 思い出そうとしても、その記憶は霧のように掻き消えてしまう。


 またある日、夜空を見上げると、美しい満月が浮かんでいた。

(……綺麗な月だなぁ。静かな夜、誰かと一緒に眺めたような……)

 その記憶に触れるたび、胸が締め付けられるように痛んだ。



 今日も今日とて僕は仕事で大きなミスをし、上司に罵倒され、終電を逃した。

 ザアアアアッ──

 バケツをひっくり返したような土砂降りが、僕の身体に叩きつけられる。僕は閑散とした公園を横切り、そして、全てに絶望して、天を仰いだ。

「……あぁ、疲れた……」

(……もう、全部……終わりにしちゃおうかな……)


 ピカッ!

 すぐ目の前で、凄まじい閃光が炸裂した。

 ゴゴゴゴゴゴゴッ!!

 遅れてやってきた轟音が、鼓膜を突き破らんばかりに鳴り響き、地面が震える。



 僕は、恐る恐る、震えるまぶたをゆっくりと持ち上げた。

 落雷が穿うがったであろう、黒く焦げた地面の先に、一人の人影が静かに立っていた。金色の装飾が施された鋼鉄製のハーフプレートアーマーを身に着け、プラチナブロンドの短髪がきらめく、精悍せいかんな騎士。僕の、理想の“旦那様”。

「……キューイチロー……」

 僕の名前を呼ぶ、低く、優しい声。

 彼はその逞しい腕で、僕を強く、強く抱きしめた。


 世界が、まばゆい光に包まれていく。




 僕が意識を取り戻すと、最初に感じたのは僕の身体を力強く抱きしめる、温かい腕の感触だった。ゆっくりとまぶたを開けると、そこは赤黒い空の夢魔の巣ではなく、見慣れたエルド川のほとりだった。どうやら、いつのまにか僕たちは元の場所へと戻ってきていたらしい。

 そして、目の前には、心配そうに僕の顔を覗き込むダグラスさんの顔があった。彼の瞳には深い安堵の色が浮かんでいる。

「……ダグラスさん」
「…………気がついたか」

 彼の声は、ひどくかすれていた。僕を抱きしめる彼の腕が、かすかに震えていることに僕は気づいた。

 ただ、心の底から込み上げてくる、温かい幸福感に身を任せ、彼に向かって満面の笑みを浮かべた。

「……はい!」

 そのやりとりが、僕たちの新しい物語の始まりを告げていた。
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