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第2話:この町で一番都会な人
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「……このへんって、タクシーとかないんですかね?」
ベンチに並んで座りながら、私はそう言って苦笑いした。駅前には人も車もいない。見事なまでに、なにもない。
「基本、歩きか、自転車か、車ですね。タクシーも呼べば来ますけど、20分くらいかかります」
「……20分かぁ。東京だったら1分で来たのに」
「ですよね。でも、のんびりしてて、ちょっといいですよ。たとえば——ほら」
彼が少し身を乗り出して、駅の向こうを指差した。そこには、畑の中にポツンと一本だけ咲く、濃いピンク色の花。
「この季節、あそこだけポツンと咲くんです。毎年見るたびに、なんか癒されるんですよね」
「……よく知ってますね」
「昔からいるみたいな顔してますけど、まだ来て半年くらいですよ。道も、たぶんこっちのが迷います」
冗談っぽく笑った彼は、仕事の帰りなのか、ネクタイを少し緩めていた。
普段なら気にならない仕草が、なぜか妙に色っぽく見えて、私は目をそらす。
「この辺に、お住まいなんですか?」
「ええ。近くに、会社の寮みたいなところがあって。そこに仮で」
「……会社、って、何のお仕事を?」
彼は一瞬だけ口を閉じたあと、少し照れたように言った。
「まあ、いろいろですね。ちょっと変わった仕事です」
この“はぐらかす感じ”がまた妙に気になる。
作業着を着ていたわけでもないし、でもこのスーツの高級感、明らかに地元の会社員って雰囲気じゃない。
何者なんだろう、この人——。
そのとき、カタン、と小さな音がして、彼の隣に置いてあったバッグからスマホが落ちた。
拾い上げようとした彼が、私の手とぶつかって、ほんの少しだけ指が触れる。
「あ、ごめんなさい!」
「いえ、こちらこそ……!」
笑い合って、ふっと視線が合った一瞬。
目の奥にある温かさと、どこか寂しげな光に、なぜか胸がギュッとなった。
この人、たぶんモテる。しかも相当。
だけど、なぜだろう。
私には、そのキラキラの奥に、誰にも見せてない顔がある気がした。
ベンチに並んで座りながら、私はそう言って苦笑いした。駅前には人も車もいない。見事なまでに、なにもない。
「基本、歩きか、自転車か、車ですね。タクシーも呼べば来ますけど、20分くらいかかります」
「……20分かぁ。東京だったら1分で来たのに」
「ですよね。でも、のんびりしてて、ちょっといいですよ。たとえば——ほら」
彼が少し身を乗り出して、駅の向こうを指差した。そこには、畑の中にポツンと一本だけ咲く、濃いピンク色の花。
「この季節、あそこだけポツンと咲くんです。毎年見るたびに、なんか癒されるんですよね」
「……よく知ってますね」
「昔からいるみたいな顔してますけど、まだ来て半年くらいですよ。道も、たぶんこっちのが迷います」
冗談っぽく笑った彼は、仕事の帰りなのか、ネクタイを少し緩めていた。
普段なら気にならない仕草が、なぜか妙に色っぽく見えて、私は目をそらす。
「この辺に、お住まいなんですか?」
「ええ。近くに、会社の寮みたいなところがあって。そこに仮で」
「……会社、って、何のお仕事を?」
彼は一瞬だけ口を閉じたあと、少し照れたように言った。
「まあ、いろいろですね。ちょっと変わった仕事です」
この“はぐらかす感じ”がまた妙に気になる。
作業着を着ていたわけでもないし、でもこのスーツの高級感、明らかに地元の会社員って雰囲気じゃない。
何者なんだろう、この人——。
そのとき、カタン、と小さな音がして、彼の隣に置いてあったバッグからスマホが落ちた。
拾い上げようとした彼が、私の手とぶつかって、ほんの少しだけ指が触れる。
「あ、ごめんなさい!」
「いえ、こちらこそ……!」
笑い合って、ふっと視線が合った一瞬。
目の奥にある温かさと、どこか寂しげな光に、なぜか胸がギュッとなった。
この人、たぶんモテる。しかも相当。
だけど、なぜだろう。
私には、そのキラキラの奥に、誰にも見せてない顔がある気がした。
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