『硝子越しの春』

ぱんだちゃん

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第六章:見られている

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「橘、最近、夜勤のときやけに面会記録いじってるよな」

背筋がぞわりとした。
声の主は、同期の久保田だった。笑ってはいたが、その目は笑っていなかった。

「……仕事の見直しよ。記録に不備が多いから」

「ふぅん。でもその“不備”、全部あの一三八七に関する記録だけってのは偶然か?」

心臓が跳ねた。
ごまかしたつもりでも、彼はすでに何かを感じ取っていた。

「お前さ、あいつに情でも移ってんじゃないの?」

「……まさか。私はただの刑務官。職務を果たしてるだけ」

「そうか?――でもな、橘。ここは“情”を挟んだ奴から潰れていくぞ」

久保田はそれだけ言うと、廊下の向こうへと消えた。
その背中に、私は声をかけられなかった。

手が震えていた。
このままでは、すべてが崩れる。
でも、それでも――彼の言葉、あの目を、私は裏切れない。

面会室に戻る途中、壁にもたれて一度だけ深く息を吐いた。

(バレるわけにはいかない。私が動かなきゃ、彼は本当に、ここで一生を終えてしまう)

緊張の中、感情を押し殺して私は歩いた。
刑務官として。
でも同時に――ひとりの女として。
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