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第5話:あなたがいる安心
しおりを挟む「今日は風、強いな……」
午後から天気が崩れると聞いて、午前中のうちに買い物を済ませようと町の商店街を歩いていた。
駅前のほうまで出ると少し人も増えて、田舎とはいえにぎやかになる。
買い物袋を片手にスーパーを出たそのとき。
「ちょっと、君——!」
不意に後ろから呼び止められて振り返ると、
見知らぬ中年の男の人が立っていた。
「……はい?」
「さっき、レジで財布落としてたろ。俺が預かってやってるから」
「え、あの、私……財布ちゃんと——」
ポケットに手をやると、ちゃんと財布はある。
それを見せようとした瞬間、
「……いいから、こっち来なって!」
ぐい、と手首をつかまれた。
「——ちょ、ちょっと!」
一瞬、何が起きたかわからなかった。
引っ張られそうになる私の身体に、冷たい風が吹きつける。
怖い。
「……その手、離してもらえますか?」
低くて、静かで、鋭い声がした。
顔を上げると——
そこにいたのは、蒼井さんだった。
いつの間にかすぐそばまで来ていて、真っ直ぐその男を睨んでいた。
普段の優しい表情とは違う、凍るような目。
「彼女、困ってますよね」
「な、なんだお前……関係ねぇだろ」
「関係、大ありです。今すぐ離してください」
彼の声には、穏やかさなんて一滴もなかった。
そして、そのまま男の手を迷いなく、力強く引きはがす。
「いったっ……!」
男が手を引いて逃げるように去っていくのを見届けたあと、
彼はすぐに私のほうを振り返った。
「……大丈夫? 怪我してない?」
「……うん……私……」
涙は出なかったけど、心臓の音がずっと早くて、うまく言葉が出なかった。
でも彼は、何も言わずにそっと私の肩に手を置いて、
落ち着くまでじっと隣にいてくれた。
「怖かったよね。……ごめん、俺がもっと早く気づいてれば」
「そんなこと……蒼井さんが来てくれて、ほんとに……ありがとう」
しっかりしてるのに、
私を見て「ごめん」なんて言える人。
この人に守られるって、
ただ“助けられる”ことじゃなくて、
心までちゃんと受け止めてくれることなんだと思った。
「……あのさ」
彼が少しだけ言いづらそうに、でも真剣に言葉を続けた。
「もうちょっと、君のこと……近くで守りたいと思ってる」
その言葉に、胸の奥がきゅうっと締めつけられた。
この人の隣にいることが、
少しずつ「好き」に近づいている気がした。
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