悪役令嬢の私が聖女だなんて聞いてませんわ!

みや

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執務室内に響いていたペンを滑らす音が止んだ。
やっと急ぎの仕事も終わり、ライアンは席を立つと隣の応接間に向う。
ずいぶんとエリーを待たせてしまったと思いながら扉を開けると、ソファーから後ろ頭が覗いていた。

「待たせてしまったね、エリー」

声を掛けるが返事が返ってこないことに疑問に思いながら、ライアンはソファーまで近づくと座ったまま寝ているエリーシカがこっくりこっくりと船をこいでいた。
ライアンはエリーシカを起こさないよう隣に座り、そっとエリーシカの頭を自分の肩にもたれかけさせた。
そっと顔を覗き込んだが起きる様子はなかった。
エリーシカの安心したような寝顔に思わず笑みがこぼれる。
このままでは風邪をひくと気づき、近くに控えていた侍従にブランケットを持ってこさせ、エリーにそっと掛ける。

「ずいぶん疲れているんだな」
ライアンの耳にも異母兄弟である第3王子の行動や言動は知っていた。
エリーには優秀な護衛を付けているが、すべてを防げるわけではない。
第3王子という身分を笠にエリーに近づかれると厳しいものがあった。
今はできるだけ自分の名を出して追い払うよう指示をだしているが、そうすると今度は側室から生まれた第2王子と正室から生まれた第3王子という盾を振りかざし始めた。
「誰かが入れ知恵しているやつがいるんだろうが、まったく面倒だな」

幼少期はエリーも含め3人で机を並べて共に過ごしていたのもあり、第3王子の逃げ癖は知っていた。
だが、ここまで身分を笠に着ることはなく自分に都合が悪い者を下げさせる程度だった。

「偽聖女の件もあるし、これ以上付きまとわれるとエリーとの噂が広がるな」
すでに小さな噂は潰しているが、ルーベ伯爵が動き出す前にケリをつけておきたい。
「まずは男爵令嬢からだな」
身じろぎしたエリーの肩からずれ落ちたブランケットを再度掛けなおすと、いまだに起きないエリーを見つめて笑みを浮かべた。







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