義理兄と妹〜愛という名の罪〜

ぱんだちゃん

文字の大きさ
11 / 14

第十章「家族になれる日まで」

しおりを挟む
「この国では、戸籍に“兄”や“妹”という記載がない分、まだ自由だ。でも……それでも、心の中の線引きは難しいね」

 ある夜、ベランダの椅子に並んで腰掛けたまま、私はそっと呟いた。真っ暗な空に、無数の星がちらちらと瞬いている。

 「線なんて、俺は引いてない。ずっと、パートナーとして見てきた。妹だなんて思ったこと、一度もない」

 悠真さんの声は穏やかで、それでいて確かだった。

 事実婚として登録された今でも、ふたりは「法的には家族」ではない。それでも心の奥で育っていく“家族になりたい”という願いは、日に日に強くなっていた。

 子どもが欲しい――その思いが、ふたりの間に新たな影を落とすようになるのに、時間はかからなかった。

 ある日、私が通うカフェのオーナーが、突然赤ん坊を連れてやってきた。

 「娘が働けないからって、今日は預かってるのよ。子どもって、本当に手がかかるけど……かわいいのよね」

 腕の中で眠る赤ちゃんの寝顔を見つめながら、私は言い知れない想いに駆られていた。

 夜。帰宅してからも、その小さな命のぬくもりが頭から離れなかった。

 「ねえ……悠真さん。私、やっぱり、あなたとの間に子どもがほしい」

 その一言は、私の中でずっとくすぶっていた炎をようやく外に出した瞬間だった。

 「俺も……同じ気持ちだ。正直、怖い。でも、守りたいものがあるなら、もっと強くならなきゃな」

 ふたりの間に流れる空気が、静かに、けれど確かに変わっていく。

 その夜は、言葉少なに互いを求め合った。

 ベッドの中で、抱きしめる腕に力がこもるたび、私は彼の強い意志を感じていた。
 深く、奥へ、心の底まで満たされていく感覚――まるでひとつになれたような錯覚。
 汗ばんだ肌が触れ合い、唇が交わるたび、私は何度もその名を呼んだ。

 「悠真……私、あなたの子がほしい……」

 その言葉に、彼は私の髪を優しく撫でながら、静かに頷いた。

 「真帆。絶対に、幸せにする」

 ――けれど、現実はそう簡単ではない。

 翌週、私たちは市の相談センターを訪れた。養子縁組に関する説明を受けながら、係員の女性がひと言。

 「事実婚の方の申請は、相応の書類と、面接が必要になります。しかも、過去の親族関係も審査対象です」

 その瞬間、私たちの表情が一瞬だけ強張った。

 “兄妹だった”という過去。
 それが、申請にどう影響するかは分からない。

 「まだ、越えるべき壁があるね……」

 「でも、ふたりで越えよう。何度でも」

 その言葉に救われた。どんなに険しい道でも、彼となら――乗り越えてみせる。

新たな生活にも慣れてきた頃、私たちは新たな壁に向き合うことになった。

 「ねえ、悠真さん……私たち、本当に子どもを持てるのかな」

 ベッドの中、彼の胸に顔を埋めながら私は呟いた。

 「……そのこと、ずっと考えてた」

 悠真さんは私の髪を撫でながら、静かに言った。

 「事実婚の制度があるとはいえ、俺たちの過去を正直に話したら、子どもを持つことに難色を示される可能性もある」

 「でも、私は……あなたとの家族を築きたい」

 その夜、ふたりの想いは再び強く重なった。
 ベッドの中で、触れ合う肌が言葉以上の誓いを交わすように重なる。
 奥深くまで満たされながら、私は彼の腕の中で何度も名を呼んだ。

 「悠真……あなたの子が欲しい」

 「真帆……絶対に幸せにする。俺たちの家族を、作ろう」

 その言葉が、私の心を震わせた。

 翌日、私たちは市の相談窓口を訪れた。子どもを持つ方法について、制度や条件を詳しく尋ねた。

 「事実婚のパートナーでも、申請すれば養子縁組は可能です。ただし、過去の親族関係が確認された場合、審査は厳しくなる可能性があります」

 窓口の職員は穏やかに、けれど明確にそう答えた。

 “兄妹”という関係が、ここでもまた私たちの前に立ちはだかっていた。

 家に戻ってから、私たちは深夜まで語り合った。

 「血が繋がっていないとはいえ、日本ではタブーとされる関係。でもこの国では、過去を捨てて、新しい形で生きていけるかもしれない」

 「私、もう迷わないよ。家族を捨てて、あなたを選んだ。その覚悟は、ずっと変わらない」

 そんな私に、数日後、両親から一通の手紙が届いた。

 『真帆、悠真へ。

 ふたりの選んだ道を、今も正しいとは言い切れません。
 親として、どうしても気持ちが追いつかない部分があるのは事実です。

 でも、それでも——ふたりが本当にお互いを想い合い、支え合って生きているのなら、私たちはそれを否定できません。

 遠く離れた場所で、ふたりが幸せに暮らしていることを、少しずつ受け止めようとしています。

 どうか、どんな壁があっても、ふたりで乗り越えてください。
 私たちはまだ完全に理解できないけれど、それでも——あなたたちの幸せを、願っています。

 お父さんとお母さんより』

 手紙を読みながら、私は声を出さずに泣いた。悠真さんも、静かに私の肩を抱いてくれた。

 「認められなくても、愛してくれてる」

 「うん。少しずつ、前に進もう」

 そうして私たちは、またひとつ、新しい未来への扉を開けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

処理中です...