義理兄と妹〜愛という名の罪〜

ぱんだちゃん

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第四章「それでも、愛を手放さない」

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リビングに母がいた。

 朝の光がカーテンの隙間から差し込み、テーブルに並んだ湯呑みの湯気が、静かに揺れていた。

 その空間に、私と悠真さんの足音が響く。

 「……話があるの」

 母は顔を上げた瞬間、目を見開いた。

 「まさか……あなたたち、また何か隠してるの?」

 その声には、震えが混じっていた。

 「お母さん、ごめんなさい」

 私がそう言った途端、母の顔がみるみる赤くなる。

 「まさか……そんな、そんなバカなこと言わないでよ真帆!悠真は、あんたの“兄”なのよ!血は繋がってなくたって、世間は……!」

 「お母さん、聞いて……」

 「聞きたくなんてないわよ!」

 母は泣きそうな声で叫んだ。テーブルの上の湯呑みが、小さく揺れた。

 「ふたりで決めたことです」

 悠真さんの静かな声が、空気を切り裂いた。

 「真帆は、もう子どもじゃない。俺は彼女を、家族としてじゃなく、女として愛しています。……ずっと、悩みました。けれど、この気持ちは消せません」

 「やめて、悠真……あんたまで……」

 母は頭を抱えた。涙があふれ、頬を濡らす。

 「どうして……どうしてあんたたちは、こんなことに……!今まで築いてきた家族が壊れるのよ……!私には、受け入れられない……!」

 そのとき、廊下の奥から重たい足音が聞こえた。

 「……何の騒ぎだ?」

 父だった。

 パジャマ姿のまま、険しい顔でリビングに入ってくる。

 「……お前たち、何を言い争ってるんだ?」

 母が震える手で口元を押さえながら言った。

 「この子たち……真帆と悠真が、恋人同士なんですって……!」

 父の表情が凍りついた。

 「……何を、言ってるんだ」

 重い沈黙が流れる。

 「お父さん」

 私は真っ直ぐに彼を見た。

 「私たちは、もう家族のままじゃいられません。私は悠真さんを、男として、愛してます」

 「馬鹿な……そんな関係、世間に知られたらどうなるか分かってるのか?」

 「分かってます。でも、私は後悔しません」

 悠真さんが、私の手を強く握った。

 「俺たちは、ふたりで生きる道を選びました。ここでは無理だとしても、どこか遠くで……ふたりだけの未来を、築きたいんです」

 父は唇を噛み締めていた。怒りとも、悲しみともつかない感情が滲んだ瞳。

 母はソファに崩れ落ち、涙で顔を歪めながら叫んだ。

 「どうして……どうしてあんたたちは、よりによってこんな道を……!私には、到底納得できない……そんな愛、認めたくない!」

 「お願いです、しばらく時間をください。私たちは、逃げてるわけじゃない。真剣に、この愛と向き合いたいんです」

 父は目を閉じて、長く息を吐いた。

 「……俺は、受け入れられない」

 その声は、震えていた。

 

――それから数ヶ月。

 私たちは、静かに暮らしていた。

 時間をかけて、私たちは家族の信頼を取り戻す努力を続けていた。

 悠真さんは、在宅でエンジニアの仕事をこなしていた。
 
 日常の中に潜む穏やかな幸せを、私たちは少しずつ噛みしめていた。

 「真帆、コーヒー淹れたよ」

 庭に面した縁側で、眼鏡を外した悠真さんが、私にカップを差し出してくれる。

 「ありがとう」

 私は受け取りながら、彼の隣に腰を下ろす。

 「お母さん、今日は少しだけ顔を合わせてくれた。でも……目は合わせてくれなかった」

 「……そうか。……、時間が必要だな」

 「うん。……お父さんも、気まずそうにしてる」


 彼の言葉に、私は小さくうなずいた。

 まだ越えなければいけない壁はある。だけど、ふたりなら乗り越えられる。

 罪と呼ばれてもいい。これは、私たちだけの愛だから。

 そんなある日、悠真さんがふと、真剣な表情で言った。

 「真帆……実は話がある」

 その言葉に、私は胸がざわついた。 彼の目は、今までに見たことがないくらい、まっすぐで、少しだけ迷いを含んでいて……
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