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第4話:偶然じゃない偶然
しおりを挟む翌朝、目覚ましよりも早く目が覚めた。
まるで、何か良いことが起こる日みたいな気配がして。
……いや、気配じゃなくて。
スマホに届いていた、ひとつのメッセージのせいだ。
昨日はありがとうございました。
パン、ちゃんと感想聞きたいのでまた会えたら嬉しいです。
蒼井 蓮
名前を見た瞬間、胸のあたりが熱くなる。
ちゃんとフルネームで送ってくるなんて、なんかずるい。
誠実そうで、でもちょっとドキッとする距離感。
私もお礼とパンの感想を送ったけど、それ以上はやり取りが続かなかった。
……たぶん、彼なりに“待ってる”のかもしれない。
そんなことを考えながら、私は図書館へ向かった。
昨日気になっていた本の続きを読みたくて、つい足が向いてしまったのだ。
窓際の席に座り、ページをめくる。
静かな空気に包まれて、やっと集中できた……と思ったとき。
「……また、会えましたね」
その声に、ページをめくる手が止まった。
振り向くと、そこには——
昨日と違って、グレーのパーカーにキャップをかぶった彼が立っていた。
「えっ……蒼井さん……?」
「偶然……ということで、いいですか?」
そう言って彼は、ほんの少しだけ目をそらした。
……今の、“偶然”って言葉。
ほんとは、偶然じゃないってこと、たぶん彼自身が一番わかってる。
でも、それをわざわざ“偶然のふり”で見せてくるのが、
なんか、ちょっと可愛い。
「昨日、図書館好きって言ってたから……もしかしたら、って」
「……じゃあ、私のこと、探して来たんですか?」
からかうようにそう聞いてみると、彼は少しだけ耳を赤くしながら、
まっすぐ私を見て言った。
「……そうかもしれません」
——ずるい、ほんとに。
その一言で、今日の空気が、昨日までとはまるで違って感じた。
「私もちょうど読みたい本あったし、来てよかった」
「……ほんとによかった」
彼の目が細くなる。
図書館の中で交わされた会話は短かったけど、それだけでまた、少し距離が縮まった気がした。
そして帰り際、彼がぽつりと言った。
「……今度、時間があったら、一緒にコーヒーでもどうですか」
鼓動が一瞬、止まった気がした。
「……はい、ぜひ」
その返事をした私の声が、いつもより少し高くなっていたのは気のせいじゃなかったと思う。
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